鋼鉄ジーグ(松本めぐむ版)

ページ名:鋼鉄ジーグ_松本めぐむ版_

登録日:2018/02/24 Sat 21:23:55
更新日:2024/02/19 Mon 11:50:27NEW!
所要時間:約 22 分で読めます



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鋼鉄ジーグ 冒険王 松本めぐむ 尾瀬あきら 鬱展開 人間のエゴ 裏切り 救いはないんですか!? 漫画 復刊ドットコム ヒミカの子という理由だけでじゅうぶんだ! 美和っぺ これ以上失う物などもう無いから



本項目では、『鋼鉄ジーグ』の数ある漫画版……その内の一つ、松本めぐむ氏によるコミカライズ版を紹介する。



概要

アニメ版放送に併せて『冒険王』誌で連載された作品で、著者は後に『夏子の酒』等を手掛けることとなる松本めぐむ(現:尾瀬あきら)。


『冒険王』誌といえば、かの桜多吾作版『UFOロボ グレンダイザー』岡崎優版『機動戦士ガンダム』といった、
後世に「怪作」として名を轟かせている作品群を輩出した雑誌であるが、本作もその例に漏れず、
著者の尾瀬氏の作風が爆裂した結果、TVシリーズとはかなり解離が激しい内容に仕上がっている。


まず作風だが……暗い。ムッチャ暗い。
遥かな古代よりの侵略者に対し、サイボーグ化した主人公が立ち向かうという大筋自体はTVシリーズと共通なのだが、
家庭問題の図式を挟みながらも王道のヒーロー作品として成立していたTVシリーズとは真逆に、
こちらは著者の尾瀬氏が好む「人間的な弱さのあるヒーローらしくないヒーロー」として執筆されており、
それ故か全編を通して「敵よりも、本来守るべき存在である人々に疎まれ、追い詰められる」という描写が目立つ。
そのため、TVシリーズやゲームなどで見知った鋼鉄ジーグのイメージを持って本作を読むと、いささか面食らう事間違いないだろう。
とはいえ、そのテーマを一貫して描き切った作風は当時からそれなりに評価されていたようで、連載当時は女子高校生によるファンクラブも存在していたらしい。
一作品としての完成度は、それこそ後年の尾瀬氏の諸作品に劣らない傑作なので、興味があれば是非触れてみてほしい。


単行本は連載当時こそ刊行されずじまいだったものの、
1998年に双葉社のアクションコミックスより、同作者の『大空魔竜ガイキング』と共に出版。
その後、時を経た2019年10月25日に復刊ドットコムより愛蔵版として20年来ぶりの復刊がなされた。


2000年代以降にアニメ版『鋼鉄ジーグ』がスーパーロボット大戦シリーズで取り扱われて知名度を向上させるに伴い、
本作もそれなりにピックアップされるようになり、特に中盤のとあるエピソードにおける鋼鉄ジーグの台詞、
ヒミカの子という理由だけでじゅうぶんだ!」は、ゲームから作品に興味を持ったファンにも大きな衝撃を与えた。
これだけ聞くと所謂鬼畜ヒーローっぽく思えてしまうが、詳しくは後述するように、この台詞は全体的に鬱展開の続く本作の中でも、
極めて重いエピソードに根付いたものなので、その点だけは知ってもらいたい。



物語

昭和50年、二千年の永き眠りより目覚めた邪魔大王国は、現代の世に新たな王朝を築くべく日本侵略を開始する。
20年前よりその存在に気付き、その本拠地より「銅鐸」を奪取した司馬遷次郎博士は、
邪魔大王国の使者・イキマの手によって息子・司馬宙共々重傷を負ってしまうが、
遷次郎は自らの致命傷をおして、宙を戦闘用サイボーグ・鋼鉄ジーグへと改造し、蘇生させる。


かくして復活を遂げた宙は、正義の戦士「鋼鉄ジーグ」として邪魔大王国の繰り出すハニワ幻人に敢然と立ち向かうが、
彼に守られている筈の人々のエゴイズムは、時に鋼鉄ジーグを怪物呼ばわりし、時に邪魔者扱いする。
自分は何のために戦っているのか、過酷な激戦の中で苦悩する宙の肉体は、徐々に限界へと近づいてゆく……



