ぞうとおじさん(ドラえもん)

ページ名:ぞうとおじさん_ドラえもん_

登録日:2011/09/05 Mon 04:10:32
更新日:2023/08/21 Mon 11:01:26NEW!
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『ぞうとおじさん』は、ドラえもんのエピソードの一つ。
初出時(『小学三年生』昭和48年8月号)のタイトルは『スモールライト』で、項目名はてんとう虫コミックス5巻に収録された際のもの。



※ネタバレ注意!



夏のある日、インドに滞在していたのび郎おじさんが帰国した。
おじさんはドラえもんのび太に、インドであった不思議な話を聞かせてくれる。


始まりはおじさんの幼少期、戦時中の頃に遡る。
当時動物園に「ハナ夫」という名前の子供たちに大人気のがいた。
おじさんはハナ夫が大好きでせっせと動物園に通った。
しかし時は第二次世界大戦中戦争はじきに激化し、おじさんたちは家族とともに疎開することを余儀なくされた。
疎開先で東京が焼け野原になったと聞き、おじさんはハナ夫のことをひどく心配していた。
やがて終戦。東京に戻ったおじさんは真っ先に動物園に行ったが、そこで聞いたのは残酷な事実。ハナ夫は殺されたというのだ。
戦時中の爆撃で檻が壊れ猛獣が町中に逃げ出さないよう、動物園の飼育員たちにより処分されたのだろう。


それを聞いて憤激するドラえもんとのび太。「仕方なかったんだよ」と宥めるパパとおじさんに



ドラえもん「しかたないとは何ですか!」



納得がいかない二人はタイムマシンで太平洋戦争末期の上野動物園に向かう。
動物園の中は静まり返っていて、どの檻ももぬけの殻。


象の檻に急ぐドラえもんたち。果たして、ハナ夫は生きていた。
しかし餌をもらっていないのか大きな体は骨が浮き出るほどにやせ衰え、力なく寝ワラの上に横たわっていた……。
そこへ飼育員がやってきて、ドラえもんたちは隠れた。


ハナ夫「プオーッ」


飼育員「おなかがすいたか?よしよし、今、楽にしてやるぞ。」



ハナ夫は嬉しそうだ。しかし、何故か目に涙を浮かべる飼育員。



「じゃがいもだ……。食べな。」



飼育員の手は、震えていた。


しかし途中で「だめだ!」と餌を与える手を止める。
空腹のハナ夫を哀れんだドラえもんとのび太は飛び出して、じゃがいもをハナ夫に与えるが、それはの入った餌だった。
幸いハナ夫は賢く毒入りの餌を食べようとはしなかった。ほっとするドラえもんたち。
飼育員は軍の命令でハナ夫を殺さなければならないという。しかし飼育員は涙を流す。



「だれがころせるもんか…。子どもみたいにかわいがってきたのに。」



場面は変わり、動物園の園長が軍の将校に詰め寄られていた。
軍国主義のもと、一刻も早く象を殺すよう将校は強硬に迫る。



「今や日本は大変な時なのだ。動物の命など問題ではない」
「たとえ動物でもお国のためならよろこんで死んでくれるはずだ。」



ちなみに園長の話では、象にの注射を試したものの、象の皮膚は厚くて針を通さなかったらしい。


そこに先ほどの飼育員が戻ってきてハナ夫が毒を食べなかったことを伝える。
激昂した将校は銃を抜き「おれがかたづける!」と檻に向かった。
ドラえもんたちが「象も疎開させたら?」と訴えたが聞く耳を持ってもらえない。
そして、ドラえもんとのび太はとんでもない爆弾発言をしてしまう。



のび太「戦争ならだいじょうぶ。もうすぐ終わります。」


ドラえもん「日本が負けるの。」



軍の将校の前で笑顔でこんなことを言ってしまい*1、「貴様ら、アメリカスパイだな!」とサーベルを振りかざして追われる始末だったが、直後にアメリカ軍の爆撃が始まり将校たちは退避していった。
象の檻にも爆弾が落ちたらしく、駆け付ける飼育員とドラえもんたち。
檻は大破したもののハナ夫はなんとか無事だった。


ハナ夫「バオン


飼育員の姿を見て安堵するハナ夫。
飼育員は「絶対にお前を殺させたりしない」とハナ夫とともに逃げることを決意した。
しかし、象が逃げたことが先ほどの将校に知られ、銃殺命令が下されてしまう……。


逃げられないことを知り泣き崩れる飼育員。
そこでドラえもんたちは彼に「ハナ夫を故郷のインドに脱出させてやろう」と提案する。
呆然とする飼育員の前でドラえもんとのび太は「スモールライト」で縮小したハナ夫を「ゆうびんロケット」に入れ、元に戻す手配も整えて一瞬で生まれ故郷にハナ夫を送り出す。



のび太「元気でいけよう。」



驚きながらも嬉し涙を流し、帰っていくドラえもんたちを飼育員は見送った。



話は現代に戻る。


二人が居間に行くと、おじさんが先ほどの話の続きをしていた。
「いつまで経っても不思議な話にならない」というパパに、おじさんは「いよいよこれからだよ」と言う。


なんとおじさんは、インドの山奥で仲間とはぐれ、遭難してしまったのだ。
飢えと疲労のあまり森の中でとうとう動けなくなり、もう歩くこともできない。
に直面したおじさんは、走馬灯のように様々なことを思い返したという。両親の顔、田舎の風景、そしてハナ夫の顔……


その時だった。


力尽きたおじさんの前に、一頭の象が現れ、ゆっくり歩み寄ってきたのだ。


おじさん「ハナ夫!


