狼王ロボ

ページ名:狼王ロボ

登録日:2019/11/20 Wed 23:57:50
更新日:2024/05/13 Mon 11:20:26NEW!
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我々はこの誇り高き王の生き様を忘れてはならない




『狼王ロボ』(英題:Lobo, the King of Currumpaw)は、アメリカの博物学者アーネスト・トンプソン・シートンが記した創作物語で、日本では『シートン動物記』の一つとして知られる。翻訳によってタイトルが微妙に異なる場合があるが、ここでは項目名通りに扱う。



【概要】

実在した・ロボとその被害にあう牧場の関係者や彼らに雇われたハンターたちとの攻防を描いた物語。
シートンの代名詞ともいうべき作品の一つで、実際に本人が1893年に関わった狼狩りでの体験を基に記されており、ノンフィクションといっても差し支えない*1
1896年、ニューヨークに移住したシートンは雑誌に『狼王ロボ』を発表し、1898年の第一作品集『私の知る野生動物』(Wild Animals I Have Known)冒頭に収録した。
これが大ヒットになり、シートンの名前は全米で知られるようになった。
作品は世界中に広まり、映画やアニメ、ミュージカル化もしている。
日本でも図書館等に広く置かれており、この作品で読書感想文を書いたという人も多いかもしれない。



【あらすじ】

当時カナダで博物学者として活動していたシートンの元にある日アメリカで牧場を経営している実業家の知人から手紙が届く。
そこには彼が経営している牧場の周辺地域では、近年家畜が狼に殺される事件が多発しており、動物の生態に関して豊富な知識を持つシートンの助けを借りたいという旨が記されていた。
この報せを受けたシートンはニューメキシコ州のカランポー*2へ向かう。
そこでシートンは、現地の人々に「王」と称される狼・ロボと対峙することになる……。



【登場人物】

  • A.T.シートン

本作の著者にして人間側の主人公。
ただし、作品ごとの構成で微妙に違いはあるが、大体は中盤からの出番となる。
動物の生態に詳しいことを買われ、知人から狼討伐の白羽の矢が立てられる。
あらゆる知恵を絞りロボを捕えようとするが、ロボの驚異的な賢さに驚嘆することになる。
そしてその気高い姿に一種の敬意を抱くことになる。


  • ロボ

側の主人公。
カランポーに君臨する狼の群れのリーダーの雄。
「ロボ」という名はスペイン語で狼そのものを表す「lobo」が語源となっている。
牧場に多大な被害を与えることからついには懸賞金*3がかけられるまでになった。
狼王」の呼び名に相応しい並外れた体格と優れた知能の持ち主で、
―他のメンバーたち数頭掛かりでも倒せなかった牝牛をたった一頭で捻り伏せる
―一番いい獲物を選り好みし好きな部分だけを食する
―銃を持った人間の前に決して姿を現さない
に乗った人間の姿が見えると早々に銃の射程圏外まで逃げ去る
―一晩で数百頭の羊を殺すだけ殺し少しも口を付けない
―羊の群れを落ち着かせるために数頭紛れさせている山羊から率先して殺し混乱させる
猟犬をハンター達から分断し無力化したうえで殺す*4
―自分で殺した獲物以外は口にせず、一度追い払われた後に毒を仕込まれても見抜く
―毒餌を集めてその上に挑発するように糞をする
―トラバサミにかからないよう掘り返しバネだけはじく
―その後脇にそれるのを見越して脇道にもトラバサミを仕掛けておいたら、バックして一つ残らず掘り返す
などの行為から、現地では「魔物」「人狼」などと呼び恐れられていた。
やがてカウボーイたちからは「悪魔に魂を売ってしまった」などと噂まで立つことになった。


  • ブランカ

ロボの伴侶の雌狼。
純白の体毛が特徴で名前の由来もスペイン語で「白い(blanco)」の女性形となっている。
ロボの群れではおそらく唯一の雌だと思われる。
好奇心が旺盛で少々迂闊だが、ロボもパートナーである彼女に対しては寛容である。


  • ロボの部下

ロボの配下達。
通常はロボほどの力を持つ狼ならば、より大きな群れを形成するが、メンバーはロボ達を合わせ5、6頭とされている。
しかし、いずれも通常の狼より大きく精鋭ぞろい。
ロボの指揮の下、鮮やかな狩りを行う。


  • タナリー

シートンより前にテキサスからやって来たハンター。
ウルフハウンドの群れを引き連れ狩りに挑むが、ロボの策略で犬や馬のほとんどを失い引き揚げることになる。
これは、テキサスの平原と同じ要領で追跡しようとした結果、カランポーの峡谷を利用され達と分断されてしまったことにある。
ぶっちゃけるとかませ犬。一応言っておくと、彼の連れていた犬の1頭がロボに一矢報いて傷を負わせていたことが後に判明する。






