登録日:2010/04/25(日) 00:14:42
更新日:2023/10/26 Thu 11:23:49NEW!
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「昔、国勢調査員が調べに来たことがある。キャンティ・ワインのつまみに、その野郎の肝臓を豆と一緒に食ってやったよ」
■羊たちの沈黙■
原作:トマス・ハリス
監督:ジョナサン・デミ
脚本:テッド・タリー
撮影監督:タク・フジモト
『羊たちの沈黙(The Silence of the Lambs)』は1991年公開のアメリカ映画。
第64回アカデミー賞の作品賞、主演男優賞、主演女優賞、監督賞、脚色賞受賞作品。
連続殺人事件を追うFBI訓練生の女性、クラリス・M・スターリングの姿と、彼女にアドバイスを与える元精神科医のシリアルキラー、ハンニバル・レクターとの奇妙な交流を描く。
今見ると時代を感じる描写も多々あるが、やはりアカデミー賞を総なめにした最後の作品だけあって、監督の演出や役者の演技、作品の完成度は非常に高い。
特に「物静かな文化人」としての顔を持つ凶悪犯罪者レクターのキャラ、それを演じるアンソニー・ポプキンスの怪演、緩急の付いた緊張感のある演出に定評のある作品である。
『人の皮をはぐ』という非常にグロテスクな殺人にも関わらず、この作品自体にはあんまりグロ描写がないことなども特徴だろう。
よく話題になる人肉料理のシーンはこの作品ではなく、次回作の「ハンニバル」以降。
少し古い作品ではあるが、画質がきれいな特別編がレンタルできるから一度観てみよう。
1995年頃はテレビでも放送されたが、最近は規制がきついので今は絶望的。グロ描写だけでなく性的な描写*1なんかもあるので。
但し、2010年末深夜のメーテレにて放送されているので、深夜限定なら地上波で観られるかも知れない。
2018年にはBS-TBSで放送された。
時系列上の前作は『レッド・ドラゴン』。後作は『ハンニバル』である。
物語
若い女性が殺されて皮膚を剥がされるという、猟奇的な連続殺人事件が発生。
その手口から「バッファロー・ビル」と名付けられた犯人の正体は、依然として掴めなかった。
FBIの訓練生クラリス・スターリングは、事件につながる情報をある囚人から引き出すよう頼まれる。
囚人の名はハンニバル・レクター。優れた頭脳を持つ凶悪殺人犯である。
クラリスに興味を持ったレクターは、彼女が自身の過去を話すことと引き換えに、協力を約束した。
やがてバッファロー・ビルによって上院議員の娘が誘拐される事件が発生。
クラリスはレクターからの情報を基に捜査を開始し、同時にレクターと交流を深めていく。
登場人物
※吹替はDVD・BD版。
■クラリス・M・スターリング
演:ジョディ・フォスター
吹替:佐々木優子
FBI捜査官を目指す若き訓練生。
非常に優秀で、成績はトップクラス。クロフォードに頼まれ、レクターの精神分析をしに彼に会いに行く。
しかし短時間会話をしただけで、レクターから非常に正確な精神分析をされてしまった。
そのことでレクターに興味をもたれ、自分の過去を話すことと引き換えにバッファロー・ビルについての情報を聞き出した。
レクターが指摘しているが、まだ若々しい美人という設定であり、作中でもよく口説かれている。
「羊たちの沈黙」というタイトルは、彼女のトラウマに関わるキーワードである。
■ハンニバル・レクター
演:アンソニー・ホプキンス
吹替:堀勝之祐
非常に高い知能と知性を持つ凶悪犯罪者。かつては天才的な精神科医だったが、自分の患者を殺害してはその人肉を食べるという猟奇的な連続殺人事件を犯して捕まった。
刑務所に入った後も、「胸の痛みを訴えて医務室に運ばれ、そこで看護婦の頬と片目を食べる」、「クラリスを侮辱した制裁として言葉でなじり続け、隣の受刑者を自殺に追い込む」と、人命を何とも思っていない狂気的な人物である。
紳士的な物腰で、一見誠実な人物に見えるのだが、女に向けて性的なスラングを使うなど非常に下卑た部分も併せ持つ*2。
クラリスには好意的で、捜査の協力を約束した。
捜査資料と過去の自分の患者の情報から、すぐにバッファロー・ビルの正体を突き止めたが、クラリスにはヒントしか与えなかった。
この作品に置けるアンソニー・ホプキンスの演技は各界から評価が高い。
『エレファント・マン』では優しい医師を演じ、今回は凶悪な殺人鬼と対照的だが、デミ監督の「レクターには悪意の中に優しさも含ませたい」という要望により抜擢された。
クラリスを立ったまま迎える、瞬きをほとんどせずに話す*3、と彼の役に対する熱意は本物である。
ちなみにレクター自身が映るのはわずか12分程度。それだけであの強烈なインパクトを与えている。
■ジャック・クロフォード
演:スコット・グレン
吹替:有本欽隆
FBI特別捜査官で、行動科学課の課長。物腰穏やかな男性。
レクターに嫌われていると、自分の代わりに教え子のクラリスをレクターの元へ送った。
クラリスには目をかけている様子だが、同時にクラリスをうまく利用してレクターの協力を引き出すなど、いかにもアメリカの上層部的な人物。
■フレデリック・チルトン
演:アンソニー・ヒールド
吹替:石井隆夫
ボルティモア精神異常犯罪者用州立病院院長で、レクターの担当医師。
傲慢な性格で、自身の名声のためにクラリスの捜査を妨害した。
自分の立場を笠に着て高圧的な態度を取ることが多く、あまり好かれる人物ではない。特にレクターには嫌われている。
ここにアンソニー・ヒールドの表情の演技がいい味を加えている。彼の不注意な行動が後半の惨劇の引き金となっている。
■バーニー・マシューズ
演:フランキー・R・フェイソン
吹替:不明
ボルティモア州立病院の看護師で、レクターの監視役。
本作ではクラリスは会う先々で男性に口説かれるのだが、口説かなかったのは実は彼だけ。
職務に忠実かつ礼儀正しい男で、レクターからも信頼されている。
何気に3部作皆勤出演というのは、実はハンニバルシリーズではかなり珍しい。主人公のレクターと彼だけでは?
