P-1(哨戒機)

ページ名:P-1_哨戒機_

作成日:2015/08/09 Sun 12:40:49
更新日:2024/01/16 Tue 11:10:41NEW!
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川崎 P-1とは、川崎重工業が製造した純国産の哨戒機である。


概要

ミスター対潜哨戒機ことP-3Cの後継機として日本国内で独自開発された哨戒機。
開発時のコードネームは「P-X」。
なお、部品の多くは同時期に開発がスタートした次期輸送機「C-X」、つまりC-2との共用化が図られており、
国産製品にありがちな高価格化待ったなし…どころか逆に超・お買い得価格を実現してしまっている。
導入予定数は70機程度と置き換えるP-3Cに比べると30機ほど数が少ないが滞空距離延長で作戦可能時間が伸びているので問題なく
むしろ人員育成や機材の導入・運用コストを考えれば万年金欠に喘ぐ自衛隊としては好都合である。


哨戒機って何ぞや?

さて、哨戒機とは一体何をするための飛行機かを説明しよう。
結論から先に言ってしまえば「海のパトカー」である。


元々は敵の潜水艦を見つけ出して排除するための「対潜哨戒機」として誕生したジャンルの飛行機である。
潜水艦っつーのは昔も今も水上を航行する船の天敵であるわけで、
こいつら排除しなけりゃあ船乗りたちは枕を高くして寝ることできない。
何しろ水の中潜ってしまえば水上からはほぼ探知できないわけで。
一方の潜水艦の方はソナーなどで水上の船をいくらでも探知できる上に、
例え向こうに見つけられたとしても海というある意味強固な装甲に守られているわけで、
まさに「こっちだけズルして無敵モード」で船を攻撃できる。
相手に見つけられたとしても水上の船みたいに大砲ぶち込んで倒す!なんてことは難しい。


そんなわけで潜水艦何とかして撃退する方法が必要になってきた。
だが通常の船では魚雷やら何やらでやられるリスクの方が大きい。
じゃあどうするかって言えば、船じゃなくて飛行機で潜水艦を探して退治すればいいんじゃね?となり、
潜水艦を探知してさらに爆雷や魚雷などの対潜兵器で叩き潰す(物理)ための飛行機が誕生した。
これがいわゆる「対潜哨戒機」である。


対潜哨戒機に求められるものは主に以下のとおり。

  • 滞空時間

哨戒機の主任務は「海のどっかに潜んでいる敵の潜水艦探りだして叩き潰す」ことである。
そのためにはできるだけ長く作戦区域にとどまり、長時間の哨戒(パトロール)・索敵を行える性能が必要となる。
このため哨戒機は「航続距離」よりも「滞空時間」にステータスが振られる場合が多い。

  • 低速飛行能力

飛行機と潜水艦じゃあ、速度差がありすぎる。
何しろ飛行機は「速度が無ければ主翼で揚力が発生できなくなって墜落する」ので。
しかしあんまり速度が高けりゃあ、せっかく潜水艦を見つけ出してもそのまま素通りして叩き潰せなくなってしまう。
また潜水艦捜索自体もゆっくり飛んでしらみつぶしに作戦区域をスキャンしたほうが、確実である。
というわけで「低速飛行能力」も重要である。

  • 情報処理能力

その性格上、哨戒機は多種多様でしかも高性能なセンサーを搭載している。
だがいくらセンサーをあれこれ積んでいても、それを処理するシステムがなければ話にならない。
このため哨戒機は高性能なコンピュータを機内に搭載し、高い情報処理能力を有している。
人によっては「哨戒機の良し悪しを決めるのは飛行性能ではなく搭載された電子機器の性能だ」ということもあるくらい。

  • 搭載力

潜水艦を潰すためには大量の対潜兵器を積めるに越したことはないし、
上述した「情報処理能力」を実現するためにコンピュータ類を積むためにも搭載力は大きい方がいい。


このような特性から、旅客機(長距離巡航可能、省エネ、大容量)をベースにする場合も多い。
実際P-3は「L-188エレクトラ」を元にしている機体なわけで。
また「潜水艦を攻撃する」という特性は雷撃機や攻撃機とも少なからず被るため、
これらの機体を「哨戒機」として使用する場合もある。
例えばフェアリー ソードフィッシュとかはいい例である。


で、ここまでが第二次世界大戦までのお話。
第二次大戦が終わったあとは、潜水艦退治以外にも、
「不審船対策」とか「海難事故救助」とかでも哨戒機が駆り出されることが当たり前のようになってきたため、
「対潜」の文字がが外れて単に「哨戒機」と呼ぶことが増えてきて今に至る。
その特性上、海軍組織が主に使用する航空機である。


