織田、38歳にして生まれて初めてホワイトデーを返す。

ページ名:チェーンの和菓子屋としてはあそこの大福が一番うまいよね

 

 

 

ぶんぶん車

@youhishi

2021フォロー


[TOP]
[お気に入り]
[プロフィール]
[モーメント]

 

[添付画像の表示に失敗しました。]


劇場版の公開まであと1か月だし本当に楽しみ!

今年はいつもよりちょっと気合を入れて作ってみたよ。

教えてくれたフウちゃんのアカウント→@umigamera

 

#もうすぐ3周年

#バレンタインデー

#ブラックセンチピード

#機神変形アクセライダー


 

2月14日。チョコレートの調理開始は朝っぱらから、大量の材料と調理器具を携えて。撮影会も、ああでもない、こうでもないとアングルを変えたりしてかれこれ30分弱は続けていたように思う。これも今日が初めてだというわけでもなく、毎年の恒例行事としてやってるのだから、自分には理解しかねるが、楽しそうな同居人だなとは思った。

……いやまあ。これが誰かに贈るためのモノであるのなら。実際にしたことはないとはいえ、まあ、なんとなくそういうものなのだろうな。わかりはする。しかし、彼女のこの情熱の結晶の宛先は実在する誰でもなく、架空のキャラクターなのだ。しかも、手製のメッセージカードのみならずわざわざイラストまでが添えられているのだから、その熱量たるや尋常ならざる領域であると驚かざるを得ない。

 

「よっし完璧!」

「毎年毎年よく飽きねえなぁ……それ、何のキャラだっけ?」

「ブラックセンチピードのグラント将軍だよ。……ええっと、ほら、去年夏にコスプレしたでしょ?日曜朝の……」

半分冷やかしくらいの気持ちで頬杖を突きながら尋ねてみた。にも関わらず、彼女はここに機を見たと言わんばかりにハキハキと、捲し立てるような早口でその詳細な出展を供述し始める。これも思えばもう何回何十回と聞かされているような気がする内容だ。都度相槌を打つのもしんどい。

「ああ……身体作りが地獄だったやつな。しばらくサラダチキン見ただけで吐きそうになったのは覚えてるわ」

「せっかくあそこまで行ったのにさあ、銀ちゃんあの後一瞬でリバウンドしたよね。」

「うっせうっせ、標準に戻っただけなんだわ。」

だから手早く話を切り上げようとしてみたが、まあ魂胆が見え透いていたようで眉を顰められた。その上でこの流れは些か不味い。また終わりの見えない鳥肉生活に戻されるのは本当に勘弁したいところだ。次の話題の逃げ道を探る。

何か……何かないのか?……いや、あった。

 

「……っていうか。それ、ちゃんと自分で消費しろよ。お前が作ったんだからさ」

「それなんだけどさ銀ちゃん。」

「思ったより苦いしこれ残り食べて。」

「今年もかよ……ああ、もうこっちの方によこせ」

常々思うがSNSに上げるためだけに食べものを作るんじゃない。タピオカを路上に捨てる女子高生でもあるまいし。心底辟易しながらも仕方がないのでそれを受け取った。

カラフルでやけに丁寧な包装を一枚一枚剥がして、一粒口の中に放り込む。ココアパウダーのまぶされたほんのり苦いそれを噛み砕くと、ドロリとした舌触りとともにリキュールの風味が口の中いっぱいに広がった。

 

「ウィスキーボンボンか。……手が込んでるなぁ。」

「ねね、どう?おいしい?」

食えねえと押し付けておいて一丁前に味の感想は求めるのかよ。

「まあ割と……悪かぁないな。これが押し付けられたって前提がなけりゃ、結構いい線いってると思う」

「そりゃあだって推し活には手を抜けないもんね。ちゃんといいのを揃えて作ってるから」

でまあ今度はその苦労の話だのなんだのが始まる。まあわかっちゃあいたがどうあっても喧しいのだこいつは。それこそ口を直に縫い合わせでもしない限りは。5、6粒くらい食べたところで箱の蓋を閉じる。

