あいつ…何か隠してる。
何か…とてつもなく厄介なことを―――!
仏蘭西銀貨殺人事件とは、金田一少年の事件簿での事件の1つであり、かつて金田一少年が解決した事件の一つ。
ファイルシリーズ第17弾。単行本23巻~25巻に収録。全14話。
テレビドラマでは第3シーズン第3話として2001年7月28日に、テレビアニメでは第51話~第54話として1998年6月15日~7月6日にかけて放送された。
登場する怪人は「葬送銀貨」。
アニメ版の容疑者リストの順番は上段は左からスージー、六条、ますみ、犬飼、君沢で下段は弓削、鳥丸、鍵谷、霧山の順でバックは桃色。
【あらすじ】
一の小学校時代の同級生である高森ますみは、ファッションブランド「キミサワ」のトップモデルだった。
ある日仕事から帰った彼女は、かつての知り合い・ヒロシに自宅で襲われ、衝動的に殴り殺してしまう。
紆余曲折ありながらも死体を始末するますみだったが、その一部始終を謎の人物「葬送銀貨」に見られ、殺人を強要されてしまう。
長野県南アルプス天神岳のホテル「仏蘭西館」で開かれたコンペ。
このコンペの勝者は三友商事の支援を受ける立場となり、「キミサワ」とライバルブランド「六条」の運命も決する決戦の様相を呈していた。
そんなコンペのさなか、「葬送銀貨」の思惑通り、「キミサワ」に関わる人物を次々と殺害していくますみ。
最後の殺人が終わると共に全ての罪を被せられた彼女は、「葬送銀貨」の正体を「キミサワ」の社長・君沢ユリエであると考え、彼女を撃ってしまうが…。
※以下、ネタバレにご注意ください
【事件関係者】
高森ますみ(たかもり-)
CV:西村ちなみ/演:吹石一恵
ファッションブランド「キミサワ」のトップモデル。17歳。
一の幼なじみで、小学校時代を一緒に過ごした。
美雪同様、一のことを「はじめちゃん」と呼ぶ珍しい人物。美雪曰く「はじめちゃんの初恋の相手」だが、美雪が推測しているだけで本当のところは不明。
(他には『人形島殺人事件』に登場している林堂まことくらい。しかも向こうは途中から彼への呼び方を「君」に変えてしまった。)
一に言わせると小学校時代は高身長だが痩せすぎかつ元気すぎ、勝気な「オトコ女」であり、そんな彼女がモデルになるなんて想像もしてなかったらしい。
母親は小さい頃に出ていき、父親もその後亡くなっており、親戚をたらい回しにされた為に中3の頃には荒れていたらしく、窃盗・薬物・売春などに手を染めていたらしく、その後、ユリエにモデルとして拾われ、更生しているが、冒頭で1度一と別れて自宅に戻った際には喫煙しており、悪癖は完全には抜け切っていない様子である。
当時の悪仲間のヒロシに脅迫、レイプされかかって抵抗するうちに殺害してしまい、その直後に偶然一に遭遇し、その場をやり過ごすべくファッションショーのチケットを渡すが、逆にショーの会場で不審な行動を色々追及される羽目になってしまう。
また、ヒロシを殺してしまったところを「葬送銀貨」に見られてしまい、鳥丸奈緒子(実際に死んだのは六条光彦)・犬飼要介の殺人の片棒を担がされる事になった。
ついには睡眠薬を嗅がされたあげく、霧山小夜子(後述)の死体と共に銃を持たされた状態で密室に放り込まれたところを、金田一を始めとする人々に踏み込まれてしまう。
衆人環視の状況下で恐慌状態に陥ったますみは「自分に殺人をさせたのはユリエである」と考えて居合わせたユリエを撃ってしまい、逮捕される。
表面上は「もうはじめちゃんに頼る必要は無い」と強がっていたが、心の中では助けを求めていて、1人になった時、一とこんな再会の仕方をしてしまった事に対する辛い気持ちから号泣する一幕も。
ちなみに、モデルは長くできる仕事ではない為、最近はデザインの勉強もしているらしい。
ドラマ版の演者は後に福山雅治と結婚することになる吹石一恵。
君沢ユリエ(きみさわ-)
CV:山本圭子/演:白川由美
ファッションブランド「キミサワ」の社長。48歳。
仕事に対しては厳しいが、同時に人情溢れる一面も持つため、部下からの信頼は厚い。
しかし後述の鍵谷曰く、「彼女のファッションセンスは既に古臭い」らしい。
物語中盤、逆上したますみに銃で撃たれ、重傷を負う。
15年前にパリで火災に遭っており、その際余程のトラウマがあったのか、パーティでは常に非常口付近に座る習慣がある。
