文明人之纂略038

ページ名:文明人之纂略038

文明人之纂略 作者:黒須輝

038 【物質操作】


▼▽▼▽

 魔力を扱えるようになると、自身の知覚範囲が拡張される。鋭敏な者だと視界外の状況を把握できたり、微小な物体の細部にまで意識が及ぶこともある。後者は特に重要で、これから記す【物質生成】に大きな役割を果たす。
 『魔力』と太古の人類は名付けたが、空間の大半を占めているのは『魔素』とでも呼ぶべき流動する粒である。この魔素は魔力や、魔素の運動で発生する波の影響を受けて変質し、様々な物質に似た振る舞いをすることが分かっている。
 この振る舞いを人工的に起こすのが【物質生成】である。
 先にも挙げた【灯火】は、魔素を可燃物に変質させて火を点けた状態を維持したものだ。同様に水や金へと変質させることもできる。対して魔力は、磁力や熱といった非接触的な力へと変質する特性を持っている。
 これらを組み合わせて指定した物質を思いのままに操る魔法的技術を、一般に【物質操作】と呼ぶ。
 但し、魔素で生成した物質を摂取したり、使用する道具の部品に用いてはならない。なぜならそれらは、時間経過や過度な損傷で魔力に還元されるからである。これを『物質量保存法則』という。
 一般に重い物質ほど還元に要する時間や損傷は大きくなる。よって金などの貴金属は還元されにくい物質となっているが、これらを詐術に利用することは禁止されており、重罰が課される。
 また、魔素で生成された水を飲んだり、空気を吸う行為は非常に危険である。
 前述の通りそれらの物質は必ず魔素に還元される。もし身体を構成する物質が突然魔素に換わったらどうなるか想像してほしい。
 少量なら生物は耐えられるかもしれない。しかしその量が増えて耐えられる範囲を超えた場合、生命活動に支障を齎し、最悪死に至る可能性もある。
 魔法は人のために用いると非常に便利な力だ。しかし扱い方を誤るとその力は途端に牙を剥く。性質を理解し上手く付き合うことが魔力を使う者に課された義務なのである。

▲△▲△

 「—————この頁と、アルがずーっと炭を睨んでいるのとは、どう繋がるんだい?」
 「分かりませんか?」
 「分からないね」
 コア博士によると、魔法とは魔力と魔素の組み合わせらしい。物理学にすると波動と粒子の組み合わせだ。ここに対応があるとするなら、魔素の変質で再現できる範囲は素粒子まで届くはず。
 というのも、魔法によって光を再現できるなら、魔素は光子より小さいという仮説が立てられるからだ。そして究極的にそれは、この世界を構成する『ゲージ』まで再現できる事に繋がる。
 その能力を使い熟すにはまず、本物の物質をどこまで【覗き】込めるかが鍵になってくるだろう。
 「あー、見えてきました。見えてきましたよ」
 マジシャン(手品師)みたいなセリフを零す。
 実際には視覚的な『見える』とは違い、触覚も混じった不思議な感覚だ。黒須輝の記憶には該当するものが無いので、アレックスのセンスに頼らざるを得ない。
 『見えて』いる存在は不確定性原理に因るものか、はっきり「ココのコレ」と特定し難い雲のような感じだが……
 ふむ、魔力と魔素をこれに似せれば良いのか。
 魔素はスピンも熱的振動も、おそらく質量すらない、ただ魔力が基底状態で存在するだけの粒だ。はっきりと【見え】るので、操るのは物質よりも容易……
 「アル。傍からすると君、かなり変だよ?」
 「大丈夫です、気にしませんから。それよりも……ほら、【物質生成】[C:炭素]です」
 覚えたての【魔力操作】で、凝視していた炭の塊を真似てみる。
 12粒の核子によって構成される原子、そのうち6粒は電気的な偏りを持たず、残りの6粒は周りを飛ぶ小さな6粒と対になる電気的特性を持っている。
 俺はこれを便宜上、周期表に則り『炭素』と称した。
 この炭素は所謂[¹²C]、安定同位体とされる物質であるが、今の操作感だと[¹⁴C]といった放射性同位体もできそうだ。
 「おおっ、良いね!問題無さそうだよ」
 俺を讃えるようにリゼは俺の両肩を叩く。ほっと一息。
 「安心しました。神童の折り紙付きですね」
 「神童はやめておくれよ、悪魔の子にそう言われると恥ずかしくなってくる。それより、まさか2日でその域に達するとはね」
 「リゼとセナのお陰です」
 「またまた。君はもう少し誇ってもいいんだよ」
 彼女にはお世辞と思われているようだが、指導者の経験や技量は上達に不可欠な要素だ。プロフェッショナルと天才が教師の短期集中レッスンだからこそできたのだと思う。
 「加えて、この炭に特定の波を当てると……」
 「ほう、【灯火】かい?」
 「その範疇に含まれるかは不明ですが」
 発火点を超えた炭は白く淡い光を伴って熱を放つ。火傷をしないように魔素を結合させた腕で持てば、成る程、俺が初めて見たジェフの【灯火】と構図が見事に合致している。
 あの時は魔力の目が開いていなかったので宙に浮かんだように見えたのだろう。
 火事になっては困るので、速やかに魔素へ【還元】する。
 「いや〜、君を見ていると飽きないよ」
 リゼが楽しそうに笑う。
 「それを言われたのは3人目です」
 「2人は君の兄上、姉上かい?そう考えると光栄だね。さ、明日は朝から忙しい。少し早いが寝ようじゃないか」
 「ああ、私はもう少し作業をします。ごゆっくり」
 「そうかい?では失礼するよ。お疲れの出ないようにね」
 実は費やした時間のウエイトを魔法修練に傾け過ぎて、服の誂えがまだ終わっていない。パーカーとシャツの間に着るベストなのだが、徹夜になるだろうな。


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