以下、結末のネタバレ







ロボに翻弄される討伐隊だったが、観察を続けるうちにシートンは足跡から時々ロボの行く手に先んじる狼がいることに気付く。
それがブランカのものであると見抜いたシートン達は、まずブランカに狙いを定め、目論見通りブランカが罠にかかり、彼女は絞殺される。
動揺したロボは冷静さを欠いたまま単身ブランカを探しあちこちを駆け回る。
シートン達は人の痕跡を残さない細心の注意の上にブランカの死体で細工を施した罠を大量に仕掛ける。


そして遂にロボは罠にかかり生け捕られる。
長年戦ってきた人間達も初めて間近で見たロボには噂のような悪魔に魂を売った証の金の首輪や十字の印などなく、
当初はそのまま殺すつもりだったが、シートンの意見で生け捕ることになる。
ロボも最初のうちこそ抵抗していたが、馬に乗せられ運ばれる頃にはすっかり大人しくなっていた。
牧場に連れられてからも堂々とした姿には、シートンだけでなく長年狼達を目の仇にしてきた牧場の人々からも憐みを向けられた。
捕らえられた翌日、ロボは静かに亡くなっていた*5



力を失ったライオン。自由を奪われたワシ。連れ合いを失ったハトは悲しみのあまり死ぬという。
ロボはそれらすべてを受けてしまったのだ。


その亡骸はブランカの亡骸の隣へ運ばれ寄り添わせるように弔らわれた。


「ロボ、よかったな。ずっとブランカに会いたかったんだろう。これでまたずっと一緒だ。」





【余談・補足】

ロボの種類については北半球に生息するタイリク(ハイイロ)オオカミの亜種のメキシコオオカミだとされる。
体格については肩高90cm、体重68kg、足の大きさ14㎝と同じ地域で見られる同種を大きく上回る体格だったとされるが、写真等に比較対象が映りこんでいないので正確な数字ではないとする説もある。


舞台となったニューメキシコ州のサンタフェにはシートン博物館があり、ロボの毛皮やロボとブランカの写真、捕縛の際に噛み千切られた投げ縄が共に展示されている。
他にもシートン自身が記したスケッチ等が多数展示されている。


本作が記された19世紀末頃のアメリカで狼は害獣として駆除の対象とされ、各地で狼狩りが盛んに行われ、アメリカ西海岸では約50万頭の牛や羊が狼に虐殺されたという統計が残っている。
これに限らず当時のアメリカでは狩猟や環境破壊により動物達が次々と姿を消しており、本作からそれほど遠くない時期にはリョコウバトが絶滅している。
皮肉なことに本作などがきっかけとなり自然保護に対する機運が高まったのも同時期であり、ニューメキシコ州でも狼は一時期完全に姿を消していたが、現在では再導入により少しずつ数を増やしている。


家畜に甚大な被害を及ぼしていたロボの群れだが、一方で人間そのものには直接危害を加えたことはなく、狂犬病などの伝染病には罹っていなかったとされている。
人狼として扱われるような狼は、むしろこうした伝染病にかかり奇行に走った結果人に危害を加えることがが多く、そのような状態ではロボの群れのような優れた統率は成り立たないとされている。
家畜を遊び半分で殺していたとされるが、これは安易に獲物が手に入る状況が続き、狩猟本能に歯止めがきかなくなったからではないかと推察されている。


本作を読んだ読者、とりわけ子供達からシートンへは多くのファンレターが寄せられたが、中にはシートンのロボへの仕打ちを非難する手紙もあった。
しかしシートンは、「その怒りこそが本当に伝えたかったこと、その思いをどうか大人になっても忘れず動物達を守ってあげてほしい」(意約)と語ったという話が残っている。


本作では狼と人間どちらかを一方的に悪と決めつけることはできない。
元々狼の生息圏にやってきたのは人間だが、人間側にも生活がかかっている。しかし、アメリカの先住民やモンゴルの遊牧民のように狼と共存してきた例は、世界中にいくらでもあり、近代化以前の日本もその例外ではないといえる。
人と自然が共に生きる道を探すことが何よりも重要であるということこそこの物語が伝えたいことといえるかもしれない。



【狼王ロボを題材とした創作作品】

アニメ

二話分を使ってロボのエピソードが語られている。
いつもであればシートンがキットに楽しそうに動物のお話を語りだすが、この話だけはシートンが夜中に一人でいるときに
かつてのロボの手配書を偶然見つけて思い出し、「つらく悲しい思い出だ……」と回想を始める、悲劇を思わせる導入となっている。