ドラマ版の演者は『GTO』の桜井理事長の演者であり、『空の大怪獣ラドン』や『地球防衛軍』等の東宝特撮映画にも数多く出演しているが、東宝特撮映画の顔である『ゴジラシリーズ』への出演は遂に叶わなかった。
霧山小夜子(きりやま さよこ)
CV:深見梨加/演:赤坂七恵
ブランド「キミサワ」のパタンナー。20歳。
地味ながら気の利くいい人だが、うっかり屋な面もある。
犬飼の愛人であり、彼から「ある秘密」を聞かされていた為、「葬送銀貨」に射殺される。
ドラマ版では苗字が何故か中山に変更されている。
ドレスがズタズタにされた時には、奈緒子を手伝おうとしないどころか、責任者である彼女の事ばかり責めていた。
鍵谷善司(かぎたに ぜんじ)
CV:塩屋浩三
ブランド「キミサワ」のメンズ・チーフデザイナー。32歳。
穏やかな金髪メガネで、気さくでおしゃべりな人物。
良い人なのだが、おしゃべり過ぎて、奈緒子がユリエのゴーストであることを部外者の一や美雪にべらべらと喋る。下手をすればブランドイメージにも関わるスキャンダルの種なのだが、いいのかそれで。
メンズデザイナーのチーフにも関わらず、レディースファッションショーの手伝いとして長野にやって来た不思議な人。
「キミサワ」はどうもレディースのほうが中心らしく、忙しいレディースのスタッフに比べるとかなり暇だったらしい。暇だからという理由でチーフが現場にお出掛けって…メンズ部門大丈夫なのか?
『場合によってはブランドの運命が決まる』ほどのコンペなので、することがないメンズも万一に備えて居合わせる必要があったととれなくもないが、奈緒子に襲い掛かったスージーを制止し、一喝するという地味な活躍を見せる。
ますみ曰く「いい人だけど何考えてるかわからないところがある」らしい。
鳥丸奈緒子(とりまる なおこ)
CV:荘真由美/演:高橋理奈
ブランド「キミサワ」のレディース・チーフデザイナー。28歳。
ユリエのゴーストとしてブランド商品を作り続けている、「キミサワ」一のファッションデザイナー。元は同社のモデル。
デザイナーとしての力量は凄まじく、コンペのトリをつとめるドレスがスージーに破壊された際、即興かつその場の有り合わせの材料で観客をうならせるドレスを作る離れ業を披露。
ブドウアレルギー持ちで、ワインが全く飲めない(弓削が出したサクランボ製のものは別)。
物語序盤で、「葬送銀貨」に殺されかける。
なお、アニメ版で鳥丸を演じた荘真由美女史は、アニメ版の佐木を演じている難波圭一氏の奥さんでもある。
そして荘女史は『美味しんぼ』の栗田ゆう子役で有名だが、難波氏もカメラマンの近城勇役で共演していた。
容姿のモデルはコシノジュンコと思われる。
六条光彦(ろくじょう みつひこ)
CV:檜山修之/演:ドン小西
「キミサワ」のライバル社、ブランド「六条」の社長。33歳。
「キミサワ」のファッションの全てを手掛けているのが奈緒子であると見破り、彼女に執拗にアプローチをかけるナンパ野郎。
ただし、奈緒子を引き抜いてもマトモな仕事を与える意思はないらしく、爽やかなイケメンでありながら結構腹黒い。
奈緒子はかなり優秀なので普通に使えばよいと思われるが、社内のファッションデザイナーとの関係上、そうせざるを得ない面もあるのだろう。
ワインが飲めない奈緒子に代わり、毒入りのワインを飲んでしまった為に死亡する。
ドラマ版では鍵谷の役回りも兼任しており、一と美雪にも好意的に接していた。
なお、ドラマ版で演じたドン小西氏はファッションデザイナーである*1。
スージー星河(-ほしかわ)
CV:橘U子/演:椎名英姫
ブランド「六条」のトップモデル。19歳。
六条に対してはかなり恩義を感じており*2、彼が死んだときは激しく取り乱していた。
六条が奈緒子の身代わりに死んだ為、奈緒子を恨み、ナイフを持って襲い掛かるほどであり、その際は鍵谷にビンタされて転倒、号泣した。
プライドが高く「キミサワ」ブランドを卑下しており、「六条」を勝たせる為にファッションショーの直前に楽屋へ忍び込み、「キミサワ」のドレスをズタズタに引き裂くという妨害工作を働いているが、もし本当に自信があったらそんな事をしなくても勝てると思うのだが。
