動く死体(古畑任三郎)

ページ名:動く死体(古畑任三郎)

登録日:2015/09/27 Sun 11:10:04
更新日:2024/05/19 Sun 17:34:29NEW!
所要時間:約 12 分で読めます



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古畑任三郎 古畑任三郎エピソード項目 動く死体 歌舞伎 劇場 茶漬け ひき逃げ 奈落 懐中電灯 堺正章 すっぽん 義経千本桜 盟三五大切



新しい機械を買った時には必ず説明書を読んでください。
少なくとも3回。


箱から出す前とセットした後と寝る前に。
一晩置くのがポイントです。


気を付けねばならないのは、外国製の機械で…



『動く死体』とは『古畑任三郎』のエピソードの1つである。
第1シーズン第2話。初回放送は1994年4月20日に放送。
脚本制作上『古畑任三郎シリーズ』で1作目に完成した作品。古畑役の田村正和は、この脚本を読んで出演を決めている。
古畑と今泉が初めて会ったような会話をしており、実質的な第1話に当たるエピソードとなっている。
前回の『死者からの伝言』の古畑は終始紳士的であったが、本作の古畑は犯人を罠にかける等意地悪な面を見せている。
中盤の古畑と犯人の攻防戦は必見である。
文庫版でのタイトルは「六代目の犯罪」。



※以下ネタバレが含まれますのでご注意ください。



ストーリー

人気歌舞伎役者・中村右近は、3日前の夜に老婆を車で撥ねて死亡させていた。ひき逃げである。
それを目撃していた歌舞伎劇場の守衛・野崎に対し、右近は金を払って口止めしていたが、彼は良心の呵責が限界に達し、この件で警察に自首をしようと考えていた。
夜の部の出を待つ右近の楽屋を訪れた野崎は、金を返してこれから警察に行くと右近に告げる。
右近は野崎を引き留め、口論の末につい突き飛ばすが、そのはずみで野崎はテーブルに頭をぶつけ、死亡してしまう。
右近は演目『義経千本桜』終了後、人が少なくなるまで劇場に留まり、野崎の死を転落死に見せかけるための偽装工作を開始する。
奈落まで遺体を運んだ後は、せり上がり用のリフト「すっぽん」で舞台上へ移動。天井のすのこから落ちたように死体と現場に細工をした。


その後は前もってコンビニで買ってきたお茶漬けを楽屋で食べ、劇場を出ようとする。
だがその途中で捜査にやってきた古畑とばったり遭遇してしまう。
右近は何も知らないふりをして古畑と軽く会話をするが、去ろうとした直後に呼び止められて、捜査に協力する事となる。



登場人物


【ゲスト】

  • 中村右近(なかむら うこん)

演:堺正章
歌舞伎役者。
本作では6代目を襲名しており、『なるほど・ザ・ワールド』*1等のテレビ番組にも出演する等知名度が高い。
現在は演目『義経千本桜』で主役の「狐忠信」を好演している。狐忠信は狐の化身であり、「音もなくスーッと上がる感じが欲しい」という事で、狐忠信のためだけに空気圧で稼働するドイツ製のすっぽんを特注している。


3日前に老婆をひき逃げして死亡させているが、それについては「(飛び出した)婆さんが悪い」と考え、全く反省していなかった。
それを目撃した野崎に金を渡して口止めしていたが、夜の部が始まる前に全額突き返され、これから警察に行って全てを話すと言われる。
何とかして引き留めようとするが、誤って野崎を突き飛ばし、頭をぶつけて死亡させてしまった。


その後は何事もなかったかのように『義経千本桜』で狐忠信を演じ切る。
そして人が少なくなるまで劇場に残り、抜け出してコンビニでお茶漬けとご飯を購入。
こっそり劇場へ戻るとすっぽんを使って野崎の死体を舞台上へ運び、天井のすのこから転落死したように偽装工作を行った。


偽装工作を全て終えた後は、なぜか楽屋に戻って茶漬けを食べる。
その後はこっそり劇場を出ようとしたが、捜査にやって来た古畑と出くわし、成り行きで捜査に協力する事となる。
その最中に村岡を捕まえ、「すっぽんが壊れてるようだから見ておいてほしい」と頼んだ。


