登録日:2022/02/23 Wed 00:00:00
更新日:2024/06/18 Tue 09:58:58NEW!
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SCP-2011-JPとは、怪異創作コミュニティサイト「SCP Foundation」の日本支部に属するオブジェクトの一つである。メタタイトルは「あの[罵倒]自転車野郎█ねよ!」、オブジェクトクラスはEuclid。
財団日本支部で2020年に行われた「ルーキーコンテスト」の参加作品であり、順位は10位タイ。その名の通り初心者執筆者が競うコンテストで、当オブジェクトも作者FailyFeely氏の処女作にして現在(2022年2月)唯一の作品である。
ルーキーコンテストでは投稿の前に批評を受ける必要があるのだが、批評を担当したislandsmaster氏からは「文量が多いのに必要なことしか書いていない、王道の記事」という評価を受けている。
この記事では、SCP-2011-JPについて独自の解説を交えながら紹介する。
特別収容プロトコル
この記事では、SCP-2011-JPを特別収容プロトコルが第1版から現行版(第5版)まで閲覧することができる。
SCP報告書の「特別収容プロトコルを最初に掲載し、その後に説明や補遺を載せる」という構成を活かして、SCP-5000ほどではないにせよ、特別収容プロトコルで伏線を提示し、本文でそれを回収するという基本的な(まさに王道の)構成を持つ。
この記事では特別収容プロトコルの変化という情報を加えることでより多くの伏線を撒く戦略を取っているのである。
まずプロトコルの内容を要約・解説していこう。
第1版
▷要約: SCP-2011-JPは交通量の大きい道路に出現するため、監視カメラで監視する。SCP-2011-JPが異常性を発揮した場合、財団エージェントが関係者にインタビューと記憶処理を行う。
SCPオブジェクトの多くは財団施設内に収容されているが、このオブジェクトは施設内に収容できず交通量の大きい道路に出現するようだ。恐らく出現場所から移動させられないタイプなのだろう。
オブジェクトには一般人の前で姿を見せるだけでアウトなものも数多いが、問題を起こしてから事後対処という形が取ることから、出現しただけでは問題とならず、実際に問題が生じても大した被害は起きないオブジェクトなのだろう。
第2版
▷要約: 財団により、SCP-2011-JP出現区域
駐車禁止に指定。当該区域で道路工事が行われる場合や交通量の増加が見込まれる場合、機動部隊を配備。
SCP-2011-JPが何か問題を起こしたのだろう。エージェントだけでなく機動部隊による鎮圧が想定された特別収容プロトコルに改定された。
また、SCP-2011-JPは駐車禁止措置や交通量への言及などから(メタタイトルで自転車であるらしいと判明しているが)交通に関係したオブジェクトであることが断片的に明かされる。
第3版
▷要約: SCP-2011-JPがサイト-8110内の道路に収容される。この道路では財団フロント企業による路線バスを運行させ、Dクラス職員たちが乗用車で道路を走行しSCP-2011-JPの出現を確認する。
収容違反の疑いがある場合はプロトコル“大渋滞”による再収容措置を行う。
道路に出現するのは相変わらずだが、どうやらサイト内にSCP-2011-JPを収容することに成功したようだ。SCP-2011-JPに触れるのはDクラス職員のみとなった。
ここで唐突に現れた路線バスやプロトコル“大渋滞”の詳細は不明だが、報告書を読み進めればその内容が明らかになると期待できる。についても気になるところ。
第4版
要約: Dクラス職員ではなく自動運転車を用いたプロトコルになった。
財団も地道な近代化を進めているようだ。(Dクラス廃止の理由は不明だが)
第5版(現行版)
要約: 自動運転車が廃止されてDクラス職員に戻された。
自動運転車で問題があったのか、現行版では再びDクラス職員が乗用車を運転することになったようだ。
説明
まず、SCP-2011-JPは自転車に乗った人型実体である。
見た目は日本人で、一定範囲の道路上に突然出現し、そのまま走行して突然消滅する*1。
走行時は信号を遵守し、自然な動きで障害物を回避するようで、一般人から異常存在と気付かれる可能性は低い。
