登録日:2016/11/17 Thu 11:53:20
更新日:2024/01/29 Mon 13:46:01NEW!
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仏教 密教 五大明王 明王 ヴァジュラ 夜叉 五つ目がとおる 金剛夜叉明王
■金剛夜叉明王
『金剛夜叉明王』は大乗仏教(密教)の尊格の一つ。
明王部でも特に重要な働きを与えられた五大明王の一つとして知られる。
異名として“金剛尽”、“金剛瞰食”とも呼ばれるともある。
【概要】
梵名をヴァジュラヤクシャと云い、“ヴァジュラ(金剛)の智恵を持つ尊者”と訳される。
金剛の智恵とは仏(仏陀)の示す絶対堅固の智恵の事である。
一方、ヴァジュラの元来の意味は古代インド神話の神々の王インドラの操る雷霆の事であり、密教では象徴化された雷霆を金剛杵と呼ばれる法具として持ち込み、修行僧の心を研ぎ澄まし煩悩を打ち砕くものとして重用した(六根清浄)。
ここからヴァジュラヤクシャ=金剛夜叉明王は成道の妨げとなる内心の乱れや汚れ=煩悩を打ち砕く“ほとけ”として説かれるばかりか、異名の“金剛瞰食”の名の通りにそれらを喰らい尽くしてしまうと解説される。
……一方、その恐ろしげな姿からも解るようにヴァジュラヤクシャとは古代インド神話に起源を求められる凶悪な悪鬼、夜叉(薬叉)=ヤクシャの類であると云う。うん、知ってた。
ヤクシャも元々はヒマラヤの山岳地域に起源を求められる土着信仰の神だと言われるが、ヒンドゥーではアスラ(阿修羅)同様に鬼や魔の類として扱われた。
ヴァジュラヤクシャもまた人を襲っては喰らう畏怖すべき悪鬼であったが、ある時に仏陀の教えに触れて改心し、以降は悪人のみを喰らうようになったと云う。……人喰いを止めるという選択は無かったらしい。
こちらの意味でのヴァジュラヤクシャは“天の力を得た鬼”とも取れる。
正に“鬼神”であり、即ち“夜叉明王”である。
こうした厳格で恐ろしい由来の尊格であった為か、金剛夜叉明王を本尊とする修法は如何に行を進めていようとも40歳を越えるまでは伝法を許されなかったとする記述も見られる。
ここから、修行者の成道を助ける尊格としてのみならず、立ちはだかる障害を打破する戦勝祈願怨敵退散の信仰も受けたと伝えられる。
五大明王としては不空成就如来の教令輪身として北方に配される。
【五大明王の成立】
金剛夜叉明王の起源となる仏は、曼荼羅や経典に登場する金剛牙菩薩、金剛薬叉菩薩、金剛吼菩薩、摧一切魔怨菩薩と考えられている。
金剛薬叉菩薩=金剛吼菩薩は、鳩摩羅什訳とされる旧訳『仁王般若波羅蜜経』に説かれる五大力菩薩(金剛吼・龍王吼・無畏十力吼・雷電吼・無量力吼)と呼ばれる忿怒相の菩薩の一つであり、これらは明王の先駆けとも考えられている。
この後に、不空訳とされる新訳『仁王護国般若波羅蜜多経』では五大明王が配されており、この時に不動尊・降三世・軍荼利・大威徳の既に下地のあった四尊と併せて五大明王の組分けが完成したと考えられる。
新訳『仁王経』は不空の訳とされるものの、梵本が無いことから不空自身が編纂したものと考えられている。
新訳『仁王経』では五大力菩薩の名が五菩薩(金剛波羅蜜多・金剛手・金剛利・金剛宝・金剛薬叉)へと変わっており、更に不空訳の『仁王念踊儀軌』、同じく不空訳の『摂無礙経』を経て、三輪身*1に対応した以下の衆生救済の為に顕現する“ほとけのすがた”が定まっていった。
■中央 金剛波羅蜜多菩薩=大日如来=転法輪菩薩(般若菩薩)=不動明王
■東方 金剛手菩薩(金剛薩埵)=阿閦如来=普賢菩薩=降三世明王
■西方 金剛利菩薩=阿弥陀如来=文殊菩薩=大威徳明王
■南方 金剛宝菩薩=宝生如来=虚空蔵菩薩=軍荼利明王
■北方 金剛薬叉菩薩=不空成就如来=摧一切魔怨菩薩=金剛薬叉(夜叉)明王
と、対応する諸仏の名前が定着していった。*2
また、真言密教の重要経典である不空訳『理趣経』内の忿怒の法門“摧一切魔怨菩薩の章”には以下の記述がある。
“かくて、摧一切魔怨菩薩は、この「大いなる忿りの法門」を、より一層に明らかにしようと考えて、顔を和らげ、微笑まれ、手に金剛牙の印を結び、身体全体を金剛夜叉の姿に変身させて、全てのものを恐怖させ、仏道に引き寄せようとされた。大いなる忿怒は、そのままで大いなる歓喜となり、この教えを一文字で表す聖音「ハハ」を唱えたのであった”……ハハッ!
……これは、仏が衆生救済の為に明王の姿を顕現せてみせた様子に他ならず、摧一切魔怨菩薩=不空成就如来は釈迦如来と同一視されている。
【像容】
三面六臂で中央の顔に五眼を持つ。持ち物は五鈷杵・金剛鈴・弓・箭(矢)・宝剣・宝輪が伝えられる。
極めて特徴的な五眼は金剛界曼陀羅の五部を象徴していると伝えられる。
五鈷杵は尊名の由来でもある金剛杵の一種で、両端が五つの爪に分かれた物を云う。
【真言】
■オン バザラ ヤキシャ ウン
【種字】
■ウン
【余談】
共に不浄を祓う“仏”として、烏枢沙摩明王と同一視されるが、烏枢沙摩明王は物体としての不浄を祓う“仏”であると云う違いがある。
天台宗系の密教では金剛夜叉明王の替わりに烏枢沙摩明王を北方の守護尊として立てるが、これは前述の不空訳『摂無礙経』と『仁王念踊儀軌』の記述の違いを誤りとする円珍の主張による。東密とは違う独自性を出したかったのかもしれない。
追記修正はネットもアニメもゲームにも眼もくれず、一心に仕事や勉強に向かってからお願い致します。
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*1 ※如来=仏自身の姿=自性輪身・菩薩=仏が話を聞いてもらう姿=正法輪身・明王=仏が更正させにくる姿=教令輪身の三つの姿。*2 ※五仏=五智如来と五大明王以外の菩薩については表記に揺れがある。
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