稲士別駅

ページ名:稲士別駅

登録日:2017/01/22 Sun 20:21:57
更新日:2024/02/02 Fri 11:11:14NEW!
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jr北海道 根室本線 秘境駅 板張りホーム 北海道 十勝 鉄道 幕別町 稲士別駅



いなしべつ
  稲士別 K33
<●  Inashibetsu  ●>
さつない     まくべつ
 Satsunai     Makubetsu
〜幻の駅は再び幻に〜



稲士別駅とは十勝地方・幕別町にある「幻の乗降場」である。


  • 概要

JR北海道根室本線の駅の一つ。
そして秘境駅ランキング64位(2016年度)にして十勝No1の秘境駅*1である。
あまりにシンプルな駅設備、そして通過列車の多いスカスカの時刻表——十勝の中心にして最大の駅・帯広駅にほど近い*2この駅が「秘境駅」として評価されている点はその2つにある。


  • その姿

まずその姿を見てみよう。
この小さな駅を形作るのは粗末簡素なホームだ。
金属製の支柱で簡単な骨組みを作り、その上に木製の板を貼付けただけ。あとは柵とスロープをつけて完成。そんな「列車の乗り降りにちょうどいい高さの板張りの足場」が稲士別駅のホームだ。
またここが駅であることを主張するかのように駅名標が設置され、いるかどうかも分からない乗客のために時刻表や運賃表もはられている。更に案内放送のスピーカーも設置されている。
そしてこれだけしかない。待合室も駅舎も、トイレもないのである。
これが稲士別の「秘境駅」としての要素・簡素な駅設備である。


また稲士別が「秘境駅」と見なされるもう一つの要素はそのダイヤにある。
ということで時刻表を見てみると「すごく……スカスカです*3」。仮にも帯広の生活圏内なので普通列車の本数自体はそこそこあるはずなのだが。
近くの駅の時刻表を見てみれば、その疑問の答えを示すかのように普通列車の運行を表す数字の横に「稲士別通過」とよく書かれている。すなわち稲士別は普通列車ですら平然と通過する駅なのである。


そう、このような「駅設備の簡素さ」「停車本数の少なさ」が故に稲士別駅は「秘境駅」として認識されているのである。


ただ、周囲はなぜこの駅が秘境駅という評価がなされているのか分からなくなるような光景ではある。
脇を走る道路の交通量は多い*4。しかも周囲に人家は数軒ある上、集合住宅*5まで建っていたりする。
秘境感なら「林に囲まれた小さな駅」「駅前ゴーストタウンの山間の駅」といった十勝の他の秘境駅の方があるだろう。この2駅も交通量の多い国道に近いけど。
……もしかすると人の気配はあるくせに誰も使わず、そもそも使わせる気もあまりなさそうなダイヤが設定されているというギャップがかえって秘境駅としての評価を引き上げているのかもしれない。


ちなみに、今でこそ板張りホームや駅名標しかないような駅ではあるが、かつてはオンボロ待合室が存在した。なぜか赤い電灯付きで。更には円筒型のトイレまであったという。
これら怪しさ満点の駅設備は残念ながら(?)2014年に撤去されてしまった。
今となってはある意味貴重な物(特にトイレ)であるが……いややっぱりそんなもの残さんでいいです(特にトイレ)。


  • 「幻」と呼ばれる所以

ではなぜ稲士別駅は「幻」と呼ばれているのか。それを知るために歴史をたどっていこう。


さかのぼること約60年、1959年に「稲士別仮乗降場」として設置された。
そして1987年4月1日、国鉄が分割・民営化された際に正式なJRの駅となった。
……まあ、これだけなら道内の秘境駅ではよくある話である。


稲士別駅が「幻」のような存在であったという認識は、仮乗降場時代における扱われ方にあった。
それを説明するために、まずは「仮乗降場」というものの扱いについて語らせて欲しい。


そもそも仮乗降場とは、JRが国鉄と呼ばれていた頃の産物である。その時代に「駅を設けるほどではないが沿線住民の利便性のために乗り降りする場所はあった方がいい」という訳で設置された、まさに仮の乗降場であった。
稲士別仮乗降場は「鉄道沿線に住んでいるのにわざわざ遠い駅まで歩かないと列車に乗れないのは理不尽」と思った地域住民の要求に応じて設置された仮乗降場の一つだ。このような仮乗降場は手続きや資金面から駅よりも手軽に設置できたようだ。
ただ地方の管理局独自の判断で作られたものであり国鉄本社の認める正式な駅ではないため、たとえ隣であっても仮乗降場は駅名標に「隣駅」として書かれなかった。
つまり駅名標上は札内駅の「隣」は帯広駅と幕別駅、幕別駅の「隣」は札内駅と利別駅である。札内駅と幕別駅の間にあったはずの稲士別仮乗降場はなかったことにされていた。