報告書によれば、SCP-2011-JPが出現しても99.4%は対処不要だったようなので、特別収容プロトコル(第1版)で監視カメラによる監視を基本としていたのも頷ける。
ただ、SCP-2011-JPの異常性「SCP-2011-JPに対して怒りを覚えた者の怒りを増幅させる精神影響特性」に問題があった。
この異常性には段階があり、段階が進むと影響を受けた人は怒りのあまりSCP-2011-JPや通行人などを攻撃するようになってしまう。
しかもSCP-2011-JPは接触耐性持ちで、地面以外の何かと接触しても影響を受けず、接触したものを近くへ瞬間移動させることができる。影響を受けた一般人がSCP-2011-JPを攻撃しようとすれば奇妙な光景が繰り広げられることだろう。
エージェントや機動部隊はこの事象に対応するために派遣されるのだと想像できる。
収容経緯
ここで特別収容プロトコルの変遷経緯を知ることができ、SCP-2011-JPの異常性の具体的な描写もこちらに含まれる。
SCP-2011-JP発見から現在に到るまでをまとめたこの収容報告書にはオブジェクトの歴史がまめに記録されているようだ。
それでも、インシデント番号などが飛ばし飛ばしになっていることから想像されるように、より網羅的なデータは別のところに保存されているのだろう。
いわゆる『おまけが本編』というやつである。
この記事では収容経緯をいくつかの段階に分けて解説していく。
発見〜第1版策定
SCP-2011-JPは直接目撃されたのではなく、データ分析によって発見された。それによれば、当該区域では自動車と自転車の接触事故が多く、しかも自転車側の当事者が不明なケースが頻発していたのである。お察しの通り、この自転車側がSCP-2011-JPである。
その区域がこれまで明言されてこなかった太平洋沿いを青森県から宮城県まで走る国道45号██████で、これを調査した財団により、SCP-2011-JPが突然出現・消滅する異常存在であることが確認された。
これだけだとオブジェクトではなく超常現象記録行きになりそうなものだが、インシデント2011-JP-004の発生によりそうもいかなくなったようだ。
このインシデントでは、民間人が運転する乗用車がSCP-2011-JPに後方から6回接触するという事故が発生した。事故後SCP-2011-JPは消えてしまったため、単独事故として処理される。
想像してみるとなかなか奇妙な光景であるが、接触のたびにSCP-2011-JPの異常性によって乗用車が後方に戻されることで繰り返しの接触したようだ。
このインシデントでのきっかけは、SCP-2011-JPが急に車の前に出て車側に急ブレーキを踏ませたことのようである。車に乗る諸君は、歩行者や自転車の危なっかしい挙動に腹を立てたことの一度や二度はあることだろう。
今回の民間人もインタビューで「ぶつけそうになった癖にこっちを見もしねえでのうのうと走ってやがるから、すげえ腹が立ってきて轢き殺してやろうと思った」と証言しており、尋常ではない怒りを感じていたことが伺える。
これをきっかけにSCP-2011-JPの異常性が判明し、オブジェクト認定・特別収容プロトコル制定となったのである。
第2版策定
特別収容プロトコルの第2版の内容を思い出してみると、SCP-2011-JPの出現範囲における駐車禁止措置や機動部隊の配備といった内容が盛り込まれたものだった。
駐車禁止措置は恐らくSCP-2011-JPがスムーズに走行し、変な挙動をしないようにするためだと想像できる。
では『機動部隊がなぜ必要なのか』については、次に紹介するインシデント2011-JP-048が関係している。
このインシデントは、「現在までにSCP-2011-JPが発生させた中で最大規模のインシデント」である。
このとき、SCP-2011-JPの出現区間は道路工事により片側一車線となっていた。その範囲をSCP-2011-JPがのろのろと走行し、運悪くその後ろを走っていた路線バスがSCP-2011-JPを追い抜かせずに徐行を強いられたというのがインシデントの発生理由である。87秒間もSCP-2011-JPのノロノロ運転に付き合わされた乗客たちは一人残らずSCP-2011-JPの影響を受けて暴徒化してしまったのだ。
一言で説明すると、このインシデントはSCP-2011-JPが路線バスの乗客全員を激怒させて暴徒化。民間人に危害を加えたというものである。