登場人物


  • 司馬宙

主人公にして鋼鉄ジーグ。
本作では邪魔大王国の刺客によって致命傷を負った際に命を繋ぎ止める形でサイボーグ手術を受けたため、
TVシリーズのような父親との確執は描かれない……が、見ようによってはそれ以上の苦境に追い込まれており、
初陣でハニワ幻人と一緒くたにされて化け物扱いされるのはまだ序の口。
T市を占領しようとしたハニワ幻人を撃退して市民に感謝されたと思いきや、その直後に別のハニワ幻人がダムを攻撃し、
水責めに遭うくらいだったら支配された方がマシだった」と言われて投石されるわ罵詈雑言を浴びるわ、
折角パワーアップしたのにもかかわらず、それを主導した博士らに化け物同然の扱いをされるわと、
某蜘蛛男とかと比べれば遥かにマシとはいえ、全編通して総じてロクな目にあわない。
ちなみに本作では肝心要の「銅鐸」については体内に内蔵されておらず、研究所に普通に保管されていた。


中盤で再改造されてパワーアップし、TVシリーズ同様のサイボーグ体デザイン変化を遂げた。
当初は生身の人間同様の食事がエネルギー源とされていたが、再改造後は何も食べずとも
電磁エネルギーを補給さえすれば10日はもつようになり、徐々に人間から離れていく姿は哀愁が漂う。


本作では肉体が改造された度合いは生身・機械が半々と解釈されておりその割には序盤の解剖図ではゴリゴリ改造されてたが……
それ故に邪魔大王国との激戦を経て、生身の部分に多大なダメージが蓄積されてしまい、
このまま戦いから離れて平穏な日々を送るか、脳髄を残して全て機械化するか」という二択を迫られてしまう。
そんな折、竜魔帝王率いる邪魔大王国の総攻撃が開始され、被害にあった人々の苦悶の声を聞き、
遂に人間としての身体を捨て、正真正銘機械の「怪物」になる事を選ぶが、その先に待っていたのは……


守り続けてきた人々に裏切られ、それでもなお敵に対する怒りで戦うことを選んだその姿は、
奇しくも同じくスパロボにも参戦を果たした別のヒーローとも通じるところがあると言えるだろう。


  • 卯月美和

ヒロインにしてビッグシューターで宙を支えるバディ。宙からの愛称はミッチーではなく「美和っぺ」。
宙との間柄は、TVシリーズと比べてどちらかと言えば家族愛よりもやや恋仲に近い描写で、
中盤辺りまでは人々のエゴに雁字搦めにされ思い悩む宙を叱咤激励するなどの役割が目立っていた。
……だからって、バイクで相乗りしていた宙の視界を突然塞いで「おくびょう者のジーグなんて死ね!
何て言うのは流石にやり過ぎな気がしないでもないが。実際自分が死にかける羽目になったし。
邪魔大王国との戦いが激化する中、パワーアップを重ねていく宙に対して徐々に置いていかれるかのような感情を抱くが、
それでもなお戦いを終えた彼を出迎える役割は常に彼女であり、最後まで宙に対する最高のバディでい続けた。


正直なところ、彼女の存在があったからこそ、見ようによっては主人公にとって非常に救いのない本作の結末が、
ギリギリのところでビターエンドに留まったとも言えるだろう。


キャラクターデザインはTVシリーズと異なり、序盤はツインテール、中盤以降はポニーテールの髪型になっている。
尾瀬氏の絵柄もあってか21世紀の現代でも全然通用するくらい可愛い。


  • 司馬遷次郎

宙の親父にしてマシーンファーザー。TVシリーズのクソ親父ぶりに比べれば遥かにまともな人。
とは言え、話の流れ的に宙が致命傷を負う前から彼に対して改造手術を施し鋼鉄ジーグにしようと目論んでいる節も見られたりするが。
出番自体は少なくないものの、宙に成長を促す役割を全編通して美和が一手に担っている事もあり、正直言って影が薄め。


  • 博士

ビルドベース所属の科学者の一人。名前は不明。
激しさを増す邪魔大王国との戦いを乗り切るため、宙に対して更なるパワーアップ手術を行ったのだが、
その姿を見て、かつて人類が原子力をその科学で発明しながらも、結局はそれを大量殺戮の兵器にしてしまったように
自分達は「鋼鉄ジーグ」という名の原爆を作ってしまったのではないかと思い悩むようになり、
ひいては強化された鋼鉄ジーグの暴れぶりを見て「奴は原爆だ、我々の手に余る」とか酷い事をぬかした。
その後もボロボロになった宙の身体の状況を美和に説明したりもするが、やけに他人事のように言っている印象が拭えない。


