文明人之纂略046
文明人之纂略 作者:黒須輝046 自室 「ふむ、なかなか悪くない」 俺は自室のマットに腰を下ろす。厚みがあって断熱や緩衝などの機能を十分に果たしている。柄は曼荼羅、或いはトルコ絨毯のような色彩。おそら...
文明人之纂略 作者:黒須輝
城に到着した俺は一旦リゼと別れ、待合室のような場所へ通された。セナが警護してくれている。
こういう部屋をキャビネットというのだろうか。それともサロンかな?ジャックの仮面越しに目だけで室内を見渡す。絢爛豪華な装飾は来客に力を誇示するようだ。
「お茶を、どうぞ」
「ありがとうございます。いただきます」
16、7と思われる少女が紅茶を出してくれた。この場合メイドには該当しないよな、公務員だもんな。給仕あたりが言葉として妥当か。
お仕着せっぽい統一感のある、踝丈の機能的なドレスは観察していて面白いが、それよりも特に目を引いたのは彼女の容姿だ。
色気付いた訳ではない、視線の先は頭髪だ。勝色とでも呼ぼうか。グレーの中に紺色を少し混ぜたような渋い色。武道界隈では人気の色だ。
染めて……ないよな?
ホモ・サピエンスだと染めなければ出ない色合いだが、この人類でもそれが当てはまるとは限らない。例えば体色を担う色素としてシアン、マゼンタ、イエローの三色を獲得したなら、理論上どんな反射色でも有り得る。
「如何なさいました?」
視線を感じたのだろう、少女は訝しげに尋ねた。
「いえ、美しい御髪だと思いまして。気障りでしたら申し訳ありません」
そう誤魔化して茶を啜ると、彼女は意外そうな顔を見せる。6歳の小僧には不似合いな台詞だったか。それも変な仮面の奴には言われたかないわな。
さて、もう一つ興味を引いたのは、お茶の温度が飲みやすい適温だったことだ。
一瞬、魔力の流れが【見え】たから、わざわざ息を吹き掛けて冷まさなくても良いよう、小僧の為に彼女が【冷却】か何かで調整してくれたらしい。60℃くらいか。
この様子だと、冷めた料理を温めるのもこの人の仕事になるのかな。
色々と思考を巡らせつつ、カップをソーサーへ戻すと同時にドアがノックされた。おそらくリゼだ。少女が取り次ぐと、案の定彼女だった。ポールとジェフを候わせている。
「お待たせ。年上の女性を口説いて、随分と満喫しているようだね」
リゼはジト目で皮肉を言う。
「滅相も無い事でございます。全く気は抜いておりません」
即座に否定。
「本当かなあ……私は君から目を離すのが不安で堪らないんだ。手綱を握っていないと勝手に動き回るだろう?」
「ええ、否定できないのはお恥ずかしい限りでございますが……そろそろ私に目を向けて頂けますと嬉しいです」
彼女は一体何を見ているのか。
「ちゃんと見ているよ。主人が入ってきたのに、ソファへ腰を深く下ろしたままの君の姿をね」
「うーん……この御調子ですとリーゼロッテ様の身の安全が非常に心配です。こちらですよ、それは欺瞞の影武者です」
「―――――はぁっ?!」
ソファに座ったデコイを霧散させ、俺が跪き敬礼を取った姿で現れると、一同が目を見開いた。
魔術は成功したらしい。厳密には光を魔法的に回折させ、デコイで意識を外らせるタイプの【認識阻害】だが、十分有効なことが証明された。
「いつから……?」
一番身近にいたセナが最も驚いている。
「馬車を降りた時です。あの時誰も私を視界に入れていない瞬間が一度だけございました。私の格好は強烈な印象を残すのに、正確に把握できる人間はまだいらっしゃらないでしょう?表情も晒しませんので難しくありません」
敵も味方も分からないアウェイで、気なんか抜けるはずないだろう。
しかし、給仕の少女が俺の視線を察したのは正直驚かされた。デコイのお陰でバレなかったが、見抜かれたかと肝が冷えたぞ。魔力まで隠蔽していたのに。
「それで、リーゼロッテ様がこちらへいらっしゃったということは……」
硬直から解放されず、話が進みそうにないので俺から切り出した。
「あ、うん。父上に拝謁する手筈が整った。くれぐれも御無礼のないようにね。君のその打っ付けで遊び始める酔狂な気質は封印してくれると、こちらとしても懸念を1つ減らすことができる」
おいおい、まるで他にも沢山あるみたいな言い方だな。彼女の信用はこの道中で積み上げてきたつもりだったが、残念だ。
「因みに今の君は本物なんだよ……ね?」
確認するようにリゼは肩や腕を触る。
「実は……これも」
と、またソファにアレックス。
「……」
「……冗談ですよ」
「それを封印してくれと私は頼んでいるんだよ。中には繊細で猜疑心旺盛な方もいらっしゃるから、変な危機感を抱かれると我々も動き辛くなるんだ。そこまで頭の回らぬ君ではないだろう?」
「心得、相仕りました」
オーケイ、天皇陛下に謁見するのと同じ感じだな(経験無いけど)。
俺としては酔狂などほんの僅かで、主に警戒心からくる行動だったが、そういう態度すら気に入らない方々もいるらしい。加減に気を付けないとな。
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