詳細は実際の報告書を見ていただきたいのだが、このときの運転手の挙動の描写が本記事初版執筆者の一押しポイントである。
ともあれ、このインシデントで民間人に大きな被害が出てしまったことでSCP-2011-JP対策が強化され、特別収容プロトコル第2版が策定されたのだろう。道路工事が行われる場合や交通量の増加が見込まれる場合に機動部隊が配備されることになっているのは、そのような状況ではSCP-2011-JPの異常性が発揮されやすいからであろう。
第3版策定
特別収容プロトコルの第3版では財団サイト内に収容されているわけだが、一切の接触を受け付けずこれまで動かせないと思われていSCP-2011-JPを、どのようにして移動させたのだろうか。
そのきっかけは、国道45号が通行不能になった2011年3月11日の[編集済]である。
これでSCP-2011-JPが消滅したとなれば話が簡単だったのだが、そうは問屋が卸さない。
別の道路でSCP-2011-JPが出現したのだ。
これにより「車が通らなくなると別の道路に転移する」という特性が判明。なんとも厭らしいオブジェクトである。
しかし、収容できる可能性があるとなれば話は別である。
国道45号は交通量の大きい道路ということで封鎖できなかったが、SCP-2011-JPが他の道路に転移できると判明したことで、財団の佐々木博士はサイト内に転移させる実験を開始した。
SCP-2011-JPが『移動する』ならば、サイト内に転移させられるかもしれないという希望が生まれたことにより、ここから試行錯誤が始まった。
佐々木博士は交通量に着目し、SCP-2011-JPが交通量の多い道路に転移するだろうという仮説を立てて実験を進めるが、サイト内の道路を「道路面積の80%以上を車両が占める状態」(車がちゃんと動けるのか心配になる量である)にしても転移させることはできなかった。
実験データから、交通量が高い道路へ転移すること自体は確かなようだが、どうしてもサイト内の道路には転移してくれない。
ここで、少し前に出てきた路線バスの伏線が回収される。
転移先の道路で路線バスを運行してみたところ、SCP-2011-JPをサイト内に転移させることに成功したのである。SCP-2011-JPに意思の有無は確認されていないが、バスを狙って大規模インシデントを起こしたかったのかもしれない。本当に迷惑なオブジェクトである。
メタタイトルの「あの[罵倒]自転車野郎█ねよ!」はこのときに影響を受けたDクラス職員の台詞。
以上の顛末により、財団はSCP-2011-JPのサイト内での収容に成功し、第3版の特別収容プロトコルが策定された。
このプロトコルでは定期的にDクラス職員が道路を車で走行することになっているが、これは全く車が走行しないとSCP-2011-JPが他の道路へ転移してしまうからだろう。
ちなみに、SCP-2011-JP収容違反時に実施されるプロトコル“大渋滞”の内容は明記されていないが、ここまで読んだ読者なら想像が付くだろう。
これは、サイト内の道路を車で埋め尽くして大渋滞を発生させることでSCP-2011-JPのサイト内への転移確率を上げ、SCP-2011-JPの出現道路を封鎖するプロトコルであると思われる。
しかし2011年3月11日に発生した[編集済]とはいったい………
もうお分かりだろう。東日本大震災である。
ちなみに、Wikipediaの記事「国道45号」でも東日本大震災において通行不能と記載されている。
この記事は、処女作ながら震災というテーマを盛り込んだ意欲作である。
本報告書のディスカッションに筆者は「震災を想起させる」ものとして2011というナンバーを選んだと明言している。また、震災により国道45号が通行不能になる部分を「この記事のストーリの核心に最も迫る部分である」とも述べた。
財団には数多くのオブジェクトやTaleなどがあるが、東日本大震災を扱う記事はほとんど無い。このSCP-2011-JPも『転移能力を判明させる』だけで、この先の展開に全く絡んでこない。
これは本記事初版執筆者の妄想だが、震災を大災害として描写するのではなく、しょうもない迷惑系オブジェクトの収容のきっかけになるという脇役として敢えて描くことで、大災害があっても立ち止まらずオブジェクトの収容を続ける財団を描くことがテーマではないだろうか?
