登録日:2023/07/09 Sun 21:52:22
更新日:2024/07/09 Tue 13:54:49NEW!
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えっ、この人瞬間移動できるんですか?
じゃあ、絶対犯人じゃないですか……
『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』とは、2023年3月17日に発売された『キン肉マン』のスピンオフ作品。著者は漫画家・小説家のおぎぬまX。
原作者・ゆでたまごは監修・カバー袖掲載の解説文を嶋田先生、表紙イラストを中井先生がそれぞれ担当。
【概要】
プロレスギャグ漫画の『キン肉マン』を題材としたミステリ小説である。
『キン肉マン』に登場する超人達による、物理法則を無視した技や能力を駆使した無茶滑稽な殺人事件「超人殺人」に、ミートくんが立ち向かう。そしてそんな無茶滑稽なチャレンジの前例が二つもあるのが不思議である
無論、スピンオフだけあって新キン肉マンまでも読んでいる読者ならニヤリと出来るシーンも多数。
●目次
【各章解説】
【プロローグ】
王位争奪編からちょっと後、晴れて第58代キン肉大王になったはずのキン肉マンがいきなり謎の失踪を遂げてしまった。
ミートくんは手掛かりを求め地球のキン肉ハウスを訪れる。
しかし、そこで出会ったのはまさかの……!
【主要登場人物】
本作の事実上の主役。
ひょんなことからキン骨マンと一緒になってキン肉マンの手掛かりを探すも、何故か行く先々で怪事件に巻き込まれ、それを超人界一と名高い持ち前の頭脳で解決していく。
終始キン肉マンの捜索に躍起になっているが、キン骨マンの提案で超人レスリングの会場に来た時は彼の行動に呆れつつも試合を楽しみにしてしまうなど、年相応な部分も見られる。
それでも目の前の事件には真摯に取り組むのは、さすがアイドル超人の一員といったところか。
初期から連載を追っていた人ならお馴染み、本名シャレコウベ。
キン肉マンの来日を耳にし、リベンジを目論見キン肉ハウスに来たところでミートと鉢合わせる。
「キン肉マンを探す」という目的は同じなため、普段助手を務めているイワオが帰省してしまったこともあり、そのまま行動を共にする。
……のはいいが、売店で軽食やグッズを買い占め、それらを本来の十倍近い価格で売る、後の世でいう転売屋行為を行ったりと、根は小悪党のまま。
【事件1 四次元殺法殺人事件】
まずは「キン肉マンはリングが恋しい」として後楽園球場に向かった二人。
そこでは四次元殺法コンビVS宇宙一凶悪コンビのタッグ王者決定戦が繰り広げられようとしていたが、試合直前にペンタゴンが殺されてしまう!
『キン肉マン』という作品における何でもありの代名詞・四次元殺法コンビに焦点の当たった章。
短いながらミステリー要素だけでなく彼らの絆も描かれた、タイトルに抜擢される理由もわかる章である。
【この章の登場人物】
ご存じ四次元殺法コンビの黒い方。
唐突に殺害されてしまった相方ペンタゴンの復讐に燃えるが、自分の手で仇を取りたいあまりに超人警察の介入を拒んたり、早合点して対戦相手の宇宙一凶悪コンビを疑ったりと、かなり焦った様子。
犯行時刻には軽食を買いに球場内の売店に行っていたと言うのだが……。
ご存じ四次元殺法コンビの白い方。
逆さにした大の字の形で頭から地面にめり込んで殺されており、パイルドライバーのような頭部を床に直撃させるような方法で殺害されたとミートは推察している。
当のブラックホールとは彼の「コンビを解消して、同じ悪魔超人のプラネットマンを新たな相棒に指定したい」という要望で揉めたという噂が流れており、ブラックホールがペンタゴンを殺害したと思わせるに十分な根拠となっている。
また、ブラックホールのグローブの裾に彼の翼の羽根が挟まっており……?
- 宇宙一凶悪コンビ
アメリカ遠征編にて初登場したスカル・ボーズとデビル・マジシャンの残虐超人チーム。
名前のみの登場。ぶっちゃけブラックホールに曲がりなりにも犯人ではないという選択肢を与えるためだけに用意された感が否めない。
- 犯人
ペンタゴンを殺して、控え室の窓から脱出した。
その姿はカーテンに覆われて確認出来なかったが、かなり見通しのいい窓なのにブラックホールが見失ってしまうほど素早く動けるらしい。
- 警備員
四次元殺法コンビ側の控え室を警備していた若い男。
ブラックホールの指示で超人警察への通報を止めさせられたくらいの出番しかないが、本項目冒頭の台詞は彼の発言であり、本書の帯にも引用されている。
そういう意味では本作を代表するキャラとしても過言ではないかもしれない。
ミートはまず、控え室のテーブルにポットやインスタントコーヒーが置いてあるにもかかわらず、カップが見当たらないことを疑問に思った。
続けてカーペットに目を向けると、予想通りコーヒーをこぼしたようなシミが見つかる。
ここで動機が気になったミートは、キン骨マンから四次元殺法コンビの不仲の噂を教えられる。
一方、犯人扱いされるのに嫌気がさしたブラックホール(以下BH)は、「何でも出来るからこそ犯人」と主張するミートに対し「いかに犯罪に適していようと証拠を出さなければ犯人にはならない」と反撃。
悔しさの余り歯を食いしばるミートだったが、「このような発言をする=自分から事件に関わっていると認めたようなもの」と受け取り、加えてグローブに挟まった羽根にも気づく……。
「ボクは、どうも今回の事件は宇宙一凶悪コンビの仕業とは思えないのです。」
なおもシラを切るBHに対し、ミートは順序立てて解説を始める。
前提として、BHがペンタゴンを殺したなら、犯行時刻にBHが控え室に居たということになる。
まず、ミートは一つ目に使われた特殊能力として「吸引ブラックホール」を提示。
ペンタゴンを殺害した時の衝撃でカップを中身ごとぶちまけてしまい、二人分のカップの残骸が残ってしまった。
これでは控え室に二人の超人がいたことがすぐわかり、BHのアリバイが成立しないので、吸引ブラックホールで掃除機の如くカップやコーヒーを吸い込んだ。
カーペットのシミは吸い込み切れなかったコーヒーで出来たものである。
この指摘にほんの少しだけ表情が曇るBH。
続いて、ミートは侵入者の正体を語る。
二つ目の特殊能力「セパレートシャドウ(影分身)」で作った分身を窓際に待機させて、三つ目の特殊能力「ロケーションムーブ(瞬間移動)」で気づかれずに退出。
衝撃音に気が付いたミート達が控え室に向かったところで、何食わぬ顔でその背後にワープし合流。
全員で控え室に入ったところで分身を脱出させることで、あたかもペンタゴンを襲撃した犯人のように見せかけていたのだ。
ミートはこの時、真っ先にBHが侵入者を確認しに行ったのは、自身の体で窓を塞ぐことで、逃がした分身を回収する瞬間を見られないようにするのが目的だったのだろうと指摘。
それでも自分にはアリバイがあると勝ち誇るBHだったが、ミートはそのアリバイを否定する。
そう、キン骨マンによって売店の品物は全て買い占められていたのである。
本当に自分の足で売店に行っていたのならそのことに気づき、後楽園球場から出て外食していたはずだ。
そこを突かれたBHは、がくりと態勢を崩した。
それはまさに、犯行を認めたのと同義だった……。
動機を聞いてきたキン骨マンに対し、BHはコンビ解消の噂が真実だと語る。
しかし、ミートはその噂の「真相」をも読んでいた。
「この事件を仕組んでいたのは、ペンタゴンだったんです。」
その場にいた全員が疑問に思う中、ミートはBHのグローブに挟まっていた羽根を引っ張り出す。
ペンタゴンの死因はパイルドライバー。掛け手の両腕は相手の腰にグルリと回すことになるのでグローブの裾は閉じてしまい、羽根が入るなどありえない。
しかし、掛け手が逆だったらどうなるか?