ドラマ版でのファッションショーではダンサーを従えていて原作よりも豪華な演出になっている。
犬飼要介(いぬかい ようすけ)
CV:山崎たくみ/演:大澄賢也
ブランド「キミサワ」の副社長。37歳。
社長のユリエと怪しげな関係を築いているように見えるが、17歳年下の小夜子が本当の愛人らしい。
ファッションショーの最中、何者かに毒入りのワインを飲まされ殺害される。
弓削透(ゆげ とおる)
CV:津久井教生/演:甲本雅裕
仏蘭西館のソムリエ。28歳。
優男だがソムリエとしてのプライドは高く、仕事関連になると激昂するシーンもある。
作中で自らの(というよりホテル側の)ある失態に気付くが、そのことが謎解きのヒントになった。
奈緒子の幼馴染であり、エピローグではかなりの漢を見せた。
テーブルクロス引きが非常に上手く、客から「王様のレストランみたい」と言われていた。
推理に行き詰まっている一に声をかけ「ワインでもお出ししましょうか?」と発言。冗談でも未成年に酒勧めるんじゃないよ…。しかも刑事の剣持がいる目の前でだぞ。
ドラマ版では仏蘭西館のマネージャーになっており、演者は『踊る大捜査線』シリーズの緒方巡査部長の演者であり、「THE BLUE HEARTS」のボーカルの弟である。
セバスティアン・ルージュ・ド・メグレ
ユリエの知人であり探偵。フランス出身の伯爵で、作中では「メグレ伯爵」と呼ばれている。日本語は全く問題ない。
かなりのイケメンだが、頭にバラが差さっている事がある。
突然キラキラとした背景で派手に登場し、会場の一同をドン引きさせ、奈緒子の護身用として知人のシェフを呼び付け奈緒子の食事だけを作らせるという奇抜な行動でさらにドン引きされた。
いきなり現れて、「誰が狙われるかわからなかったのでは」という一に対し、犯人の狙いが最初から奈緒子だったと指摘。
続いて「犯人はすでに逃亡中では」という推理をするが、今度は逆に一に一蹴される。が、怒るどころか感激し推理勝負を申し込む。
しかし、推理が冴えたのは出だしだけで*3、終盤は目立たなかった。一応、一の説明した推理に対する理解は比較的早かったので、探偵の面目はかろうじて保たれた。
そのお茶目っぷり(?)から一も「あの人よりは可愛げがある」とさほど悪い印象は持っておらず、読者から再登場を望む声も多い。
なお、下記でも説明しているが、映像作品では未登場。
ヒロシ
ますみの「昔」の仲間。DQN。
帰宅したますみをマンション入り口で待ち伏せし、部屋に上がって不良時代の素行不良に関する口止め料を要求したうえ、レイプしようとするが、抵抗した彼女に殴り殺される。
死体は海に遺棄された。
【レギュラー陣】
金田一一
おなじみ主人公。
3人4脚で美雪とスタイル抜群の女子と組むことになったラッキースケベ。それが狙いだったらしいが、そこまで自分のクジ運に自信があったのだろうか?もしくはインチキしたのだろうか?
ますみからチケットを貰い、美雪とともに長野のファッションショーに出向く。
ますみの気持ちを誰よりもわかっていながら、それを利用して彼女に殺人を犯させた真犯人「葬送銀貨」に対し、怒りを燃やす。
今回はトリックの1つ、犬飼殺しについて、犯人が「ますみに疑いがかからなくなる」と豪語したそれを、一は最終推理を待たずしてあっさり解明していた。
七瀬美雪
おなじみヒロイン。今回は珍しくツインテール。
一と待ち合わせをするも、遅刻されてコーヒーをおかわりしまくってご機嫌斜め。しかし、彼がますみと再会したこと、彼女からファッションショーのチケットを2人分もらったことを知り、急にご機嫌に。ますみに会えることを楽しみに、一と共にファッションショーに出向く。
ますみを「一の初恋の相手」と思っている(本気でそう思っているのか、冗談なのかは不明)が…まさか、一の初恋の相手が自分かもしれないとは、思っていないだろう(一が言わない限り、誰なのかは不明だが)
一に対し、「ますみちゃんを助けてあげて」と懇願した。
推理に行き詰まる一に弓削が声をかけた際、「ワインを1杯おごる」と刑事の剣持の目の前で発言。「こらこら、未成年が刑事の前でアルコールか?」と言われると「ちょっとだけならいいでしょ?」で押し切った。おいおい…。以前自分も飲酒したからだろうか?
