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★転生のメカニズム [7e3de1]

 転生モノの特徴は二つある。①前世の人格が受け継がれていること②その記憶に劣化がみられないことである。ここではそのメカニズムを考察する。

①前世の人格が受け継がれている

 転生といえばコレ、と捉えられ、転生モノでも多くみられる観念であるが、輪廻転生*1の大本となるバラモン教*2を調べてみても、筆者の解釈では、受け継ぐのは業のみで記憶は含まれない。ユダヤ教系列の宗教ではまず輪廻を肯定していない。「記憶を持ったままもう一度この世に」というのは基本的に『復活』であって、そういった宗教では死者の肉体の保存つまりミイラ化が行われている。古代エジプトなどだ。生前の魂が入るのは生前の肉体、という思考である。科学的立場からは魂の存在を確認できておらず、事例は報告されていても検証の困難さから真偽は不明だ。

 地球の宗教観からすれば、記憶を保持したまま転生するというのはマイノリティに含まれるといえる*3。言い換えれば、それらの宗教で以て異世界転生について何らかの説を論ずることはできないし、それらの宗教で以て異世界転生について何らかの批判をすることはナンセンス以外に相応しい言葉がないだろう。

 これらの前提を確認したうえで考察したとき、筆者は転生者の肉体が何らかの強力な魔術に掛かっているという説に至った。それが単なる『現象』なのか、上位存在による『操作』なのかについては言及しないが、転生前の人格がデータ化され、魔力や魔素に乗って胎児の脳に保存(ダウンロード)された特殊な事例が転生ではなかろうか。出生前なので『憑依』ではなく『転生』といえるだろう。

 ただしダウンロードしたといっても、zipファイルは解凍を、exeファイルならばインストールを要するのと同様に、そのままのデータが機能するとは限らない。処理が完了するまでは待機中の扱いとなり、従来の人格(赤ん坊の本能)が生命活動を担うだろう。処理に要する時間は脳の発達やデータ量の関係で、生まれてすぐの場合から5年や10年かかる場合まで個体差があるのかもしれない。

 この仮説であれば既存の宗教に干渉せずに、魔法という事象が存在する異世界転生作品を包括的に説明することができる。魔術を証明できない科学には批判が入り込む余地がない。

②記憶に劣化がみられない

 異世界転生モノを読んでいて思うのが、記憶の持続性だ。

 転生から何年経つかは物語の進行によるが、なろう小説ではティーンに主な舞台が当てられることが多いので、ここでは16歳としよう。転生を1歳で自覚したと仮定すると、データの更新は約15年停止していることになる。それほど長い期間、復習や記憶の反復を行わなかったら、一般的に考えて忘却している蓋然性が非常に高いし、15年間に起こった出来事の記憶で上書きされていても不思議ではない*4

 大学受験に使った知識がどれだけ残っているかを考えてみれば、各々実感できるだろう。日常で使わない知識など、教科書もなく思い出すのはほぼ不可能だ。「やった」という経験の記憶しか残っていない。にもかかわらず、転生モノの主人公は現代知識を余すことなく利用している傾向がある。

 もちろん、これは作者が人間の記憶力を考慮し忘れているが故に起こる現象である。しかし、メタ的な理由を持ち出していてはキリがない。物語の次元だけで解釈するなら、データのあり方が通常の記憶とは異なる説が有力である*5*6*7

 あり方には⑴オンラインストレージ*8型⑵ROM*9型が考えられる。

 ⑴は、人間の脳にインストールされるのはストレージと同期するクライアントソフト*10のみで、記憶そのものを格納しているのは体外の魔法的な何らかのストレージであると解釈したもの。脳への負荷が少なく、データはアクセス時に取得するので常に『新しい』。ただし通信が切れれば(魔術が解けたら)ストレージへのアクセスは不能となる。

 ⑵は、人間に書き換え不能なROM領域(海馬*11かは不明)があるとし、魔術(ROMライター*12)によって強引にファイルを格納したと解釈したもの。脳への負荷が大きく、処理に時間がかかることが予想される。オフラインで利用でき、取得するデータは常に『同じ』。脳というハードウェアに書き込まれているため、従来の人格と親和性が高くなるだろう。

 もしかすると、胎内ではクライアントソフトのみをインストールしておいて、ストレージ容量が十分確保された後にオンラインでROMに書き込まれるという複合型もあるかもしれない。ただしデータ化*13に際し、分解能の関係で情報に欠落や誤差が生じることは有り得る。これが転生時の記憶喪失の原因であると思われる。

関連

*1.輪廻 *2.バラモン教の苛酷な輪廻思想と仏教の六道輪廻の違い *3.ただし浜松中納言物語をはじめ、娯楽作品には今昔問わず多い *4.「記憶」はどのように形成され、なぜ記憶を忘れてしまうのか? *5.神経回路網 *6.オートマトン *7.下部 *8.オンラインストレージ *9.ROM *10.クライアント *11.海馬 *12.ROMライター *13.AD変換 §001 §007 §040


人間の脳はコンピューターのそれとは異なるのでどこまで適用できるかは不明だが、書き換えはある程度可能だろう。少なくとも書き込むことは可能だ。揮発性というのは電源を切ったときに情報が消去されるか否か(揮発するか)という性質であるが、完全な脳死及び心臓死を経て回復した人間が報告されていないため不明である。不揮発性の書き換え可能なメモリを強いて挙げるならDNAだろうか。
作成 2019/04/14 更新 0000/00/00

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