■ルース・マーティン
演:ダイアン・ベイカー
吹替:藤木聖子
上院議員。
娘のキャサリンが誘拐されたのを受け、レクターに減刑と引き換えに情報提供を求めた。
■キャサリン・マーティン
演:ブルック・スミス
吹替:水田わさび
マーティン上院議員の娘。
心優しい性格だが、それが裏目に出てバッファロー・ビルに誘拐されてしまう。
井戸に監禁された上、身体にローションを塗れと強要されることに。
しかし終盤では機転を利かせ、ある方法で犯人を脅迫する。
■バッファロー・ビル
演:テッド・レヴィン
吹替:家中宏
5人の女性を殺害した連続殺人鬼。
被害者は全員皮膚を切られており、その皮膚で服を作っている。
自分を性同一性障害だと思いこもうとしているが、実際は歪んだ女性化願望である。
自分を変えたいという願望から、変化の象徴である蛾を飼っている。
飼っている蛾はアケロンティア・スティックス(メンガタスズメ)。背中に付いた髑髏のような模様が特徴で、その蛹を被害者の喉に詰め込んでいる。
プレシャスというトイプードルを飼っている。
彼は実在した、名前を残した殺人鬼複数人を参考にされている。これは作者トマス・ハリスが新聞記者だった頃、テッド・バンディを取材した経験に由来しているという。
- 手が不自由なふりをして被害者を誘い込む点はテッド・バンディ
- 被害者を地下に閉じ込めるのはジョン・ゲイシー
- 人の皮をはいで衣服を作る点はエド・ゲイン
といったところに反映されている。いずれもグロテスクなエピソードをいくつも持っている人物であり、ハンニバルのみならず様々なサブカルの登場人物のモデルになっている。
そもそもレクター博士のキャラ自体が、外国の死刑囚をモチーフにしたものだとトマス・ハリス本人が語っている。
余談
- B級映画監督として知られるロジャー・コーマンがFBI長官役で、ゾンビ映画の巨匠ジョージ・A・ロメロがメンフィスのFBI捜査官役で、それぞれカメオ出演している。
- 冒頭に引用したレクターのセリフ(クラリスと最初に話をした時のもの)は、「アメリカ映画の名セリフベスト100」の1つに選ばれている。
どういうセンスしてんだ。
- 「羊たちの沈黙」の作者、トマス・ハリスは、ロバート・ケネス・レスラーというFBI捜査官から資料を提供してもらって本作や「レッド・ドラゴン」を書きあげた。
レスラーはさながら作中のクラリスやチルトン博士のように様々な死刑囚と面会して精神分析を行い、それによって犯人像を類型・分析。
犯人像の分析を行う「プロファイリング」という技術を確立したという人物で、彼の著書は世界中で読まれた。日本でも90年代にたいへんブームになった人物である。
そんな技術の開祖ともいえる人物から詳細な資料を提供してもらっただけあり、レクターのキャラクターにはある種のリアリティを帯びている。
しかしレスラー本人は本作の内容に否定的であり、「新人捜査官をいきなり一人で凶悪犯の面接に行かせるなんてありえない」「レッド・ドラゴンやバッファロー・ビルの描写が現実的じゃない」「プロファイリングはあくまで補助、地道な捜査の方が大事だ」と評している*4。そこにリアリズム付与したら模倣犯出てきやすくなってまずいんじゃねぇかな……
- パロディに羊たちの沈没(原題:The Silence of the Hams)というコメディ映画がある。
話の筋自体は「羊たちの沈黙」というより「サイコ」に近いのだが、とにかく81分の間あらゆるギャグやパロディが繰り広げられ、しかもツッコミが不在。 - 主人公の名前が「ジョー・ディー・フォスター(男性)」。
- レクター博士の役回りに該当する人物が妙に恰幅のいいオッサン。
- 「ではベッドメイキングに向かいます」と言ったモーテルの主人が本当に「木材でベッドを一から作りはじめる(Making)」
- 日本語訳を担当した人はビーストウォーズの翻訳を担当した人。あっ…(察し)
よく「クソ映画」「二度と見たくない」「ものすごく疲れる」と評される本作だが、それらは必ずしも悪評というわけではなく、ポプテピピックをクソアニメと呼ぶようなノリ。
ほんとにツッコミ不在で1分間に3~5つくらいギャグが飛んでくるので、マジで見てて疲れる上に話の内容がまったく頭に入ってこない。
退屈はしない映画だと思うので、一度見てみるといいだろう。きっと忘れられない経験になるから。
ちなみにHamというのは英語のスラングで「大根役者」のこと。
以下終盤のネタバレ
レクター脱走のシーンは、映画史に残るであろうスリル満点な場面。
一瞬のスキを突いて看守を撲殺し、腹を綺麗に刳り抜きまるで翼を広げているかのように吊るしあげる。
看守は2人いたが、片方は顔を食われた。
内1人はまだ息があり、救急車で搬送されるが…
レクターは2階に居る。
レクターはエレベーターに居る。
……本当に?
