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更新日:2024/06/28 Fri 13:35:08NEW!
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ちゃお ちゃおホラー ブラッディ・リリィ 阿南まゆき 百合 香水 血まみれの百合 リリィ・ホラー
『ブラッディ・リリィ』はかつてちゃおデラックスホラーに収録されたホラー短編。
作者は百合とホラーとミステリーに定評がある阿南まゆき。
百合キス描写というちゃおホラーの中でも珍しいことをしている作品。
主人公はリリィという男の子が苦手な少女。彼女はある日転校してきた緋色ダリアという少女に、怯えながらも徐々に魅了されていくことになる。
2013年に本作を表題作とした阿南まゆきのホラー短編集『ブラッディ・リリィ』に収録された。
少女同士の友情と愛を描いた短編集である。
あれは本当に愛としか言いようがねえんだよなあ……。
【ストーリー】
主人公の高校生リリィは男にモテる反面本人は男が苦手な少女。
特にクラスメイトの篠崎くんにいつも言い寄られており、断る方法に困ってしまう日々。
そんなある日、リリィのクラスに緋色ダリアという美少女が転校してくる。
ダリアは美貌の持ち主であるもののどこか不気味な雰囲気。生徒たちは遠巻きに眺めるのみで誰も彼女に話しかけられなかった。
特にリリィと友人のスミレはなんとなくダリアに不信感を抱くのだった。
彼女の雰囲気は闇をそのまままとったかのようで
だがそれも初日だけのことだった。次の日からダリアの周りには人だかりができていた。
今女の子たちの間で人気の香水ブランド「Daria」。そのブランドが実はダリアの家のものであると明かされたのだった。さらにダリアがお近づきの印にクラスの女子全員に香水を配ったことで、瞬く間にダリアは女子たちの人気を得る。
またダリアは雰囲気とは裏腹に優しく親切であり、男子たちもダリアに憧れるのだった。
こうして気が付けばダリアはクラスの中心人物になっていた。
それでもリリィだけはダリアを好きになれないでいた。
いつしかクラスでは香水が中毒のように流行っていた。
そんな中スミレがダリアについて衝撃に噂を掴んできた。
それは香水の中に美女の血が入っているかもしれないということだった。
裏付けるように彼女の前の学校では何人もの少女が失踪していたのである。
突拍子もない話だが、いつの間にかクラス中の女子が中毒のように香水の虜になっているという現実にリリィは噂を否定しきれなかった。
こうしてリリィとスミレはお互いダリアには気をつけようという話になる。
だがスミレも香水を渡されたことで、彼女もまたダリアの虜になってしまう。
こうして気が付けばクラスの中で孤立してしまったリリィ。
リリィさんってすごくモテるのね
リリィさんは美人だからあなたが欲しいわ
リリィはふとダリアにそんなことを囁かれる。噂通り自分も香水の材料にされてしまうかもしれないと思ったリリィは逃げ出してしまう。
リリィはどうにもならない状況の中疲労困憊でいた。そんな彼女に声をかけたのは篠崎くんであった。少しだけ彼に心を開きかけるリリィ……だが篠崎くんはさり気なくリリィのお尻を触ってきた。
篠崎くんはただダリアをダシにしてリリィに近づこうとしていただけなのだった。
周りには誰もおらず助けを呼べない状況。そんな中リリィを助けたのはダリアであった。
篠崎くんが逃げ出したためダリアと二人きりになってしまうリリィ。緊張するリリィだがダリアは「男の子にモテるって大変よね」と慰めの言葉をかけてくれた。ダリアも美人故にリリィの気持ちが分かるのだ。リリィにこんな言葉をかけてくれる人は初めてだった。
その出来事からリリィは少しずつ「こわいと思っていたけどホントはいい人なの?」と考えるように。
