登録日:2012/07/25(水) 19:16:41
更新日:2023/08/17 Thu 14:47:04NEW!
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ドラマ 世にも奇妙な物語 smap 木村拓哉 ぼっち 名作 鬱 おいやめろ 小林昭二 キムタクの本気 集団就職 言葉のない部屋 扇澤延男 扇澤延男の本気
『言葉のない部屋』とは1992年に放送された『世にも奇妙な物語』のエピソード。
今や知らない人がいない国民的アイドルキムタクこと木村拓哉の事実上のドラマデビュー作である。
キャリアを重ねるうちに良くも悪くも「どんな役でもキムタクはキムタク(≒どうあがいてもイケメン)」という評価が定着していった彼だが、この作品での彼の演技はそんなイメージを覆すだけの破壊力がある。
十二分に顔立ちの整った青年が、服装と仕草と田舎訛りの口調だけでこれ程までに野暮ったくなれるのかと感心する人も多いだろう。
【スタッフ】
原作:村野守美
脚本:扇澤延男
演出:小川定孝
制作会社:KANOX
【プロローグ】
東京。
この大都会の片隅に、彼は暮らしていました。
時代は、ふたむかし程前。
そう。高度経済成長が頂点を迎え、日本中がお祭り気分で浮足立っていた、あの頃…。
これは、その賑やかなお祭りに加われなかった一人の若者のお話です。
【STORY】
1970年、春。高度経済成長期真っただ中の日本。
人々が新しい生活を目指し、誰もが薔薇色の未来を夢見ていた中、金属加工工場で働く一人の青年(木村拓哉)の姿があった。
保(たもつ)という名前の彼は、2年前に青森県の鰺ヶ沢から集団就職で上京してきたものの、東北訛りをからかわれることへの恐れと生来の引っ込み思案な性格が災いし、友達も出来ず一人で寂しい生活を送っていた。
工場の中でも帰路の街中でも雰囲気に馴染めず、家具もほとんど無い殺風景な部屋の片隅で孤独を紛らわす日々を送る保は、帰宅途中、一軒の骨董店のショーウィンドウに、古びたオープンリールのテープデッキが飾られるのを目にする。
「今日から仲間だからな、お前さんも」
テープデッキにそう語りかける老店主の姿を見て、保は思わず足を止め、薄く笑みを浮かべた。
そんなある日、保に唯一声をかけてくれた老人(小林昭二)が体調を崩して退職することになり、送別会が開かれる。
当然保も誘われるが、ガラス扉の向こうに見えた店内の楽しげな雰囲気に耐えきれず、店に入ることも出来ずに踵を返してしまう…
雨が降り出す中、悄然と帰路に就いた保は、骨董屋のウィンドウに置かれたあのテープデッキに目を留める。
「あいつだけ、誰にも見向きもされないんだよ…」
老店主のその言葉を聞いた保は、なけなしの給料をはたいて、デッキを自分のアパートへと持ち帰った。
デッキのスイッチを入れ、様々な言葉を喋る保。
「ほんずつは、晴天なり」
『ほんずつは、晴天なり』
「こんぬづわ〜♪こんぬづわ〜♪世界の〜国から〜♪」
『こんぬづわ〜♪こんぬづわ〜♪世界の〜国から〜♪』
録音された自分の声とはいえ、反応が帰って来る事に嬉しさを感じ始めた保。
職場の工場では誰とも馴染めず、一人ポツンと隅っこに座り休憩が終わればキツく辛い仕事に向かう…毎日毎日、代わり映えのしない地味で退屈な生活。
だが、保は決して辛くは無かった。
家に帰り、自分の声を録音する事が何より楽しかったのである。
しかしある日、保は些細なミスから上司に叱責を受けてしまう。
「分かんなかったらちゃんと訊いてからやれよ! 何のために口があるんだ!」
改めて孤独を感じた彼は、自分を勇気づけようとオープンデッキのスイッチを入れる…
「…俺は…僕は、2年前ぇ青森の鰺ヶ沢から出てきました。田蔵伸鉄っつう工場で働いてます。
仕事は……仕事はキツいですが…………楽しいです。
友達もいっぺぇできました。いっぺぇできて、今のアパートさ入り切れねぇぐれぇです。