古畑には飄々とした態度で接するが、彼にこの事件は殺人だと断言され、彼の様子から自分を疑っているという事に気づく。
そして、古畑が「野崎の懐中電灯が見つかればそこが殺害現場の可能性が高い」と話すと、自分の楽屋に戻って懐中電灯探しを始めた。
結局見つけられなかったが、その後古畑が楽屋を訪れた時にそれを発見。何とかして隠そうとするが、直後に野崎の懐中電灯が見つかったという知らせが入り、さらに隠した懐中電灯は古畑のものだったと判明する。
古畑が去った後でこれは彼の策略だと気づき、「あの野郎~!」と怒りに震えていた。


来月公演予定の『盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)』では主役の薩摩源吾兵衛を演じる事となっており、奇しくも殺人者の役であった。


余談だが中村右近という歌舞伎俳優は当然ながら実在しないが、戦国時代の同名の武将が歌舞伎の初代中村勘三郎の実父という説が存在している。

  • 野崎(のざき)

演:きたろう
歌舞伎劇場の守衛。
3日前、右近が老婆をひき逃げするのを目撃してしまい、口止め料を渡されて口を噤む。
だが良心の呵責に耐えられなかったのか、夜の部開演前に右近の楽屋を訪れ、金を返して警察に自首すると告白した。
右近に引き留められても応じず、強引に楽屋を出ようとするが、もみ合っているうちに右近に突き飛ばされ、テーブルに頭をぶつけて死亡してしまった。
小説版では右近の遊び仲間で、よく一緒に麻雀をやっていた。
事故当日も麻雀大会の後で、右近の車で送ってもらう途中だったらしい。

  • 村岡(むらおか)

演:有福正志
舞台スタッフ。野崎の遺体の第一発見者。
右近に「すっぽんが壊れてるようだから見ておいてほしい」と頼まれ、捜査が一段落した頃に操作盤の点検をする。
だが異常は特に見つからず、たまたま側にいた古畑に操作の手順を教えた。



【レギュラー陣】

劇場に着いて早々、自販機でコーヒーを買おうとするが、故障によりコーヒーが出てこず困ってしまう。
その時に右近と出くわし、彼に野崎が舞台で死亡した事を伝えると、彼に現場を見てもらい意見を貰う事にする。
野崎の死は殺人だと考えており、右近の“ある発言”から彼を疑う。
右近にカマをかけ、彼の楽屋を訪れた時に自分の懐中電灯を置き、彼の反応を伺った。
その結果、予想通りの反応を見せたため、九分九厘彼が犯人だと考えるが、決め手がなかったのでなかなか逮捕に踏み切れなかった。
だが、村岡がすっぽんの点検をしに来た時に、右近が犯人だと断言できる証拠を見つける。
ちなみにこの世の中で信じられない物は、「年寄りの自慢話」「通信販売の売り文句」「犯行現場の壊れた時計」*2後に右近に言われて「スポーツ新聞の見出し」が加わった。

捜査中に古畑に自己紹介していたので、今回の事件で古畑と初めて会ったものと思われる。
古畑の命令で天井のすのこに上がり、明かりを落とされるという不憫な目に遭う。
だが後のエピソードと比べるとまだまだまともな扱いであり、古畑と示し合わせて右近にカマをかける場面も。

  • 向島音吉

今回はまだモブキャラ程度の出番。
後に『今泉慎太郎』の第7話で「この事件の頃からいた」と今泉と桑原に話すも誰にも覚えてもらっていなかった。



以下、事件の真相。さらなるネタバレにご注意ください
























真相


#center(){中村右近はある決定的なミスを犯しました。


彼はあたかもやったのは自分だと言わんばかりの証拠をここに残していきました。


ヒントは、このすっぽんの仕組みにあります。


何だかお分かりになりますか?たぶん分からないでしょう。
ま、考えてみてください。


古畑任三郎でした…



  • 右近のミス

古畑が一番引っかかっていたのは、「犯人がなぜすっぽんを使用したのか」ではなく、「なぜ使ったすっぽんを元通り下ろさなかったのか」という事だった。
死体を運んで事故に見せかけたいのなら、普通だったら1回上げたものをそのままにしておくわけがないからである。
このままの状態で放置したら十中八九怪しまれるのはわかり切っているのに、何故元に戻さなかったのか?
それは犯人がすっぽんの下ろし方を知らなかったからと考えられた。


