ヒーローズ・フィースト

ページ名:ヒーローズ_フィースト

登録日:2021/08/29 Sun 10:13:46
更新日:2024/06/03 Mon 13:45:47NEW!
所要時間:約 9 分で読めます



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『ヒーローズ・フィースト』とは、テーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(以下D&D)の公式レシピガイドである。
著者はカイル・ニューマン、ジョン・ピーターソン、マイケル・ウィットワーの三人。




【概要】

『ヒーローズ・フィースト』は、D&Dの世界観に沿った料理をつくるためのレシピ本である。
D&Dはファンタジー世界を冒険するゲームとして長い歴史を持ち、精緻に練り込まれた世界観は多くのプレイヤーを魅了してきた。
むろん食文化も例外ではなく、冒険の舞台となる多様な風土の中にさまざまな食品や料理が登場してきた。


本書は、そんなD&Dのファンタジー世界の食文化を現実世界でも楽しめるためのガイドブックである。
乱暴に言うとダンジョン飯のようなファンタジーごはんのレシピ集であるが、現実世界ではお目にかかれないような生物を食材とする料理のレシピでは代替品が提示されているのでご安心いただきたい*1


本書はまず2020年10月27日に英語版"Heroes' Feast"が発行され、その後2021年6月28日にD&D翻訳チームの手による日本語版『ヒーローズ・フィースト』が発行。
全国の書店などで手に入れることができる。



さて、堅苦しい概説はこれくらいにして、ちょっと自由に想像してみてほしい。
ファンタジー世界のごちそうといえば、どんなものが思い浮かぶだろうか。


もしかしたら、大いなる戦いを制した勇士たちの祝宴にふさわしい、豪勢な肉料理だろうか?
それとも、異国を訪れたばかりのパーティーを出迎える、港町自慢の魚料理だろうか?
はたまた、森の奥の隠れ里で可能な限りの贅を尽くした、キノコと果実の料理だろうか?


もちろんなにを食べるかということも大事だが、どこで誰と食べるかということも同じくらい大事だ。
それは喧噪うず巻く酒場でわいわい食べる食事かもしれないし、ひなびた村のささやかなもてなしかもしれないし、野営地の夜食かもしれない。
卓を囲む相手だって、長い付き合いの戦友かもしれないし、モンスター退治を依頼した町の人かもしれないし、あるいはまったく異質な未知の存在でさえあるかもしれない。


本書があれば、現実世界に生きるわれわれが空想の翼を広げてファンタジーの世界を満喫するための、大きな助けになってくれるだろう。




【レシピの選び方ガイド】

本書は上記の通りファンタジー世界の料理レシピ集であるが、世界観を全面に押し出し、読者たるわれわれにどっぷり浸らせることに重きをおいている。
そのため、目次や索引──今夜の食事に迷って料理本を開くものにとってはとりわけ重要なものだ──も、また独特の構成になっている。


まず目次は

となっている。分類が種族単位である*2
当然ながら種族が違えば食生活も違い、エルフは森の植物をよく食材に使い、ドワーフは質実剛健を尊び、ティーフリング*3料理は香辛料を強くきかせるなどといった特徴がある。


目次からしてこうなので、索引のほうもやはり一風変わった構成である。
使用する食材の「カテゴリ」のほか、「店」「世界」という分類がある。これはD&D世界の著名な店や、多元宇宙に存在する各世界の料理という観点での分類である。
ちなみにそれぞれの下位分類は以下のようになっている。

  • カテゴリ
    • 牛肉
    • 鶏肉
    • 豚肉
    • 羊肉
    • 合い挽き肉
    • 野菜
    • 卵・乳製品
    • 主食*4
    • シチュー・スープ
    • スイーツ
    • ドリンク
    • 大口亭
    • 憩いのわが家亭
    • セレスチャル・ヴィスタ・レストラン
    • 緑竜館
  • 世界
    • フォーゴトン・レルム
    • グレイホーク
    • エベロン
    • クリン

店や世界の名前だけで料理の見当がついたあなたは立派なD&Dフリークだろう。
そうでなければ、カテゴリからメインの食材を選んで取り掛かるのが手軽なやり方だ。
もちろん、目次や索引の分類は気にしないで、ページをめくっていて目に留まった料理を作ってみてもいい。




【あると便利な調理器具】

料理本にはありがちなことだが、いざ実際の作業を始めようとしたとき、指定されている調理器具を持っていない場合がある。
せっかく料理を作ろうとしたのにそんなことで意気をくじかれては悲しいので、登場頻度が高く、かつ初期投資がそれなりにかかりそうなアイテムを先んじて紹介する。

