文明人之纂略046
文明人之纂略 作者:黒須輝046 自室 「ふむ、なかなか悪くない」 俺は自室のマットに腰を下ろす。厚みがあって断熱や緩衝などの機能を十分に果たしている。柄は曼荼羅、或いはトルコ絨毯のような色彩。おそら...
文明人之纂略 作者:黒須輝
ギャラリーの視線がかなり集まってきたので、少し場を外れる。エレ姉だけ付いてきた。
「アル、これ分かるの?」
「んー、多分。予想が正しければ数字のお勉強です」
「数字?足し算引き算のやつ?」
エレ姉には文字と並行して算数も教えているため話が通じる。
「そうです。その延長です」
俺は問題の『グラフ』を地面に書き写す。x軸とy軸、原点と交わる上に凸の二次関数の放物線。目盛りは10ずつ。
「ふーん……って、ペン使わないの?」
「これは清書用ですから」
グラフには記されていないので放物線とx軸に囲まれた図形に斜線を引き、 “S” と記入して面積を計算する。
▼▽▼▽
y=−ax²+bx+c
(0,0),(3,9),(6,0)→y=−x²+6x
0=−x²+6x
=−x(x−6) x=0,6
S=₀ʃ⁶{−x²+6x}dx
S=−₀ʃ⁶{x²−6x}dx=−₀[x³/3−6x²/2]⁶
=−{(0)−(216/3−216/2)}
=−(72−108)=36
∴ S=36
▲△▲△
「……と、まあこんな感じで」
答を出すだけなら6分の1公式を使えたのだが、結構丁寧に展開した。ありがたいことに整数となるよう問題が設定されていたので楽だった。
あとは清書するだけ。紙は渡されていないから、携帯しているハンカチに書き込んでいく。
「ごめん、ちょっと何やってるか分からない」
エレ姉の頭にはクエスチョンマークが浮かんでいる。
「 integral って計算でして、いつか教えますよ」
「ふーん、でもなんだか面白そうね」
マジか。黒須輝は高校時代、数学が得意でなかったからその感覚は理解できない。
「そのタテ線とナナメ線は何?」
欧米式のカウント方法だ。正の字を書いて通じるのは漢字文化圏だけだろうしな。しかし、画線法ってこっちの言葉だとなんだろ。思い付かないな。
「何て言うか……この棒線1本を1として数を表しているんですよ。出題者が文字の読めない人かもしれませんから、念の為。」
アラビア数字が伝わるとも限らない。ローマ数字の使い手や、まさかの漢数字表記とか、文化による違いを避けるため、視覚的に分かるよう配慮する。
「5が7個と1が1つで36ね」
「その通りです。さ、提出に行きますよ」
ハンカチは折り鶴状に畳んだ。地面の跡を消して立ち上がる。
「お、戻ってきた。どうだ、アレックス?」
「楽勝でした。モーリスさん、これを出題者の方に渡してあげてください」
清書の布を手渡す。ペンとインクも返しておく。
「構わないが、先に回答を聞こうじゃないか」
「ええ、そうですね。回答は『36』です。いかがでしょう?」
「……正解だ。確かにその通り伺っている」
やったぜ。
「では約束通り」
「ああ。褒賞の金貨12枚だ。受け取ってくれ」
モーリス氏が差し出す金貨を両手で受け止める。さすが、金だけあってずっしりと重い。
「凄いよ、アル!これで大金持ちだね」
エレ姉がピョンピョン跳ねながら俺の肩を叩く。揺さぶる。
「エレ姉、強い。首が折れる」
「あ、ごめん。つい」
「つい、じゃありませんよ。もう……それと、家の皆んなを今すぐ呼んでください」
「了解」
勢いで賞金を吊り上げてしまったが、こんな大金は田舎暮らしの俺からすれば無用だし手に余る。
さて、どうするか……
「エレーナに呼ばれたのだけれど、どうしたのアル?」
程なくして母さんが一番に来た。
「母さん、実はこれを貰いまして」
「あらまあ、綺麗ねぇ。ところで、何なのこれは?」
……嘘だろ。
確かに貨幣経済が浸透していないことは知っていた。俺も、言葉の概念として『金貨』は知っていたが実物を見るのは初めてだ。しかし、それが想像もつかないとは……アネクドートじゃねぇんだぞ。
「兄ちゃんは忙しいからいいってさ」
どう説明しようか迷っていると、エレ姉が帰ってきた。
「アレックス、大金を手にしたってのは本当か?」
父ランクルも半信半疑で続いている。
「父さん。これです」
「へぇ、これが金貨ってヤツか」
「あなた、知ってるの?」
「ああ。都会じゃあ、これで食べ物と交換できるって話だ」
「不思議ねえ。ただの硬い板じゃないの」
夫婦で仲良く話すのは構わないのだが、俺の存在忘れてないか?