死体を運んだ犯人は、すっぽんの上げ方を知っていても下ろし方は知らなかった。
舞台スタッフは上げ方も下ろし方も知っており、関係者以外は逆に上げ方も下ろし方も知らない。
だが、上げ方だけを知っていて下ろし方を知らない人物が、1人だけ存在した。
その人物は、すっぽんが上がる時はいつも操作盤を見ているからよく知っていたが、下ろす時には一度も操作を見ていなかった。
なぜならば、下ろす時にその場におらず、彼自身がすっぽんに乗っていたから。


このすっぽんは右近が発注したもので、彼しか使用者はいない。
以上の事から、今回の事件の犯人は狐忠信、すなわち中村右近しかあり得ないと言えるのである。

  • 中村右近

劇場から出ようとした時に警官に引き留められ、そこに現れた今泉が「古畑さんが奈落のほうでお待ちです」と伝えてくる。
奈落に行くと古畑が待ち構えており、野崎を殺害した犯人だと面と向かって断言される。
それに対し「結構あんたの事を買ってたんだよ」と返すが、続けて「今の結論はいただけない」と野崎殺害を否認した。
だが古畑は右近が犯人だという結論を変えようとせず、なぜ「犯人はすっぽんを使用した後、上げたままにしていたのか」がどうしても引っかかると言い出した。
すっぽんが死体移動に使われたと古畑に見破られても、自分に繋がる証拠は残っていないと思い素直にその推理だけは認める。
そして証拠があるんなら見せてみろ。納得出来る証拠ならあたしも男だ、潔く罪を認めてやるよと迫った。


古畑が事件を解くヒントが上にあると言ったため、すっぽんを使って舞台上へ行く事となる。
古畑の頼みで操作盤ですっぽんを上げる操作を行うが、その直後に彼が上着を忘れていた事が発覚。
すぐに取りに行くも、乗るのに間に合わなかったため、再び操作盤を操作してすっぽんを1度下ろす事になるが、いくらスイッチを押しても下がらなかったので、村岡がちゃんと直していないものと思い込み、闇雲にパネルを操作し続ける事となった。
困り果てていた時に階段から古畑が登場。彼は右近がすっぽんを下ろす操作を知らない事を確かめるために、わざと上着を忘れたのである。
古畑の罠にかかってすっぽんを下ろす操作を知らない事が露見し、なぜすっぽんが壊れていると思ったのかを追及され、「本番中に調子がおかしかったから」と弁解。
しかし直後、古畑が正しい操作ですっぽんを下ろすのを見て、異常がなかった事を知る。
それと同時に、今まですっぽんが故障していると思い違いをしていた事に気がづいた。


古畑の推理を聞き「犯人は狐忠信しかあり得ない」と断言されると、「この上は、是非に及ばず…か*3と呟き犯行を認める。
そして「私が発注したのにねぇ…使い方マスターしとくんだったよ…」と悔しそうに操作盤を見つめた。
そんな彼に古畑は「村岡さんに修理を頼まなかったら多分私も気が付かなかったと思います」と語る。
右近はすっぽんが壊れていると思い込んでいる以上、明日の公演に差し支えないように村岡に修理を頼まざるを得なかったわけだが、それにより古畑がすっぽんの操作に着目し、右近の犯罪が露見してしまう事となったからである。