もっと長く追記したいが、これから古い友人を修正に招くのでね……さようなら。
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▷ コメント欄
- アンソニー・ホプキンスのエレガントっぷりは異常 -- 名無しさん (2014-08-28 02:40:05)
- 名優だからな。 -- 皆元 (2014-09-18 12:10:00)
- ちなみにカメオ出演でロジャー・コーマンとジョージAロメオ -- 名無し (2014-09-23 21:16:43)
- 順番入れ変えて『沈黙の羊たち』にすると途端にアクション映画に -- 名無しさん (2014-09-23 21:54:56)
- ↑記事を読んでいる間の疑問が解決した -- 名無しさん (2015-02-06 20:10:35)
- ↑↑結構面白そうな気がする -- 名無しさん (2015-07-02 19:58:01)
- 人間の皮を被るシーンは板垣がまるっとパクった。 -- 名無しさん (2015-11-29 18:30:39)
- ???「アソコが匂うぞwww ついでにカルピスもプレゼントしたろwww」 -- 名無しさん (2016-05-24 20:28:02)
- 後々のエンターテイメントに与えた影響のデカさよ -- 名無しさん (2016-10-31 17:44:29)
- 無感動なサイコパスとは違って、情緒深くクラリスを慈しんでいる。 -- 名無しさん (2016-10-31 18:35:05)
- 元ネタはエド・ゲイン? -- 名無しさん (2020-09-14 18:55:53)
- 殺人犯の原型はエド・ゲインで間違いない、レクター博士は原型になった犯罪者がいたのだけれど功績が疑わしいのだっけ -- 名無しさん (2022-01-14 20:42:04)
- 犯罪者を分析する犯罪者は現実にもいるが、映画とかのフィクションでの犯罪者像にあらたな面をあたえたのはこのキャラの影響が大きいと思う -- 名無しさん (2022-01-14 20:44:09)
- 十二分って言われてみれば確かにそんなもんだったな出番…。なんかもう半分くらい出てたイメージだったわ -- 名無しさん (2022-01-31 19:50:04)
- 作中で犯人がつかった方法は現実の犯罪方法としてあったりして、作者の取材がちゃんとしているのがわかる -- 名無しさん (2022-06-29 00:23:37)
- 続編が本当に薄っぺらい、ペラペラMOROHAくらい薄っぺらい -- 名無しさん (2023-01-13 09:58:27)
- 人皮服(エドワード・ゲイン)、手が不自由と装って被害者を誘い込む(セオドア・バンディ)、地下に閉じ込める(ゲイリー・ヘイドニック)……ガチじゃん。 -- 名無しさん (2023-01-13 10:06:29)
#comment
*2 初対面でクラリスに思いっきりセクハラしたり、中高年のルース議員に乳首についてなじったり。日本ではこの部分が、言語や文化の違い、放送コードなどの関係もあってうまく訳出しきれていないため、単に『物腰が豊かだが狂気が中に秘められている』という人物像になってしまっている。
*3 これ自体はポプキンス自身がある日突然ちょっとおかしな人に絡まれた際の「彼がほとんど瞬きをしなかったことに恐怖を感じた」という経験に由来する。以降様々な映画がこの手法を取り入れ、おとなしいサイコパス系のキャラクターを「瞬きをしない」ように演じさせるようになった。
*4 ある連続殺人犯の動機は『この本に影響されて、興味本位で「完全犯罪」をもくろんだ』というしょうもないものだったが、プロファイリングにまったく引っかからないように犠牲者を選んだにもかかわらず物証からあっさり逮捕されたという事件もある。
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