また対潜装備をオミットしたものは「洋上監視機」と呼ばれる。
こちらは主に発展途上国の海軍組織などが使っている。



開発の背景

本機が開発されるに至った背景はいろいろあるけど、一番大きいのは「P-3Cがそろそろ引退の時期を迎えているから」である。
P-3Cは傑作だが今となってはさすがに年式古いので更新の必要がある。
更新の必要とあればそりゃまあ海外特に軍事関係でいろいろ親密なアメリカ辺りからなんか良さそうなの見繕ってくればいいのだが、
アメリカの方で「P-3Cの後継機」として位置づけられているP-8「ポセイドン」は日本の事情からすると微妙に向いてない部分が幾つかあるようで(後述)、
技術育成も兼ねて純国産の次世代哨戒機「P-X」を開発することになった。


また日本が目を光らせている不審船に関してだが、最近の不審船はどうにも物騒なものを積んでいるという場合が少なくないことが判明した。
何しろ不審船取り押さえたら船内からロケランのRPG-7が見つかったなんて事例はあるわ、
そればかりでなく実際不審船を「こらー!ふしんせーん、逮捕だー!」と追い回していたP-3Cに向かって、
その不審船からRPG-7がぶっぱされたなんて事例すら起こっている。
(比較的)低速のP-3Cではロケランやら携帯対空ミサイルやら食らわされて撃墜される危険性すらあることが判明した。
またそうでなくとも「潜水艦の魚雷発射管からぶっぱする対空ミサイル」なんてのも開発されており、
どちらにしろ(従来の)哨戒機は対潜水艦に対しては無敵の存在とはいえなくなってきている。
潜水艦以外にも、特に日本海の辺りで某国の戦闘機に邪魔されるという例も幾つかあったようで。


そんなわけで「低速で潜水艦や不審船を取り締まり、高速でおじゃま虫に来た戦闘機や防御用のミサイルを振り切る能力を持つ哨戒機」が必要となり、
P-Xの「固定翼・小型ターボファンエンジン多発」という仕様が固められた。


なお、その形状から「ひょっとしたら、P-1を元にした旅客機も作るんじゃね?」と一時期噂されたが、
開発製造元である川崎重工業(及び防衛省)曰く「P-1を元にした旅客機作っても大幅な設計変更が必要だし、儲かると思えないからやらね」(意訳)とのことである。
そりゃあまあ、P-1は旅客機をチョチョイのチョイといじって哨戒機に仕立てあげたのではなく、
最初から「潜水艦つぶしと不審船対策」を前提に開発された機体であり、
旅客機とはいろいろ違うところが少なくないわけで、逆に「旅客機」としての体裁整えようとしたら却って手間かかるかも知れないしね*1
ただ、現在川重で研究中の小型旅客機はP-1の主翼の構造を流用することが決定しているとか、
あるいは川重外部の機関で「P-1やC-2を旅客機に転用するための調査・研究」も進められているという話もある。
もっとも小型旅客機計画は音沙汰ないのだが


仕様

機体は「P-1を元にした旅客機作るんじゃね?」と噂されたこともあるように、
前輪式の降着装置(車輪)や低翼配置の主翼などで一般的な旅客機に近い形状となっている。
コクピットの窓はC-2輸送機と共通のものを使っており、機体のサイズからするとかなり大きいものとなっている。
この窓のお陰で写真で見ると小型機に見えるが、実際はP-3Cよりも一回り大きなサイズとなっている。
コクピットの後方にある丸窓はTACO(戦術士)席のもの。
センサー類としては国内開発による、GaN(窒化ガリウム)素子を使用したアクティブフェーズドアレイレーダーやMAD(磁気探知機)などを搭載。
フェーズドアレイレーダーは機内に収まる形状となっており、一見するとどこにあるのかわかりづらい。
また機首の下には潜水艦捜索用の赤外線カメラが格納されており、必要に応じて出てくる。
機体下部には爆弾倉を備えており、対潜爆弾や魚雷などを搭載可能となっている。
また主翼後部にはソノブイ発射口を備えている。
なお、搭載量は9,000kg以上となっており、この搭載量は一昔前の爆撃機に匹敵するものとなっている。
機体制御には従来のフライ・バイ・ワイヤに変わり、光ファイバーで機体を制御する「フライ・バイ・ライト」※を採用している。


エンジンは純国産の小型ターボファンエンジン、IHI F7を採用している。
バイパス比1:8.2というギヤードターボファンエンジン紛いの超高バイパス比を実現しており、
省エネ性や静粛性に優れるエンジンとなっている。
エンジン一台辺りの推力は60kN(約6.1t)。これは一昔前の小型旅客機のエンジンと同じくらいの推力である。