受け手の両腕は落下の勢いで軽くバンザイをするような、くの字型に曲がり、羽根が入る隙間も生じるはず。
混乱してきたキン骨マンに、ミートは結論を語る。
ペンタゴンがBHに不意打ちを仕掛け、パイルドライバーが炸裂する瞬間にペンタゴンの特殊能力「クロノス・チェンジ」でお互いの体勢を入れ替える。
これによりBHがペンタゴンを殺す構図が出来上がる。
ペンタゴンは、自分自身をBHに殺させたのである。
この事実を前に、その場にいた全員が言葉を失った。
犯行を認めたBHだったが、ミートに動機を聞かれても答えようとはしなかった。
敢えて答えなかったのだ。
実はBHは、主である悪魔将軍から近いうちに正義・悪魔・完璧の三勢力による抗争が起こることを知らされ、正義超人との関わりを絶つよう命じられていた。
悪魔超人にとって、悪魔将軍の命令は絶対。BHは断腸の思いで「他の超人とコンビを組む」と提案していたのであった。
キン骨マンは「何故自分を裏切ったBHではなく自分を殺させたのか?」と疑問に思ったが、ミートはそれを「相方殺しの悪名を着せるため」と推測する。
ペンタゴンは長年続けたコンビの解消を許せず、自分を殺させる計画を思いついた。
この悪名を着せれば、コンビを組みたくなる超人は今後一人も現れないだろうと。実際に起こった完璧超人との抗争における活躍と言い、悪魔よりも悪魔らしい気がする
BHは切なげな表情で、床に散らばる羽根を拾い上げつつ回想する。
ミートの推察通りにパイルドライバーを掛けられたが、ペンタゴンの二つ目の特殊能力「ストップ・ザ・タイム」により抵抗出来ず、そのまま計画を完遂させてしまったと。
事件の真相がペンタゴンの自作自演であることを隠すために、第三者による犯行を偽装したと。
「オレは…オレは間違っていたーっ!!こんなことになるなら、コンビ解消の理由をはぐらかしたりせず、全てを打ち明けるべきだったーっ!!」
BHは、ただ泣き崩れていた。
その日の夜に、ミートとキン骨マンは駅前のおでん屋で一日を振り返っていた。
なぜペンタゴンが黒幕だと気づけたのか不思議がっていたキン骨マンだったが、ミートは「何でも出来過ぎるBHなのに、誰かの思惑に翻弄され追い詰められた被害者のように見えた」という旨を語った。
「つまり、今回の事件は犯人だったBHが、無実に裏返ったってことか……ムヒョヒョ~ッ。」
【事件2 蘇った犠牲者】
事件1の翌日、今度は渋谷区の代々木公園を訪れた二人。
「キン肉マンはゆるいイベントに飢えている」というキン骨マンの推理から、そこで開催されている「正義超人ふれあいフェスティバル」に参加したのだが、公園内の公衆トイレでティーパックマンが殺されていた!
ゆで作品名物「何の説明もなく蘇る死人」に焦点の当たった章。
超人強度のやり取りなど、全体的にギャグが挟まりまくった小休憩にちょうどいい回。キン肉マンで推理物やってる時点でギャクそのものだろって?都合の悪い事は忘れよ
登場超人の微妙なラインナップにも注目。
【この章の登場人物】
- カナディアンマン
ご存じ国辱コンビビッグ・ボンバーズの赤い方。
他の正義超人と共にイベントに参加していたのだが、キン骨マンの提案を聞くと態度を一変、「自慢の100万パワーを手放したくない」と駄々をこね出し、ミート達をドン引きさせる醜態を見せつける。
ミート達と出会った時にはウンチを漏らしそうになっており、イベント会場の公衆トイレには和式便器しかなく、仕方がなく駅前の百貨店のトイレに行ったが、ミートが確認した時点では公衆トイレにも洋式便器が存在しており……?