そうして意を決してダリアに話しかけてみることにしたリリィ。
ダリアがまず口にしたのは「あなたが欲しいわ」という言葉の謝罪だった。
彼女は元々美しいものが大好きであり、思わずそんなことを言ってしまうらしい。
暖かい言葉に心を開いたリリィは、ダリアと友達になるのだった。
そのことが嬉しくダリアは思わずリリィに抱きついてしまう。
だがダリアは、その裏で怪しげな笑みを浮かべていた……。
それから二人は仲良くなり、いつも一緒に行動するようになっていた。堕ちたな。
ある日二人はダリアの香水について話していた。なんとこの香水はダリアひとりで作っているらしい。家にそのための工房があるのだ。
香水のヒミツについて聞き出そうとするリリィだが、ダリアは教えてくれなかった。けれどいつか教えてあげたいらしい。
ダリアと沢山話をするうちに、リリィは彼女と話していると胸が高鳴る不思議な感情を抱くようになっていた。後の展開から考えるに恋である。
それからしばらくして。ダリアは用事があったので、リリィは珍しくひとりで帰ることになる。
そこに現れたのが篠崎くんだった。彼は「今日は邪魔者がいない」と暗にダリアに毒を吐くと、リリィに迫ろうとする。
そうして篠崎くんはなんと、リリィを壁に押し倒し無理矢理唇を奪ってしまう。
篠崎くんからなんとか逃げ出したリリィ。しかしあまりに衝撃的な出来事に彼女はもうどうすればいいのかわからなかった。
悩んだ末にダリアに電話をかける。ダリアは深くは聞かずリリィを自分の家に招待してくれた。
そうしてダリアの家に訪れたリリィ。ダリアの姿を見たリリィは思わず涙を流して抱き締めてしまう。
半狂乱になり「男の子なんて最低よ!! この世からいなくなればいいのに!!」と叫ぶリリィ。
そんなリリィに対し、ダリアは優しく口づけを交わすのだった。
まるで篠崎くんのキスをダリアのキスによって上書きするように……。
ダリアの慰めで少し落ち着いてきたリリィ。しかし今度はダリアとキスをしたという事実に恥ずかしさがこみあげてしまう。
わ…私女の子とキスしちゃった~!!
でも…ダリアとなら全然いやじゃないや
……なんだかお手本のようなノンケの百合堕ちみたいなことになってきたリリィ。
ダリアに甘えながら「男の子なんて大キライ。しつこくて汚らわしくて!!」と口にする。
彼女の言葉にダリアも同意し、とある計画を企て始めるのだった……。
それから数日後、篠崎くんとリリィはダリアの家に招待されていた。お茶会を開くことになったのだ。
あんなことがあったにもかかわらず、篠崎くんを見てもリリィはニコニコしている。
篠崎くんはここに来ることは誰にも言わないように約束させられていた。今日のことは三人だけのヒミツにしたいらしい。
明かな死亡フラグだが、当の篠崎くんは「リリィだけじゃなくダリアさんも俺のものにできちゃうかも!」と上機嫌。
そうしてお茶会を楽しんでいた三人。
お茶を飲んでいた篠崎くんは、なぜかいきなり急激な眠気に襲われる。
何かがおかしいと感じる篠崎くん。彼が最後に見たのは、自身にナイフを振りかぶるリリィの姿だった……。
篠崎くんが来る少し前のこと。ついにリリィはダリアから香水のヒミツを教わっていた。
それは年頃の男の子からしぼりとった血を煮詰めたエキスを混入しているということ。
女の子を本能的に引き付けるのは年頃の男の子のフェロモン。そのため男の子のエキスを香水に混入することで、女の子を中毒のように魅了する香水が出来上がるのだった。
そしてダリアは、香水をつくるために今まで何人もの男を殺害していた。
スミレが言っていた噂には間違いがあり、実際に失踪していたのは女の子ではなく男の子だった。
ダリアはリリィに対し、香水作りの協力を誘いかける。
ねえ…リリィが男の子にモテるのはすばらしい才能よ
あなたのその才能で私と一緒に世界中の女の子をとりこにしましょう?