  • 黒鷲のドン

TVシリーズのレギュラー……だが、本作では最序盤で宙のライバルのレーサーとして登場しただけで、あとは出番全くなし。


  • 里美

九州T市在住の少女で、足が不自由ながらも、シマキョウの花を公害の少ない裏山に植えにきていた良い子。
守るべき人々に糾弾され、戦意がグラついていた宙が、再び正義の戦士として立ち上がる切っ掛けを作った存在でもあり、
彼女から宙に手渡されたシマキョウの花は、彼にとって大事な「トロフィー」となった。


  • 野々宮十五(ののみや じゅうご)

本作中盤のキーパーソン。
自衛隊幹部の一佐で、防衛大学をトップで卒業し、自衛隊一の頭脳・行動力を持ってして、
弱冠25歳で一佐の位に就いた人物であり、遷次郎曰く「恐るべき男」。
本人の実力も高く、サイボーグである宙を生身で軽くあしらうほど。


当初は邪魔大王国や鋼鉄ジーグの実力を侮っており、自衛隊の大艦隊を率いてヒミカの本拠地にカチコミを仕掛けるも、
幻魔要塞ヤマタノオロチによって返り討ちにされて鋼鉄ジーグに助けられる羽目に。
結果、その驚異を身をもって感じた事から、日本のためにもどんな手段を用いてもヒミカを殲滅せねばならないと考えるようになり、
アメリカに要請して核弾頭をヒミカの本拠地に投下し、南九州の民間人もろとも敵を殲滅するプランを委員会に提出。
彼なりに苦渋の決断として出した「大の虫を生かして小の虫を殺す」作戦であったが、
当然ながら自衛隊がこれを受け入れる筈もなく、自衛隊司令権を全て剥奪された上に謹慎処分に処せられてしまった。


その後、シンパの部下と共に米軍の核弾頭搭載機を強奪、単身南九州もろともヒミカの殲滅を敢行しようとするも、
日本政府の要請を受けて彼を止めに来た鋼鉄ジーグと衝突。
彼から説得を受けるも、逆に「君も鋼鉄ジーグ一人で邪魔大王国に勝てると思っているのか」と反論し、頑として姿勢を崩さず、
結果として大勢の市民を守るためとは言え、鋼鉄ジーグが自らの手で人間を殺める結末をもたらしてしまった。
この一件は宙の心に大きな傷を残し、彼を深い苦悩に追い込むことに……


  • 政府臨時首相

日本政府の副首相だったが、邪魔大王国の東京攻撃に伴い首相も命を落としたため臨時の首相に。
竜魔帝王打倒のため、宙……鋼鉄ジーグに再度邪魔大王国と戦うことを要請、
自分も邪魔大王国の攻撃で家族を失ったことを明かし、更に被害者達で埋め尽くされた病院へと彼を案内、
苦しみもがく人々の姿を見せた事で、結果的に彼に「人間を捨てさせる」事を決意させた。
しかし、その後も邪魔大王国の侵攻が続いたことで、まさに最悪の一言でしか言い表せない愚挙に及ぶことに……


  • 女王ヒミカ

二千年もの眠りより目覚めた邪魔大王国の女王。尾瀬氏の絵柄もあってか、TVシリーズよりややビジュアルが若い印象を受ける。
本作では双子の赤ん坊が居るという設定で、邪魔大王国の地上建設を叶えた暁には、
自身の子に国を任せる考えていたが、鋼鉄ジーグによって赤ん坊を殺されてしまった事で怒り狂い、
地上に対する支配欲ではなく、身内を殺された復讐心で鋼鉄ジーグに挑む。
最終的には自ら巨大化して鋼鉄ジーグに挑むも、激戦の末にスピンストームで腹を破られて敗北。
死の間際、自らの命を賭して銅鐸より竜魔帝王を復活させて果てた。


  • イキマ

邪魔大王国幹部。遷次郎の命を奪い、宙にも重傷を負わせた張本人。
九州T市の市議会にカチコミを仕掛け、ハニワ幻人を街で暴れさせて恫喝、市をまるまる支配しようと目論んだ。
それが失敗するや、ダムを破壊して街を水没させようとするなどやり口も陰湿。
ヒミカの死後は他の幹部共々フェードアウト。