- イベントに参加した正義超人
スペシャルマン、ベンキマン、タイルマン、チエの輪マン。
超人強度は順に65万、40万、20万、そして30万パワー。
- 犯人
上記5人の中の誰か1人。
モノローグでしか明確に「彼」が発したとわかる台詞はない。
地の文でも徹底して「犯人」と表記されている。
しかしかなり焦っており、事あるごとに犯人感を薄めるための発言を繰り返す。
今回の被害者。自分が第21回超人オリンピック*1のファイナリストであることを誇りとしており、犯人に殺害される直前まで事あるごとに口に出していた。
死因はバックブリーカーによる背骨骨折。
下記の通りキン骨マンの提案で超人強度の譲渡による蘇生が行われようとしていたが、直前で待ったがかかり保留にされてしまう。
園内放送によって、イベントに参加した超人が公衆トイレに集められた。
全員ちょうど休憩時間だったのでアリバイは証明できず、他のスタッフも「他に怪しい超人は見ていない」とのこと。
犯人は完全に上記5人に絞られた。
このままミートと犯人でボロの出し合いが始まる…と思いきや、キン骨マンがとんでもない提案をする。
「…なんていうか、もうティーパックマンを生き返らせた方が早くないか?」
そう、超人強度は譲渡が可能。
容疑者全員で5万パワーずつ出せば、超人強度25万パワーであるティーパックマンは蘇生可能なのだ。
が、ここでカナディアンマンが上記の通り暴走。
「その他大勢と一緒になるのは嫌だ~っ!」とまで言い出す中、ならばとばかりにミートが今度は自分の5万パワーを代理で差し出そうとするが、咄嗟に彼の身を案じたスペシャルマンによって止められてしまう。
一旦蘇生案は保留となり、推理が振り出しに戻ったが、ここでミート達はトイレに個室が二つあることに気づく。
先ほどのカナディアンマンの発言と矛盾してしまい、犯人のレッテルを貼られそうになるカナディアンマン。
そこにミートが待ったをかけた。
「ティーパックマンを殺した犯人は、やはりこの中にいます!」
ミートは状況を整理し始めた。
狭い空間故、自然と殺し方は待ち伏せに限られる。
早合点したカナディアンマンは当てずっぽうにチエの輪マンとベンキマンを犯人とするが、それぞれ
- 「体を分解して隠れても、再合体の際にどうしても体がこすれて金属音が鳴って気づかれてしまう」
- 「寝そべって和式便器に擬態したところで洋式便器と和式便器が立ち並ぶ異様な光景になるはず」
- 「というかそもそもベンキマンは死体を自分の体の便器に流してしまえるので死体が見つかってること自体あり得ない」
と論破されてしまう。
カナディアンマンが疑った超人に謝りつつ、ミートはそれらを踏まえた上で「木を隠すなら森の中、灯台下暗し」と残ったタイルマンとスペシャルマンを見る。
「犯人はあなたですね……タイルマン!」
「ああ、よく分かったな、ミート。」
タイルマンは、犯行がバレたのに晴れ晴れとした様子だった。
他の超人が困惑する中、スペシャルマンはタイルマンを庇うようにトリックを聞いた。
たまたま公衆トイレはタイル張り、それもタイルマンの体にそっくりなタイルである。
つまりタイルマンは、ただ立っているだけで、気配を完全に消せたのである。
キン骨マンとカナディアンマンはそれぞれ
- 「公衆トイレってみんなタイルマンっぽい壁だわさ。」
- 「俺が個室の数を間違えたのは、洋式便器の前に立ちふさがっていたタイルマンを壁と認識したからなんだ!」
と納得する。
タイルマンから何故自分を疑ったのか聞かれ、ミートは二つの根拠を挙げる。
まず、園内放送で皆を集めた時、死体はまだ確認していないはずなのにタイルマンだけ「無残に殺された」と知っていたから。
二つ目は、呼び出された時点からずっと腕を組みっぱなしだったから。
腕を解くと右腕に紅茶のシミがモロに付いており、ティーパックマン殺害時に彼の頭から零れた物がそのまま消えない証拠となってしまっていたのだ。
最後にキン骨マンが動機を聞くと、タイルマンは絞り出すような声で応じた。
小さなことの積み重ねだったとタイルマンは言う。
第21回超人オリンピックの最終予選にて、タイルマンは惜しくも敗れた。*2
しかし納得が行かなかった理由は、自分が負けたことではなく、本戦出場者の中に全く予選に姿を見せていなかったはずの超人がチョイチョイいた点にあった。*3
本当に彼らは、ちゃんと予選を潜り抜けて来たのか?
それをずっと根に持っていたのにもかかわらず、ティーパックマンは悪気ない態度でファイナリストであることを自慢していた。
ただ、それが許せなかったと泣き崩れると、タイルマンは腕に手を当てた。
罪滅ぼしとばかりに、己の超人パワーをティーパックマンに与えるつもりなのだ。
ミートの警告も聞かず、超人強度を全て与えて力尽きたタイルマン。
しかしティーパックマンの超人強度は25万、タイルマン一人の20万パワーでは足りない。
残された四人の正義超人はパワーを割り勘して二人とも蘇らせようとするが、そこにカナディアンマンが再び待ったをかける。
「えっ!?そ、そうなると…まず1.25万パワー支払った後、更に4万払うから、合計5.25万パワーで、最初の話より差し出す分が0.25万パワー増えてないかっ!?」
カナディアンマンは30分ばかり粘ったが、渋々協力し二人は助かった。
【事件3 1000万の鍵】
事件2からまた次の日、キン肉ハウスにスーツを着た老人がやってきた。
曰く、自分は富蟻杉益の執事で、最近になって主人が手に入れた宝石「巨人の涙」がルピーンに今日の午前12時丁度に盗まれる予告が来たので宝石を警護してくれという。
キン骨マンがやや強引に引き受け、二人は富蟻の豪邸に向かった。
前章から引き続き、超人強度に焦点を当てた章。
ゆで理論の典型として度々話題に上がるウォーズマン理論が文字通り「鍵」となる。
【この章の登場人物】
巨人の涙の警護に雇われた悪魔超人。
1000万パワーを超える超人は限られるので、最も有名な彼を仲間に引き込むことで警備をやりやすくする富蟻の策である。
最も、本人としてはルピーンが力ずくで巨人の涙を盗む手段を取った際に、彼が連れて来るであろう強豪超人と闘うのが楽しみで依頼を請けたらしい。
普段から短気な方だとは言え、自らの身に疑いがかかった途端に冷静さを失い、「俺を疑った奴は容赦なくぶちのめす!」とまで発言するなど、やや不審。
超人強度は言うまでもないが1000万パワー。
こちらも巨人の涙の警護に雇われたロボ超人。
ルピーンの過去の犯行データを全てインプットしてきたと語り、付き合いの長いミートにはバッファローマン共々信頼されている。
こちらも巨人の涙が盗まれたのにいつも通り冷静沈着に計算を行っていたり、わざとらしい電子音を出しまくったりと、やや不審。
超人強度は100万パワー。
- ルピーン
フランス出身の正義超人。
悪人から宝を盗む義賊的な活動をしているが、今回は何故か汚い手段を全く使わずに巨万の富を築いた富蟻からその宝石を盗み出そうとする。
超人強度はまさかの1万パワー。このため単独での犯行は不可能と思われているが?
