文明人之纂略046
文明人之纂略 作者:黒須輝046 自室 「ふむ、なかなか悪くない」 俺は自室のマットに腰を下ろす。厚みがあって断熱や緩衝などの機能を十分に果たしている。柄は曼荼羅、或いはトルコ絨毯のような色彩。おそら...
文明人之纂略 作者:黒須輝
何とか無事に冬を越し、もう少しで春分だ。俺は今日かそこらで6歳になる。はっきりしないのは日付けの観念が浸透していないためで、取り敢えず「春分十日前誕生」と知らされている。
閏年を1回、乃至2回挟んでいるので定かでないが、3月の10日前後に生まれたことは確かだ。
俺の名『アレックス』は同じくこの時期生まれの偉人、アレキㇱサィデン……(長くて両親は覚えていなかった)が由来らしい。
まあ、日付けの概念が無いということは、誕生日を祝う習慣も無いのでただの平凡な、365ある内の1日である。
“Happy birthday to me〜♪”
と哀しげに歌いつつ、家の裏手で薪割りの斧を振るう。これだけ文明が進んでなければベルヌ条約も発効前だろ。著作権はセーフ。
「へい、アルっ!」
「何……うわっ危なっ」
呼ばれて振り向くと飛翔物。慌ててキャッチしてしまった。
「ボール……?」
直径7cm程の柔らかい、野球に似た革製ボール。普段からよく使っているものだ。
「凄い!よく捕れたね!」
姉よ、やはりお前か。
「よく捕れたね!じゃないですよ、危ないなぁ。それより、母さんに言付けられてた仕事は終わったんですか?」
俺は薪割りを命ぜられているが、姉は確か裁縫だったと思う。綻びた衣類の修繕を任されていた。
「終わったよ。ついでにほら、ボールの縫い目も新しくしといた」
あ、本当だ。いつの間にか器用になったもんだ。
「アルはまだなの?遅っいなぁ」
「いや、量が違うでしょ。まあ見ての通りもうすぐ終わりますから、ちょっとだけ待っててください」
ボールを投げ返して手で払う。刃物を扱っているので安全な位置まで離れてもらわなければならない。そして、子供の俺にはかなり重いスプリッティングアックス(薪割り斧)を振り上げ、全身の筋肉で打ち下ろす。
ゴッと音がして刃は突き刺さるが、一発で縦に割れるほどの力はまだ出ない。刺さったまま二度三度、丸太ごと台に叩きつける。
この作業を、かれこれ2時間は続けているので汗が止まらない。
4〜8本の木片にして傍に積む。割る。を繰り返すこと数回。何とかノルマは達成した。
「や……っと終わった……」
気息奄々疲労困憊とは正にこの事。斧を家の壁に立て掛けてその場に倒れ込む。
「男の子って大変なのね」
姉は憐憫の眼差しで俺の有様を見物する。
「はぁ……まあ、働き手ですから……特に、ウチは子供の数が少ない上、親戚も近くないですし」
もうちょっと両親が若いうちからハッスルしてくれていれば、兄姉が多くて助かったのだが。今のところ長男のグラッツでまだ12歳だ。
親戚もいないわけじゃないが、頼るには距離感が微妙に遠い。
従兄弟とは(姉とするような)会話が成立しない障壁を抱えており、子供達同士でも親交があまり無いのは解決すべき直近の課題だと、当局は認識している。
「ねえねえ、キャチボールしよ?」
「……鬼かよ」
こんなに疲れている人間に対して、まだ追い討ちを掛けるか。もう鬼畜だよそれは。
「じゃあ打つけて良い?壁当てだと婆ちゃんに怒られるからさ」
「もうお前人間じゃねぇよ」
いや、扱いが人間じゃないのは逆に俺の方か?
相手を「人間じゃない」と罵る根拠は自分を人間扱いしないから。つまり人間扱いされない寧ろこちら側が、発言とは逆に『人間じゃない』のだろうか?
ワインドアップ(投球動作)。
「ちょ、待て!本気かっ」
思考など要らない。あの赤い髪をした暴君は投げるのだ。俺を的にして。
凡そこの6年間で最も速いスクランブルをかけ、捕球姿勢に入る。本音を言えば可及的速やかに回避行動へと移りたい状況だが、この人に背を向けるのは得策でない。
1秒後。文句無しのビーンボール(頭部を狙う投球)が俺を襲う。両手で弾き、前方に転がす。腰を落としたままステップで拾ったらクイックモーションからの全力投球。
下克上だっ—————
「しまっ……」
薪割りの汗で指が滑り、コントロールが狂った。そればかりか、咄嗟に爪を縫い目に引っ掛けたため、バックスピンによるマグヌス効果で、ボールは遥か上空へ……
あれまあ、よく飛ぶもんだ。俺の筋力からすると40、いや50mは行ったかな?我ながら天晴れ。
さて、問題は誰が取りに行くか、であるが。
姉を見遣る。無言のサムズアップ。そこから肘を、ゆっくり曲げて……直角。
言われなくても分かるだろ?の目だ。
「行ってきます」
「あら、行ってくれるのね?自分から名乗り出るなんて、優しい弟」
よく言うぜ。
「はあ〜ぁ。のんびり行こう」
元々のコンディション的に、激しい運動ができるほどの体力は残ってない。
さてと、どこに飛んでったか。流石に俺の肩やボールそのものの性能では、100mも到達するはずないから、おそらくここら辺だと思うんだが。
「見つからないなぁ……」
「君の探し物って、もしかしてこれかい?」
「えっ?」
声の主を探す。顔を上げると黒髪の少女が立っていた。
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