登録日:2016/11/15 Tue 23:19:40
更新日:2024/01/29 Mon 13:44:17NEW!
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仏教 密教 ヒンドゥー 明王 五大明王 熱血指導 如来 熱くなれよ! 正義(物理) 五智如来 真言密教 五大尊
■五大明王
『五大明王』は、大乗仏教(密教)の尊格。
明王部の中でも特に重要な役目を与えられた五体の尊格の総称である。
特に五大尊とも呼ばれる。
五大明王の呼び名と組分けは大陸(インド~中国、朝鮮)や西蔵(チベット)には殆ど見られず、日本で深められていった概念である。
【概要】
我が国に「大日経」と「金剛頂経」を持ち帰り“金胎不二”の名の下に体系化してみせた真言宗開祖弘法大師により持ち込まれた不動尊・降三世明王・軍荼利明王・大威徳明王・金剛夜叉明王の五体の明王を指す。
旧訳「仁王経」*1に説かれた忿怒相で武器を携えた金剛吼・龍王吼・無畏十力吼・雷電吼・無量力吼の「五大力菩薩」が原型と考えられており、これが新訳「仁王経」*2では金剛手・金剛宝・金剛利・金剛薬叉・金剛波羅蜜多の五菩薩に改名されている。
これを更に空海が請来した不空訳「仁王念誦儀軌」にて第一東方金剛手菩薩は威怒降三世金剛・第二南方金剛宝菩薩は威怒甘露軍荼利金剛・第三西方金剛利菩薩は威怒六足金剛・第四北方金剛薬叉菩薩は威怒浄身金剛・第五中方金剛波羅蜜多菩薩は威怒不動金剛と完全に密教化されている。
威怒は忿怒の意であり、忿怒相の金剛の様に強い仏と云う属性はこの時点で決定されている。
これを更に不空訳「摂無礙経」にて五智不動尊=毘廬遮那の忿怒、自性輪は般若菩薩として、三輪身に当てはめられている。
真言宗(東密)ではこれを更に発展、体系化させ、五大明王を本尊大日如来の功徳を分けた五智如来の教令輪身であると解説している。
数ある尊格の中でも特に護摩行での主尊としての役割を知られており、密教による守護国家を願った弘法大師自らが広めた。
平安時代に隆盛を誇った無病息災、障害打破を願う護摩壇(五壇法)でも盛んに修された。
一般にも知られているのは上記の真言宗系の五大明王だが、天台宗(台密)では金剛夜叉明王を烏枢沙摩明王に変えて祀られている。
これは円珍が請来した五菩薩五忿怒像に基づくとされる。
また、真言宗系の五大明王では大威徳明王を除いては立像となるのに対し、天台宗系では五体全てが座像となる。
また、明王は一部を除いては五大明王をはじめ青黒い体色で描かれるが、これは泥に身を染めても衆生を救う姿を顕したものである。
【教令輪身】
弘法大師が高野山を拓いた時に曼陀羅世界の図像化として建立したのが日本最古の作例となる。
前述の様にこれは五智如来の化身であり、各々が中央・東・南・西・北の方角を司る。
教令輪身とは真言密教に於ける三輪身の一つであり、如来の“如何なる手段を用いても絶対に衆生を救うぞ”と云う内証が恐ろしい明王としての形を執った物と解説される。
簡単に言うと超強面で、実際に阿保みたいに強いゴっツイのが目についた不良やヤクザや猛獣を片っ端から寺に押し込みに来るようなもんである。
つまり、仏教版の松岡修造や金八先生が夜回りしてるみたいなもん。
これらの明王はいずれもが恐ろしい忿怒相を浮かべ、炎を背負った多面多臂の姿をしているのが特徴(※中尊=リーダーの不動明王は除く)で、この超自然的なヴィジュアルは古代インド~バラモン~ヒンドゥーに至るまでに見られる、外教の神々(ディーヴァ)や悪魔(アスラ)の姿と名前を借りたものである。
その恐ろしげな姿から、中世に日本を訪れた差別的な視点のバテレンからは偶像崇拝の極みとして「悪魔」と紹介されたりした。
