文明人之纂略020

ページ名:文明人之纂略020

文明人之纂略 作者:黒須輝

020‐閑 お前だったのか


 「まったく、困りますよリゼ様。一人で出歩いては危険だと申し上げたではないですか」
 アルやエレーナと別れた帰り道、私は護衛の Porl から諫言を受けていた。見失う彼にも問題はあるのでは、と思うのだけれど、十対零で私が悪いのは間違い無い。
 「ごめんよ、久々の外出だったから浮かれてしまってね」
 「お気持ちはお察ししますが、その結果が迷子って、分別付かないお年頃でもないでしょうに」
 いやはや、お恥ずかしい限りだ……ん?
 「私、迷子になったなんて貴方に言ったかい?」
 ポールの言葉に違和感を覚える。
 「……仰っていませんでしたか?」
 私が迷子と発言したのはアルと出会った時と、グラッツ君に事情を説明する時の二回だけだ。ポールと合流してからはまだ何も言っていない。となると彼は。
 「貴方は私を泳がせていたのかい?」
 卑怯だとは承知だが、逆に追及することでこの場を切り抜けさせてもらおう。
 「ええ、まあ。申し訳無いとは存じますが、それは仕方のないことでした」
 仕方がない、とは一体どういう意味だろう。ポールとしては早く私を連れ戻したいはずだけれど、それができない理由があった?
 「訳を聞こう」
 「いえ、単純な話です。あのアルという少年がリゼ様から離れるまでは手出しができない状況だっただけですよ」
 「はは、貴方にしては面白い冗談だね」
 ポールは護衛の中で一番の腕利きだ。そんな彼が私よりも小さな、年端も行かない子供相手に苦戦など考えられない。
 「冗談でないことはリゼ様もご覧になったはずですが?」
 「というと?」
 心当たりがない。
 「私がリゼ様を含め、彼らに姿を見せた時、あのアルという子は真っ先に姉を庇う動きをしました。あの年齢であの判断ができるのは稀有です」
 「んー、武芸には詳しくないけど、驚いて逃げようとしたら偶然そうなったとは考えられないのかい?」
 私がそう聞くと、ポールは盛大に溜め息を吐いた。いや、ごめん。本当に詳しくないんだ。
 「まあ、無きにしも非ずです。そこまでなら姉の陰に隠れようとする心理が働いた可能性も否定できません。問題は後の行動です。彼は私から目を離さずに距離を置きました。その次、何をしたと思います?」
 だから分かんないって。
 「さあ?助けを呼ぼうとした、とかかな」
 私の回答に、ポールは自身の眉間を揉む。相当呆れた様子だ。
 「答え。他の敵を探したんです。逃げた先に待ち構える者はいないか、回り込まれていないかを確認したんです。敵が一人なら、最悪、自分を犠牲にしてでも姉を逃がす算段だったのでしょうね」
 彼の言葉に、ゾッと鳥肌が立った。そんな事も知らず、私は呑気に構えて。アルがそこまで考えていたなんて……
 「まだお判りでないのですか?」
 「な、何が……?」
 これ以上ポールは何を伝えたいのだろう?もう十分じゃないのか?
 「はぁ……左様ですか。あのですねぇ、逃げる先に待ち構えるとか、回り込むだとか、そういう計画は狩る側の思考なんです。つまり彼は狩る側の人間ということです。もし私が敵だと判定されて、リゼ様がその仲間だと知られたら?無傷で奪還は至難の業ですよ」
 「そんな、大袈裟な」
 言っちゃあ悪いけれど、どんなに頭が回ったって、やはりまだ子供じゃないか。しかも私の肩にも届かない背丈の。
 「アルという人物は……戦士です。身の熟しを見ればリゼ様くらいの少女を支配下に置くことは『余裕』でしょう。服で隠してはいましたが、筋力も相当あるようですし。彼だけじゃありません、エレーナという少女もです」
 ははは……まさか、ね。
 「そうは言ってもねぇ。大体、『坊や』とか『少年』とか『彼』とか、アルは女の子だからね?」
 ポールには遠目からで判別できなかったのかもしれないけれど、あの子の性別は私と同じ女だった。髪も綺麗に結って、言葉遣いも丁寧で、グラッツ君よりエレーナにそっくりだったじゃないか。
 可愛らしい顔をしたあの子がそんな凶暴だなんて、俄かには信じ難い。全ては彼の見間違いだって可能性もある。
 「いや、男です」
 しかし、ポールは首を左右に振って断言した。
 「でも……じゃあ、それなら私が『貴女』と呼んでも否定しなかったのは変じゃないかい?」
 「ではお聞きしますが、グラッツという少年から『商家のご令嬢か』と尋ねられて、貴女は否定なさいましたか?」
 ぐうの音も出なかった。アルは嘘を吐いていた訳ではない。ただ、否定しなかっただけで、勘違いしたのは私の方。
 「とすると、アルという少年は、彼の名は……」
 「え?ただのアル君じゃないんですか?」
 暑くもないのに、背中に汗が伝う。冷や汗だ。
 「彼に名前を聞いた時、『先に名乗れ』と言われたんだ。リゼ、と答えるとアルと返ってきた。お互い略称なのは知っていたから、 Alma とか Alt とか Alcy とか……そう考えていたんだけれど」
 「男なら Alfons や Aliodd になりますね。まあ、愛称なんて呼ぶ人次第ですから変形もあるでしょう」
 頭の中で組み上がる欠片は、一つの答えに向かっていく。黒い髪、丁寧な言葉遣い、並み外れた洞察力・思考力、男、そして “AL” という略称。
 「―――――アレックス。君か」


 

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