  • アマソ

邪魔大王国幹部。幻魔要塞ヤマタノオロチを任された身で、ヒミカの本拠に向かっていた自衛隊の大艦隊を全滅させた。
銅鐸を手に入れるべく、美和を人質にして鋼鉄ジーグを罠にはめるなど卑怯千万。
ヤマタノオロチから名乗りを上げた際には「どうだカッコいいだろう」と自慢するなどコミカルな一幕も。


  • ミマシ

邪魔大王国幹部……だが、他2人と違って前線に出る場面が全くないため、ほぼモブ同然。


  • ヒミカの子供、老婆

古代遺跡の眠る洞窟で、密かに二千年もの眠りについていたヒミカの子供である双子の赤ん坊と、その乳母たる老婆。
老婆はヒミカの後継者たる双子を守るべく永きに亘って子供を世話し続けてきており、
洞窟の遺物を狙って土足で入り込んできた研究者たちは自衛のために容赦なく殺害したものの、
そうでない美和に対しては事情を話したうえで、手を出されなければ人間には何もしない、
今後もずっと赤子を世話し続けていたいと、遺跡から手を引くよう彼女に懇願した。


だが……彼女達の辿った運命は後述。


  • 竜魔帝王

TVシリーズではヒミカを殺害して邪魔大王国を乗っ取ったが、本作では死の間際のヒミカが銅鐸から復活させ、
彼女の意思を引き継ぐ形で邪魔大王国の新たな支配者の座に付くという描写となっている。
反面、その性格の凶悪さはTVシリーズをも凌駕し、首都東京を壊滅させたのを手始めに、日本全国の主要都市を襲撃。
最終局面では、実質日本政府に切り捨てられる身の上になったジーグに対し、日本の3分の1を条件に自分の元に来るよう誘惑するが……



登場メカ


  • 鋼鉄ジーグ

TVシリーズと異なり、ボディパーツは鋼鉄ジーグ一体分を構成する分しか揃えられていないようで、
ダメージを受けた部位を交換する事はなく、破損箇所を急遽修理する描写すら挟まれている。
マッハドリルも腕パーツを換装するのではなく、手持ち式の飛行ユニットという解釈が取られている。


  • ビッグシューター

TVシリーズとあまり変わらない。


  • ハニワ幻人

邪魔大王国の戦力。ちなみにロボット獣は出てこない。
ヒミカの異次元科学によって岩などの無機物に命が与えられた存在であり、倒されると土塊に還る。


  • 幻魔要塞ヤマタノオロチ

邪魔大王国の誇る飛行要塞。終盤では竜魔帝王の指揮の下、日本全国の主要都市を襲撃。
ラストでは鋼鉄ジーグと竜魔帝王の決着の地となった。




TVシリーズやゲームにおける印象的な台詞の数々と同時に、
本作中盤のエピソードで鋼鉄ジーグが発した「ヒミカの子という理由だけでじゅうぶんだ!」という台詞も一躍有名になっている。
この台詞は文字通り、ヒミカの子供である双子の赤ん坊を殺害しようとした際の台詞であり、ここだけ抜粋すると
単に鬼畜なだけに見えてしまうかもしれないが、その実態を解説するためにも、当該台詞の出たエピソードを以下抜粋する。




邪魔大王国との度重なる激戦が続く最中、せめて訓練に勤しむ宙を元気づけようと、美和は手料理を持参する。
……が、突然鳴り響いた轟音に驚き、手料理を取り落としてしまう。


その頃、宙……鋼鉄ジーグは新装備・ジーグバックラーのテスト運用を行っていた。
マッハ2のスピードで飛び交い、僅か0.3秒で60ミリ超合金を5枚貫通する破壊力を目の当たりにして研究陣は感嘆すると同時に、
そのあまりの“武力”に対して恐怖にも近い感情を抱く。


かけつけた美和の目の前で、ジーグはその変身を解く。
そのサイボーグ態は、以前とは全く違っていた。まるで、人間味を更に薄くしたような、戦闘的なフルフェイスの姿に。
人間の姿に戻った宙は、パワーアップを遂げた新ジーグのテストを経て、体中に力が漲ると同時にヒミカなどに決して負けない自信を得たと豪語した。
美和は手料理を落としてしまった事を謝るも、宙は新ジーグとなった自分はエネルギー充電だけで賄えるといい、その場を立ち去る。