ただ、ワインが運ばれて来た直後、弓削が何かに気づくちょっとした一幕があり、結局実際に飲んだかどうかは不明。
剣持勇
おなじみオッサン。
たまたま長野に研修に来ていたときに事件の知らせを受け、長島の応援で現場へ行って一に遭遇。「キミサワ」社員の個人データが盗まれた形跡がないかを調べに本社のある京都まで行く事に。京都からわざわざ盗まれなかったフロッピーを持ってきたにも関わらず一に「それはもう必要ない」とあしらわれた時は不満を露わにしていた。
子供に誕生日プレゼントとして「六条」ブランドのネクタイをプレゼントしてもらったらしい。
弓削が自身の失態に対して行動した時に言った言葉はちょっとした名言の1つ。
(同時に一がトリックに気付くきっかけの1つにもなった。)
弓削とのやりとりで一達がワインを飲むことになった際、もらうと言った美雪に最初は少々とがめるようなことを言うも、あとは黙認。止めろよ…。
長島滋
長野県警の警部。
「金田一少年の殺人」での一件から、一を毛嫌いしている。
でも素直に情報提供はする。
「金田一少年の殺人」では、剣持にも厭味ったらしいことを言っていたが、今は関係良好な様子。
金田一二三
アニメ版のみに登場。
ファッションショーに行くと聞いてはしゃいでいたが、置いてきぼりを食らった。
その為、一に丑の刻参りを行い、ダメージを与えている。
朝基
蝋人形殺人事件の冒頭で一に意図せず留年の危機を救った優等生くん。体育祭の3人4脚ではむさい男に囲まれ悔しがっていた。
【以下、事件の核心。更なるネタバレにご注意ください】
キミサワをあたしのブランドにするためなら何人殺したって平気だった!!
だってあたしはすでに「人殺し」なんだもの!!
鳥丸奈緒子
この事件の真犯人「葬送銀貨」。
実は殺人を強要したますみとは、歩んだ人生やその中で培われた価値観が驚くほど似ており、一から「精神的双子」と形容された。
このミッシングリンクを奈緒子は事前に見出しており、今回の殺人劇の最も重要なカギとして利用されている。
彼女もまたますみと同様素行不良であった時期があり、9年前のモデル時代、自身の存在を知った元不良仲間・アキオに襲われ、ほとんど正当防衛同然で衝動的に殺害してしまう。
警察に自首することも考えたが、結局、クズ男のアキオの為にせっかく掴んだ成功を台無しにされるのを恐れ、死体を捨てる事に決める。
しかし、偶然打ち合わせに訪れたユリエに死体を見られてしまい、観念して彼女に全てを話すが、ユリエは奈緒子の将来を守るため、アキオの死体の遺棄に加担した。
この一件で、奈緒子はユリエを母親のように慕ったが、ユリエと犬飼の密会現場を目撃した際、犬飼が自分の殺人について知っていた事、それを教えたのが一緒にアキオの死体を始末したユリエ以外には考えられない事、さらにユリエが犬飼に「会社を譲る」と告げるのを聞いてしまった奈緒子は、ユリエに裏切られたと思い込んだ。
追い打ちをかけるように犬飼に呼び出されて「自分が社長になったら愛人の小夜子をチーフデザイナーにして、奈緒子はお払い箱」と告げられた事で、彼女のユリエへの憎しみは決定的なものとなる。
「ユリエが自分を利用するだけ利用してゴミのように捨てようとしている」と思った奈緒子は、「自分の手を一切汚さず無関係な人間に殺人をさせる」という途方もなく汚い手段を使って今回の事件を起こした。
実は、ますみのもとにヒロシをけしかけたのは奈緒子だった。
ますみが殴った時点では、ヒロシはまだ生きていたのだが、ますみがキャリーバッグを買いに外出している間に部屋に侵入して、気絶している彼にとどめを刺した(ちなみに、ますみの部屋にどうやって侵入したのかは不明。状況的にますみが鍵をかけ忘れるわけがないし)。
ますみの心理状態を知り尽くしたうえで、彼女がとるべき行動を意図的に操作し、自分の手を一切汚さず殺人劇を敢行するという、非常に狡猾な心理トリックを用いた犯人。
さらに標的の一人であった六条を殺す際、自分が命を狙われたフリをして容疑者から外れるという巧妙な予防線も張っている。
しかし「ユリエが一命を取り留めて集中治療室に入った」という情報に騙され、彼女にとどめを刺しに来たところを一たちに押さえられる。
それでもしぶとく自分の罪を認めようとはしなかったが、殺人を行う上で標的に死に装束を作るために使用した「キミサワ」社員の身体測定のデータが入ったフロッピーを盗んだ際、自分の名前が入っていない「ト」のフロッピーを盗み、実際のデータの入った「カ」のフロッピーを放置してしまった。
