ツアーバス

ページ名:ツアーバス

登録日:2017/07/16 Sun 15:10:27
更新日:2024/02/08 Thu 13:42:30NEW!
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高速バス バス 旅行 ツアー 法の不備を付いて出た紛い物 貸切バス 格安バス ツアーバス



「ツアーバス」が本来指すものは、

  • 旅行会社が貸切観光バスを借り上げ、旅行(ツアー)形態で運行される貸切・観光バス

のことであるが、本項目では、

  • 都市A・B間を高速路線バスのように結ぶ都市間ツアーバス
  • 高速ツアーバス

と呼ばれるものについて記述する。


概要

通常、高速バスと聞いて想像するのは、JRバスや京王バスグループなどの路線バス事業者が運行し、主要鉄道駅の駅前バスターミナルや高速道路上などに設置されたバス停に発着し、中長距離を結ぶバスのことだろう。
高速バス、即ち高速路線バスは法律上は路線バスとして扱われる。
更に法律では、事前に路線の経路や運賃、運行本数を所管の役所へ届け出し、自前で営業所や車庫を構え、そこへ運行管理者を常駐させ、乗務を開始・終了する運転手に点呼を義務付けるなど厳しい要件が課される。


対してツアーバスは、ツアー旅行のようにバス会社が持っている貸切バスを旅行会社が借り上げるため、路線の開設・運行などに際して上記の設備などを必要としない。むしろツアー旅行で上記のようなガチガチの規制があったらとてもじゃないけどバス会社も旅行会社もお手上げだし、監督するお役所もキャパオーバーである。
この敷居の低さのため、一時期多数の事業者がツアーバス業界へ参入した。
その顛末については後述。


ツアーバスあるある

  • 運賃が路線系事業者に比べて安い→その分座席が質素
  • 運賃は高くなるが豪華でゆったりとした座席を選べる
  • バスのカラーリングが派手
  • 発着地の乗降場所が駅からやたら離れている(貸切バスには構内権がないことが多いため)

ツアーバスと高速路線バスの違い

ツアーバスと高速路線バスの違いについては既に軽く触れているが、ここでは改めて解説する。

  • 高速路線バスは主催者と運行事業者が同じ、ツアーバスは主催者と運行事業者が異なる。
  • 高速路線バスは専用のバス停から発着するが、ツアーバスは道路上や観光バス駐車場などバス停ではない場所から発着する。
  • 高速路線バスはバス運行会社が自ら車庫・営業所・車両・運転手を用意する必要があるが、ツアーバスはその必要がない。
  • 高速路線バス利用時運賃はバスを運行する会社へ支払うが、ツアーバスでは運賃は旅行代金として旅行会社へ支払う。
  • 高速路線バスは例え予約が1件もなくても時刻表に記載された便は走らせなければならないが、ツアーバスは予約数が最少催行人員に達していなければ運休しても良い。
  • 高速道路通行料金は路線バスは大型料金、ツアーバスは特大車料金。

ツアーバスの歴史

都市間ツアーバスの原型とも言えるのは元々各地の路線バス事業者が運行していた「帰省バス」や「スキーバス」などの季節限定運行のバスだった。
当時は貸切バス事業も免許制で、今ほど競争が激しくない上高速路線バスの路線も少なく、大手の事業者もこぞって運行していた。
しかし高速路線バスの路線網拡大により定期の高速バスの増車扱いに次第に移行し、季節限定バスは一時数を減らしていった。


時は流れて2000年、規制緩和によって貸切バス事業が免許制から認可制となった。
白バス(自家用バスで運賃を取って運行する違法行為)が横行していた中での対応策の一つで、一定の条件を満たせば事業用の緑ナンバーを交付し、責任の所在を明確化させることとした。
しかし、これによって気軽に貸切バスに参入できるようになり、あちこちの事業者が参入。供給過多によって貸切バス運賃が下がり、ダンピング合戦の様相を呈した。バブル崩壊で貸切バスの需要が減り、インバウンドもさほど多くなかったから当然とも言える。


