登録日:2011/03/02(水) 13:47:32
更新日:2023/11/07 Tue 13:57:57NEW!
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軍事 銃 aug ブルパップ 機関銃 突撃銃 銃器用語解説 狙撃銃 機構 構造 p90
ブルパップとは銃の構造の一種である。
●最初に
ブルパップとは何ぞや?という説明に入る前に、まずは銃においてバレル(銃身)の長さががどんな意味を持っているのかについて説明しておこう。
そもそもバレルとは何のためにあるのかと言うと、薬室内で発生した燃焼ガスを拡散させずに弾丸へとぶつけ、それによって弾を加速するためにある。弾が十分に加速するまで燃焼ガスを封じ込めておくためにあるわけだ。
そのため当然ながらバレルが長ければその分燃焼ガスによって加速され続ける時間が長くなり弾をより高速で発射できるため、射程も威力も強化される。
弾速が早くなることで着弾までのタイムラグも小さくなり低伸性*1も高まり、また手ブレの影響が小さくなる(長い銃はブレにくい)ため色々な意味で命中させやすくなる。
銃身を伸ばすとこのようなメリットが得られるため、命中精度を求める狙撃銃や破壊力の求められる機関銃等は基本的に「強力な弾薬を長い銃身で撃ち出す」傾向にある。
だが銃身が長くなるということはそれだけ銃が大型化することをも意味している。
銃が大型化すると取り回しが悪くなる。例えば遮蔽物の多い森林や狭い通路の多い建物内、市街地等ではこの長銃身が障害物に引っ掛かったりして作戦行動に支障を来す上、遮蔽物に邪魔されて遠距離からの狙撃ができないため長銃身の持つメリットが潰されてしまう。
必然的に遮蔽物に邪魔されない近距離まで近寄って交戦するわけだが、長く重い銃では狙いをつけるのに時間がかかり咄嗟に近くの敵兵に狙いを定めるのが難しくなる。長い棒と短い棒、どちらが振り回しやすいかは想像すればわかるだろう。
ほんの一瞬のラグに過ぎないが、戦場においてはその一瞬が致命的になるのは明白。ヨシフおじさんの4000人の部下が白い悪魔率いる僅か32人の兵士に壊滅させられたのはまさしくこの差によるもの…かはともかく、すばやく狙って撃てるのに越したことはない。
また単純にデカいと重いし邪魔だし持ち運ぶの大変じゃん?というデメリットも無視できない。先に述べた狙撃銃や機関銃は基本的に頻繁に動かすものではなく、銃架に据え付けることが多いため多少重くてもいいのだが、人間が手に持って使う銃は軽いほうがいい。
兵器とは性能以前に「現場で実際に使う兵士が扱い易いかどうか」が重要なのである。
なら短銃身にしたらどうかと言うと、当然銃身が切り詰めてあるため銃自体のサイズはコンパクトになる。
遮蔽物の多いエリアでも銃身が引っかかることはなく、至近距離の敵に素早く照準を定めるのも容易。
小型軽量なので持ち運びやすく、また隠し持つのが容易なことから隠密行動にも向く。
こういったメリットを念頭に置いて設計された銃が短機関銃や拳銃といった小火器である。
反面バレルが短いので集弾性は悪くなり、遠距離の相手に正確に当てるのは難しくなる。
前述の通り弾はバレル内で加速されるため、同じ弾薬を使用したとしても威力・弾速共に劣る。
弾丸が遅くなった分のエネルギーは反動として人間に向かい、同時に軽量であるため銃は激しく暴れてマズルジャンプが大きくなる。
そもそもサイズに限界があるため長銃身の銃に比べて大口径の弾薬を使用し辛い。
照準線が短くなるためダットサイト等を使わないと正確に狙いを付け難いというデメリットも。
以上の事から銃身が長いと射撃性能は上がるが取り回しが悪化し、銃身を短くすると取り回しが良くなる反面射撃性能は落ちるという事が分かる。
そこで多くの人はこう考えたことだろう。
長銃身でしかも小型軽量な理想の銃が作れないだろうか
と。
そんな夢のような銃を作ろうと編み出されたのがブルパップである。
●ブルパップとは