これは「キミサワ」本社が京都市の烏丸通に位置し、データ入力をした人間が「鳥丸(とりまる)」を、見慣れた文字の「烏丸(からすま)」と読み間違え、「トリマル」ではなく「カラスマ」として、「カ」のフロッピーに誤登録してしまっていた事によるもの(原作版ではもう一つの原因として、身体測定のデータを作成する際に社員に書かせた身上書の用紙の氏名欄に、フリガナを書くスペースがなかった事が、この読み間違えを引き起こす遠因となった事が語られている)。
奈緒子が自分でパソコンを使って中身をチェックし、「ト」以外のフロッピーをチェックしていれば取り返しのつくミスだったが、あいにく彼女はパソコン操作が苦手である為、他の2着のドレスやタキシードの時は(どうしても必要だったから)なんとかデータを引き出したものの、分かり切っている自分のデータについては面倒なパソコンの操作をしなくてもいいと確認を怠った。
このせいで、本人以外に奈緒子のデータを知ることのできる人間がいなくなった為、自分ピッタリに作ったウェディングドレスが、逆に彼女が犯人である決め手となった。
全てのフロッピーを盗むという方法も考えられたが、それをすると「キ」の字のフロッピーがなくなっている事を利用して「霧山小夜子殺害の現場に君沢ユリエを連れて行く」*4事が難しくなるので、それをとらなかったと思われる。
犯行の自供後、ユリエに突然のビンタを喰らい*5、事実が誤解であった事を君沢の口から聞かされた奈緒子は彼女の胸元で号泣し、逮捕される。
その後はますみの罪が軽くなるよう、ヒロシの殺害を自供するなど、憑き物が落ちたかのように改心した模様であり、面会に訪れた弓削とも誕生日プレゼントにアネモネの花束を差し入れてもらうなどイイ関係を築いているようだ。
その時の彼のそそっかしさに突っ込みながらもデレデレな彼女の表情は本当に可愛い。間違いなくこれが彼女の本来の姿なのだろう。
殺人2件(アキオの正当防衛を除く)、殺人教唆2件、殺人未遂1件、銃刀法違反では死刑判決になる可能性が極めて高いが、一応ユリエが良い弁護士を紹介したと語られていたので、情状酌量が付く可能性はある。
アキオの正当防衛については、警察に届けていれば正当防衛で済んだ事案であり、ユリエの殺人未遂についても実際にやった事は「マネキンについた生命維持装置を外した」だけなので、剣持たちが黙っていればせいぜい不法侵入くらいで許されるかもしれない。
しっかり罪を償って、ますみとも和解してほしいものである。
君沢ユリエ
ますみに銃で撃たれた傷は幸いさほど重くなかったようで、一の推理にも特に体調を崩す様子もなく同席した。
奈緒子が駆け出しであった頃から彼女に目をかけていたが、彼女が殺したアキオの死体を運び出そうとしている現場を偶然目撃する。
事情を知ったユリエはアキオの死体を奈緒子と共に遺棄するが、その現場を犬飼に見られてしまい、脅迫されるようになってしまう。
そこで犬飼を副社長という地位につけ、さらに「キミサワ」の全てを譲ると話していたのは彼を自分の監視下に置き奈緒子を守るための苦渋の選択だった。
ファッションショーの翌日には、「キミサワ」が受けるであろう三友商事の後押しを新ブランド「ロワゾ」に譲る事を記者会見で発表するつもりでいた。
この「ロワゾ」はフランス語で「鳥」を意味する言葉で、犬飼が奈緒子を追い出すのを見越して、「キミサワ」を独立する奈緒子のためにユリエが用意した最後の贈り物であった。
自身のブランドを捨ててまで奈緒子を助けようとした彼女の計画は、あと一日というところで、皮肉にも奈緒子自身の為に台無しにされてしまうことになる。
それでもなお、彼女の身を想い続けたユリエは、いつか罪の償いを終え戻ってくる時までロワゾはそのまま残しておくと告げ、泣きじゃくる奈緒子を抱きしめた。
奈緒子だけでなく、ますみの出所後の面倒も見てあげて欲しいものである。
なお、「モデル出身で、後に自分のブランドを立ち上げた」「若い頃の事は誰にも話さない」という点から、ひょっとしたら彼女も若い頃に男を殺してしまった(ますみ・奈緒子と同じ、いわば「精神的三つ子」であった?)のではないかと一は推測しているが、30年以上も昔の話である為、それ以上は追及されなかった。
一方、9年前という時期に奈緒子の死体遺棄に手を貸したことについては何も言及がなく、御咎めがあったのかどうかも不明だが、おそらく既に時効を迎えていた事で罪に問われなかったと考えられる(死体遺棄は3年で時効)。
しかし、「犬飼が奈緒子のアキオ殺しを知っている」となれば、普通は唯一それを知っていた人間、ユリエが喋ったとしか考えられない。