で、なんで「エンジンまで」国内開発となったかといえば、
それは単純に「ここまで小さなエンジンとなると選択肢が少なすぎるから仕方なく自分たちで作った」という話である。
推力6t級のエンジンなんて、他にはB727で採用されたP&W JT8Dとか、
あるいはA-10でお馴染みGE CF34エンジンとかくらいしか選択肢がない。
CF34は枯れていて安定しているがいかんせん年式が古いし、JT8Dなんて化石な上に燃費もアレな低バイパス比エンジンである。
そんなところで「新型哨戒機作ってんだけどさ、そいつ6t級の小型ジェットエンジン4発なのよ。
6t級のジェットエンジンってなんかない?」とか聞いた日にゃあ、
「そんなニッチな用途向けのエンジンなんてあるわけねーだろ!いい加減にしろ!」と言われるのは目に見えている。
そんなわけで、「ないから自分たちて作った」ってことだ。
時々「国産ジェットエンジンは信用出来ないから4発積んでいる」とか何とか言いがかりレベルのことを言われるが、
実際には全く逆である。
最初から小型エンジン4発にするつもりだったけど適当なエンジンが見当たらないから自分たちで作ったのだ。


そんでもってなぜ時代に逆行するかのように4発機としたかといえば、それは「生存性重視」のためである。
上で書いたとおり最近の不審船は対空火器なんぞ積んでいる可能性もあるわけで、
「撃たれる」という可能性も頭ん中に入れたほうがよくなってきた。
そうなるとエンジン2発ではかなり不安なことになってくる。
パイロットにとって双発機で一番怖いことのひとつは「エンジン片方止まる=推力が一気に半分になる」ってことであるという話がある。
双発機だったら片方のエンジンに例えばRPG-7をぶち込まれてしまったら、
そりゃもうパイロットが一番恐れる「推力50%ダウン」になってしまうわけで。
(なお、新興航空会社「スカイマーク」が国際線進出を行う際にA380を選択したのもほぼ同様の理由であると言われている。
 国際線、それも太平洋横断は初めてのスカイマークにとってはなんだかんだで4発機の方がパイロットにとっても安心できるため、
 敢えてA380というデカブツを選んだという側面もあるようだ)
だが4発ならエンジン一つ撃たれても「推力25%ダウン」で済むので安心感がある。何より生存性も高まる。
また低空でのリカバリーを考えれば、やはりエンジン4発は有利と言える。
そして飛行機のエンジンは、機体に電力を供給する「発電機」としての役割も有している。
このことから考えてても4発というのは「もしもの時の電力確保」の面からして有利である。


他にも運用上海上を低空飛行し滞空時間が長くなるためバードストライクによるエンジン破損の危険性も高まるためその対策という面もある。
このバードストライクは軍民問わず大きな問題となっておりエンジンが2発とも停止する事故は数件あり、中には川に着水させた事故もあるほど。
しかも2発とも停止した事故にはP-8の母体となる737での事故もあるため4発機に拘るのは自然と言える。



※フライ・バイ・ライト(FBL)…
 従来のフライ・バイ・ワイヤ(FBW)は電線を使って各部のアクチュエータに信号を送って補助翼やエンジンの制御を行っていたが、
 これを「電線じゃなくて光ファイバーによる光伝送にしちゃえばいいんじゃね?」として、
 光伝送で信号を伝えるようにした方法。
 FBWの時点でも全部ワイヤーで「物理的に」接続していた時代からすりゃあ、大幅な軽量化が実現したけど、
 これを光伝送に変えてやれば一本のケーブルで送れる情報量が飛躍的に増えるので、
 結果として配線の本数を減らせてさらに軽量化ができる。
 それだけでなく光伝送になるので電磁気的なノイズにもめっぽう強くなる。
 ちなみにP-1は何を隠そう、実用機としてのFBL採用第一号機である。



P-8を導入してもよかったんじゃないの?

アメリカも同じくP-3Cが引退の時期を迎えていた。
そこで登場したのがボーイング737旅客機をベースとした哨戒機、P-8である。
まあ当然といえば当然というか、「日本もあれ買っちゃった方がいいんじゃない?」という意見もあったが。
このP-8、調べてみると日本にはちょっと…な部分が幾つかあった。


その最大の理由は「P-8はUAVとの連携を前提としている、いわば"移動式UAV本部"という考えの哨戒機」という点である。
P-8は「子分」のUAVで潜水艦や不審船などを捜索し、
もし変なやつを発見したら「本部」のP-8が向かって対潜兵器を投下する…という運用を前提にしている。
つまり、子分のUAVがいなければ能力を発揮できない。
一方の日本はUAVなんぞ配備どころかまだ検討段階のため、
「肝心の子分がいねーよ!だったら最初から日本の事情にマッチした飛行機作ったほうがはえーよ!」となったのである。
しかもその場合日本の国土上UAVのカバー範囲が膨大なためその分導入数や運用コストも馬鹿にならなくなるため財務省から却下される可能性大であった。