そのような仮乗降場は鉄道旅行者にどう認識されていたのだろうか。
そこで鉄道旅行のお供・時刻表を見てみよう。仮乗降場は全国版の時刻表に掲載されないこともあった。地方で勝手に作られたものであって本社の与り知らぬ存在なので仕方ない。それでも地方版の時刻表であればしっかり掲載されていた……はずだった。
この稲士別仮乗降場は な ぜ か 道内版の時刻表ですら無視されてしまっていたほどの存在であった。普通列車スルー仲間の古瀬(当時は信号場)は載っているのに。


また乗客から見た場合はどうか。
いつも乗っている人ならともかく、そうでない人ならば札内駅と幕別駅の間に「何か」があるとは知らないだろう。当然その使用者も周辺住民ぐらいな訳で……。
この仮乗降場は地元住民(この区間の普段の利用者および周辺住民)にしか存在を知られていなかったのだ。


つまり、こういうことである。
鉄道で十勝を旅行中。根室本線を走る普通列車に乗っていた。すると隣同士であるはずの札内-幕別間で謎の「駅のようなもの」が急に現れた。なぜかそこで列車が停まり客の乗降がある。しかし時刻表や駅名標を見れどもそのような存在は示されていない。あれはいったいなんだったのだろう?
……そういう訳で稲士別仮乗降場は「幻の乗降場」と認識されていたのである。


その後1987年に正式な駅となったことにより、めでたく駅名標にも時刻表にも掲載されるようになり「幻」ではなくなった……と言いたいところだが、簡素な駅設備に加えてダイヤがアレなためやはり正式な駅になっても「幻」であるのかもしれない。現に通過列車に乗っているとうっかり見過ごしてしまうこともあるし。


  • その結末

2016年の秋、北海道新聞に美々駅廃止の報が書かれた頃である。
その続報として1日の利用者数1人以下の「極端にご利用の少ない駅」を他にも何駅か廃止を検討していると書かれた。その対象の中にこの稲士別駅は含まれていたのである。そして実際に幕別町に廃止の意向が出されていた。
先の台風10号による大きな被害のあった幕別町に出せる駅の維持費もなく、というかそもそもさほど必要性のある駅でなかったため、廃止が決定してしまった。
というよりその台風被害から考えて、まさか十勝からダイヤ改正の犠牲者が出ると思わなかったよ! しかも2駅も!


美々駅や上厚内駅のように複数本の線路からなる交換設備があれば、廃止後も信号場*6として残るだろう。
花咲駅や智東駅のように貨車改造の駅舎があれば、廃止後も駅舎はどこかで保存されるかもしれない。
あるいは増毛駅のように名所的価値があるのならば、新たな観光名所として生まれ変わることもできるかもしれない。
しかしどれもない駅——稲士別ような駅は廃止後どうなってしまうのだろうか?
……やはり跡形もなくなってしまうのだろうか。少なくとも駅名標も時刻表もスピーカーもホームもなくなるだろうし、そうなればいったい何がそこに残るのだろうか。
せめて花咲駅のように「かつてそこに駅があった証」みたいなものを設置してくれればいいが、その方がレアケースのような……。



かくして「幻の乗降場」稲士別駅は2017年3月4日のダイヤ改正より本当に「幻」となる……予定。



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  • 帯広から8キロの距離でこんなに使われない駅があるんじゃ、そりゃ道内のほとんどの路線が維持困難になるわけだ。 -- 名無しさん (2017-01-23 14:51:48)

#comment

*1 なおふるさと銀河線がなくなってからは十勝に秘境駅は3駅しかない模様。しかもNo2の羽帯駅とは僅差、No3の上厚内駅ともそこまでの差はない。
*2 2つ隣の駅で、駅間距離8.4km程度。
*3 2016年度:上り(帯広方面)3本・下り(釧路方面)5本
*4 国道38号の裏道としてよく使われているらしい。
*5 実はかつて稲士別の近くには保線基地があり、その官舎がこの建物である……らしい。
*6 駅以外の場所で、列車のすれ違いや追い越しを行う場所。

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