…したんで、今度給料上がったら、もっと大きい部屋さ引っ越さねばと思ってます。
東京は…面白いじゃ。遊びに行く場所も色々あるし、仕事は楽しいし…優しい友達に囲まれて…毎日が、充実しております。
東京さ出てきて、良かったと思ってます。本当に…」
…当然これは全くの嘘。だが、孤独な彼にとっては充分すぎる言葉だった。
「元気出さねば…励まさねば、自分を…」
だが、再びテープを再生したとき、聞こえてきたのは…
『鰺ヶ沢さ帰りてぇ…』
「!?」
入れたはずのない自分の声。しかも内容はそれまでとは違う容赦ない現実。
スイッチを切っても、尚も非情な声は続く。
『東京さ出て来て2年、いいことだば何1つねぇ…』
『仕事はきついし…友達なんて、一人も出来ねぇ…誰もおらば相手にしてくれねぇ…一人ぼっちだ…』
「違…違う…! そったらことねぇってば!」
『つれぇよ…つれぇくて、つれぇくて、仕方ねぇっちゃお母ちゃん…』
『帰りてぇよ青森さ…鰺ヶ沢さ…』
『…疲れた…』
…翌日。
保の部屋では、刑事たちが部屋の片隅で蹲るように死んでいる保の亡骸を見下ろしていた。
「外傷もないし…急な、心臓発作ってとこですかねぇ」
「あぁ、可哀想になぁ…こんな希望に溢れた若者が…」
刑事が、卓上のオープンデッキの再生スイッチを押す。
『仕事は楽しいし…優しい友達に囲まれて…毎日が、充実しております。
東京さ出てきて、良かったと思ってます。本当に…』
保が聞いたのは、孤独に押し潰された己の心が発した声だったのか?
それとも別の何かだったのか?
窓から差し込む陽光に照らされた保の死に顔は、薄らと微笑んでいるようにも見えた。
追記・修正はオープンデッキに本音を録音してお願いします。
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▷ コメント欄
- あえてイケメンのキムタクを採用した所がもう、ね… -- 名無しさん (2013-09-07 02:51:47)
- ただ漠然と頑張ろう頑張ろうでは折れて当然ですわな -- 名無しさん (2013-10-25 09:11:35)
- 自分の心に素直になることも必要です。 -- 名無しさん (2013-10-25 09:40:27)
- 他人事とは思えないのがまた・・・。 -- 堀井 (2014-07-24 17:16:18)
- P4でいう影の部分が吹き込まれちゃったんだろうなぁ・・・ 番長~!! -- 名無しさん (2014-07-24 17:36:28)
- …彼も阿部高和に出会っていれば… -- 名無しさん (2014-09-22 10:52:08)
- ↑いくら孤独だからってホモを紹介するな! -- 名無しさん (2014-09-22 11:54:31)
- 翌日、家で冷たくなっている青年が発見され、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った -- 名無しさん (2014-10-18 02:49:39)
- 怖くて泣いたわけではなく悲しくて泣いた。ぼっちって悲しい。 -- 名無しさん (2014-10-18 08:55:24)
- ぼっちを“恐怖の対象”にする辺り、リア充目線だよね。 -- 名無しさん (2014-10-22 01:36:12)
- ↑リア充を対象に作った作品だからな。 -- 名無しさん (2015-01-22 17:52:12)
- この時代のぼっちはキ -- 名無しさん (2015-05-11 07:54:34)
- ミス キツいよ。今みたいにネットとか諸々の娯楽もないし -- 名無しさん (2015-05-11 07:58:37)
- ↑そうでもない。むしろ独りでも楽しむ方法を探す能力が発達している(ウルトラセブンのフクシンを想像せよ) -- 名無しさん (2015-05-11 10:31:04)