また、「犬飼を社長にする」となれば、折り合いの悪い奈緒子は間違いなく追い出される。
さらに、鳥丸は、犬飼から「自分が社長になればお払い箱」と告げられた。
ここまで来ると、ユリエの真意がどうあれ、奈緒子が「ユリエに裏切られた」と思い込むのは、必然だったと言えるのではないだろうか。
せめて、犬飼に脅迫されている事を奈緒子に打ち明けていれば、今回の事件は起こらなかったかもしれない。
彼女を守る為に極秘にやっていたユリエの計画が、逆に彼女を追い詰めて凶行に走らせてしまったとも言える。
犬飼要介
犬飼は劇中ではものすごく影が薄く、これといって批判する点もなかったように見えたが、9年前の事件をネタにユリエを強請り、やがて彼女の会社を乗っ取るつもりでいた小悪党。
彼は社長になったら奈緒子を追い出して愛人の小夜子をチーフデザイナーにするつもりだったらしく、それを奈緒子に告げた事が今回の事件の発端となり、ユリエは彼に次期社長のエサをちらつかせる事で事件の隠蔽を図ってきたが、実は彼は事の真相を既に愛人であった小夜子に喋っていた。
霧山小夜子
犬飼から9年前の事件の事を聞かされていた。
犬飼の死後、奈緒子に電話をかけ「警察に全てを話す」と告げた為、口封じで射殺されてしまった。
だが、トリックの内容や奈緒子も彼女の死に装束を用意していた事から最初から殺すつもりだった事が伺える為、仮に電話しなかったとしてもどのみち殺される運命だっただろう。
脅迫して金銭を求めて殺されるならまだしも、彼女の場合は基本的に何の落ち度もなく20歳で殺された為、「金田一少年」屈指の可哀想な被害者である。
ちなみに、ドラマ版では犯人が動機を語る場面で小夜子を殺害した理由については一切触れられていない為、ドラマが初見の人にはなぜ殺されたのかが不明であった。
六条光彦
君沢亡き後、彼のブランドが台頭し敵対勢力になるであろうことを見越した奈緒子により、ついでという形で殺された可哀想な男(犯人たちの事件簿を見れば、本当についでだったことが分かる)。
だが、爽やかそうなイケメンの見た目とは真逆に、本性は上記のようにかなり腹黒く、劇中で語られてないところでは、「キミサワ」を潰すために色々と汚い工作をしていたとの事で*6、そして女たらしだったようで人気と裏腹に同業者からの評判は最悪だった。
奈緒子について「あの女がいなくなればキミサワなんて一ひねり」とうそぶいていたことからして、奈緒子がユリエのゴーストであることには半ば感づいていた節があるが、一方で仮に引き抜けたとしても飼い殺しにするとほのめかしている。
その奈緒子に「ついで」で殺された上、死後の事ではあるが自身がデザインしたであろうドレスは奈緒子がテーブルクロスで作った即席ドレスにコンペで負けている為*7、ちょっと哀れなくらいの小物っぷりである。
小夜子同様ドラマ版ではなぜ殺されたか語られなかったが、おそらく原作と同様の理由だと思われる。原作のような腹黒い一面がない分、より可哀想な被害者であると言える。
ヒロシ
ますみがヤンキーだった頃の仲間。
奈緒子に指示され、ますみに対してかつて奈緒子が殺したアキオと同じセリフと行動を実行し、返り討ちに遭う。
実はますみに殴られた時には気絶していただけでまだ死んでおらず、殺してしまったと思い込んだ彼女が死体を遺棄する為にキャリーバッグを買いに出た隙に、部屋に侵入した奈緒子にとどめを刺された。
ますみへの脅迫はあくまでも奈緒子の指示なので、本気だったのかどうかは不明。
だがどの道口封じで始末されることには変わりなかっただろう。ある意味哀れな青年である。
弓削透
仏蘭西館での出会いは偶然のように装われていたが、実際はブドウアレルギーの証人として奈緒子に利用されていた。
つまり、仏蘭西館が会場に選ばれるにあたっては弓削も知らないところで奈緒子の意向が及んでいたと考えられる。
しかし、彼女が殺人を犯したり、自分を証人として利用されたにも関わらず、彼女への気持ちは変わらずよく奈緒子と面会している。
誕生日プレゼントとしてアネモネの花束を持ってきたが、誕生日を1ヶ月間違えるというそそっかしい面もあった。
アニメ版とドラマ版ではこのシーンがなく、ドラマ版でも幼馴染ではあるが奈緒子との関わりが原作よりも希薄になってしまい、ただブドウアレルギーの証人に利用されたことしか印象に残っていないのが残念である。
なお、アネモネの花言葉は赤は「あなたを愛しています」。白は「真実」「期待」「希望」。紫は「あなたを信じて待つ」。
つまり…
事件とはあまり関係ないが、仕事上では明らかな失態をしてしまっている。