三輪身については前述の様に完成するまでに幾度かの修正があったらしく、如来(自性輪身=仏の本来の姿)・菩薩(正法輪身=衆生教化の姿)・明王(教令輪身=衆生救済の姿)と云う概念は高野山開山の時点で既に完成していたが、正法輪身に当てはめられる菩薩の名については幾つかの記述の違いが見られる。
【各尊格の解説】
※詳細は個別項目も参照されたし。
■不動尊
梵名:アチャラ・ナータ(動かざる聖者)
一面二臂で剣と羂索を携え炎を背負い磐石に立つ(座す)。
一般的には不動明王と呼ばれる事が多いが、これは弘法大師より後の誤訳とされる為に原典に倣い不動尊として記述する。
法身大日如来の化身であり、諸仏の王とも呼ばれる。
梵名からヒンドゥーの大神シヴァが仏教に取り入れられた姿と解釈されているが、菩提樹の下で瞑想に入り悪魔の誘惑を退けた仏陀(釈尊)の内証を顕した姿とも解説される。
五大明王としては大日大聖不動明王とも呼ばれ、金剛大日如来の化身として中央に配される。
「摂無礙経」では毘廬遮那の忿怒。般若菩薩を自性輪として磐石の座(ヒマラヤ)に安住すると説かれると共に姿の詳細な解説がされている。
東寺講堂では大日如来の教令輪身。
金剛波羅蜜多菩薩を正法輪身として対応する。
真言はノウマク・サンマンダ・バザラダン・センダ・マカロシャダ・ソハタヤ・ウン・タラタ・カン・マン(あらゆる金剛尊に帰命いたします。恐るべき忿怒尊よ破壊したまえ。フーン・トラット・ハーン・マーン)*3
種字はカーン、またはカーンマーン
五大明王の総咒としても不動尊の種字と真言が捧げられる。
■降三世明王
梵名:トライローキャ・ヴィジャヤ(三世の毒を降す者)
四面八臂で降三世印を結び、戟・弓・金剛索・金剛杵・箭(矢)・剣を持ち足下に大自在天(シヴァ)と烏摩妃(ウマー=パールバティ)を踏みつけている。
異名を勝三世明王といい、この場合には一面二臂で顕される。
五大明王としては降三世夜叉明王とも呼ばれ、阿閦如来の化身として東方に配される。
「仁王念誦儀軌」では第一東方金剛手菩薩(金剛薩埵)が普賢菩薩の教令輪身として摩醯首羅・大自在天の諸々の軍勢を摧伏し青い色の光を放つと説かれる。
真言はオン・ソンバ・二ソンバ・ウン・バザラ・ウン・パッタ(オーン・シュンバよ、ニシュンバよ、フーン。金剛よ、フーン・パット)*4
種字はウン
■軍荼利明王
梵名:クンダリー(とぐろを巻く者)
一面八臂で大瞋印を結び、百蓮華が両足を受ける。頭には髑髏を掲げ、四肢には蛇を纏い付かせている。特に持ち物は説かれていないが宝輪などを持たされる。
梵名の“クンダ”が水器や瓶を意味し“リ”が止める(蓋)の意味となる事となり、これがインド神話の不死の霊薬アムリタ(甘露)を入れる瓶と考えられた事から甘露軍荼利尊とも呼ばれる。
五大明王としては軍荼利夜叉明王とも呼ばれ、宝生如来の化身として南方に配される。
「仁王念誦儀軌」では第二南方金剛宝菩薩が虚空蔵菩薩の教令輪身として一切の流行り病の伝染をもたらす阿修羅と眷属の諸々の悪鬼を摧伏し日の色の光を放つと説かれる。
真言はオン・アミリティ・ウン・パッタ(オーン・不死の者よ、フーン・パット)
種字はウン
■大威徳明王
梵名:ヤマーンタカ(死の神を降した者)
六面六臂六足で、青い水牛に乗る。持ち物として戟・弓・索・剣・箭(矢)・宝棒が説かれるが、我が国では弓と矢の替わりに檀陀印を結ばせる姿が多い。
梵名の死の神=ヤマとはインド神話の最初の死者にして、冥府の支配者である閻魔天=閻魔大王の事である。
中国では閻魔を倒した大威徳明王もまた閻魔王と呼ばれる。
五大明王としては大威徳夜叉明王とも呼ばれ、阿弥陀如来の化身として西方に配される。
西蔵密教では阿弥陀如来(アミターユス)、文殊菩薩(マンジュシュリー)の化身たる大忿怒尊として日本以上に重要な役割を与えられている。
「仁王念誦儀軌」では第三西方金剛利菩薩が文殊菩薩の教令輪身として一切の自然災害の原因たる毒龍を摧伏し金色の光を放つと説かれる。