P-8の考えがP-3Cから大きく変わった理由としては、世界情勢の変化が挙げられると言われている。
P-3Cはそもそも冷戦期に開発された機体であり、
開発時の考えとしては「太平洋や大西洋に仕掛けたセンサーに引っかかったソ連の潜水艦を核兵器などて叩き潰す」というものである。
このため「広い太平洋・大西洋に潜む潜水艦の正確な位置の特定」と「潜水艦の殲滅」を一機で行うことが要求された。
この特性は海洋国家である日本にも非常に相性がよく、それ故アメリカに次ぐP-3Cの大口納入先となっていた。


しかし冷戦が終わったら「ソ連の潜水艦つぶし」よりも、下手すれば「その他の雑用」の方が優先順位が高くなってきたため、
アメリカで必要とされる哨戒機も色々と変わってきた。
一方の日本は陸地より領海の方が広いので、そういった「アメリカの事情に合わせた哨戒機」はちょっと使いづらい面が出てくるようになった。
なら「日本にあった哨戒機を作るしかない」となるのは当たり前である。
また、そういう点からすればこのP-1という機体はP-3Cの正統な後継機とも言えるかもしれない。
同じP-3Cを保有していた国も後継機選定に悩みP-1に興味を示した国もあったが多くの国ではP-8を選定している。
勿論領土に多くの島を抱える日本にとってP-8では力不足なだけでありP-8単体で十分という国も少なくない。


小ネタ

  • 川崎重工業の技術者曰く、「できることなら可変翼にしたかった」とのことである。
    これは決してロマンや趣味だけの話ではなく、「低速で不審船・潜水艦を取り締まる」と「高速で現場に急行し場合によっては敵機を振り切る」を両立させるためという側面もある。
    だが、やはりと言うかメンテナンス性その他の問題でお流れになったようではあるが。
    可変翼タイプのP-1となると、外見的には「和製B-1」的なものになったのだろうか?


  • 川重のプランはこれでもまだ「比較的おとなしい」方であり、それが採用の理由になったとも言われている。
    え、競合相手、つまり三菱重工や富士重工の案はどんなのだったのかって?

    富士重工案…「GPS使ってソノブイとか魚雷をピンポイントの精密爆撃できるようにしようぜwwwww」

    三菱重工案…「対潜兵装は当たり前!なんか邪魔する某国の飛行機もいるから対空攻撃も可能!あと怪しい不審船対策に20mmバルカンも搭載!ふはははは、これで完璧だ!!!」

    …とまあ、「あんたらそれ哨戒機じゃねーだろ!陸上攻撃機のプラン考えろと言った覚えはないぞ!」というようなものだったそうで…。



追記と修正はRPG-7やおじゃま虫の戦闘機を回避しながらお願いします。



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  • 富士重工と三菱重工のプランはロマン求めすぎだな。見たい気もするが -- 名無しさん (2015-08-09 13:32:58)
  • ↑それを実現できたとして、コストが高くつくならまだしも不具合が出て信頼性が低くなったら目も当てられないしな…見てみたいってのは同意だが -- 名無しさん (2015-08-09 14:42:50)
  • いつのまにやら「イギリスに売れんじゃね」て噂すらある子。まあP-8の当て馬だと思って期待せずにいたほうがいいのだろうけど -- 名無しさん (2015-08-09 14:48:39)
  • 家の真上を飛んでいくけど結構静か、見た目も好き -- 名無しさん (2015-08-09 19:06:48)
  • コイツのコンセプトですらオイオイって感じなのに三菱や富士重工は何考えてんだw -- 名無しさん (2015-08-10 02:36:02)
  • ↑富士重はともかく三菱は主契約の仕様提出のときにC-X(当時)を希望してるから、実は捨ててかかった可能性も……? -- 名無しさん (2015-08-14 07:10:00)
  • 富士重工と三菱重工のせめてデザインとかだけでもいいから見てみたいなwww -- 名無しさん (2017-10-12 14:03:56)
  • 記事キモすぎる -- あ (2023-03-05 19:24:01)

#comment

*1 実際P-1を旅客機として転用する場合、100席クラスのリージョナルジェットとなることが予定されているが、このクラスの旅客機は双発ターボファンであるのが普通で、ターボファン4発のP-1はそれだけで燃費面で不利となる。

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