その後ろ姿を見て、ビルドベースの研究陣達は、「自分達は原爆を作ってしまったのではないだろうか」と悩む。
かつて人類が科学の最大の勝利にして誇りであったはずの「原子力」を、結局大量殺戮の兵器にしてしまったように。
自分達は「鋼鉄ジーグ」という名の、人類の手に余る存在を作ってしまったのではないだろうかと恐怖するのだった―――



程なくして、古代文化の遺跡調査団に属する考古学者5名が、洞窟の前で謎の圧死を遂げたというニュースが舞い込んできた。
先の研究陣達と共に、現場へとビッグシューターで急行する宙と美和。
調査団らと共に洞窟を探索した一行は、岩でできた隠し扉の先に、歴史の宝庫……
恐らくは邪魔大王国の遺物であろう、当時そのままの姿を保った無数の出土物を発見した。
宙らは、殺された考古学者達はこれを発見してしまったが故に命を落としてしまったのだと推測するが、
その理由に気付く前に、美和が突如として悲鳴と共に姿を消してしまう。


気付いた時、洞窟の見知らぬ場所で目を覚ました美和は、目の前に一人の老婆が立っている事に気付く。
老婆は、話がしたくて美和をこの場に呼び寄せた事、もう500年もの間他人と話した事はないと美和に語る。
そして美和に、カプセルに保存されて眠り続ける双子の赤ん坊の姿を見せるのであった。


老婆は語った。この双子の赤ん坊は、邪魔大王国の支配者・ヒミカが産み落とした子供であり、
ヒミカが地上に再び邪魔大王国を築いた時、双子を二千年の眠りから覚まし、国を任せる考えでいることを。
老婆は、その時が来るまでの子守役なのだという。
目の前の無垢な赤子が「悪魔の子」であるという事実に、美和は信じられない気持ちでいっぱいだった。


老婆は美和に懇願した。自身は二千年子守を続けて、既に赤ん坊に情が湧いてしまった。
遺跡調査団に、この地を荒らすことなく引き下がってもらうよう説得して欲しいと。
殺された考古学者たちは、どうやら老婆と接触したらしいが、彼女の説得には全く耳を貸さずに
遺物を学術資料として掘り起こし、赤ん坊たちを晒しものにすることしか考えてなかったらしいのだ。
故に、老婆は自衛のため、彼らを殺害する他なかったのだという。
老婆は改めて言った。そっとしてくれれば何もしない、そうすればいつまでも何百年も何千年も、赤子達と暮らすことができるのだと……



地上に戻った美和は、事情を宙たちや洞窟調査団に伝える。
ヒミカの子供が眠り続けているという事実に、驚きを隠せない宙。
遺物を諦めきれない洞窟調査団になおも説得する美和だったが、彼らの前で宙はこう言い放った。
―――美和の言った双子の赤ん坊を殺し、洞窟を破壊すると。


その言葉に驚きを隠せない一同。
美和は赤ん坊たちは何も悪事はしてないと説得するも、宙はそれを肯定しつつ「何かしてからでは手遅れなんだ」と譲らない。
洞窟の破壊を渋る調査団に対しても、お前たちは目先の事しか考えてない、
人類が居なくなったら遺産も文化もへったくれもない、人類と遺産のどっちが大事だ、と力強く恫喝する。


洞窟に向かう宙を、美和が呼び止める。
美和はなおも、あの赤ん坊が人類の敵になるとは限らない、何もしないかもしれないと宙の説得を試みるが、
宙はそうかもしれないと返しながら、「未来の事は分からないが、今殺せば後悔せずに済む」と呟く。
それでも美和は食い下がるが、宙はかつて彼女から自分が思い悩んでいた時に言われた言葉……
自分がジーグである以上、弱気になる事は許されない」をそっくりそのまま返す。
流石の美和もそれ以上言い返すことができず、ただ宙の背中を見送ることしかできなかった―――



洞窟を容赦なく破壊しつつ、赤ん坊を殺すべく進撃する鋼鉄ジーグ。
その悪鬼のごとく姿を前に、老婆は恐怖に慄きながらもジーグから赤ん坊を庇うが……


老婆
「なぜじゃ、ヒミカの子というだけの理由で、なぜ日の光も知らずに殺されねばならんのじゃ!?」


鋼鉄ジーグ
「ヒミカの子という理由だけでじゅうぶんだ!」


その非情な言葉に老婆は目元に涙を蓄え、怒りの形相でハニワ幻人を2体召喚するも、パワーアップした鋼鉄ジーグの敵ではなかった。
圧倒的な武力でハニワ幻人を塵へと帰すその戦いぶりを見たビルドベースの博士たちは、
げ…原爆だ………やつは、われわれの手にあまる……」と恐れ慄く他なかった。