ゲーム

ロボをモチーフとしたサーヴァントが登場。


実写作品

一般公募されたゴースト眼魂の一つとして、狼王ロボをデザインモチーフとした「シートンゴースト眼魂」が登場。




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  • 名前だけ聞くと狼のロボットと勘違いされそうだよな -- 名無しさん (2019-11-21 00:41:49)
  • 「鉄ワン探偵ロボタック」のモチーフはこの作品。本当に狼王のロボットが主人公 -- 名無しさん (2019-11-21 01:11:48)
  • 自由を奪われたワシ←一瞬脳裏に汚い映像が浮かんでしまった -- 名無しさん (2019-11-21 01:37:08)
  • どうぶつの森にも「ロボ」と「ビアンカ(ブランカ)」がいて、この本知った時になるほど!となった覚えがある。 -- 名無しさん (2019-11-21 08:01:03)
  • 人間と野生動物の関係としても考えさせるが、天才犯罪者VS警察的な側面もある -- 名無しさん (2019-11-21 10:10:24)
  • ↑3 仲間… -- 名無しさん (2019-11-21 11:04:36)
  • ロボとアルノーは人間の身勝手さと、無常な現実がよく書かれてる名作 -- 名無しさん (2019-11-21 19:10:44)
  • 同じ獣害の三毛別羆事件とは大違いかなと思う。 -- 名無しさん (2019-11-21 19:45:38)
  • 羊の大殺戮はブランカとその子分だけの犯行でロボは関与してなかったんじゃ -- 名無しさん (2019-11-21 20:44:01)
  • ↑ブランカのはあくまで何件もあった被害のうち特に際立ってたものの一つ。山羊の一件とかロボが加担してたものもある。 -- 名無しさん (2019-11-21 22:37:32)
  • 容易に手塚治虫タッチで脳内再生できてしまう。特にブランカの亡骸に駆け寄ろうとする悲痛な顔のロボとか。ついでに狼=生活の糧を奪われ強盗に身をやつした異民族に置き換えたバージョンも。 -- 名無しさん (2019-11-22 09:16:53)
  • この一件に限らないけど、先住民はお互いの領域守って暮らしてたのに外から移住してきた人間にはそういうのがわからないっばかりに動物が一方的に悪者のように扱われるってのは多いんだよね。シートンはロボにある種の敬意持ってるあたりマシというかちゃんとわかってた節があるが。 -- 名無しさん (2019-11-22 09:42:06)
  • かといって人間なんて餓死するか生まれた子供を処分すればいいんだってわけにもいかないからな -- 名無しさん (2019-11-22 11:06:22)
  • 力を失ったライオン。自由を奪われたワシ(53歳)。連れ合いを失ったハト。 -- 名無しさん (2019-11-22 17:20:17)
  • ↑3 三毛別羆事件も人間に全く非がないか…と言われたらそうとは限らないからね… -- 名無しさん (2019-11-22 17:29:23)
  • 申し訳ないが、感動大作で拘束された土○オヤジを思い浮かべるのはNGだ。 -- 名無しさん (2019-11-22 17:30:59)
  • 伴侶を罠に仕立て上げて殺した相手に「よかったな」とか言っちゃうのはどうなのか。 -- 名無しさん (2019-11-22 21:17:25)
  • ↑「故郷は地球」で最後にジャミラにかけた台詞と本質的に似ている気がする -- 名無しさん (2021-08-05 21:04:49)
  • ↑2武士とか戦死的な強さを認めた敵に対する敬意みたいなものでは? -- 名無しさん (2022-03-08 17:03:43)
  • ↑3本来なら八つ裂きにされるべき畜生だから勝者がシートンでなければまともに弔われていたか怪しい -- 名無しさん (2023-06-09 05:54:55)
  • 最近北海道で駆除された某忍者グマの話を聞くと、どうしてもこいつを思い出してしまう -- 名無しさん (2023-08-24 15:38:39)
  • 愛護が好きそうな話ですこと -- 名無しさん (2023-11-07 18:07:33)
  • 子供の頃は「悪い奴だからざまあねえな」って感想だったけど、大人になって読み返すと鬱展開すぎて脳が破壊される 人間で例えると殺した彼女のDM使って誘き寄せてるようなもんだからなあ…どんなに強い奴でも男としての業には勝てない虚しさも感じる -- 名無しさん (2024-04-21 09:03:58)

#comment

*1 もっともシートンの作品自体、自身の体験や見聞を基に作られたものがほとんどである
*2 コランポー、クルンパなどとも記される場合がある。
*3 当時の金額で約1000ドル。
*4 狼用の猟犬は基本的にハンターが仕留めるまでの釘付けが役割
*5 不眠不休でブランカを探し続けたことや、牧場についてからも食事に口を付けなかったことから餓死と思われる

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