真言はオン・シュチリ・キャラロハ・ウン・ケン・ソワカ(オーン・シュチリ・カーラ(死の神閻魔王)の姿をした尊者よ。フーン・ケン・スヴァーハー)
種字はキリク
■金剛夜叉明王
梵名:ヴァジュラ・ヤクシャ(天の力を持つ尊者)
三面六臂で中央の顔に五眼を持つ。持ち物は五鈷杵・金剛鈴・弓・箭(矢)・宝剣・宝輪。
梵名のヴァジュラとはインドラの武器である雷霆=金剛杵の事であり、神の力を得た悪鬼の意味とも取れる。
強大な力により怨敵を粉砕し、人間の内なる煩悩を喰らい尽くす尊格としての信仰を得た。
五大明王としては不空成就如来の化身として北方に配される。
「仁王念誦儀軌」では第四北方金剛薬叉菩薩が摧一切魔怨菩薩(不空成就如来=釈迦如来)の教令輪身として衆生の精気を奪う一切の畏るべき薬叉(夜叉)を摧伏し瑠璃色の光を放つと説かれる。
真言はオン・バザラ・ヤキシャ・ウン(オーン・金剛の力を持つ尊者よ。フーン)
種字はウン
【番外】
■烏枢沙摩明王
梵名:ウッチュシュマ(不浄を灼く者)
一面八臂だが異例も多い。
密教寺院のみならず、禅寺でも信仰されており、それらの寺院の手洗所(厠、東司)で祀られてるのを良く見かけられる。
謂わば、仏教版トイレの神様である。
この梵名はインド神話の火神アグニの事を指すことから、日蓮宗では竈神として台所にも祀っている。
前述の様に天台宗では円珍の主張から「摂無礙経」を根拠に「仁王念誦儀軌」の記述の違いを誤りとして、金剛夜叉明王の替わりに烏枢沙摩明王を置いている。
……尤も、共に不浄を祓う尊格として金剛夜叉明王と烏枢沙摩明王は同一視される事が多いのだが、金剛夜叉明王が内面の不浄を祓うのに対して烏枢沙摩明王は外面と云うか実物の不浄(○ンコとかその他のエンガチョ)を祓う違いがある。
真言はオン・クロダノウ・ウン・ジャク(オーン・怒れる者よ。フーン・ジャハ)
種字はウン
追記修正はワルガキ共を更正(物理)させてからお願い致します。
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▷ コメント欄
- 初めて知ったのは、サンデーの鬼切丸の鬼喰いだったなぁ -- 名無しさん (2016-11-16 09:52:47)
- ↑自分は「天空戦記シュラト」だった。(5人のうち上3人しかいなかったけど) -- 名無しさん (2016-11-16 10:03:34)
- ↑自分はマガジンの明王伝レイだった -- 名無しさん (2016-11-17 02:27:46)
- 真言限定になるが「阿佐ヶ谷Zippy」で3つか4つ知ったなぁ。なんだか知る世代が分かれそうな項目だ。 -- 名無しさん (2016-11-17 02:49:38)
- ↑あ、「烏枢沙摩明王」も出てたわ、うっかりうっかり…。 -- 名無しさん (2016-11-17 02:51:24)
- 降三世と大威徳てアスラ族の再利用じゃん -- 名無しさん (2020-09-01 14:57:59)
- ↑シヴァやヴィシュヌからしてそうなのに何を今更。 -- 名無しさん (2020-09-01 16:51:59)
- 不動尊はともかく、五大明王をセットでメディア化したのは明王伝レイが先駆けじゃないかな -- 名無しさん (2020-09-01 17:06:02)
- 知名度では不動明王だろうが、ビジュアルのカッコよさでは断然軍荼利明王! -- 名無しさん (2020-09-27 17:12:10)
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*2 ※不空訳「仁王護国般若波羅蜜多経」
*3 ※中咒=慈救の咒
*4 ※小咒
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