- 富蟻杉益
事実上、本作唯一のオリジナルキャラクター。
資産家で長者番付にも名を連ねる大富豪。
美術品コレクターでもある彼が、最近になってオークションで巨人の涙を100億円で落札したことから今回の事件が始まった。
当小説に挿絵は無いが、地の文によると容姿は「タキシード姿の太った中年男」「スキンヘッドに口ひげを蓄え、マフィアのボスのような見た目」とのこと。
言動も含めて典型的な金持ちといった具合だが、ミートに便乗して来ただけとはいえキン骨マン相手にそのまんま「おまけ」呼ばわりしたり、やや自らの地位に胡坐を掻いているところもある。
- 執事
富蟻に仕える。主に事務仕事を担当しており、彼にスポットが当たることは全くない。
こちらも挿絵等は無いが、地の文によると容姿は「黒いスーツに身を包んだ、白髪の老人。しかし老いを感じさせないように背筋はピンと伸びており、気品を感じさせる」とのこと。大体ドン・ピカーデリカオーネ
- 巨人の涙
人ではなく「物」だが併せて紹介。
海を丸ごと閉じ込めたかのように蒼く輝く美しい宝石。
普段は超人強度に換算して1000万パワーまでの衝撃に耐えられる特注ガラスケースの中で展示されている。
執事の車で富蟻の屋敷に向かうミート達。
途中キン骨マンが「役に立つ道具があるから」と自らの研究所に寄り道させつつも到着した。
屋敷は熱海の別荘地を一望できる位置にあり、サイズはゴルフ場並み、本館の他にもここには書ききれないほど大量の別邸が存在する。
そのうちの一つ、世界中の美術品を集めた「コレクション邸」にて、ミートは依頼人の富蟻と出会う。
キン骨マンがおまけ呼ばわりされて不機嫌になったりしたものの、公開された巨人の涙のあまりの美しさに二人は言葉を失うのだった。
ここで宝石を守るケースの説明が入り、キン骨マンはその強度に驚愕する。
一方ミートは1000万パワーの超人が仲間に引き入れられていた場合を心配するが、それも大丈夫だと富蟻はバッファローマンとウォーズマン、そして屋敷の侵入経路を全て塞ぐシャッターを紹介する。
盤石の態勢が整ったところで、やたらと他の美術品をベタベタ触りまくるキン骨マンを富蟻が咎めつつ、残り5分の予告時間を一同は待つ。
あと3分、2分、1分 部屋の大時計が12時を知らせると同時に、部屋中から煙が噴き出した。
誰とも知れぬ「犯人は煙に紛れて宝石を盗む気だっ!気を付けろっ!」と言う声に一同は警戒するが、瞬く間にみんな倒れてしまった。
煙は催眠ガスだったのだ。
一同の眼が覚めると、時刻は12時半。
ガラスケースは破壊され宝石は盗み出されていた。
宝石の代わりにテーブルに置いてあったルピーンの名刺に悔しがる一同。
ここでミートは真っ先にシャンデリアの明かりが全て消えていることに気づく。
シャッターが全て締まっているので、広間は本来真っ暗になっていなければならない。
次に大広間の壁を見ると、何かが衝突したような大穴が出来ており、そこから外の光が漏れて、部屋を薄暗く照らしていた。
キン骨マンは「ルピーンが1000万パワーを持つ超人とグルだった」と断定して他の面々を追跡に向かわせようとするが、違和感に気づいたミートによって止められる。
この犯行は美学を重んじるルピーンがやったにしては力ずく過ぎ、まるで華麗さがないとして別の人物の犯行を疑ったのだ。
ウォーズマンは、「共犯者が宝石を守る超人として侵入し、催眠ガスを仕掛けて全員を眠らせ、宝石を盗み出し壁に穴を開けて脱出したように見せかけ、その後あたかも自分も眠っていたかのようにふるまう」と推理する。
コレクション館に入って来れた超人はミートとキン骨マン除くと二人。
全員がその中で唯一ガラスケースを破壊可能なバッファローマンを疑い始めるが、上記の通り逆ギレしてしまい疑うに疑えなくなってしまう。
ここで外で待機していた執事が入って来た。
八つ当たりの如く𠮟りつける富蟻だったが、執事は12時5分の時点でガラスケースが割れた音が聞こえ、その後すぐに駆け付けたと主張。
ミートは時刻に違和感を覚えて部屋の大時計を確認するが、何故か12時半から動いていなかった……。
「みなさま…巨人の涙を盗み出した犯人が分かりました。」
宝石が入っていたガラスケースを中心に輪になって集まる六人。
ミートはまず、広間に催眠ガスを仕掛けたのはキン骨マンだと断定。
言いがかりをつけられ抗議するキン骨マンを、冷静に追い詰めていく。
そもそも無理矢理宝石警護の仕事を引き受けさせたのも、ルピーンに乗じて宝石を奪えば彼の犯行だと思わせられるからだ。
キン骨マンは富蟻邸の内部構造を知らないため、ルピーン対策と銘打って秘密研究所に寄り道させ、ありったけの犯罪道具を持って行くことにした……。
すぐさま執事がキン骨マンの持ってきたリュックを調べると、大量の工具や化学薬品、ガスマスクが見つかった。たちまち激昂し始める富蟻。
ミートは続いて、催眠ガス発生装置を、無遠慮に美術品を触るふりをして仕掛けたと指摘する。
また、犯行時刻の確認には全員が大時計を使っていたのだが、キン骨マンだけは自らの腕時計で確認していた。