それは犯罪だということよりも、彼女がヒミツを教えてくれたことがうれしくて
私ももう狂っているんだわ
でもなんて心地のいい気分なの
篠崎くんの返り血で赤く染まったリリィは、狂ったように笑うのだった。
こうして手を組むことになった二人。
それが功を成したのか香水は今まで以上に盛況である。
リリィも篠崎くんを「こんなステキな香水に変身できちゃう」という一点で認めていた。
私が欲しかったのは美しい共犯者
これからも私たちはずっと一緒よ
【登場人物】
◆リリィ百合に堕ちた狂気に堕ちた少女。
元々男の子キライではあったものの、ダリアと出会いどんどんおかしくなっていくことに……。
最終的には躊躇いも無く人殺しをするほどに狂ってしまった。
それにしても、リリィは男減らせるしダリアは女の子魅了できるしでこの二人が組んだのはお互い得しかない。
◆緋色ダリア
もう一人の主人公。何気に本作で唯一フルネームが判明している。
そしてちゃおで百合キスしてしまった人。ララナギすら未遂だったぞ*1。
女の子を魅了するため、男の子を殺害し香水に変えるということを繰り返し行っていた魔女。リリィという愛人相棒が出来たため、これから一層罪を重ねていくのだろう……。
なお雰囲気こそ怪しい彼女だが、(作中で描写された範囲では)香水の作り方を知っているだけの一般人である。怪異の類ではない。
スミレがダリアについて「美女の血を浴びて美しさを保つ話」と触れているので、元ネタは多分エリザベート・バートリー。……やっぱり一般人ではないのかもしれない。
ちなみに単行本のオマケページではエプロン身に着けて鍋で篠崎くん煮込んでいた。
◆篠崎くん
リリィに言い寄っていた男。無理矢理キスをするなどちょっと礼儀がよろしくない人だった。
そしてダリアに目をつけられたのが運の尽き。あっさり殺されることとなった。
ちなみに阿南まゆきの百合ホラーには「百合に挟まる男は死ぬ」という法則がある。彼は法則の初の犠牲者。
◆スミレ
「男の子が失踪」と「女の子が失踪」を勘違いする情報通としての能力に疑問が生じる人。
【余談】
- タイトルについて
本作はちゃおデラックスホラーに収録された際は『魔女の香水』というタイトルだった。単行本収録につき改題されたことになる。
なお『ブラッディ・リリィ』は直訳すると『血まみれの百合』……ではなく多分『血まみれのリリィ』。リリィちゃんが篠崎くんを殺って返り血で血まみれになっていることからだと思われる。
でも内容から考えると百合的な意味も含まれてそうである。
そして本当にただの余談なのだが、阿南先生は2022年からちゃおデラックスにて『黒百合ミステリー』を連載開始した。
なんでもないミステリーものなのだが、先生にはタイトルに「百合」とつく短編で本当に百合展開をやってしまうという前科過去があるため、「まさか今回も……」と慄かれた。
そんなことはなく、本当に普通のミステリーものである*2。
- 短編集『ブラッディ・リリィ』
2013年に本作を表題作としたホラー短編集『ブラッディ・リリィ』が発売された。阿南まゆき初のホラー短編集である。
6話中5話がガールズ・ホラー。大体が『ブラッディ・リリィ』みたいな内容の作品である。
女の子が女の子を深く愛しすぎた故に狂気に堕ちていく様が描かれていく。人間の狂気が中心のためか、収録作の半分がオカルト要素のないホラー。所謂「人間が一番怖い」タイプの作品である。
こんな内容のためか主人公の犯罪者率が高め。5人中4人がやらかしている。3名が殺人*3、1名がガス爆発*4である*5。
特に最終話『悪魔の本は誘惑する』の主人公に至っては親友のためにひとりで5人殺っている。しかもナイフとバールのようなものだけで。強すぎる……*6。
ちなみに殺人を犯した者はみな、オカルトパワー的なものは使わずに自らの手で殺している。狂気に堕ちた少女にオカルトなど必要ないのである。
物語としては最終的に彼女たちなりの幸せを得る結末が多い(かなりメリバ寄りだが)。
本作は「あの子のためならいくら罪を重ねても構わない」と覚悟を決められた者から幸せをつかんでいく。
電子版の説明曰く本作は「リリィ・ホラー」らしい。リリィちゃんは『ブラッディ・リリィ』にしか登場しないわけだが何を持ってそう定義しているかは不明*7。
本作のうちの一作(ふたごみたいなふたり)がのちに「ほんとうにこわい恋愛」という短編集に何故か再録されたことから考えるにやっぱ百合かもしれない。
~以下、『ブラッディ・リリィ』収録作品~
◆ブラッディ・リリィ
表題作。内容はこの項目で解説した通り。
◆仕返し実現ゲーム
小学生の魔子はいじめられっ子で、いつもクラスの女子にいじめられていた。
ある日偶然手に入れたゲームが、人を殺す力が呪いを持つということに気が付く。
本作では唯一ガールズホラーではない。
◆透明少女と少女
澄子は全く存在感のない子どもであり周囲からは『透明人間』として扱われていた。
自分から話しかけない限り誰も気が付いてくれないひとりぼっちであることに悲しむ日々。
そんな中自分に気が付きまっすぐ見つめてくれる美沙という少女と出会う。
だが美沙の営む商店街には、とある危機が迫りつつあった……。
