文明人之纂略046
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文明人之纂略 作者:黒須輝
「ぜぇ、はぁ、ちょっと……休憩!待って!」
空気が胸に留まらず、喉が擦れる音を立てる。
「まだまだ!兄ちゃん、だらしないよ!」
エレーナが俺に木刀を突き付ける。もう勘弁してくれと言いながら、どれ程の時が経っただろうか。
別れ際に弟のアレックスから「姉を頼みます」の一言。兄らしさを見せようと、カッコつけて承諾したは良いが……こんな重労働だとは思ってなかった。
エレーナとアレックスの親密な関係は知っていたし、大まかな活動は把握しているつもりだった。
去年の秋にあいつらの披露した『精霊演武』とやらも、練習を偶に目にしていた。本番は想像通りの反響。俺ら少年共を熱狂させるに十分で、祭り以後その話題で当分持ち切りになったくらいだ。
そりゃ、あんな面白いことができると聞いて気持ちが昂揚しない男はいない。ただな、12、3の男が8歳の妹に本気でぶん投げられるなんて、予想できるかよ。
それだけじゃない。エレーナは『文字』なるものを覚えろと言ってきた。丸や線を組み合わせた奇妙な模様だ。頭がキリキリするようなことを夜毎教えられる。
それは5年前、アレックスをまだ負ぶっていた頃を思い出させた。エレーナは数年前のアレックスと同じだ。いや、分別があるだけアレックスの方がマシだ。
無邪気がこんなにも恐ろしいとは、爺ちゃんも婆ちゃんも父さんも母さんも誰も教えてくれなかった。
「余所見しちゃダメ!」
「うわっ!」
ボロボロになった俺は体当たりをまともに食らって転がる。幸い、受け身はかなり上達したので怪我も無い。
言いたいことはまだある。アレックスが使っていた黒い面を被って稽古しているのだが、果たしてこれは意味があるのだろうか?エレーナから『痛くないでしょ?』と、さも当たり前のような声で聞かれたが、顔はともかく頭や腕は普通に痛い。
訳が分からん。
気付けば早いもので、アレックスが村を出てから、あいつの数え方で2週間が経った。寧ろ2週間しか経っていない。たった半月だ。
それなのにこの村は随分と不便になったように感じる。労働力という点ではなく、言葉では表し難い、もっと生活に関わる部分の何かが抜けた。
寂しさでもない。前々から、あいつはこの村で燻ってるような人間じゃないと思っていた。いつかはこうなるだろうと。それがちょっと早まっただけだから。
謂わば、あいつに頼っていたモノ……か。
アレックスが担っていた役割はエレーナや大人達が代行しており、今のところ大きな支障も無く成り立っているが、見た目ほど簡単な仕事ではないらしい。最近は俺も組み込まれようとしている。
便所掃除や子供の世話のやり方を、あいつはエレーナや村長に全て伝えていたようだ。もし忘れても……あいつが忌々しい文字に残してやがるので覚え直せる。覚え直させられる。
チクショウ、早く帰って来い。
そう何度も嘆くが、あいつの帰りは相当先と聞かされている。今年の『精霊演武』は俺が出演する手筈となっているらしい。つまり少なくともあと半年はこれが続くということだ。
こんなのアレックスによる罠か嫌がらせだろう、と鬱憤の溜まりは否定できないが、あいつの言葉の真意を最近理解し始めてきたことも事実。
『姉を頼みます』とは文字通り、代わりにエレーナを守ってくれという意味だ。あいつもそのつもりで言ったのだろうが、方向性が北と南だ。
エレーナはあいつと同じく『異質』なんだ。この村で生きるには過剰なほど賢く、強い。アレックスは自分の異質さを際立たせることで姉を守り、孤立しないよう調整していたらしい。
全く、人の気持ちには鈍いクセして、扱いには長けてやがる。
「はあっ!」
『背負い投げ』という捻りのない名前の技で、本日4度目の宙を舞った。俺は兄として背負った責任を、投げることができないようだ。
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