その腕時計は催眠ガスを発生させるスイッチであり、ガスを部屋に充満させた直後「犯人は煙に紛れて宝石を盗む気だ!」と叫ぶことでガスをただの煙幕だと誤認させ、闇討ちのみを警戒して他の連中が気絶する中、一人だけガスマスクを付けて眠るのを回避したという。
「非力な自分にガラスケースは壊せない」と反論するキン骨マンだったが、それも「バッファローマンを背負ってロングホーン・トレインの要領で彼自身を凶器にすれば解決できる」と論破され、とうとう企みを認めた。
怒る富蟻とバッファローマンに呆れるウォーズマンだったが、ミートはそこから更なる推理を展開する。
結局キン骨マンは宝石を盗めなかった。その原因はあるアクシデントにあったとミートは言う。
バッファローマンを背負ったキン骨マンがガラスケースにぶつかる直前、照明が消えてしまい、シャッターで全ての窓が閉まっていたのもあって広間全体が真っ暗闇になった。
その結果キン骨マンはロングホーン・トレインを壁に誤爆し、大穴が開いたのだと……。
すなわち、「照明を消した人物」こそが別の方法でケースを破壊し、宝石を盗んだ真犯人。
ミートが指さした人物は……
「あなたですね、ウォーズマン。」
バッファローマンが驚愕する中、ミートは解説を始める。
今回の事件はキン骨マンの力ずくの作戦とウォーズマンの停電作戦が入り混じっており、ウォーズマンから漏れていた電子音はウォーズマンの体内にある機械ではなく、彼がひそかに持ち込んだ広間の照明を遠隔操作する装置から発せられたものだったという。*4
とうとうわざとらしい呼吸音すら止め、ウォーズマン 否、真犯人が変装を解いた。
「ルピーンは変装の名人です。彼はずっと、ボクたちの側にいたんです!」
ルピーンはとうとう、正体を現した。
そのままガラスケース破壊のトリックの解明を急かすのに応えるミート。
最初ウォーズマンに変装していたルピーンはそのまま皆と一緒に眠ってしまったが、オーバーボディを着ていた分少量しかガスを吸わずに済み、キン骨マンが誤爆した直後に目を覚ます。
瞬時に状況を理解したルピーンは、何らかの方法でケースを破壊。
その後、キン骨マンに凶器にされたバッファローマンが目を覚ましたので「暗闇の中、暗視ゴーグルを付けた状態ならともかく、壁に穴が開き光が差した状態では逃げ切るのは困難」と判断、入れ替わるように寝たふりをしていたのだ。
一方、ルピーンの次に目を覚ましたバッファローマンは、知らぬ間にケース(と壁)が破壊されていたことに驚愕。
身に覚えがなくても「1000万パワーでなければ壊せない=犯人は自分」と思ってしまったので、偽装のため下敷きになっていたキン骨マンを引きずって自分も寝たふりをした。
そして最後に目を覚ましたミートが、宝石が盗まれたことに気づいて絶叫。
この時にルピーン、バッファローマン、キン骨マンも狸寝入りをやめた これが、この事件のあらましである。
最後に、ルピーンはどうやって自分がケースを破ったのかをミートに問いただすが、さしもの名探偵も「頑張った」としか答えられなかった。
困惑する一同を余所に、怪盗は自ら解説を始める。
「たかが1万パワー、されど1万パワー。ステッキの二刀流で2万パワー、いつもの5倍のジャンプで2×5=10万パワー。」
「いつもの5倍の力で壁を蹴り10×5=50万パワー、いつもの5倍の回転で50×5=250万パワー。」
「更に、いつもの2倍歯を食いしばって250万×2=500万パワー。」
「最後に、いつもの2倍の身軽さ…つまり全裸になって、1×2×5×5×5×2×2=1000!!」
「1000万パワーの光の矢となった私は、そのままステッキをガラスケースに突き刺して、粉々に破壊したのです!!」
思わず一同は歓声を上げた。
ミートは計算式まではわからなかったものの、おおよそは大時計を見て気づいたと語る。
大時計が止まっていたのは、ルピーンが壁蹴りの際に大時計を蹴ってしまい、そのせいで本来の時刻から30分も進んだ上で故障したからだ。
殺人事件ではないからか、今までの事件とは違い、素直に褒め合う探偵と怪盗。
富蟻はそんな空気に水を差すことを若干申し訳なく思いつつルピーンを捕まえるよう促すが、ルピーンは「むしろあなたを助けるために盗もうとした」と主張する。
高額な絵画や宝石を保有する者は、悪行超人や泥棒に狙われることが必定。
世間では窃盗団に命を奪われる富裕層も少なくない。
現に巨人の涙を狙って、札付きの悪行超人で構成された窃盗団が続々と日本に集結しているという。
結局、自分の命を天秤にかけた富蟻は渋々ルピーンに宝石を譲り渡す。
颯爽と気球で去っていくルピーンを見て、ミートは感慨深げに呟いた。
「結果的には…ルピーンが予告通り、巨人の涙を盗み出したわけですね。」
【事件4 呪肉館殺人事件】
ルピーンのタレコミで、ついにキン肉マンの居場所の手掛かりを掴んだ二人。
それによると、キン肉マンは群馬県と長野県の県境で姿を目撃されたらしい。
ルピーンからの手紙には「キン骨マンは信用できないので連れて行かないように」という警告も含まれていたが、それでも二人で群馬県と長野県の県境にあるペンション「呪肉館」へ向かうのであった。
いよいよ本作も最終章。
キン肉マンとの再会を果たすミートだが、今回の被害者は……?
