作中に出てくる伝承や英雄譚のまとめ
第一章
アウレリア・・・イメージシンボル/金色の星と群青の海
<春の宮殿6>
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遥か昔、西のアウレリアを建国した一族は、この大陸に最後に訪れた民だった。
先にこの地に住んでいた民族は、彼らを〈来航者の一族〉と呼んだ。
彼らは優れた航海者であり、錬金術師であり、故郷を失った亡国の民である。
あるいは行き過ぎた錬金術によって祖国を滅ぼしたのかも知れない……という言い伝えが残っているが、詳細は定かではない。
どこから来たのか、どのような過去を持っていたのか、それらは全て歴史の闇に飲まれて消えているのだ。
それらの言い伝えに一片の真実が含まれているが故か、アウレリアの民はいくつかの技術を禁術として抹消していた。
伝説にのみ伝えられている人造人間の作成技術などがそれにあたる。
イグニシア・・・イメージシンボル/赤い火炎と金色の竜
<伝令の島2>
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南方カルキノス大陸の属州イグニシアに生まれた奴隷戦士が、一人の天使に見出される。
奴隷戦士は天使に与えられた竜を操る力によって、当時イクテュエス大陸を支配していた吸血鬼を退け、イグニシア始祖王として即位した。
イグニシア始祖王は、イグニシア以外からはイグニシア侵略王とも呼ばれている。
<伝令の島3>
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昔々、〈伝令の島〉が〈屍者の島〉と呼ばれていたころのことだ。この島は、悪い人食い巨人が支配していた。
人食い巨人の名前はカイン。
伝説によると、唯一神の御使いがカインを倒し、島を解放したので〈伝令の島〉と呼ばれるようになったのだとか。
イグニシア始祖王と戦ったキャスケティアの王の名前もカインらしい。このカイン王の代でキャスケティアは吸血鬼ヴァンパイアの国となり、彼は狂王と呼ばれるようになったのだとか。おそらく始祖王が吸血鬼ヴァンパイアを倒した故事と、その後に長らく続いた巨人戦争が混ざってしまっているのだろう。
ノットリード
<放蕩息子達の故郷3>
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西北の地に落ちた災厄〈炎の魔剣〉。
大昔、この土地を欲しがった北の王子から、西の王弟が己とこの地を守るために敷いた天上の業火だ。
王弟は大人しく引き下がらなければ、あの業火が敵も味方ももろともに滅ぼすだろうと警告した。
強欲な王子は、自分の物にならないのなら滅びてしまえと、王弟の首を刎ねた。
その結果、焼け爛れた溶岩が降り注ぎ、ほんの数分間で西北部を灼き尽くした。
私が本で読んだ話とは細かに異なる伝説だった。ハロルドが父や母から聞いた言い伝えなのだろう。
ルーカンラント
<首無し王子の霊安室3>
- 狂王カインの手によって、ルーカンラントの王子が生きたまま顔の皮を剥がされ、守護獣だった狼の顔の皮を被せられた。あるいは斬首され、狼の首と繋ぎ合わされた。王子はその後、屍鬼として蘇らされたと言われている。彼の許嫁だったハーファン王家の魔女は、その王子を殺そうとしたけど、結局魔女は死に、王子もまた永久に行方不明になった。
- その結末は北でも諸説あり、地方ごとのバリエーションも豊富で、史実では王子と王女の生死は不明らしい。
北のルーカンラントは白い雪花と銀色の狼。
東のハーファンは銀色の月と黒い森。
- 契約の獣との謎かけに勝つと、何でも一つだけ願いを叶えてくれる奇蹟の獣
- 流行り病で大勢の人が死んだ時に、契約の獣に願ってその病を食べて貰った話
- 獣が病を食べてくれたので、人々は命を救われた。しかし、契約した人物は代償として獣に丸呑みにされてしまった。その人は聖人として祀られてる。
- 蛇の害に悩まされてた少年が、獣と契約して蛇を操る力を得る話。契約の獣は蛇の王との勝負に勝ったことがあって、蛇の一族の支配権を持っているんだって。
- 願いを叶えるだけじゃなく、代償に血肉を要求するパターンもあるんだ。少年が獣に殺されそうになったが、謎かけ勝負を持ちかけて勝利することで人間に都合の良い契約をした……っていうのがこの壁画なんだ。この獣は神様にかけられた呪いで、謎かけを仕掛けられたら受け入れるしかないらしい。
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大聖堂前の広場には、大人の背丈の二倍ほどの高さの記念碑が立っている。