「へえへえそうかい。……ごっそさん。残りは後で食うよ」

「ちょっと作り過ぎちゃったね~」

「ほんとだよ。来年はもっと考えて作れよ」

「はーい。」

「ほんとにわかってんのか?ていうかこんだけどっちゃり作るなら配るとかすりゃいいのに」

俺が次百にそう言うと、たじろいだようにしばらく黙り込んでしまった。

「……うーん、いやでも、配るならさ……。気心知れてない人の手作りって食べるの勇気いることない?」

「ああ……まあ確かにそれはなくもないかもな……」

 


2月15日。今日はまた別のやかましい奴の相手をする日だ。特心対に到着して早々、後頭部目掛けて何かが投擲される。

掌を開くと、ちまっこいチロルチョコ一粒がそこにはあった。11円の値引きシールが貼られたままで。賞味期限間近だったのかもう時期が終わりだからなのかはわからないがなんというかこう……哀愁がそこには漂っている。

「織田さ~~~ん!はいこれ一日遅れの義理チョコですよ~~!」

「それでホワイトデーねだる気かお前」

「もちろんですよ。ちなみに千鳥屋の塩豆大福をお待ちしてます」

「お前な……せめて半額シールくらい剥がしてから渡せよ……」

苦言を呈するともう一つチロルチョコが出て来た。そういうことじゃねえんだわ。

「わかってないですね~~。こういうのは渡されることに付加価値があるんですよ。」

「さっき渡した平尺さんとか狂喜乱舞してましたよ?」

「まあだろうな……。あんまりあいつの純真さに付け込むなよお前」

 

「あと、チョコは間に合ってる」

あとで何とか消費しようと、一応持ってきた昨日の残りを取り出すと、彼女の目の色がわかりやすく変わった。いや、ほんともう露骨なくらい変わった。マジで。

「わぉ、手作りウィスキーボンボンじゃないですか。誰から貰ったんですか?」

「じゃあこの際もうお返しはいいんで、一粒分けてくださいよ。」

「まあ次百の残飯処理だから別にいいけどよ……」

さも妥協案のように提示してくるんじゃあない。普通ならそれも全く釣り合ってないんだわ。

 

「あー、やっぱり次百さんのなんですね?」

「そうだ。毎年毎年、飽きもせずに作っては自分で碌に食わずに押し付けてくんだよ」

「いいじゃないですかぁ、貰えるだけ。ところで、今年のお返しは何にするんですか?」

結局3粒くらいガサッと口の中に放り込んでもなおそいつはそういった。こと、厚かましさと図太さは全一である。今日はちょっとしつこいような、いやでも普段からそんなもんか。

 

「はあ?さっきのでその話は無しになっただろうが」

「いや、そうでなく。」

「はぁ~~~。織田さん、それじゃ今年の残飯チョコは美味しかったですか?」

「ああ、甘過ぎるのはキツイし、今年はそういう意味では助かってる。」

リキュールもビターも酒やチョコの枠組みとしては結構好みの方だ。まあ、別に好き嫌いがあるわけでもないから、何をよこされても食べるっちゃ食べるのだが。……ただし一年目に押し付けられた甘エビ入りチョコだけは例外だが。

そして、そんなことをぼけーと考えている間にロッカが続けた言葉は、俺にとって想定外のものだった。

 

「でしょう。だって次百さんに織田さんの好みを教えたの、私ですから。」

「ねね、どう?おいしい?」
「ちゃんといいのを揃えて作ってるから」
「……うーん、いやでも、配るならさ……。気心知れてない人の手作りって食べるの勇気いることない?」

脳裏にその辺の言葉がエコーする。まさか、いや、しかし。でも否定もしきれない、か。

で、ひどく脱力する。

 

