文明人之纂略032

文明人之纂略　作者：黒須輝

032　無題

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　荷物を抱えて家を出る。送別とあって、外は朝早くからお祭りムードだ。収穫祭並みの賑やかさを見せている。
　お別れはリゼの滞在していた館。馬車に乗って発つらしい。
　「おはよう、アル。準備はいいかい？」
　「リゼ、おはよう。問題無いですよ」
　彼女は既に幌馬車の荷台に座っていた。中を覗くと樽や木箱など様々な品が見える。
　皆に別れを告げ、最後は家族と一人ずつ二言三言。そして抱擁を交わす。
　「これ、お守り」
　姉から何かを手渡される。拳を開くとブレスレットだった。綺麗な石が革紐で包み込むように編まれている。2周回って留め具を嵌めるとぴったり手首に収まった。
　「……作ってくれたんですか？」
　「うん、昨日。兄ちゃんと」
　兄さん……心配りが粋だよ。俺が女だったら惚れてるね。
　「ありがとうございます。大切にしますね」
　「無事でいて」
　頬に唇が当たる。
　「落ち着いたら連絡します」
　「絶対よ？」
　「はい」
　ずっとこうしていたいが、時間がやってくる。
　「じゃあ行ってきます。また会う日まで」
　「さ、乗って」
　リゼに促されて荷台に足を掛ける。車止めが外され、嗎と共にゆっくりと進み始めた。
　「行ってらっしゃいっ！！」

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