機関部をストックのスペースに収めることで後方に下げ、銃身を切り詰めることなく全体をコンパクトにした構造の事を指す。画像も参考にして欲しい。
(M4カービン)
(AUG)
上のM4は全長850mm、下のAUGは790mmである。
5cmではあるがコンパクトに仕上がっている。何よりも銃身が全長に占める割合が大きく違う。上は60%、下は80%を銃身が占めている。
並べてみるともっとよくわかる。
(縮尺は弄ってあります)
グリップよりも後方に弾倉が配置される独特のレイアウトからフィクションの世界では人気である。
○銃の小型化
単純に短くすれば軽くなる。取り回しもしやすい。
小型化するには騎兵銃(カービン)の様に銃身を切り詰めるのが一般的だが、大幅なパワーロス、集弾性の低下など様々なデメリットが出てくる。
パワーロス…30cmの銃身の中を火薬の力で押す、10cmの銃身の中を火薬の力で押す、どちらの方がパワーが出るだろうか。
集弾性…先述の通りロスした分のパワーは反動となって銃を暴れさせる。つまり弾が散りやすくなる*2。
この為、銃身の長さを維持したまま銃全体をコンパクトにするという、ある意味矛盾した要求を満たす設計が研究され始めた。
ストック分をまるまる省けるので大幅な小型化が望めるという理屈である。
持つ位置が全体の真ん中あたりに移動した為、制御性がよくなり命中精度がよくなった。
集弾性の向上はP90やAUG等で高く評価されており、実戦でも有効である。
さらに重心が後ろになったことでバランスが良くなり、従来のM4やAKにありがちだったフロントヘビーで長時間構え辛いという問題を克服している。
○難点、問題点
画期的なブルパップだがマイナス面もある。
- ◆左利きの射手の場合、空薬莢が顔面に飛んでくるか、排莢口を頬で塞いでしまうことが多い。
- ◆全長を短くしたら照門と照星の間隔も短くなった。
- アイアンサイトでの照準に不安が出てくる。その為、多くの銃はスコープが標準装備。
もっとも最近の銃は大抵光学機器を載せる事を前提に設計されているためあまり気にはならないか。
- ◆機関部が顔の横にあるので硝煙や作動音、弾薬によっては臭いに悩まされる。加えて暴発が起きると致命傷になりかねない。
- ◆各種操作のレバーをグリップ周辺に配置するのが難しい。
- ◆銃剣と相性が悪い。
- 全長が短く従来型の銃よりも間合いが狭くなるため。
ただし、着剣可能かつ実戦で銃剣突撃に使われたブルパップ銃は実在する上、着剣機能は着けておくだけでもアドバンテージがある。
- ◆大容量マガジンと相性が悪い
- グリップのすぐ後ろあたりに弾倉が挿さるため、ドラムマガジンなどを使うと構えにくくなる。また重量が後ろに寄り過ぎて、グリップとフォアグリップで支えるのがさらに難しくなる。
- ◆既存の形式の銃から転換するのが面倒くさい。
- 恐らく普及が進まない最大の理由。各国軍隊は当然既存形式の銃を扱う事を前提に訓練を行っているわけで、そうなると転換のためにはわざわざブルパップ銃を扱う為の訓練を一からやらないといけなくなる。
またブルパップ銃とそうでない銃をごちゃ混ぜにして運用すると万一の時に操作ミスを起こす可能性があるため、必然的にどちらか片方に採用する銃を絞らなければならない。ブルパップ銃は既存形式の銃と部品に互換性がないため、もし転換するとしたらその軍隊で使用している銃はおろか予備部品に至るまで丸ごとブルパップ方式の銃に入れ換える必要に迫られる。
そこまでするくらいなら既存形式の銃でいいやと思うのも無理はないだろう。例えば中国はブルパップ方式の95式自動歩槍を導入したにも関わらずわざわざ通常形式の03式自動歩槍を開発して通常部隊に配備する羽目になった。
ただし部隊の性質上専門の訓練を受けたり熟達した精鋭を選び抜く余裕のある特殊部隊や、これから訓練を積んでいく予定の新興国の軍隊や新設された部隊、規格化の必要性が薄い民間用等ではこの限りではない。事実上記の95式自動歩槍は03式の配備が済んだ後も精鋭を集めた特殊部隊用として現役で使われている。
このような欠点・問題点が挙げられる。
○実際のところどうなのよ?