  • オーブン

温度を指定して庫内の食品を加熱できる調理家電。
最近は電子レンジと一体化した便利なものがそれなりの価格で買えるため、自炊を志すなら持っていて損はない。

  • ダッチオーブン

分厚い金属製の鍋。本書では室内用のものが指定されている。
ダッチオーブンという名前でなくても、厚手で深い鍋があれば代用できる。

  • スキレット

キャンプめしでもおなじみの鋳鉄製のフライパン。
普通のフライパンで代用できなくもないが、オーブンに突っ込むような料理では持ち手まで金属製であることが求められる。

  • フードプロセッサー

野菜や肉を切ったり混ぜたりこねたりできる調理家電。
材料を細かく刻んだり均一に混ぜるような工程をよく経るようなら、時短のためにあると心強い。

  • スタンドミキサーまたは電動ハンドミキサー

野菜や果物を切り刻みながら液体と混ぜる、あるいは液体どうしを混ぜるための調理家電。
おもに飲み物を作るときに使われる。



ほか、上記ほど価格やサイズは大きくなく、よく使われるアイテムを紹介する。

  • チーズすりおろし器

チーズをおろすなんて面倒くせぇ粉チーズで十分だという見解もある。だが、こだわるならあってもよいだろう。

  • 料理用刷毛

食材に油やソースを塗るのに使用する。

  • トング

オーブンの中の物を取り出したり、料理を取り分けたりするのに使用する。

  • ミトン

本文中では触れられていないのだが、オーブン調理をするのなら両手分のミトンは必須と言っていい。

  • 本書

フルカラーでファンタジー情緒あふれるイラスト満載で200ページ超のボリュームのため仕方ないところであるが、本体4,000円+税となかなかのお値段。




【作ってみよう】

では、現実世界に生きる我々が本書をもとにD&D世界の料理を作って、どのように楽しむことができるだろうか?

  • TRPGの同好の士といっしょに
  • ファンタジー世界の食卓の再現のために
  • お弁当や保存食を用意して、野外の探検や冒険のおともに

ちょっと考えるだけでもこれだけ思いつく。
もちろん、アイデア次第でもっと色々な方法で料理を楽しむことができる。


なお、本書においてレシピにある分量や時間の単位は地球のそれ、しかもメートル法で記載されている。ヤーポンで計量して飛行機落としかけたりなんてしないよ!やったね!
また1カップ=240mlであることにはちょっと注意が必要*5だが、カップ単位で材料を計るレシピではすべて註があり、実際に調理を行うにあたって細やかな気配りが行き届いている。


そういうわけでレシピ集としても十分に実用的な本書だが、もし料理を作らないとしても本書を活用することができないわけでは決してない。
本書の随所にちりばめられた地域や種族の解説、写真やイラストだけで、D&Dが提供するファンタジーの世界観、作中世界の人々の生活に思いを馳せるための背景資料として楽しむことができる。
料理が好きな人にとっても、ファンタジーが好きな人にとっても本書は大いに楽しみの幅を広げてくれるだろう。




【アレンジしてみよう】

本書に掲載されているレシピの傾向として、肉料理が多い、カロリーが高いものが多いように見受けられる。
これは、D&D世界の種族や地域という区分けにおいて主役を張れるだけの料理が選ばれていること、ハードな冒険をする人たちのための料理であることによるものであろう。
ただそのために、シーフード派だったりダイエット志向だったりといった、読者の理想に沿わないケースが出てくるのもまた事実である。


だがD&DはテーブルトークRPG、すなわち役割を演じるゲームである。
レシピ通りに作られた料理は君の主義主張に合わないかもしれないが、ここはRPGの精神にのっとって、いろんな事情を抱えたPCになりきってアレンジを加えてみるのが吉だ。
例えば、

  • 君のパーティーには辺境の森でキノコばかり食べて育ったエルフがいる。彼は頑固にも血なまぐさい肉や魚を口にすることを断固拒否している。
  • 異国を旅する君たちはなじみ深い食べ物の代わりに現地の食材を使わざるを得ない。ブイヨンの代わりにKOMBU-DASHIで作られたスープや、マッシュルームに似ているSHITAKEを焼いた料理などだ。
  • 単刀直入に言って君たちのパーティーは金欠だ。ステーキ用の肉だなんてとんでもない!豆だけが生命線だ!

といった感じだ。
これを読んでいる君にいっぱいの想像力とちょっとの料理の腕前があれば、本書のレシピをもとに、さらなる味の世界を探求していくことができるだろう。


君の目の前に、よきファンタジーの食生活が開かれることを願ってやまない。


【余談-ゲーム内呪文としてのヒーローズフィースト】

実は、D&Dシリーズではかなり古い時代から*6ヒーローズ・フィーストという呪文が存在している。
クレリックの6レベル呪文(バージョンによってはバードも可能)で領域は基本的に召喚術。
数分かけて儀式のように呪文を詠唱すると、術者の目の前に御馳走と其れを切り盛りする給仕が召喚される、所謂クリエイトフードの上位呪文的存在。そして1時間かけて御馳走を食べ終えて初めて効果が発揮される。つまり詠唱其のものかその後の食事中に何らかの邪魔が入ると呪文は失敗となる。


無事宴を完遂すると以下の効果が発揮される。

  • HPの回復。作品にもよるが大体微量。
  • 毒・病気が治る
  • しばらくの間毒や恐怖効果が無効になる
  • しばらくの間ブレス。攻撃やセービングスローが成功しやすくなる。
  • 作品にもよるが、一時的に最大HPが増える。外付けなので呪文の効果が切れても死ぬことはない。

追記・修正は、ファンブルで料理が黒焦げになってもめげない人にお願いします。


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  • D&D本作にに登場する(戦闘前に食べてバフをつけまくる)呪文の方かと思った -- 名無しさん (2021-08-29 12:27:46)
  • 一時期、食べる系統の漫画が良く出版されていたが、アチラでは料理系でも流行ったのかな、Fallout料理本もあるし。 -- 名無しさん (2021-08-29 13:12:33)

#comment(striction)

*1 例として、コッカトリス料理のメイン食材は鶏肉で代用することを推奨されている。
*2 ヒューマンやエルフなどの間でよく食べられている料理という意味であって、ヒューマンやエルフなどを食材にした料理というわけではない。念のため。
*3 デヴィルやデーモンと人間の混血種族
*4 パンや米
*5 日本の一般的なレシピでは1カップ=200ml
*6 少なくともAD&D時代には存在していた

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