「あんまり大きな声では言えないんだが、契約の獣はイグニシア王家の祖神でもあるんだ。この記念碑の台座は唯一神の信仰と合流してからのものだが、柱は古代ロムレス時代にカルキノス大陸で作られたものだ」契約の獣には太陽の下に眠るって古い詩があった「契約の獣を信仰していた時代の碑文を一度全部削り落として、現在の唯一神の讃歌が彫られた姿になったんだってさ。残っている聖句はその時の消し残しだそうだ」
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薬草工房や診療所には、必ずと言っていいほど猫顔の怪物を模した装飾が施されていた。病魔喰いの大山猫と呼ばれたその飾りは、出入り口や水回りに置かれ、侵入してくる病気を食べて撃退する縁起物とされている。
露店などにも契約の獣の痕跡はあった。その獣は子供の守り神でもあったらしい。猫目石で作られた妊婦や乳児用の護符が、今でも〈伝令の島〉のあちこちで売られている。
古いいくつかの寺院跡や祠には、多種多様な契約の獣の伝承が残っていた。楽器を手にした怪物の像、擬人化された猫の怪物が活躍する壁画、古い祭壇につけられた獣の爪痕と呼ばれる深い溝。
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契約の獣は蛇の支配権を持っている。
始祖王の守護天使は、竜を操る力を与えた。
唯一神とともに壁画に描かれていた獅子の頭をした天使。
薬壜を手にした天使。
流行り病を喰らって人々を救った契約の獣。
お守りになった病魔喰いの大山猫。
高熱を発する爪を持つ神獣。
天使の掲げていた炎の剣。
彼女の体は物質ではなく、熱と光でできている。
前世の世界で、天使は何で出来ていると言われていた?
これは、ザラタンの伝承と、ちょうど逆のことが起こっているのではないだろうか。
元々はパリューグという一体の怪物だった。
しかし、それが複数の名で呼ばれ、語り継がれていくうちに、別々の怪物として人々に記憶されていった。
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『その通りよ、錬金術師エーリカ・アウレリア。
妾は唯一にして至高なる神の第一の御使い。
千の腕持ち遍く世界を照らす太陽の、左眼より生まれた者。
神に賜りし妾の名は疫病。
我が王、始祖王ギヨーム・イグニシアに授けられし名は幻猫パリューグ。
妾は伝令。
妾は炎の剣を揮う者。
妾は病を取り除き、蛇を従える者。
妾は幼子を守り、人々の願いを聞き届ける者……だった』
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『今の妾は、かつての力を失ってしまった。もはや残り滓に過ぎない。
巨人を屠り、吸血鬼を屠り、賢き者や心優しき者の願いを叶えるために、妾はあまりにも多くの力を使ってしまった。
蛇の王を喰らい、数多の病を喰らい、我が王の愛した民を救うために、妾はあまりにも多くの力を失ってしまった。
神のために、人のために、妾は力を尽くしてきた』
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『それなのに、妾は人々の記憶から忘れ去られた。
もはや誰も妾を覚えていない。
もはや誰も妾に祈ることはない。
我ら御使いの力の源は、人間達の信仰。
それを失ってしまっては、目減りした力を補充することもできない。
このまま妾は、緩やかに消滅していくのだと、そう思っていた。
あと一度か二度、誰かの願いを叶えたら……そうでなくても、ほんの十数年もすれば、妾は存在を維持出来なくなって、消えてしまうだろう。
その滅びを受け入れているつもりだった──』
- 第三次巨人戦争の時代、カルキノス大陸遠征中の苛烈王ジャンの逸話。
王の部隊は敵中で孤立し、悪天候によって巨人の包囲に気づくことができず、危機に陥っていた。
しかし、王の乗騎であったユリゼンは助走なしに飛翔し、危機を救ったことがある。<騎乗槍試合5>
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イグニシアはギガンティアとの戦争で劣勢を強いられ、伝令の島を敵船団に包囲されていた。
もはや陥落寸前と言われたある日の払暁、まだ一兵卒だったジャンは天啓を得て、アーソナやサーマスをはじめとする歴代の王竜を呼び寄せることに成功する。
年経た巨大竜の圧倒的な戦力によってギガンティアの船団を追い返し、一躍英雄となったジャンは時の王女を娶り、次代の王となった。<空の玉座2>
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