「だって、壊れてると思ったんだもん…」と呟いた後、古畑に「いつから目をつけてたの?」と尋ねる。
すると古畑は「最初にバッタリお会いした時からです」と答えた。
古畑が野崎が亡くなった話をした時、「死因は後頭部の打撲」としか言っていないのにも関わらず、右近は「どっから落ちたの?」と聞いた。
「後頭部の打撲」だけでは、上から物が落ちてきたのかもしれないし、誰かに殴られたのかもしれない。
なのに右近は自信を持って「どこから落ちたのか」と聞いたので、古畑は彼を怪しみ、ずっとマークしていたのである。


この答えを聞くと「あの時あんたに会ってなけりゃ…」と悔しそうにする。
その際に古畑に「どうしてすぐに帰らなかったんですか?」と尋ねられた。


来月やる『盟三五大切』で右近が演じる薩摩源吾兵衛は、劇中で芸者を殺害した後で茶漬けを食べていた。
このようなチャンスはそうある事ではないので、どんな気持ちか味わいたいがために、わざわざ夜遅くまで残って楽屋で茶漬けを食べたという。


そんな話をした後で古畑に「役者の鑑でしょ?」と言うが、犯人としては最低の行動だったので、2人でしばらく笑っていた。
そして古畑と共に警察へ行く事となり、上着のボタンを止めてすっぽんで上まで上がっていった。








追記・修正は夜の劇場で茶漬けを食べながらお願いします。


  • リスク承知で役者としての行為を優先させた犯人だが、名俳優の田村正和氏はこれに共感を覚えたのだろうか?割と気になる -- 名無しさん (2020-05-17 10:30:27)
  • 右近の「どっから落ちたの?」のセリフでなぜいきなりボロを出したのかと突っ込んだ思い出 -- 名無しさん (2020-05-18 21:31:05)
  • 最後の台詞が好きなんだよなぁ。トリックと関係ないけどより人物の深みが出て良いんだよなぁ…… -- 名無しさん (2020-06-05 17:08:15)
  • なるほどザワールドに出たことあるんだよねこの犯人 -- 名無しさん (2022-03-09 19:45:32)
  • 確か鍵となるすっぽんの操作方法が、上げるのは単純なのに下げる操作方法か妙に複雑なんだよね。 -- 名無しさん (2022-04-21 00:16:22)
  • 右近は楽屋で茶漬けを食べてたけど茶漬けを食べるだけなら別に家で出来たんじゃないか。そうすれば古畑に疑われる事もなかったのになと思った。殺人現場の近くで茶漬けを食べる事に何か意味があるのかな? -- 名無しさん (2022-12-10 11:35:44)
  • ↑そりゃ演じる薩摩源吾兵衛というキャラが犯行後すぐに食べたからじゃない?折角なら時間をおいて落ち着く前の気持ちも味わいたかったんだと思う -- 名無しさん (2023-02-10 16:11:56)
  • ↑もし薩摩源吾兵衛が芸者を殺害したあと帰宅して自宅で茶漬けを食べるという設定だったら古畑は詰んでたかもしれないな -- 名無しさん (2023-04-02 21:41:47)
  • 薩摩源五兵衛は家に帰ってから茶漬けを食べてるよ。ただし、殺した女の首を持ち帰ってその首の隣で食べるのさ。右近さんは死体を持ち帰ることができないから、死体のある現場で食べたんだろうね。 -- 名無しさん (2023-04-07 23:44:58)
  • 追記として。源五兵衛は自分を裏切った憎しみで女を殺した。そして首を斬って持ち帰り、その隣で茶漬けを食った。右近さんはどれだけ稽古をしても源五兵衛の狂気を再現しきれないと感じていたんじゃないかな。そんな折に故意ではないけど人を殺してしまった。ここで茶漬けを食えば源五兵衛の狂気に少しは近づけるのでは…そう思ったんだろうね。確かに役者の鑑だよ。 -- 名無しさん (2023-04-07 23:47:12)

#comment

*1 当時フジテレビで放送されていたクイズ番組。レポーターが世界各国の珍風習などを体当たりでレポートするもので、演者の堺正章氏は常連解答者であった。
*2 だから、野崎の腕の壊れた時計の時刻も全く信用していなかった。
*3 織田信長が本能寺において、明智光秀が謀反を起こしたと聞いた際に言ったとされる言葉。

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