上述の「あの子のためならいくら罪を重ねても構わない」というスタンスが強く表れた話。
◆保健室で見る悪夢
文絵の学校には、「保健室のベッドで眠ると死ぬ」という噂があった。
それを裏付けるように、保健室に通う親友の涼は日々具合が悪くなっていった。
親友を守るため文絵は養護教諭の今日子と対決することに。
百合っぽさは特に無し。また、客観的に見た時にはおそらく6作品中で一番ハッピーエンドに近い。
後述の『悪魔の本は誘惑する』と繋がっている。
◆ふたごみたいなふたり
主人公の真昼と親友の真夜は仲が良く、本当の双子のようであった。
だが真夜は徐々に真昼に対する狂った愛を深めていき、常軌を逸している行動を取るようになる。
おそらくこの短編集で一番ぶっ飛んでいる話。
◆悪魔の本は誘惑する
スポーツ少女の桐子とうさぎ小屋係の芳花はタイプは真逆だが仲のいい二人だった。
幸せな日々を過ごしていた二人だが、ある日芳花が失踪してしまう。
そこに突如現れた悪魔の本により桐子は、芳花が殺されたことと生贄を集めれば彼女を生き返らせることが出来ると知る。
こうして桐子による復讐が始まった。
本作のみ単行本描きおろし。ある意味ハッピーエンドと言える終わり方をする。
- 2010年少女漫画の百合
ブラッディ・リリィが掲載された2010年は、少女漫画界で微妙に百合が流行った年だった。
2010年5月からはりぼんにて百合漫画「ブルーフレンド」が連載開始。
さらに2010年7月からはなかよしにて百合漫画「野ばらの森の乙女たち」が連載された。
そして2010年12月に発売されたちゃおデラックスホラー2011年1月号に『ブラッディ・リリィ』掲載。
というように2010年は少女漫画大手三誌にて百合が掲載された。発作的に百合をやりたがる少女漫画界だが、ここまで重なるのは珍しい。
『ブラッディ・リリィ』はともかく、残り二つは公式が明確に百合扱いしている作品*8。全部キスシーンまでならあるぞ!
ちなみに『野ばらの森の乙女たち』はミッションスクール系の百合。対して『ブルーフレンド』は友人への独占欲が恋心へ変わるタイプの百合。そして『ブラッディ・リリィ』はリリィ・ホラー。見事に全てジャンルがバラけている。
2010年に一体何が起きたというのか……。
追記・修正お願いします。
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▷ コメント欄
- 「悪魔の本は誘惑する」、コミックス描き下ろしとはいえ女児向け漫画とは思えないほどエロくて草 -- 名無しさん (2022-12-27 22:19:54)
- ちなみに阿南先生の代表作のナゾトキ姫はほのぼのしているように見えて定期的に窃盗傷害通貨偽造などの軽犯罪(?)が頻発し殺人も結構なペースで発生する魔境が舞台なのでこれらのホラー作品とは別ベクトルでやべーぞ! -- 名無しさん (2022-12-27 22:31:45)
- 悪魔の本は誘惑するで性癖破壊されました -- 名無しさん (2022-12-27 23:14:39)
- 懐かしい!絵綺麗だし耽美な雰囲気だし載ってたデラックスホラー何回も読み返したな -- 名無しさん (2022-12-28 10:12:05)
- うーん百合挟男が死ぬならいいや -- 名無しさん (2022-12-28 10:49:42)
- こういう特定ジャンルの専門家が熱く語るこれぞアニヲタwikiって感じの項目好き -- 名無しさん (2022-12-28 20:35:58)
- 「悪魔の本は誘惑する」はてっきり「ルーファスの収集品」のタイトルかと思った。 -- 名無しさん (2022-12-29 21:45:41)
- 悪堕ち百合の教科書だと一部で言われている傑作短編集。「悪魔の本は誘惑する」は特に桐子が段々と精神的に人間から逸脱した果てに…なのがメリーバッドエンド感強いんよね。仮に芳花が過不足なく復活したら却って桐子は自分から距離取った気がするし -- 名無しさん (2023-02-12 07:18:53)
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*2 しいて言うなら女の子二人のバディが主軸だが関係性は友情の枠で収まっている
*3 『ブラッディ・リリィ』のリリィ、『ふたごみたいなふたり』の真夜、『悪魔の本は誘惑する』の桐子
*4 『透明少女と少女』の澄子
*5 『保健室で見る悪夢』の文絵も学校を全焼させているが、正当防衛なのでノーカンとする
*6 被害者がどうしようもないクズであることと主人公は平常心を失っていたことは明記しておく。にしたって5人殺しはすごいが
*7 一応『透明少女と少女』『ふたごみたいなふたり』など一部作品で背景に花が咲く漫画的演出で百合の花が使われている。女の子同士がいちゃつくと百合が咲く。なお『ブラッディ・リリィ』にも同様の演出があるがダリアの花だった
*8 ブルーフレンドに至っては帯に「この百合マンガがすごい!」と堂々と書いていた。堂々としすぎである。
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