その声に懐かしそうな優しい目で彼を見つめる象。
おじさんは薄れゆく意識の中、「ハナ夫の背に揺られていたような記憶がある」という。
そして彼はふもとの村の近くに倒れていたところを救助された。


話を聞いたパパは「死んだはずのハナ夫がインドにいたなんてだろう」と言った。
おじさんは「そう思う」と言いながらも、「しかし夢でも嬉しかった」と目を細める。


そう、夢ではないのだ!ハナ夫は無事だったのだ!無事にインドで暮らしているのだ!
ドラえもんとのび太はその話を聞いて涙を流して喜びあったのだった。



【解説】

戦時中の軍国主義の残酷さと戦争を知らないドラえもんとのび太の目から描いた、初期の『ドラえもん』によくある反戦のテーマ。
ドラえもんの「しかたないとは何ですか!」とのセリフは、もしかしたら当時そう言いたくても言えなかった藤子先生の心の声だったのかもしれない……。


この話のベースとなったのは、土家由岐雄氏の童話『かわいそうなぞう』である。
これは東京都の上野動物園での戦時猛獣処分の実話をもとに作成されたもので、これも戦争中に同園の動物たちが次々と殺処分され、動物園にいた3頭の象たちもその対象になるという話である。
こちらの象も毒入りの餌は食べず、毒殺のための注射針も受け付けなかったが、餌も水も与えられずに3頭とも餓死させられてしまったのだ……。
なお上野動物園には、3頭を始めとする園内で物故した全ての動物を悼む慰霊碑が象舎の向かい側に建立されている。また毎年秋分の日には動物慰霊式が行われている。



【アニメ版】

大山のぶ代版で1回、と水田わさび版で2回映像化されている。
どちらも基本的には原作と同じ展開だが、若干の変更点が見られる。


大山ドラ版

1980年1月3日に放送。
放送時期に合わせ、季節は夏から正月に変更されている。
プロローグでは、ジャイアンスネ夫がのび太を凧揚げに誘うも、ドラえもんと共に深刻な顔をしたのび太は断り、その理由が回想で語られた後、2人は過去に出発。
エピローグでは、ハナ夫が助かったことに安堵したドラえもんとのび太がハナ夫を模した凧(タケコプター付き)を揚げた。
ちなみにジャイアンとスネ夫を登場させたためか、のび郎の回想内において、ジャイアンとスネ夫そっくりの悪ガキが出ている。
またこの作品のために特別に『ゾウさんの瞳はなぜ青い』という曲も作られた。
当時は終戦から35年後であり、この頃は小学生の甥か姪がいる戦争経験者(いわゆる小国民世代)の叔父さんはまだその辺に見られたが……。


わさドラ版

1回目は2007年8月10日に放送。
この時点で終戦から62年が経っており、のび太のおじ(小学生の甥がいる年齢層)では、もう年代的に無理があるためか*2、(いわゆるサザエさん時空の影響)動物園で知り合った、客のおじさん(或いはおじいさんか)に変更された。
それに伴い、のび太の両親とのび郎の出番はカットされ、代わりに、しずか、ジャイアン、スネ夫が登場。


2回目は2017年7月28日からのリニューアル記念スペシャル回で、新たに作り直されて放送。
のび太の親族と夏の組み合わせが、アニメ版で初めて再現されたが、この時点に至っては終戦から72年が経っており、2007年版同様小学生の甥がいる叔父ののび郎の体験談では時代設定が合わないためか、父方の大叔父ののび四郎*3に変更。
大山ドラでの疎開先での出来事も取り入れられた。
将校からハナ夫を逃がす展開も大幅にアレンジされており、爆風で木の下敷きになった将校を飼育員の頼みでハナ夫が助け、それがきっかけで将校も「猛獣処分は本意ではない」としながらも、「戦争という強大な力の前に個人の感情は通用しない」と嘆くシーンも描かれた。



【余談】

  • 大山のぶ代は著書『ぼく、ドラえもんでした』で「このエピソードが特に好きだった」と絶賛しており、「このエピソードが当時の小学4年生の教科書にも載せられ、日本中の子供たちがドラえもんに拍手を送ってくれた」と書かれている。

  • のび太とドラえもんが軍関係者に「戦争なら大丈夫、もうすぐ終わるから。日本が負けるの!」と笑顔で話すシーンについて、たびたび「笑いながら言うこと?」などの疑問を投げかける声が上がっている。
    確かに日本が敗戦したのは事実だが、それはあくまでも未来の話であり、過去(しかも敗戦前)の人々に対して言うことではない。
    ましてや戦争が激化している中だから、二人の発言は当代の人々からすれば空気が読めていないことになる。
    しかし、そもそも本エピソードは、上記の解説にもあるように、ドラえもんとのび太の視点から描かれたものである。
    要するに戦争をよく知らないが故の発言であり、ある意味では平和ボケした現代と狂気の軍国主義時代のギャップを端的に描いたシーンともいえる。。


追記・修正は檻から逃げたたぬきと間違われてからお願いします。


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*1 戦時中にそんな発言をしようものなら「非国民」の誹りはまぬがれなかった。まして軍人に面と向かって言おうものなら……。
*2 そもそも直前の『税金鳥』の回でのび郎はのび太に3年分お年玉を渡し、インドに出かけてしまっていた。
*3 アニメオリジナルキャラ。パパが彼のことを「おじさん」と呼んでいる。

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