- キョロ充を対象に作った作品なんじゃないか -- 名無しさん (2015-06-01 01:12:48)
- セブンのフクシン!ペロリンガのやつか。なるほどね -- 名無しさん (2015-10-23 02:01:59)
- ただしイケメンに限る(イケメンであることが十分条件とは言っていない) -- 名無しさん (2015-12-11 20:41:29)
- 村野守美の短編漫画が原作。読んでみたいな。 -- 名無しさん (2016-01-12 00:04:36)
- これはドラマだけど、70年代も現代もこういう想いをしてる人は確かにいるんだよね。悲しい。 -- 名無しさん (2016-04-13 22:09:27)
- 最後なんで微笑んでたのかが謎 結局心の声でもなんでもなかったのかな -- 名無しさん (2016-05-13 13:57:26)
- このラジオ 持ち主が死んだ後多分 刑事さんが使ったと思う。んでまた死んだら誰かが利用する繰り返し -- 名無しさん (2016-06-06 13:35:31)
- これ最初キムタクと気付かなかった。 -- 名無しさん (2016-09-28 03:19:31)
- この回、もうひとつ「水を飲む男」っていうある意味この話とは逆の展開を迎えるトラウマ作で、物凄く爽やかなサラリーマンの友情話「ラッキー小泉」を挟んでたから未だに覚えてる。名作回なんだよなあ -- 名無しさん (2016-09-28 03:26:42)
- 保に唯一声をかけてくれた老人は、かの名優小林昭二.短い出演ながら優しくて暖かい雰囲気が出てる。 -- 名無しさん (2016-10-01 01:55:11)
- 脚本が扇澤延男氏で妙に納得。レスキューポリスシリーズで社会的弱者や田舎人の孤独を描くことが多かったので。 -- 名無しさん (2016-10-01 02:05:56)
- これ刑事が一応変死だからって故人の会社に聞き込みに行って真相を聞いたら、主人公は死んでなお恥をかかされるのでは… -- 名無しさん (2019-07-29 20:46:03)
- ↑それ以前に、コップの数とか友達たくさんなら不自然な要素だらけだから普通に気づくと思う。あと、勝手に壁作って拒絶する豆腐メンタルじゃいつどこであっても大して結果は変わらんよ。 -- 名無しさん (2019-10-10 16:21:25)
- これ原作があるみたいけど50年以上前に発表された作品だから情報が少ないな -- 名無しさん (2020-05-05 23:36:34)
- 翌日に発見・・・はやすぎる。妙だな。 -- 名無しさん (2021-05-04 19:55:01)
- あまり突っ込むなって たかが一シナリオだし -- 名無しさん (2021-06-09 18:06:26)
- Google検索で検索したら原作漫画の1コマが出てきたよ。めちゃめちゃ味あるね。 -- 名無しさん (2021-06-11 00:46:12)
- ひぇ〜この話覚えてるけどキムタクだったのか! -- 名無し (2021-06-28 20:49:21)
- エピローグのタモさんのところで店主があのデッキのマイクを向けてるところも印象的 -- 名無しさん (2022-08-26 11:51:04)
- 落ち度のない不幸な人に落ち度を求めるのは公正世界仮説ってやつ -- 名無しさん (2022-10-25 23:45:46)
- 翌日に発見されたのが不自然ってコメントあるけど、これどう見ても社員寮じゃん -- 名無しさん (2023-01-04 14:36:10)
- ↑当時は銀行振込とかなかったから大家が家賃取りに来て発見した可能性もある。盗まれるものもないような貧乏人は家に鍵かけない人も多かった時代だし -- 名無しさん (2023-01-22 19:44:55)
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