SCP-2113-JP

ページ名:SCP-2113-JP

登録日:2021/07/20 Tue 17:51:26
更新日:2024/05/30 Thu 13:51:33NEW!
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scp財団 scp foundation scp-jp are we cool yet? 銃弾 嘘のコンテスト 拳銃自殺 sendoh-oroka kušum



SCP-2113-JPはシェアード・ワールド『SCP Foundation』に投稿された作品のひとつである。
オブジェクトクラスはEuclidだったが、後に収容が無期限に放棄されたオブジェクトに適用されるKušumに変更された。
項目名は「そして目を閉じた」。


旧特別収容プロトコル

プロトコルは以下の2文が全てである。

  • PoI-8291はクラスE監視対象に指定し、2020/12/24に収容を行う。
  • PoI-8291の死後、臨床解剖結果をPara-Archiveに提供する。

「Para-Archive」という聞き慣れないワードが出てきたが、これは各平行次元の財団に相当する正常性維持機関が共同で運営する、複数の次元に関わる情報を共有するためのプラットフォームである。
つまりこのオブジェクトは「複数の次元に関わる」性質を持っており、それにPoI-8291という人物が関与しているということがわかる。


概要

SCP-2113-JPは、平行次元のAre We Cool Yet?の構成員、堂薗どうぞの りょう氏が自殺に用いた1発の銃弾である。
その異常性を端的に説明すると「減速することなく移動し続ける」というもの。減速しないということは威力も保たれているということであり、銃弾は進路上のものを破壊しながら移動する。


宇宙にでも飛んで行ったら厄介だが、それだけで収容を無期限に放棄するほど、財団は甘くない。手の届かない場所に飛んで行ったとしても監視や警戒はする。ではどういった要因が財団に収容を放棄させたのか。


プロトコルでも説明したように、この銃弾は「複数の次元に関わる」異常性を持つ。
実はこの銃弾が移動しているのは大量に存在する堂薗氏の多次元同位体の中、わかりやすく正確に言えば平行次元の堂薗氏にあたる全ての人物の脳組織内なのである。
銃弾は堂薗氏の右脳に出現し、左側頭骨に到達すると、最も近接した次元の堂薗氏の右脳に転移し、その堂薗氏を殺害する。これを繰り返すことで、平行次元の堂薗氏は将来的に全員死亡する。
このオブジェクトは言うなれば、次元を越えて稼働する堂薗了自動鏖殺システムなのである。


堂薗氏の自殺

この壮大な無理心中とも言える事案のきっかけとなった自殺が起きたのは2020/12/18。場所はこの報告書が作成された次元における鳥取県米子市にあたる、北陽県弓ヶ浜市。
市内で起きた現実性低下事象を調査していた財団が堂薗氏の遺体を発見し、拳銃自殺したこととオブジェクトの存在、そして自殺した堂薗氏の異常性が判明し、情報共有が行われた。


その異常性について説明する前に、堂薗氏たち(まとめてSCP-2113-JP-Aに分類されている)が共通して有する異常性を説明する必要がある。
全ての堂薗氏の後頭葉*1には空間異常が発生しており、最も近接した次元の堂薗氏のものと重複していた。
そして自殺した堂薗氏はこれに加えて、この空間異常を利用してか、目を逸らすことで平行次元の自分の視覚情報を入手できる異常性を有していたらしい。


以下は自殺した堂薗氏の住居から回収された文書である。


タイトル: このくそったれからの解脱


必要素材:
拳銃 1丁 (なんでもいい バーに行けば誰かから買えるだろ)


要旨: 全ては一瞬で終わる。こめかみに銃を当てて引き金を引く。ただそれだけだ。


意図: これは全ての俺の終焉だ。そして銃砲で幕を上げる俺のいないcoolな世界だ。


俺は子供のころから目を逸らすと別の世界が見えた。重宝したよ、まっ暗な廃屋に閉じ込められた時とかな(目を逸らした先では殴られたりと結局散々な目に遭っていたが)。


俺はこの目を使ってそこそこいい大学に入った。だが駄目だった。退学した後、目を逸らした先で見た絵を見よう見まねで描いて売って暮らしていた。元々ゲージュツに興味がないせいか、目を逸らした先の俺はロクに絵を見ない。だからもっと目を逸らして新しい絵をパクった。