70~80年代にかけてフランスのFA-MAS、オーストリアのAUG、イギリスのL85A1、ベルギーのP90などが開発された。
しかし、残念ながら上記のような使い勝手の悪さもあり、大きな普及には至っていない。
ドイツのG36はブルパップを避けた銃であり、商業的に成功を収めている。
中国の様に95式自動歩槍を採用しながらも従来式の03式に立ち返った例もある。
一方、狙撃銃のような大型なスコープや長い全長、重い重量を持つライフルでは、軽量化、小型化、銃身の長さがとれる、といったメリットが評価され、ブルパップ式の対物ライフルや狙撃銃も珍しくはない。
これらの銃は作戦の特性上主に特殊部隊での運用が前提となるため、落ち着いて準備をする余裕があることや訓練を積んだ人員を選抜できる事からブルパップ特有の問題を無視しやすい。
○主な銃
- 突撃銃
- FA-MAS(仏)
- 大きなアッパーフレーム一体型のキャリングハンドルとブルパップ特有の構え方がもたらす独特のスタイルから「クレロン*3」の通称で知られる。
- AUG(墺)
- オーストリアのステアー(シュタイアー)社が開発したブルパップ型アサルトライフル。良好な命中精度とコンパクトさから大きな注目を集め、以後のブルパップアサルトライフルの鏑矢となった名銃。
- L85A1(英)
- RSAFが開発設計したアサルトライフル。L96にも採用された競技銃譲りのフルフローティングバレルにより命中精度は良好、スチールプレス製レシーバーにより強度も確保しつつブルパップ方式採用で取り回しもよい
と書くと優秀そうに見えるが、その実態は構造の欠陥からジャムと閉鎖不良が頻発する弾の出る槍・鈍器などと揶揄される欠陥品。細かいところを見ても排筴方向をスイッチできない、セレクターとマグリリースレバーが左にしかないなど欠点が多い。だが現行モデルは改修で現在は普通に良い銃になっている。 - F2000(ベルギー)
- ベルギーのFN社が開発したアサルトライフル。右利き左利きどちらでも操作し易いように下向きに排筴する方式にすると空薬莢が足元に散らばることで踏みつけて転倒してしまう事故が起きてしまう問題があったが、F2000ではチューブを介して斜め前方に排筴するという方法でその問題を解決した。
排筴までにチューブを通る仮定で空薬莢が冷却され、熱々の空薬莢が隣で撃ってる味方を直撃する問題も解決するという思わぬ効果も。ただし面倒くさい排筴機構を採用したせいでジャムした時の対処が厄介という新たな課題に直面している。 - タボールAR-21(イスラエル)
- IMIから小火器部門が独立して出来たIWIが開発したアサルトライフル。外観的にはゴツくなったステアーAUG。
カービン仕様のCTAR、バイポッドとスコープを装備してマークスマンライフル風のカスタムを施したシャープシューター仕様のSTAR、バレル部分からグレネードランチャーをぶら下げたGTAR、ハンドガード周りを改良してコンパクトに仕上げた短機関銃モデルのMTARなど多数のバリエーションを有する。 - QBZ-95(95式自動歩槍)(中国)
- 1995年に採用された中国ノリンコ(中国北方工業公司)製アサルトライフル。アッパーフレーム一体型の大型キャリングハンドルなどFA-MASに影響されたと見られる部分が多く「チャイナトランペット」とも呼ばれるが、開発に当たってはステアーAUG等を参考にしたともされる。
現場の兵士からは不評だったようで後に03式開発の切っ掛けとなったが、95式自体は改良を重ねながら特殊部隊や空挺部隊向けに今でも運用が続いている。
中国以外ではカンボジアやバングラデシュ等で改良型のQBZ-97(97式自動歩槍)が運用されている。また、ブルパップ特有のリロードの遅さを改善する訓練も行っているため、慣れている兵士は従来のM4等よりも素早くリロードしている例がある。
- 短機関銃(PDW)
- P90(ベルギー)
- 狙撃銃
- WA2000(独)
- 対物ライフル
- LAR グリズリー ビッグ・ボア(米)
- バレットM90(同上)
- ZID KSVK(露)
- IWS2000(墺)
- ステアー社の開発した対物ライフル。高精度かつ十分な威力をもった狙撃が可能な火器の開発の結果生まれた。
15.2mmAPFSDS弾という本来は戦車砲などに使用されるAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)をそのまま小銃用にスケールダウンした弾薬を使用する小銃サイズの戦車砲ともいうべき代物。
高い初速と貫徹力を持ち1000mあまりの距離から軍用装甲車の装甲版を貫通可能とされる。
しかし15.2mmAPFSDS弾に問題があり*4、精度には難があった。試作モデルでテストが続けられたものの最終的に開発は頓挫した。
何故「ブルパップ」?
定かではないが、パワフルかつコンパクトという意味でBull pup(ブルドックの子供)ではないかと言われている。
追記・修正よろしくお願いします。
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▷ コメント欄
- 実用突撃銃として初めてブルパップ方式を導入したのは旧ソ連製のTKB-408らしい -- 名無しさん (2017-07-03 18:58:24)
- ゲームだと訓練や整備なんて関係ないのでバランスの良い銃になることが多いな -- 名無しさん (2017-07-03 20:24:41)
- 単純に名前がカッコいい -- 名無しさん (2021-12-17 20:35:24)
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*2 また人が持つにあたり、銃身が短くなると手ブレの影響を受けやすくなる
*3 「トランペット」はよく知らない人による誤解
*4 装弾筒がうまく外れなかったらしい
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