【この章の登場人物】
キン肉マン マリポーサ率いる飛翔チームの次鋒にして、四次元殺法コンビに並ぶチート能力の持ち主。
呪肉館には超人写真コンクールに応募する作品の撮影に来ており、ミート達にも地球に再訪した時に撮った地球そのものの写真を始めとする、様々な写真を見せてくれた。
曰く、「最近はカメラの性能も上がってきて、素人でもクオリティの高い写真を撮れるようになってきたが…そのせいで、構図やレタッチに対する知識が赤子同然の、にわかカメラマンが増えてきた!大切なのはカメラではなく、シャッターを切るのが誰かということであって…」
キン肉マン ゼブラ率いる技巧チームの中堅。
呪肉館には個人的なツーリング旅行の一環として立ち寄ったと言い、キン骨マンをバイク乗りと見間違えた際は喜びのあまり興奮し、血相を変えたほど。
彼が語るところによれば呪肉館のある土地は曰く付きではあるものの、ツーリングスポットとしては名所の一つとのこと。
- ドネルマン
※この超人は東京都・おぎぬまXさんのアイデアを基に創作しました。
トルコ出身の超人で、服装はトレーナーにジーンズ、顔にはズタ袋と如何にも何か隠していそうな男。
- 老婆
呪肉館の管理人を務める、白髪をお団子にした小柄な老婆。笑い声は「キョキョキョ」。
一人称は「オババ」だが、アニメ版に出てきたオリキャラの「キン骨オババ」とは特に関係ないはず。
とうとう登場した本来の主人公。
プロローグの1週間前から突如として失踪を遂げており、ミート達は血眼になって彼を探していた。
いざ見つかると「旅館のテレビの有料チャンネルが見てみたかった」と告白、あっさりと帰る約束を取り付ける。
普段のヘタレな言動とはまた違う態度にミートは違和感を覚えるが、それほど心労が祟っていたのだと考えて約束の時刻まで見逃してあげることにした。
- 呪肉館
「建物」であって「物」ですらないがこちらに記載。
周辺の別荘地から離れた位置にぽつんと建っており、左右にとんがり屋根の付いた二階建ての西洋建築である。
1号室にはキン肉マン、2号室にバイクマン、3号室にミスター・VTR、4号室にドネルマン、5号室にミートとキン骨マンが宿泊。
かつてこのペンションがある土地には無法者が住み着いており、村人を苦しめていたが、ある日、「筋肉の英雄」なる者が現れ、身一つで悪党を成敗したという。
村人らは感謝のもてなしを英雄に施すが、やがて彼が新たな支配者になるのを恐れ、酒をふるまって酔ったところを殺してしまった。
それ以来、英雄の祟りか村には不幸が続き、村人も逃げるようにして散り散りになり、この建物だけが残ったとのこと。
宿泊客として約束の時刻である翌日の朝を待つことになったミートとキン骨マン。
そして朝になると、キン肉マン以外の全員は談話室で食事をとっていた。
キン骨マンは昨夜聞いた不気味な山鳴りをバイクマンのエンジン音から思い出し、ミートに尋ねられる。
曰く、深夜3時ごろに急に眼が覚めてしまって、星でも見に外に行こうとしたところ、怪物のようなうめき声がして怖くなって即ベッドに戻ったという。
「きっとあれは筋肉の英雄の断末魔だった」と振り返るキン骨マンをVTRが茶化すが、ミートがキン肉マンを迎えに行こうとしたところで、部屋から何かが落ちる音がした。
キン骨マンと確認しに行くと、キン肉マンは胸に短剣を突き立てられ絶命していた。
血だまりから察するに、たった今殺されたようである。
ミートはショックを受けつつも、自分でも驚くほど冷静に現場を観察していた。
必ず犯人を捕まえてみせると既に決心していたのである。
「 王子!あなたの仇は、ボクがとりますっ!」
現場検証を進めていると、手つかずの牛丼を発見。
「キン肉マンといえば牛丼」と世間的に有名なほど牛丼好きなはずのキン肉マンが、何故?
ミートが違和感を覚えたのもつかの間、VTRとバイクマン、そしてドネルマンが1号室に入ってきた。
全員に超人殺人が起こったことを伝えると、三者三様の反応が返ってきた。
キン骨マンは事件2の時と同様に超人強度の譲渡による蘇生を提案するが、キン肉マンの超人強度は95万パワー。
ミート(50万)+キン骨マン(20万)では足りないし、関わりの薄い三人の協力も得られまい。
というわけで、犯人は推理によって追い詰めることになった。
談話室は1階で客室は2階。
「キン肉マン以外の全員は1階で食事をしていたのだから、犯人は外から来た」と推理するキン骨マン。
丁度バイクマンだけが朝食を手短に済ませ、外でエンジンの点検をしていたのに加え、外から2階の窓までの距離くらいなら垂直に登っていけるという理由でバイクマンが容疑者となるも、タイヤ痕が見つからず保留に。
続いてVTRを疑うミート。
しかし本人から自分の能力ではアリバイを成立させつつキン肉マンを殺すことは出来ないとして保留となる。
最後にドネルマンを疑いだすキン骨マンだったが、ここでミートに「自分の潔白を証明するのが先」と言われてしまう。
元々キン肉マンにリベンジを果たすのが目的だったキン骨マンは昨夜寝付けなかったと言っていたが、本当はその時に共犯者とキン肉マン殺害の打ち合わせをしたのではないかとミートは考えたのだ。*5
加えて、これまでの超人殺人の犯人はいずれもプロレス技で殺しを行っていたが、今回はわざわざ凶器を使った=犯人は殺人に使えるような技を持っていないとするミート。
あくまで「超人」ではなく「怪人」であるキン骨マンは、この条件に当てはまるのである。
しかしキン骨マンは珍しく真面目な表情で反論する。
「昨日のあいつのしょぼくれた姿を見て、嘘のように復讐心が消え失せただわさ。あんなブタ男は、もうあちきの知るキン肉マンじゃないだわさっ!あんな奴、今更殺すなんてありえないだわさっ……!!」
悲しみと悔しさの入り混じった複雑な心境を吐露するその姿に、ミートはキン骨マンは犯人ではないと確信。
さらに、テーブルの上の手つかずの牛丼に抱いた違和感にも気づく。
昨夜作られて部屋に運び込まれたはずなのに、まるで出来てからそれほど時間が経過していないようで、触ってみると微かに温もりまであった。
……その瞬間、ミートの脳内に電撃が走る!