老婆を難なく捻り殺し、遂に眠り続ける双子の赤ん坊の元に辿り着いた鋼鉄ジーグ。
早速スピンストームで吹き飛ばそうとする……が、眠り続ける赤ん坊の無垢な表情を見てしまい、一瞬躊躇してしまう。
しかし……


鋼鉄ジーグ
「お、おれのすることが、正しいか正しくないか……」
「ゆるされるか……ゆるされないかは…」
「未来が決定する!!」


――――完全に破壊された洞窟から、ただ一人仲間たちにも背を向けて去っていく宙。
それでもなお、美和は宙の背を追いかけるのであった……




ここまで読めば、「ヒミカの子という理由だけでじゅうぶんだ!」という台詞の真に意味することが分かるだろう。
裏を返せば、何一つ悪事を働いていない、ただ眠り続けているだけの赤ん坊が殺されなければならない理由は、
「人類の未来に禍根を残さないため」……つまるところ、ヒミカの子というだけの理由しかなかったのだ。


当然ながら宙はこの一件に対して後悔せずに済んだ筈もなく、
この次のエピソード冒頭にて、無数の赤ん坊に襲われる悪夢に苦しむ事態に陥ってしまった。
そしてヒミカもまた、赤ん坊を殺された恨みを糧に、鋼鉄ジーグに最後の戦いを挑むことを決意し、物語は最終局面へと繋がってゆく……




死の間際のヒミカの手により復活し、邪魔大王国の新たな支配者の座に付いた竜魔帝王は、
鋼鉄ジーグに対する宣戦布告として、東京に核爆弾のごとく大規模破壊をもたらした。


紛れもなくジーグに対する挑戦状……しかし、今の宙は長い戦いの日々で既に肉体への負担がピークに達しており、
これ以上戦うには生身の肉体を全て捨てて脳髄以外全てを機械のボディにすることは避けられなかった。
それが嫌なら、戦うことを止めるほかない……宙は、究極の岐路に立たされようとしていた。


悩む宙と美和の元に現れたのは、政府の元副首相……現在の臨時首相たち。
彼らは宙、いや鋼鉄ジーグに対し、今や日本政府ではどうしようもない敵、竜魔帝王を倒してほしいと要請する。
美和は、これ以上宙に責務を負わせることは止めてほしいと涙ながらに言うが、
臨時首相は自身も家族を全員失ったこと、変われるものなら自分が戦いたいとなおも宙を説得。
更に、荒れ果てた廃墟と化した東京と、医者も薬も不足しただ病院で呻くことしかできない犠牲者の姿を宙に見せる。
宙は迷った末に、人間である事を捨て、機械の怪物になる事を決意する―――


だが、宙の改造手術が続いている間にも、邪魔大王国の総攻撃は日本全国の主要都市に相次いだ。
竜魔帝王の遣わした使者が、臨時首相たちにこれ以上被害を増やしたくなければ、諦めて自身らの奴隷になるよう宣告する。
ここにきて、臨時首相は敵がジーグでも敵わないかもしれない強敵であることを悟り、降伏を受け入れる道を考え始める……



街で暴れまわるハニワ幻人の群れの前に姿を見せたのは、果たして無事改造手術を終えた、鋼鉄ジーグであった。
パーンサロイド形態になったジーグは、縦横無尽位に戦場を駆けまわり、ハニワ幻人を圧倒的戦闘能力で叩き潰す。
しかし、幾ら倒しても無限に沸き上がるハニワ幻人たち……まるでそれは、彼を待ち受ける不運の前兆のように思えた。


その頃、廃墟と化した国会議事堂で、日本……ひいては鋼鉄ジーグの命運を決めようとする決議が行われた。
即ち、降伏か死か……早いが話、竜魔帝王に帰順して鋼鉄ジーグを切り捨てようという決議が。
僅かに鋼鉄ジーグの勝利を信じ、臨時首相に反論する議員もいたものの、
その言葉は「裏切りではない、日本の情勢が悪化したのだ」という、綺麗事の前にかき消されてしまった。



遂にハニワ幻人を全て殲滅した鋼鉄ジーグの前に、竜魔帝王の使者が本拠地で望み通りの一騎打ちをすると通達。
示された場所に向かうべく、鋼鉄ジーグはマッハドリルを両手に携え、海上で待つ竜魔帝王の元へと向かう……