本来ならホテル側は納入した業者に返品交換を行い、納入業者は製造元による食品偽装の重要な証拠として保管し、粗悪なワインを売りつけた業者を告訴しなければならない立場なのに、「中身を確かめもせずにこんなワインを出してしまって」と激昂し、ホテルの買った偽ラベルのワインを片っ端から割ってしまっている*8のはマイナスである。
仕事に対するプライドを持っているのは良い事ではあるし、割りたくなる気持ちは分からない事もないが、これではソムリエとしての力量は未成熟と言わざるを得ない。あの後上司から大目玉を食らった可能性もある*9*10。
鍵谷善司
結局何故彼が長野までやってきたのか、明確にされる事はなかった。
奈緒子が上手く扱えないパソコンをスイスイと使ってみせたり、一が注目した苗字が「カ」で始まるフロッピーに名前が出ている、さらに奈緒子と並び最後まで犯人でない人物として顔出しをしなかった事から*11、本作における犯人役のミスリード要員であったと考えられる。
高森ますみ
奈緒子によって事件の実行犯にさせられ、挙げ句全ての罪を着せられかけた、ある意味での被害者。
ヒロシを殴ったことは正当防衛だとしても、ユリエへの発砲・殺人未遂、六条・犬飼の殺人*12・ヒロシの死体遺棄となれば相応の厳罰になると思われる。
とはいえ、ますみはまだ未成年者である事や奈緒子の支配下に置かれて恐慌状態に陥った結果である事も事実であり、ますみは17歳なので少年法に従い処罰されるが、連載当時の少年法で、成年なら無期懲役相当と判断されれば懲役10年~15年の判決が言い渡された可能性が高く、もしそうなら出所は30歳前後になる為、まだ人生をやり直せる年齢だろう。
ラストでは一と剣持らの計らいで一時的に拘束を解かれ、ますみ・美雪・一共通のクラスメイトを集めた同窓会に出席している*13。(剣持も同行しているが、監視という建前と思われる)
家庭で辛い思い出が多く、モデルとしての仕事も事件を経て辛い思い出になってしまったと思われる中で、同窓会で見せた屈託のない笑顔は、ますみにもまだ大切な思い出が健在であった事をうかがわせる。
服役して自らの犯した大きな罪と向き合うのは苦しい事であろうが、こうした楽しい思い出を糧に、更生に励んでもらいたいところである*14。
ユリエを撃った際に急所に命中しなかったのも慣れているはずもなくうまく撃てない面もあっただろうがユリエとの思い出が自分の手を迷わせたからだと推測している。
それほどますみとユリエとの絆は強かったが、奈緒子の敬愛の念は自分のそれよりずっと強く、だからこそ裏切られたとの思い込みによって激しい憎しみに転化してしまうほどまでに強かったのだろうと理解を示している。
また、「精神的双子」同士、彼女の寂しさを理解できるのか、あれだけ酷い目に遭わされたにも関わらず奈緒子の事は憎む様子は見られない。
ドラマ版では剣持からは「犯した罪に、軽いも重いもない! 大事なのは、これから彼女がどう向き合っていくかだ」と厳しくも優しい言葉で諌められている。
アニメ版では警察に連行される前に、「キミサワ」のトップモデルとして最後の舞台に出演させてもらっている。
【原作との違い】
◇アニメ版
ヒロシはますみを強姦しようとせず、「断ると1000万に上げるぞ」と脅している。
一とますみの再会場所をデパート内に変更。また再会後、一はますみのマンションには来ない。
二三がプロローグとエピローグに登場する。
メグレと長島警部は登場しない。その為、鍵谷が葬送銀貨の事を説明している。
剣持は京都に行っておらず、部下にフロッピーを取りに行かせている。
一がますみを呼び出して犬飼殺害トリックについて説明する際、原作ではドアプレートを水槽につけて変色させていたがアニメ版では舐めて変色させている。
ファッションショー決着後、ユリエは部屋に戻っていない。
「未成年の飲酒」にあたるため、前夜祭の乾杯で一と美雪は弓削によってワインからジュースに取り替えられ、ますみも奈緒子を気にするあまり乾杯中には何も口にしていない。(原作では一たちは明確な描写こそないがワインを手にしたまま乾杯を迎えており、ますみも乾杯ではワインを一気に煽ってる)
ロマネコンティの中身が安物のワインだったと気付くきっかけとして、男性客がワインの味に気づき弓削に文句を言う展開となっている。
真犯人を暴く時の演出が、「懐中電灯で照らす」から「病室のカーテンをはぎ取る」に変更。
奈緒子が自分の部屋を施錠していなかった理由について、「鍵をかけ忘れただけ」という釈明に対する反論が、原作の「一度殺されかけた人間が鍵をかけ忘れるのは不用心過ぎる」という心理的な物から、「鍵を取り出してすらいなかった(=施錠されていない事を承知していた)」というより直接的な物に変更。
