文明人之纂略046
文明人之纂略 作者:黒須輝046 自室 「ふむ、なかなか悪くない」 俺は自室のマットに腰を下ろす。厚みがあって断熱や緩衝などの機能を十分に果たしている。柄は曼荼羅、或いはトルコ絨毯のような色彩。おそら...
文明人之纂略 作者:黒須輝
「お手間を取らせてしまって申し訳ありません」
「いや、構わない。君の働きを見ていて、私も何か手伝えればと思っていたところだ」
滞在2日目。俺は魔法指導を護衛の一人、 Cienna に頼むことにした。セナはポールの柔和さやジェフの快活さはなく眼付きが鋭くて堅い印象を持つが、親切な男だ。
本来なら自力で魔法を覚えたかったのだが、諦めた。『世界魔導概論』にはこう書いてある。
▼▽▼▽
修練はやはり、『習うより慣れろ』に尽きる。書物は重要な教材であり、上達の手掛かりが詰まっていることは言うまでもない。しかし、欠点もある。
書物は文字によって、例えば泳ぎ方を教えることはできるけれども、肝心な筋肉の動かし方は教えられないのである。つまりどれだけ賢い赤ん坊がいても、それが一度も体を動かしたことがなければ、書物はその子に泳ぎを教えることはできない。
魔導とはそれに近い。
▲△▲△
ジューク・コア博士によれば俺は体を動かしたことのない赤ん坊だ。経験というものを欲している。
そんな折、運良くセナに指導を仰ぐことができ、裏庭で訓練することとなったのだ。
「宜しくお願いします」
ペコリ。
「うむ、ではまず基本的なことから始めよう。必要なのは、精神を研ぎ澄ませて体の内外に存在する魔力を感じることだ」
早速だがちょっとタイム。
……科学じゃなかったのかよ。精神を研ぎ澄ませるとはまた難しいことを言う。いや寧ろ、それができればいいのか。『世界の理を外れる』方法にしては楽な作業だ。
まずは試してみよう。うーむ……
「―――――右後方にリゼがいます。こちらを見ていますね」
「君の気配察知能力にはいつも驚かされる。しかし残念ながら魔法ではない。魔法ではないことも恐ろしいのだが」
うーん、やっぱりそうか。魔法を使える人種とはいえ、感覚を制御するプラットフォームは黒須輝の占める割合が高い。黒須輝は魔法など使えないから、必然的に嗅覚・聴覚などの感覚器官を頼ることになる。
セナが溜め息を吐く。
「仕方が無い。アレックス、掌を見せてくれ」
掌?そういう手相とかがあるのかな?
右手を差し出すと彼は小さな声で「少し荒っぽくなるが……」と呟き、彼の大きな手と重ね合わせた。
―――――その瞬間。
「ひぇあっ?!」
悪寒が走る。形容するなら、血管や骨髄にお湯を注ぎ込まれた感じ。一瞬で肘まで遡ってきたので思わず飛び退く。
「やはり、反応が早いな」
「な、何……?」
「気付かないか?」
呆気に取られていたが、その言葉にはっとする。先程とは確かに違う。空気とは異なる粘性を持った流体が肌に触れ、体内に宿っていることが分かる。
新たな目が開いた感じだ。
「後ろを見てみろ」
「後ろ?……うわっ、何だコレ?!」
促されて振り向くと、気泡のない氷のように透明な、刺々しい8本の腕が地表から生えて俺に迫っていた。襲われる寸前だったのか?
「これは君の防衛反応だ。異物である私を正確に狙っている」
セナを?言われてみれば、腕は全て俺を取り囲むように広げている風にも見えなくない。総合すればつまり、これは俺が作り出したということ。信じ難いが。
「それにしても、この物質は何ですか?氷ではないみたいですが」
コンコン、と小突いたが、温度は感じられなかった。常温だ。地面に生えているということから石英、二酸化ケイ素の類と推測してみるも、体積からしてそこまで抉られた形跡は見当たらない。
「それは魔力の素が君の意思で結合したものだ。物理的特性を持つが、厳密には物質ではない」
「へぇ……私の意思で」
「どうだ、腕なんだから動かせるんじゃないか?」
いや、それは無茶じゃないか?謂うなれば、「尾骨があるんだから、尻尾の動かし方もわかるだろ?」と聞かれているようなものだ。反射で動くことはあっても、意識して操作するのは難しい。
「心配するな。その腕が形を保っているということは、本体の君とまだ繋がっているということ。落ち着いて集中すればできるはず」
「分かりました。やってみます」
俺は腕に相対する。流体と固体の感触を必死に探る。固体との繋がりを敏感に捉え、体の一部として認識すると、だんだん支配する感覚が鮮明になってきた。脊椎がゾクゾクと内側から疼くような違和感を覚える。
「こう……かな?」
小指から順に閉じるよう操ってみると……4対の腕が連動して俺の指示に従った。
「お見事」
「できた!」
駆け寄って来たリゼにもガッツポーズで合図する。
「アル、おめでとう!やっぱり才能あったね」
「ありがとうございます。握手してくれますか?」
「それは嫌な予感がする」
ちっ、鋭い。
セナにされたことを試したかったのだが、気配が漏れていたらしい。
「では続きをお願いします」
気を取り直す。到達したのはまだ序盤だ。スタートラインに立てたばかり。時間もないので次に進まねば。
「そうだな。一旦魔力が尽きるまでこの操作を練習しよう。慣れてきたら上の段階へ移行する」
「はい」
本によると確か……
▼▽▼▽
魔力は宛ら体力の如く消耗する。魔導を行使する力の源は体内から供給されるためだ。それが尽きれば魔法・魔術は使えない。
一方、人間には消費した魔力を回復する能力も備わっている。但し消費ほど速いものではなく、山に漉される清水のようにじんわりと貯まる。適宜休憩すると良い。
体力が鍛えられるのと同じく、魔力も消費と回復を繰り返して増えていくのである。
▲△▲△
だったか。とにかく消費あるのみだ。
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