「よう。てぐすさんだぞ、モル。驚いたか?」
「来ると思ってなかっただろう。てぐすさんも来れるとは思ってなかったからな」
「トレンチの給仕をな、傭兵が早上がりさせてくれたんだ」
「『今晩はモルさんと一緒に居てあげるといいよ』って。傭兵は、本当にいい傭兵だ」
「さて、今日は何の話をしてやろう。……話題に出したし、トレンチの話をするか」
「今日のトレンチは賑やかだった。いつもそうだが、いつもよりも一段に、だ。」
「朔乃や入太がぞろぞろ身内を連れてきてな……。どれくらいかというとえっと確か1、2、3……とにかくいっぱいだ」
「まず店にこの人数が収まるのかどうかハラハラだった。次はてるの精神が心配だったが、そっちはだめだった」
「まあてるは弱いからな、仕方ない。てぐすさんはモフモフして落ち着かせてやったぞ。てぐすさんは優しいからな」
「傭兵は『こりゃ今日はもう貸し切りだねえ』と笑ってたな。」
「それに朔乃がてるを見て『てぐすさんのモフモフもそうみたい』というから、てぐすさんは『順番だ』と言ってやった」
「『お利口さんにしてる』と言葉通りに待ってたから。えらいぞ、といつもより念入りにモフってやった。」
「おまけで頭も撫でてやった。今日のてぐすさんはクリスマスサービスデーだったな。」
「来た人間の顔も面白かったぞ。半分くらいは初めて見る奴だったかもしれない。中でも……聞いて驚くなよ?」
「イタリアの13席からも1人来たんだ。しかも、朔乃じゃなくて入太の知り合いの知り合いだから、ということらしい」
「人間はどこで繋がってるものかつくづく本当にわからないよな。しかもサメの着ぐるみとか絵面も面白かった」
「入太と……入太の知り合いが連れてくる奴は個性が強い。仕事が歌手とか女優の子供とか、探偵とか居た」
「どうやったらそんなやつらと知り合うのかつくづく謎だ。てぐすさんの知らない事がまた一つ増えてしまった」
「そういえばダンデの部下も随分と様変わりした。昔なら、てぐすさんが知らない奴なんて一人もいなかったのに」
「『久しぶり』より『初めまして』を言うことのほうがずっと多い。そんな気がする」
「ああでも、久しぶりも今日は言ったな。フェンネルも来たんだ」
「最近はなんか……しょぼくれてる気がするのが多かったけど、心底楽しそうにしてた」
「それを見てるとてぐすさんもなんだか嬉しくなってきたぞ。いいだろう、羨ましいか、モル。」
「一つ閃いたから、『フェンネル、おまえは毎日クリスマスパーティをしてたほうがいいぞ』と言ったら笑ってた」
「『ウハハハ……てぐす、君はやはり賢いな』と。ふっ、あいつは見る目があるな。陰険高血圧片眼鏡とは違う」
「フェンネル……そういえば!てぐすさんがモルのところへ行くと聞いて、あいつがケーキを持たせてくれたんだ」
「あやうく忘れるところだった。飛んでるときはちゃんと気を遣って飛んだから心配はいらないぞ」
「ほら……」
「あー……」
「こっちの綺麗な方をやろう。よかったな、モル」
「それにお前が甘いの嫌いなの知ってるからほら、ショコラの。てぐすさんはフルーツたっぷりケーキがいいんだけどな」
「うん……うまいな。傭兵の手作りとか、てるの兄が差し入れるコンビニのやつもうまいが。いいやつの味がするぞ」
「やっぱり甘くないけど」
「ほら、モル。たまには一口くらいどうだ。ただでさえ、外にも出ないから真っ白けでがりがりなんだし」
「……」
「あっというまに食べ切ってしまった。モル、いらないならてぐすさんがみんなもらってしまうぞ」
「……冗談だ。ちゃんとラップをかけてしまっといてやる。まあ、明日にはさすがにてぐすさんのお腹の中だが」
「明日の夕方……昼……うん、昼だな」
「はーしれそりよー、かぜのなかにー、ゆきのなかをー、かるくはやくー」
「モル。そういえば、このオルゴールのことを覚えてるか?」
「お前がてぐすさんの最初のクリスマスにこっそり贈ったものだ。そう、お前が贈ったと、てぐすさんは知ってる」
「しらばっくれてたけど、あの頃オルゴールが好きなことはお前しか知らない。後々フェンネルにも吐かせた」
「モルはてぐすさんのことをちょろいと思っている節があるな?だがそうはいかないぞ。……しかし」
「サンタクロースがお前だと知ったら、世の子供たちは驚くだろうな。でもてぐすさんはそんな夢を壊すような真似はしない」
「でも、モル。ずっとお前が寝てちゃ、他のサンタクロースは困るんじゃないか?」
「なあ」
「なーぁ」
「……オルゴールのここ、鍵があるだろう。宝物をここにしまおう、って。なんて数字にしたか、忘れてしまったんだ」
「なんなら中身も覚えてない。けど、すごい気になって仕方がない。お前も気になるだろう。ほら、一緒に見よう」
「だから何番か、教えてくれ」
「0013」
「えっ」
「お前が決めた数字だぞ。それに何度も聞かれたし、その度に答えたはずだ。阿呆め……が、ゴホッゴホッ」
「…………」
「阿呆はどちらだ。この、寝坊助のサンタクロースめ」
コメント
最新を表示する
NG表示方式
NGID一覧