「ランクル、ルイーザ、息子を置き去りにするんじゃないよ。アルの話を聞いてやりんさい」
「あ、婆ちゃん」
ナイスフォロー。そして、これでやっと揃った。
「村長さんも一緒に参加してください。私が得たこの12枚の金貨なのですが……村に預けようと思います」
「えっ?!」「は?」「ん?」「アホかあんた」
シェアボタン: このページをSNSに投稿するのに便利です。
文明人之纂略 作者:黒須輝046 自室 「ふむ、なかなか悪くない」 俺は自室のマットに腰を下ろす。厚みがあって断熱や緩衝などの機能を十分に果たしている。柄は曼荼羅、或いはトルコ絨毯のような色彩。おそら...
メニュー移動トップページ管理人―黒須輝について管理人にメールを送る『文明人之纂略』の目次なろう作家支援プロジェクトあなたがコメントを開放しない6つの理由新着12文字以内、文字色は黒く noset in...
はじめに こちらは黒須輝が前世で投稿していたファンタジー小説のリメイク版です。活動場所が”小説家になろう”のサイトでしたので、『なろう』感を多分に含みます。ご注意ください。 ...
文明人之纂略 作者:黒須輝047 【身体強化】 「ふぅん、そこまで彩度が高い訳では無いのか……」 新しい生活が始まって一夜が明けた。 リゼからは環境に順応する為にと十日ほど...
作者:黒須輝索引 はじめに 前提として:19/03/03:- ご都合主義を排除できない事柄:19/03/09:- プロットの組み方:19/03/09:/14 管理人がよく使う文字:19/03/25:-...
★詠唱 [20200830] 本編主人公は魔法を無言=無詠唱で使っているが、他の作品では『詠唱』と呼ばれる独特の呪文を唱える工程によってそれを使う設定*1を持つものもある。本節ではこの詠唱の役割と...
★ [2020] 関連 作成 2020/ 更新 0000/00/00 ...
文明人之纂略 作者:黒須輝044 種明かし 「リーゼロッテ様、緊張しましたね」 仮面を被り直しながら廊下を歩く。これ髪の結び目に引っ掛けてるから面倒臭いんだよな。 「リゼに戻して良いよ。それより君、緊...
文明人之纂略 作者:黒須輝045 別棟 「あのぉ……この大所帯は何ですか?」 リゼの案内で連れられたこは城敷地内の一角、別棟となる建造物である。ちょっとした市役所庁舎並み...
★魔力と魔素② [20200824] 前節では世界設定とした魔素、魔力、魔力波の性質について論じた。ここで要約しておくと、①空間は魔素で満ちている、②魔力と魔素は同一の存在であり、形態とエネルギー...
文明人之纂略 作者:黒須輝043 謁見 「お入りください」 守衛さんの案内に合わせて観音開きの大きな扉が開く。向こう側の景色が見えた。大きな広間だ。 高い天井に大理石の床、シャンデリアとステンドグラス...
文明人之纂略 作者:黒須輝042 待合室 城に到着した俺は一旦リゼと別れ、待合室のような場所へ通された。セナが警護してくれている。 こういう部屋をキャビネットというのだろうか。それともサロンかな?ジャ...
文明人之纂略 作者:黒須輝041 入洛(後編) それから約15分後。 馬車が行くのは城下町とでも呼ぶべき市街地の大通り。レンガやモルタル、石造りの家々がぎっしりと道の両脇に並び、人の営みを感じさせる。...
★補助魔法【バフ】 [7e3d91] ファンタジー世界の戦闘用魔法には攻撃、守備の他に補助の効果を持ったものがある。対象の戦闘力を上げるものをバフ(buff)、戦闘力を下げたり状態異常に陥らせるも...
★転生のメカニズム [7e3de1] 転生モノの特徴は二つある。①前世の人格が受け継がれていること②その記憶に劣化がみられないことである。ここではそのメカニズムを考察する。 ①前世の人格が受け継が...
あなたがコメントを開放しない5つの理由 コメント機能の開放にはデメリットが伴う。 言論統制に無駄な労力を割かれる:管理人は「言いたい事があるなら自分のサイトで言え」という価値観の人間。「うるせえ黙れ」...
★「~主義」を軽く説明 [7e3db1] 各政治思想とその立場について論じる。 述べる事柄は有権者として一般的な程度の知識であり、大まかな概説である。それぞれの思想にについて善悪や優劣を評価する...
文明人之纂略 作者:黒須輝040 入洛(前編)▼▽▼▽ さて、本書は魔法・魔術、魔法使い・魔術士・魔導師を意図的に使い分けている。これは本書のみに限った話ではなく、明確に定義されているものだ。 魔法使...
★甲種魔法取扱者 [7e3d71] 魔法を使う者を魔法使い、魔術を使う者を魔術士と呼び、魔法・魔術両方を用いる者と魔法使い・魔術士を合わせて魔導師と呼ぶ 本編では混同しがちな魔法関連の用語を整理し...
文明人之纂略 作者:黒須輝039 邸宅の朝 「うおおおぉっ!かっっくぉいいいぃ!!」 思わず俺は叫んだ。 「アル、興奮し過ぎじゃないかい?」 「いやいやいや、目の前に騎士がいるんですよ?!お伽話にも出...