と、鋼鉄ジーグとビッグシューターの前に立ち塞がったのは、自衛隊のビートル機。
ビートル機はジーグと美和に伝えた。日本は降伏した、これ以上戦う必要はないと。
自衛隊員たちの言葉が信じられない鋼鉄ジーグ。だが、これは真実だった。
隊員たちは言葉を続ける。ジーグが戦い続ければ、敵は白旗を信じないだろう。指示に従わなければ攻撃すると。


それでもなお、慟哭しながら飛び続ける鋼鉄ジーグに、ビートル機の攻撃が放たれる。
自衛隊員達も、その身を犠牲にしてただ一人戦い続ける鋼鉄ジーグを攻撃する事は本意ではなかった。
……だが、彼らも上には逆らえなかったのだ。涙を堪えて、隊員たちはジーグに照準を合わせる。
それを妨害したのは美和のビッグシューター。ここは任せて、先に行けと鋼鉄ジーグを激励する。



鋼鉄ジーグは、守ってきた人々の裏切りに合いながらも、ただただ、ひたすらに飛び続け……
待ち受けていた幻魔要塞ヤマタノオロチに着艦。その内部で遂に竜魔帝王と対面を果たす。


竜魔帝王は鋼鉄ジーグに対し、
貴様のパワーは殺すには惜しくなった。わしの部下にならんか。日本の三分の一を与えよう」と持ちかける。
ジーグは怒りのままに竜魔帝王の誘惑を跳ね除けるが、竜魔帝王はなおも彼にゆく先がもうないこと、
人々に見捨てられたことをあげつらい、同じ化け物同士仲良くやろうと彼の心に揺さぶりをかける。
それでもなお、鋼鉄ジーグの心の中は竜魔帝王に対する怒りで満ちていた……
否、満たさなければ、もうボロボロになってしまった彼の心を奮い立たせることはできなかったのだろう。


鋼鉄ジーグは竜魔帝王の攻撃を受け、腕がもげながらも、幻魔要塞ヤマタノオロチの動力室に到達、
竜魔帝王を……邪魔大王国を自らもろとも滅ぼすべく、スピンストームを放つ――――!!


竜魔帝王
「そ、そこは動力室だ、心中する気か!!」


鋼鉄ジーグ
「へへへ……それもおもしれえ!!おなじバケモノどうしで、地獄へいくか!!」



海上で爆発四散した幻魔要塞ヤマタノオロチ。それを見て、美和は竜魔帝王が、邪魔大王国が滅んだことを察知する。
そう、そして恐らくは鋼鉄ジーグ、司馬宙も……
涙ながらに「あなたは決して不幸ではない、だって自分の意思を貫いたんだもの」と嘆き悲しむ美和だったが、
彼女を励ましつつ海上から姿を現したのは、他でもない生きていた司馬宙、その人であった。


もっとも無傷とまではいかず、宙は片足を吹き飛ばされてしまっていた……とはいえ、機械の肉体には然程答えないのだろう。
平然と「平和になったらなんの用もなさない、おれの体…」と自嘲する宙であったが、
そんな彼を、美和は涙ながらに抱きしめるのであった……



ラスト、海中に没した鋼鉄ジーグのボディが描かれ、物語は幕を閉じる。





「なぜじゃ、鋼鉄ジーグの項目というだけの理由で、なぜ追記・修正されねばならんのじゃ!?」

         _,,,,、-‐‐-、- 、  ~"=―" だ  じ 理 項 鋼    _     /   ~ヽ  ヽliiヽ_ _~<  !  ゅ 由 目 鉄 ,‐-/ |_/'|/~"'ヽ、   ',   '.!li ~lヽ'-、    う  だ と  ジ l  | | l l''┬-、 ヽ   l  l| iil/ii_,;lニ>    ぶ け い  │ '  |/ l / |i l/~ヽ ヽ l  il|ili/ iil/lli'').    ん で  う  グ    |/.,-l ',ll  ',    ilil/ill!i!i!!_,,=ニ-‐,          の \    l ヽ',li  ' ,lililllil!lll!!!iil!, ''ilil/!l|〃- 、,-、 :| l\  ヽ ヽヽ,,  `i-!il!!ll,, -'" /ll/!l//!// / |,-、    ,-、 / :| | |\ |\ \二//! !!|l|-‐''"〃lili/lili'ilil/   l /~i''ヽ / ll :| l  ', >', ヽ   ` ‐‐-┴‐ニ'/!ii!!_,, --´'ヽ   l   V :l l  ヽ  ' , ',/~"'''‐┐, ‐'/-‐''" |l!llll!li   ', l l    ヽ └、__   "/〃ノノll!i/l!lllii!!i  | :l     "'-_    "'' ‐´/!!//!l!!/l!liillii!!ii / l       l "''''''''i''""~!!!!//!!! /lll!!!!iii /