「……なんだってまたそうめんどくせえ回り道を……」
「そりゃちょっとは照れもしますし、織田さん、日頃の行い的に悪態もつきそうじゃないですか。」

「うっせうっせ。」

やれやれ、本当に鈍感さんですね、と呆れたのポーズ。こいつはこいつで倫理観があの狂科学者と大して変わらん上に妙に反論しにくいところばかり突いてくるのもあいつと似ていて本当に七面倒臭い。

「……はあ。わかった、どういうのがいいかわかんねえから、ロッカ、お前も付き合ってくれ」

「いいですよ。アドバイザー料は千鳥屋の塩豆大福で構いません。」

「結局それかよ!」


3月14日。元特心対としての任務と、もう一つの小規模な任務を終え、神社に帰宅する。片手に仕事の成果を携えて。

「ただいま」

「おかえりー!お風呂もう沸かしてるから入っちゃていいよー。」

「サンキュー。ああ、あと任務の帰りに土産買って来た」

「ん?珍しいね~銀ちゃん。そんなに気に入った食べ物があったの?」

何にも気づいてない様子に見える。やっぱりアレはロッカの揶揄いか?わざわざそれっぽいでたらめまででっちあげやがって、今度会うとき覚えてろよあいつ。

「次百お前、今日、何日だ?」

一応確認だけしてみる。次百の

「……いやあ。毎年のことだし、気付いてないと思って。」

「ったく、ストレートに寄越してくれりゃ悪態もつかねえしさっさと返してたわ」

「ごめんごめん。最初の頃はまだ気恥ずかしくてさ。いつの間にか定着しちゃってた。」

まああと銀ちゃん悪態つきそうだし、と。どいつもこいつも口を揃えて同じことを言いやがって。ここまでの間に散々ッぱらロッカに弄られたりデパ地下でくっそ長い時間並ばされたりと苦労したというのに。

……が、しかし。

 

「お皿に盛っとくからお風呂あがったら一緒に食べよ?せっかくだしお茶も入れてさ。」

「ああ。まあお前用なわけだから、別に先に食ってていいぞ」

「ううん、待ってるよ。」

「さよか」

そう話しながら支度する次百は小躍りするようでで、普段のアニメや漫画を見ててもそうはいかないくらい本当に嬉しそうな様子だった。それならば多少の苦労もまあ、悪いもんじゃないな。

そんなことを思案しながら俺はコートをクローゼットのハンガーに掛けた。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


近況の報告やちょっとした商談、或いは単に駄弁るためだけ。そのいずれにせよ、彼女たちが決まって集まるのは展望台だった。

それが数奇な運命と出会いの始まりであったから、あるいは、そこからの眺絶佳望に魅入られてしまったからだろうか。

同日、女商人修道女は、同じベンチに仲良く腰掛け、同じ大福を口いっぱいに仲良く頬張っていた。

「ロッカ、これおいしい。もちもちして甘い。」

ロトは結構これを気に入ったらしく、口の端にいっぱい餡を付けながら興奮している。

「でしょう?私の好きなお店のだからね」

「でも、食べながら喋るのはお行儀悪いよ」

「はぁい。」

そう言いつつ、ロッカが鞄から取り出したハンカチで拭ってやるのを見て、リオンはふと湧き出した疑問を口にした。

「しかし、ロッカがロトはともかく僕にも、ってほんと珍しいよねぇ。食い意地の汚さなら誰にも負けないだろう?」

「まあ織田さんからカツアゲしたので懐が痛んでませんから。」

「それに、今日はちょっと徳を積んで気分がいいのです。」

「ふ~~ん?」

それは今一つ答えにはなってないような気がするが。リオンは大福のちまっこくなった残りと一緒に飲み込んだ。

「ま、なんでもいいけどね」

 

今日、銀ちゃんがクッキー持って帰ってきたんだ。ありがとね、ロッカちゃん。

はて、一体なんのことでしょう。

蜘蛛は短い返信だけを済ませてアプリケーションを閉じた。

 

シェアボタン: このページをSNSに投稿するのに便利です。

コメント

返信元返信をやめる

※ 悪質なユーザーの書き込みは制限します。

最新を表示する

NG表示方式

NGID一覧