「今回の超人殺人、その謎は全て解けました!」
まず初めに、今回の殺人のポイントは二つあるとするミート。
一つ目はわざわざ凶器を使った点だが、これは犯人が「名実共に最強の超人と名高いキン肉マンに正面からぶつかっても勝てない」と判断したから。
次に二つ目を言おうとした時、キン骨マンが早合点してオババを挙げるが、
- 「わざわざ襲うより牛丼に毒を盛った方が早い」
- 「わざわざミート達が来てから殺す必要がない」
ということで却下。
ミートが語るこの事件の二つ目のポイントは、「全員にアリバイがある」という点。
犯人はある能力を駆使して時限装置を作り、キン肉マンを間接的に殺したのだという。
そんな芸当が出来る超人は、この中では一人しかいない。
「犯人はあなたですね…ミスター・VTR!!」
不敵に笑うVTRだったが、ミートも負けじとキン肉マン殺害のからくりの解説を始める。
昨夜までにキン肉マンのいる部屋に侵入出来たのは、オババが作った牛丼を代わりに持っていったミートだけ。
その時刻も昨夜の夜22時過ぎで、犯行時刻である今朝7時ごろとは噛み合わない。
その点を埋められるのがVTRだけだという。
理由はまず、部屋のカーテンが閉まっていたからというもの。
キン肉マンが朝に殺されたのならカーテンは開いているはずなので、仮にバイクマンが殺していたのなら夜の時点で殺害のトリックは完成していたはずであり、わざわざ外に出て疑われる理由を作る真似はしないからである。
VTRはそこに「それではキン肉マンが襲われたのは夜だったという反証にしかならない、皆が寝静まった時点でキン骨マンが殺したのでは?」と口を挟むが、ミートはそれは不可能だと答える。
キン肉マンが殺されてからキン骨マンが目を覚ますまで軽く5時間。
その間、大好物の牛丼を放っておくはずがない。
仮に面会謝絶のナーバスな状態で喉を通らなかったとしても、そもそもキン骨マンが侵入する経路がないのである。
ミートが死体を発見した時点では部屋に鍵がかかっておらず、鍵を盗んだり複製したりしていたのなら出ていく際に鍵を閉め直すだけで密室殺人になるはず。
そうなると方法は一つ、キン肉マンを騙して、自分から鍵を開けてもらうしかない。
お忍びで地球に来ているキン肉マンはいつも以上に警戒しており、余程の事態でもない限り開けてくれないはず。
この時点で、キン骨マンは容疑者から外される。
VTRは自分も条件は同じとするが、ミートはそれに対し「自分の声を盗まれた」と言う。
他の客は部屋に通すなとオババに釘を刺していたキン肉マンだが、ミートに対しては約束を取り付けた時と牛丼を届けに来た時で2回もドアを開けてあげた。
この際にミートが喋った「王子、開けてください。ボクです、ミートですっ!」という声を録音しておくことで、皆が寝静まったタイミングに再生し、本人が来たと思ったキン肉マンにドアを開けて貰うことで、悠々と侵入した。
部屋の鍵はミート自身だったのである。
なおも「キン骨マンが同様の手口を使ったんじゃないか」と反論するVTR。
しかし温かいままの牛丼こそが、「悪魔の時間差トリック」を証明するという。
順を追ってミートの解説が始まる。
まず、ミートの声を再生して部屋を開けてもらい、即座に襲い掛かって気絶させるか、VTRの特殊能力の一つ「アクション・ストップ」で身動きを封じる。
重要なのはこの時点ではまだキン肉マンを殺していない点である。
次に、凶器の短剣を刃が天井を向くように置き、その側に停止させたキン肉マンの体を立たせる。
このまま押し倒せば、短剣が胸に刺さってキン肉マンは死ぬが、それだけでは時間差トリックにならない。
VTRはこのトリック最大のキモである「ある能力」をこの時キン肉マンに発動していた。
VTRは世界をビデオ編集の要領で操れる。今回キン肉マンに使ったのはスーパースロー再生だった。*6
倒れゆくキン肉マンに対してスーパースローをかけることで、キン肉マンは夜22時から朝7時までの9時間かけて、ゆっくりと短剣に突き刺さっていった。
動きはスローでも痛みや意識は正常のはず。キン肉マンは9時間に渡って、想像を絶する苦痛と恐怖に苛まれていたことになる。
キン骨マンが聞いたという山鳴りの正体は、まさにこの時キン肉マンが上げた断末魔だったのである。
あまりにも恐ろしいトリックに崩れ落ちるキン骨マン。
温かいままの牛丼に感じた違和感からトリックに気づいたというミートに対し、VTRは息を荒げて「ドネルマンが時間操作能力を持っているかもしれない」と必死に食い下がる。
だがミートは、ドネルマンだけは絶対に犯人にならないと言い切り それに呼応するかのように、それまで一言も口を利かなかったドネルマンが、頭の袋を脱ぎ捨てながら言葉を発した。
「へのつっぱりはいらんですよ!」
その正体は、キン肉マンだった。
……しかし、額の肉の文字の代わりに赤い宝石を装飾し、より鋭い目つきと一回り分厚い唇を持った ぶっちゃけ不細工なマスクを被っていた。
ミートに急かされ、マスクを倒れている方のキン肉マンと交換する本物のキン肉マン(以下スグル)。
交換し終えて改めて名乗るスグルに対し、VTRは影武者を殺したのかと無念がる。
しかしミートは「狙って影武者を立てたわけではない」と言う。
焦るVTRに、ミートは倒れている方の超人の本当の名を教えた。
「あなたが間違って殺してしまった超人は…シシカバ・ブーです。」
まさかの本編の登場は一回キリの男の登場である。
ミートの予想通り、大王の職務に耐えかねたスグルは地球に逃亡した。
その際、かつてビビンバを巡って争った仲でもある友人のシシカバ・ブーにこっそりと連絡を取り、お互いのマスクを交換して、しばらくの間替え玉として振る舞ってもらうことにしたのである。
人間とっさに偽名を名乗ることになった際に全く脈絡のない名前を言えないもの。
ドネルマンという名も、シシカバブに並ぶトルコ名物「ドネルケバブ」に基づくものだったのだ。
ミートが大好きなスグルを殺されたにもかかわらずやたらと冷静だったり、キン骨マンが自身の心情を吐露する際に「あんなのキン肉マンじゃない」とまで言ったのもそのはず、この時点では、本当にキン肉マンは別人だったから。
スグルからすれば、マスクの交換が済んだ後はドネルマン(シシカバ・ブー)として久々の日本を楽しもうとしていたのだろうが、間の悪いことにミートが呪肉館に来てしまい、キン肉マンに変装したシシカバ・ブーは動揺して咄嗟にキン肉星に帰る約束を取り付けてしまった。
朝までの間に密会して証拠隠滅を行おうとしたが、その前にシシカバ・ブーがVTRに殺されてしまった……というのが事件の真相であった。
お互いにすぐ正体を明かさなかったことを謝るスグルとミート。
それは、無言のまま犯人を追い詰めるための、長年の「友情」によるコンビプレーだったのだ。*7
一方バイクマンはVTRに動機を聞き始める。
全ては王位争奪サバイバルマッチのやり直しが目的だった。
スグルが死ねば、キン肉星大王の座は再び空席になり、彼の主君であるマリポーサを新大王に擁立させられると……。
その歪んだ忠誠心に一同は凍り付く。
キン肉マンとの戦いに敗れ、改心したマリポーサが今更そのようなことを望むはずなどない。
にもかかわらず、VTRは一人スグルに復讐する機会をずっと伺っていたのだ。
最後の手段とばかりに直接襲い掛かるVTR。
しかし、その勢いを利用して放たれたキン肉バスターによって2階から1階までを突き破る衝撃を受け、あっさりとKO負けを喫した。
「バアさん、チェックアウト。」
最後にスグルはシシカバ・ブーに対し久々のフェイス・フラッシュを行使、復活させる。
その様子を1階から覗いていたVTRは、その無茶滑稽さに困惑し、敗北を悟ると気絶してしまった。
キン骨マンは思わず叫ぶ。
「これが…これがキン肉マンだわさっ!!」
【エピローグ】
新幹線で東京に帰る三人。
生き返ったシシカバ・ブーはスグルを散々どつきながら、そのまま日本観光を楽しむため別行動をとった。
ミスター・VTRは本来なら超人警察に連行されるはずだったが、スグルの独断で見逃され、ボロボロの体を引きずりながら呪肉館を去った。
ミートはスグルにキン肉星に帰った後のことを相談するが、当のスグルはどこか上の空であった。
「自分が失踪したタイミングと各地で超人殺人が起きたタイミングが同じなのは偶然なのだろうか?」とスグルは考えていた。
ミートも同様に、何か裏で大きな力が動いていると感じていたことを打ち明ける。
ペンタゴンもティーパックマンも、超人強度譲渡によって蘇ったはずなのに何が心配なのだろうと自分を不思議がるミート。
スグルはある仮説を立てた。
VTRは映像に関することなら何でもできる。
もし仮に、世界を特定のドラマや映画のように変える能力があったとしたら?