そんな中、どこかの事業者は「高速バスみたいに、都市間輸送だけに特化したバスを走らせれば儲かるんじゃね?」と考えた。実際に実行してみた所、これがかなりの評判を呼び、定期的な収入を得られるとあって、零細事業者を中心に多くが参入した。


ツアーバスの問題点

第1の問題点は「パワーバランスが非常にいびつである」という点。
主催者とバス運行事業者が同じか同一企業グループに属しているのであれば問題はない。例えば新路線を開設するにあたり、開設前に先じて需要があるかどうか見極めるため、バス会社が自らツアー旅行という形で参加者を集めるというかつての季節限定バスのような場合である。


しかし主催者とバス運行事業者が異なる場合、主催者が提示した運賃での運行を行えないと難色を示すと主催者は別のバス事業者に依頼するからお前のとこには頼まんとでも言わんばかりにツアーバス以外の仕事も回してくれなくなる恐れがあるため、バス事業者は主催者が提示した採算ギリギリ、もしくはそれ以下での依頼でも断ることが出来ず、結果として事業者や末端の運転手の疲弊を招いてしまう。


第2の問題点は「責任の所在が曖昧」という点。
高速路線バスの場合、車両故障や事故などが起きるとそのバス会社が対応する。運行中、トラブルが発生して動けなくなってしまった場合、まず運転手が無線や電話で営業所へ連絡。連絡を受けた営業所は修理・代車の手配を執る
一方ツアーバスは何か問題が起きても対応するのは主催者ではなく、バスの運行を請け負った事業者である。例えばAトラベルズ主催で甲観光バスが車両を出すツアーバスが高速道路を走行中にエンジンブローした場合、主催者のAトラベルズに責任はなく、甲観光バスに責任が行く。


第3の問題点は「路上駐車」。
高速バスに限らず路線バスでは決められたバス停に停車し、客扱いを行う。フリー乗降制でもない限り、バス停以外で乗り降りさせることは許されない。反面バス停は行政の許可を得て設置しているのである程度の時間停車していても咎められることはない。(あまり長いと怒られるが)
しかしツアーバスはあくまでも貸切バス。バス停なんて無いから道路上で客扱いをしなくてはならない。当然路上駐車だから地元住民から警察に通報が入り、駐車違反切符を切られる場合もあったという。


ツアーバスについては既存の路線バス事業者からの批判もあり、特に地方の公共交通再生の実績を複数持つ両備ホールディングス社長の小嶋光信氏はツアーバスのことを「路線バスの紛い物を法の不備を突かれて認めてしまった」と批判している。


また内部補助、つまり高速バスのもたらす収益で採算の悪い路線バスの赤字を穴埋めする方式を取っている事が地方の事業者では多く、ツアーバスにドル箱の高速バスの利用客を取られた結果収益が悪化し、赤字の路線バスから撤退するという事例もあった。


ツアーバスがもたらした影響

ツアーバスは高速路線バスにも大きな変革をもたらした。
ツアーバスが台頭するまで高速バスのライバルは鉄道と飛行機で、それらに比べて運賃は安価ではあったが、ツアーバスの運賃は高速バスに比べても安価であり、しかも所要時間やサービス面でのレベルは小さく、対等な立場で勝負を挑んでくるライバルが誕生した。


ツアーバスに対抗するため、既存の高速バス事業者は新たな施策を多く打ち出した。その一つが「座席のグレードをやや落とし、その分運賃を安価にした格安便」である。
例えばはかた号のエコノミーシートやJRバスの青春エコドリーム号がツアーバス対策で生まれた物。


ツアーバスの終焉

2012年4月29日早朝、金沢市から東京ディズニーリゾートを目指していたツアーバスが、群馬県内の関越自動車道で衝突事故を起こし、7人の死亡者と多数の負傷者を出した。


事故の根本的な原因は運転手の過労に起因する居眠り運転である。
当時の基準では金沢からディズニーランドはワンマン運転ができるギリギリの距離であり、マージンを取って2人乗務とする事が多かった。しかし、この事故を起こしたバスでは採算の問題からかワンマン運転となっていた。