第4版
特別収容プロトコル第4版では、Dクラス職員ではなく自動運転車を用いてSCP-2011-JPをサイト内の道路に出現させるようになった。
その理由は補遺1によると「経費削減活動の一環」。
財団の財力も(Dクラスも)無限ではなく、地道な改善によって活動費を捻出しているのだろう。
第5版
現行版である第5版のプロトコルでは、自動運転車がDクラス職員に戻されてしまった。
補遺2によれば自動運転車がSCP-2011-JPを攻撃していたという目撃情報もある。さらにサイト-8110の管理システムが暴走。自律型兵器によりサイトが制圧され、死傷者も出るインシデントが発生。
これにより、自動運転車の利用を中止。内容から考えると、自動運転車に限らず他の自律システムも停止させられているのだろう。
報告書では『原因不明』とされるが、SCP-2011-JPが原因と考えるのが自然で、自動運転車を怒らせた結果、サイト-8110の管理システム全体が人間を殺戮しようとしたと考えられる。
補遺2はやや唐突な印象があり報告書の中でも浮いているように思われるが、作者によれば、震災と並ぶストーリーの核心とのことである。
これまた本記事執筆者の妄想だが、震災という大事件もこの記事ではオブジェクト1つを転移させる一方で、ちょっとした経費削減活動が結果として財団サイトのひとつで死傷者3桁のインシデントを引き起こすことになった。
そのような不条理が『震災』というテーマを通じて描かれているのではないだろうか。
総評
車に乗ったりバスを利用したりする人は、あるいは歩行者であっても、自転車の危険な挙動に腹を立てたことがある人は多いだろう。この記事はそのような日常の「あるあるネタ」をSCPオブジェクトとして昇華させたものとして一定の評価を得ている。
その一方で、あるあるネタはこの報告書の表の顔であり、その裏には震災と財団という意欲的なテーマが断片的に描かれているのもまたこの作品の魅力であろう。
この記事では全体的に地の文で説明したが、実際の報告書はインシデントログや実験ログが豊富でまた違った読み心地となっているのでぜひご覧いただきたい。
追記・修正は迷惑自転車を罵倒しながらお願いします。
CC BY-SA 3.0に基づく表示
タイトル: SCP-2011-JP - あの[罵倒]自転車野郎█ねよ!
著者: ©︎FailyFeely
作成年: 2020
http://scp-jp.wikidot.com/scp-2011-jp
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▷ コメント欄
- 全人類が車やバイクを捨てて、自転車に乗ればSCp-2011-JPは不活性化すると考えられる -- 名無しさん (2022-02-23 00:10:21)
- 元の記事読んだ方が面白いな -- 名無しさん (2022-02-23 00:16:47)
- 解説の余地のないSCPの記事を書くのは難しいね -- 名無しさん (2022-02-23 00:27:18)
- 解説の余地のないSCP記事の作成を規制した方がいいんじゃないかと思うことがある -- 名無しさん (2022-02-23 15:39:40)
- 作者の処女作ってのはいいけど、それ以降出てないとかいる?このSCPと関係ないし、作者が投稿したらまた変えるのか? -- 名無しさん (2022-02-23 19:02:26)
- ↑「次の作品を書けよ」みたいな圧を感じるかも… -- 名無しさん (2022-02-23 19:05:18)
- 補遺2は「管理能力を過信した結果の事態」「震災と並ぶ出来事」と考えるとまぁメタファーはあれ -- 名無しさん (2022-02-23 22:48:39)
- 空飛ぶ車だらけになった時代だとどうなるんだろう… -- 名無しさん (2022-02-24 02:42:39)
- ↑それでも歩行者には迷惑になりそう。 -- 名無しさん (2022-02-25 01:29:14)
- 経費削減を唱える人を見たらちゃんと内容とその背後にいるスポンサーが誰かをしっかり確認しようね。 -- 名無しさん (2022-02-25 04:41:28)
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