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  • 鋼鉄神ジーグ、「漫画版の続き」と聞いてこれの続編だとずっと思ってた -- 名無しさん (2018-02-24 22:31:03)
  • ユウ(スパイダーマン)は孤独だったけれども、宙には美和っぺがいた。これだけでも随分ラストの温度差が違うもんだ…。 -- 名無しさん (2018-02-24 22:45:47)
  • ↑↑それはテレビマガジン版の方ね。 -- 名無しさん (2018-02-25 00:14:33)
  • この臨時首相や一般国民のてのひらマッハドリルときたら。ジークブリーカーで動かないように固定した方が良いんじゃないかな? -- 名無しさん (2018-02-25 01:17:33)
  • 「ヒミカの子というだけでじゅうぶんだ!」を今後ネタにするのを躊躇うレベルのハード具合・・・ -- 名無しさん (2018-02-25 13:59:00)
  • 「冒険王」 あっ(冊子 -- 名無しさん (2018-02-26 09:21:37)
  • なぜこうも冒険王はトンデモコミカライズばかり出しているのか…岡崎版ガンダムといい、桜多版マジンガーシリーズといい。 -- 名無しさん (2018-02-26 14:45:11)
  • ↑3:アニメOPの「ハニワ幻人全滅だ~」のお陰でハニワ幻人絶対殺すマンの印象が付いちゃったからなぁ・・・。 -- 名無しさん (2018-02-26 21:36:34)
  • この作品を有名にしたテキストサイトがあったけど、野々宮一佐とか「ヒミカの子と言うだけで~」の件を「ジーグが人殺しwww」「ジーグ鬼畜www」とか、完全にバカにする目的でネタにしてたんだよなぁ。そのせいでトンデモコミカライズ扱いされてる感が -- 名無しさん (2018-02-26 22:16:50)
  • 松本めぐむ版なら「大空魔竜ガイキング」のも結構シリアスなんだよなあ… -- 名無しさん (2018-02-27 01:14:49)
  • あらすじ読んだ限りは改造人間の悲哀を存分に描いてるね -- 名無しさん (2020-07-26 11:19:53)
  • ライダーイズムビンビンである。 -- 名無しさん (2020-07-26 12:22:54)
  • ダイモスの三輪長官がいたら野々宮十五のやろうとしたことを否定せず即許可しそう。で、終盤日本が滅茶苦茶にされたときにかつて作戦を阻止した自軍に「貴様らのヒューマニズムが招いた犠牲だ」とか言いそう(生きていれば) -- 名無しさん (2021-05-03 22:38:18)
  • 追記修正で草 -- 名無しさん (2021-10-16 19:55:58)
  • なんちゅう重い話や -- 名無しさん (2021-12-06 21:09:12)
  • 残酷なのは間違い無いけど、生かしておけばどう足掻いても人類を殲滅に来るのは確実である以上、ヒミカの子という理由だけであの場で始末しておくには十分すぎるのよね。 -- 名無しさん (2023-03-13 08:15:45)
  • まあヒミカを討つ以上あの双子が成長したら、ヒミカ譲りの妖術や超能力と異次元科学を持ちつつ人類=親の仇という経緯を持つ(しかも双子)というどう考えてもヤバイ敵になってしまうのがね… -- 名無しさん (2023-03-13 17:00:54)
  • ↑×2 将来を見据える形で人類のために容赦なく始末される立場がアマゾンズの千翼に近いよね -- 名無しさん (2023-03-13 18:11:12)
  • (ジーグの判断が)正しいか正しくないかは未来が決定する!」っていうか、未来で誰かが意図的にほじくり返さなければ、人類の大半は讃えるか非難するか以前にジーグの行いそのものを知ることなく生きていくよね。まあこの世界観だとその「意図的にほじくり返すやつ」が出てきそうだけど・・・ -- 名無しさん (2023-03-16 14:35:37)

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