この事故を契機に、運転手の過労以外にも多数の問題点(法令で禁止されている運転手の日雇い・運転手の出庫前点呼の未実施など)が発覚し、ツアーバスの過当競争に対して一石を投じる形となる。


そして所管省庁の国土交通省が従来の高速路線バスとツアーバスを統合し、「新高速バス制度」の運用を開始した。
この制度により、それまでツアーバスを運行していた事業者が引き続き高速バスを運行する場合、以下の手続きをしなければならなくなった。

  • 移行期間中に自前でバス車両・車庫/営業所・運転手・車両を用意する
  • 一般乗合旅客自動車運送事業(路線バス事業)の許可を受ける
  • 乗合バス事業者に業態変更する
  • バス停の設置申請と設置

これらの手続きを経て乗合バス事業者へ転換できたのは2割程度しか無く、撤退する業者は多数発生したと思われる。
運賃の値上げなども起きているが、そもそもそれまでが不当に安かったのをちゃんと運賃に転嫁しただけだし、なにより利用者の安全のためでもある。


その後高速バスに転換した事業者ではきちんとした管理が行われるようになっているが、貸切専業の会社では今も管理が行き届いていない事が多く、2016年には貸切バスが横転し、多くの犠牲者を出す事故が発生している。


同時に高速バスを運行する会社向けに「事前に契約を交わしていれば繁忙期の増車に貸切バス会社の車両と運転手を借り受けることが出来る」という制度も用意された。


主なツアーバス出身の高速バス事業者

  • ウィラーエクスプレス

本社:大阪府大阪市
ツアーバス出身のバス事業者では最大手。ピンクをあしらったバスとバス停ポールが目印。廉価な4列シートから個室のようになるシートまで多種多彩にラインナップし、長らくトイレなしを基本としていた。
最近では高速バス以外に2階建てバスを改造したレストランバスを運行している。


  • O.T.B

本社:東京都江戸川区
黄色と星のキャラクターが目印の事業者。バスの愛称としては「オリオンバス」が設定されている。シートラインナップもウィラーほどではないが多彩。


  • ジャムジャムエクスプレス

本社:東京都江戸川区
日本ユース旅行主催のツアーバスを受け継いだ事業者。3列独立シート・トイレ付きの車両が多く、シートによって車両のカラーリングを変えているのが特徴。日本で初めて現行型のスカニア・TDX24アストロメガを夜行路線に投入した。


  • 桜交通

本社:福島県白河市
バス1両ごとに桜の品種の名前がつけられているのが特徴の事業者。ツアーバス参入前にも高速路線バスを走らせており、現在の高速バス制度発足で再参入という形になった。
高速路線バス以外にも宮城県名取市のコミュニティバスの運行も受託している。


  • AT LINER

本社:大阪府大阪市
桜交通系列のバス事業者。車体側面に大きく「@」が入れられているのが目立つ。


  • トラビスジャパン

本社:長野県上伊那郡箕輪町
ジャニーズのアイドルグループ「Travis Japan」とは何の関連もないバス会社。
主に長野・山梨から東京・関西への高速バスを運行し、限られたリソースで発着地を多彩にするためか、一部の発着地は途中のバス停で乗り換えとなる制度を採用している。


  • 海部観光

本社:徳島県海部郡美波町
バス趣味が高じて設立されたという異色の経歴を持つバス会社。マイ・フローラ、マイ・リピート、マイ・トリニティの愛称で高速バスを展開。特にマイ・フローラは1台の定員がわずか12名、座席は水平近くまで倒れ、座席間をパーティションで区切り、カーテンを閉めれば個室風になるという超豪華さ。


追記・修正は都市間でバス移動しながらお願いします。

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  • >乗合バス事業者へ転換できたのは2割程度 地元ツアーバス会社が3社とも転換できたうちの県(通称:陸の孤島)はかなりのレアケースということか…。 -- 名無しさん (2017-07-16 15:57:31)
  • 食にしてもサービスにしても、技術の発展でどうにもならんものは対価=安全度、だからな -- 名無しさん (2017-08-17 14:33:44)

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