スージーが奈緒子を殺そうとしない。
ますみと奈緒子の「精神的双子」という言葉が、「生き方があまりにも似ている」という言い方に置き換えられている。
ますみの起訴内容が変更。
奈緒子と弓削の面会シーンはカット。
ラストのますみの同窓会が、居酒屋からファッションショーに変更。
◇ドラマ版
一と美雪がますみのことを思い出すきっかけが、体育祭の3人4脚からウェンディグドレスのカタログビデオにますみが出ているのを見た時に変更。
ますみの一に対する呼び方が「金田一くん」に変更。
ますみが卵を割った文鳥に乱暴する回想シーンが出てくるタイミングを冒頭に変更。また、仏蘭西館でカナリヤが卵を割るシーンはカット。
仏蘭西館の所在地を東京都に変更。
一と美雪はパーティにドレスコードで出席している。
鍵谷、メグレ、長島警部は登場しない。その為、一達をエスコートするのが六条、葬送銀貨を説明するのがユリエ、ドレスを調べるのが犬飼になっている。
第一の事件後犯人が本当に狙っていた人物が奈緒子だと推理する人物を一に変更。
霧山小夜子の名字が中山に変更。
犬飼の性格があからさまに悪者になる。
弓削と六条の奈緒子に対する呼び方が「鳥丸」に、ますみの小夜子に対する呼び方が「中山さん」に変更される。
ますみは小夜子をあごで使わず年上として接している。
ヒロシがますみにナイフを突きつけて脅しているシーンが追加。
ますみが一と再会するのが遺体を処分する為、タクシーに乗ろうとした時に変更。
ますみを脅迫する方法が電話から携帯メールに変更。
六条は奈緒子を引き抜こうとしていない。また奈緒子のワインに手をつけた理由も「奈緒子の気を引くため」から「ワイン通だから」というものに変更されている。
奈緒子が即興で作るドレスの材料をテーブルクロスからカーテンに変更。またショー会場は自然光の差す場所で強い光沢を出す必要はないため、ワイングラスを割ってビーズ代わりにするシーンもカット。
小夜子が犬飼の愛人という設定がなくなっている。
犬飼殺害トリックでドアプレートは使用されず、ますみは犬飼に空き部屋の番号を教えて呼び出している。
弓削がワインボトルを割るエピソードがカット。それに伴い、鍵の入れ替えトリックに気付くポイントが、剣持の携帯のストラップに変更。
一の推理で原作では「小夜子殺害のトリック」→「犯人の正体」→「フロッピーディスクに隠された証拠」の順になっていたが、ドラマでは「フロッピーディスクに隠された証拠」→「犯人の正体」→「小夜子殺害のトリック」に変更。
犯人を暴く際、奈緒子は自らカーテンの外へ出て姿を現す。
スージーが完全にチョイ役になる。
ますみと奈緒子が精神的双子である事や鳥丸が六条と小夜子を殺す動機がなくなっている。
謎解きの場にますみはいない。
謎解きの場に君沢が現れるタイミングを奈緒子が自供後に変更。
ますみのラストカットが留置場での面会に変更。
エピローグで一、美雪、剣持が車で海岸線を走っている。恐らくこの後で『黒死蝶殺人事件』に遭遇するものと思われる。ガス欠していたようで3人で車を押していたところで終わっているが、次のエピソードでは普通に走っていた。
【余談】
一部のカラオケで、3期OP「君がいるから…」(歌:西脇唯)を選択すると、本作のダイジェスト映像が流れる。
犯人当ては比較的簡単な部類。六条殺害の時点から、奈緒子を疑っていた読者が多かっただろう。
ただし、謎解きは先入観を利用したトリックが多く、特に霧山殺害に使った密室トリックは……
1.事前に、フロントで霧山の部屋のスペアキーを借り、部屋番号が記されたキーホルダーから鍵を外して、代わりに自分の部屋の鍵を付けてフロントに返す。
2.霧山殺害後、彼女のスペアキーで鍵を締める。
3.発見時、関係者一同が霧山の部屋の前に集まっている中、自分が鍵を取りに行くと言って真っ先にフロントに向かい、前述のすり替えた鍵を受け取り、部屋に向かいながら元に戻す。
………とかなり複雑なものであり、金田一全体を通して、難易度は高めである。
作中、金田一が見ていたキミサワ社員の書類に「友坂恵理」という名前が書かれている。
(解決編でも「ト」のフロッピーディスクの中身として同じ名前が確認できる)
もちろんこれは、初代ドラマ版で美雪役を演じた「ともさかりえ」のもじりである。
追記・修正は幼馴染に誕生日プレゼントを間違えてあげてからお願いします。
コメント
最新を表示する
NG表示方式
NGID一覧