流石に彼にそんな能力はないと言うミート。
しかしスグルはVTRのマリポーサへの忠誠心を根拠に、「王位争奪サバイバルマッチの後、スグルへの復讐のために新しく会得した」という可能性を示す。
新幹線がトンネルの中に入ったところで、「ミートがさながらミステリードラマの探偵のように事件を推理する姿を見て気づくべきだった」とスグルは続ける。
VTRは超人レスリングでは自分に勝てないことを悟り、世界を改変することで、「ミステリードラマの法則」を利用した暗殺を企てたのでは、と……。
ミートの方も、心当たりがないわけではなかった。
VTRが見せてくれた地球そのものの写真。VTRは被写体であればそれを思うがままに出来るので、理論的には地球全域に能力を発動することも可能ではある。
二人が顔を見合わせた直後、新幹線がトンネルを抜けると同時に、前方の車両から悲鳴が聞こえてきた。
現れたキン骨マンによると、今度は新幹線で転売行為をしていたら隣の座席にいた超人がトンネルを抜けた瞬間死んだとのこと。
スグルとミートは同時に立ち上がり、スグルはVTRを再びとっちめること、ミートは事件を解決することを約束して駆けていった。
【余談】
概要でチラッと触れた通り、キン肉マンにはミステリー物の前例が二つ存在する。
一つは『キン肉マンⅡ世』連載中に出版された『キン肉マンⅡ世SP 伝説超人全滅!』。
伝説超人達が自らの技で次々と殺されてしまい、万太郎達が警護に向かうというお話で、本書同様ミステリとしてかなり本格的。
もう一つはガラケーサイト『ディープオブマッスル』でのみ読めた小説の一つ「神出鬼没!怪盗超人ルピーン参上!!」。
こちらは本書同様にルピーンの怪盗としての一面を掘り下げた作品となっている。
スピンオフではなくパロディなので今回は除外したが、本田鹿の子の本棚のエピソードの一つに『ゆで理論殺人事件』というのがある。
内容は…読んでくれた方が早い。きっとシルバーマンが使っていたはずのマッスルインフェルノのオリジナルもこんな感じのはず
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- 相変わらず悪魔よりデビルなペンタゴンに笑う。 -- 名無しさん (2023-07-09 22:39:40)
- ↑そしてブラックホールが結構相方思いで、もうこいつらいる場所逆なんじゃね?と思ってしまう(笑) -- 名無しさん (2023-07-09 23:48:05)
- 世界観の書き換えなかったらペンタゴンVSBHとかの因縁試合で済んだろうに -- 名無しさん (2023-07-09 23:52:20)
- バイクマンがいい奴で見方少し変わったわ -- 名無しさん (2023-07-10 01:12:21)
- 本編だと割りと空気設定になりがちな超人界の頭脳を探偵役に据えたのは慧眼だね。タイトルといい目の付け所が好き。 -- 名無しさん (2023-07-10 06:54:45)
- 本来ならプロレスで済んでたペンタゴンVSブラックホールとタイルマンVSティーパックマン -- 名無しさん (2023-07-10 08:31:31)
- 「表情を曇らせるBH」って お前顔無いだろ!? -- 名無しさん (2023-07-10 08:40:31)
- でも実際表情あるよねBH -- 名無しさん (2023-07-10 23:25:40)
- 鹿の子の奴かと思った… -- 名無しさん (2023-07-11 00:21:08)
- VTRの忠臣設定拾ったのも好感触。きっとオメガケンタウリ編以降でマリポーサからこっぴどく絞られたことだろうな… -- 名無しさん (2023-07-11 01:30:17)
- 原作者以外によるスピンオフって原作でサラッと触れられたネタ掘り下げるのあるあるだよね -- 名無しさん (2023-07-11 02:41:16)
- ↑作者はむしろ細かいネタは忘れがちだからね… -- 名無しさん (2023-07-11 04:44:49)
- うん…フェイスフラッシュをまともに活用されたらそりゃ気も失うよね…。何なのキン肉王家…? でも四次元殺法コンビといいミスター・VTRといいチート能力持ち自体が多いのよねこの世界 -- 名無しさん (2023-07-11 21:14:31)
- タイトル見た瞬間に出オチ感すげーなって思ったけど、あらすじ見たら読みたくなってきたな…… -- 名無しさん (2023-07-13 13:50:15)
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*2 その後、カニベースと共にベンキマンのデモンストレーションを兼ねたエキシビジョンマッチに参加し、アリダンゴ固めからの便器流しで敗北。
*3 この時チエの輪マンが同情の目を向けているが、キン骨マンに「お前も怪しいだわさ」と突っ込まれた。
*4 マスクもしっかり暗視用の物になっているとされる。
*5 ここでミートはキン骨マンの舎弟であり、唯一キン肉マン失踪から姿を見せていないイワオを思い浮かべる。
*6 第二次世界大戦の頃、ミサイル開発の一環としてすでに使用されていたといわれるハイスピードカメラによるスローモーション撮影技術。地面に落ちて弾ける水滴や、粉々に割れるガラスの動きといった、人間の視力では捉えることができない刹那をも刻むことができる(本文より引用)。
*7 すぐにドネルマンが正体を明かしていれば事件そのものが有耶無耶になるだろうし、ミート側としても犯人が目的を完遂したと思い込んで油断を誘えるため。
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