目を逸らして目を逸らして目を逸らした。そのたびにクソみてぇな自分の人生を思い知らされた。それでも目を逸らし続けた。売った絵はそれなりの値が付いた。だが目を逸らした先で見たホンモノとは比べものにならないくらい低い評価だった。もう三十路を越えた自分にも誰にも慕われない自分にも画家としてクソみてぇな自分にも目を逸らした。もうどこが元々いた世界なのか分からなくなるくらい目を逸らし続けた。目を逸らして目を逸らして目を逸らした。


そしてある日俺は気付いた。気付いてしまった。どこの俺もクソみてぇな生活しかしてないことを。他の俺はこの目を持っていないようで、だいたいが周りに迷惑をかけながら死んだほうがマシな暮らしをしていた。大したおつむを持っていないからアタリマエだ。


それでも最初は嘘だと思った。少しは希望もあった。だから目を逸らし続けた。そして目を閉じた。開いた時には現実を見ていた。もう1つしか道はなかった。


この最高にcoolじゃない”俺”を殺せば世界は少しcoolになる。


Are We Cool Yet? なんてとても言えねぇな。


堂薗氏は子供のころから、その異常性を使って現実から目を背けることがあった。大学を去ってからは、生活費を稼ぐために別次元の絵を模倣した。
受け取れるのは視覚情報に限定されていたが、目を逸らす度に「クソみてぇな生活」を送っていると嫌でも悟るような光景が視界に映った。


堂薗氏はどの世界が自分の存在する現実なのかもわからなくなるほど目を逸らし続けた。生きていけるだけの金は稼げたようだが、目で見た完成品を模倣しただけでしかないそれは、オリジナルよりも高い評価を得ることはなかった。
そうして平行次元を観測する堂薗氏自身も齢を重ね、遂にはその自分からも目を逸らし始める。やがて堂薗氏は、観測したどの次元においても、自分は心から満足できることのない「死んだほうがマシな暮らし」をしていることに気付いてしまう。
それでも諦めず、どこかの次元には成功した自分もいるはずだという僅かばかりの希望を抱いて目を逸らし続けたが、結果は散々だった。


途中で心が折れてしまったのか、それとも全ての次元の自分を観測して希望を失ってしまったのか。いずれにせよ自分に絶望し、目を閉じて現実に帰ってきた堂薗氏は、平行次元の自分を巻き込んだ自殺を決行するに至ったのだ。


PoI-8291

堂薗氏はどの次元においてもcoolでない自分を消すために自殺した。そしてこの報告書が書かれた次元にも、堂薗氏の多次元同位体は存在していた。PoI-8291に指定されている日本人男性の細見ほそみ 恵吾けいご氏である。
後頭葉の空間異常を除けば、細見氏にはAWCY?を含む超常団体や異常存在との接点は一切ない。千葉県船橋市唐品町に住み、市役所に勤める二児の父と、プロフィールもごく普通である。
だが、平行次元の自分であるというだけで、堂薗氏に殺されることが決まっていた。
その死亡予測時刻は2020/12/24の20時12分。細見氏は最も警戒度の低いクラスE監視対象としてマークされ、予測時刻の6時間前に財団に収容された。


そして迎えた20時12分、細見氏は予測通りに死亡した。家族や市役所職員などの関係者には記憶処理が施され、カバーストーリー「轢き逃げ」の適用が行われた。
平行次元の堂薗氏を殺害するという役目を果たした銃弾は、二度とこの次元に現れることはない。二度と現れないものを収容する必要も、警戒する必要もない。
後のことはまだ堂薗氏の同位体が生きている次元に任せればいい。というわけで、2020/12/25をもってSCP-2113-JPはKušumに再分類された。


嘘のコンテスト

ここで報告書は終わりだが、1つ伏せていたことがある。タグにも目を通していたなら既にお気づきかと思うが、この作品は「嘘のコンテスト2020」の参加作品である。
「嘘という漢字が含有するありとあらゆる嘘」をテーマとした作品が多数投稿されており、有名なものとしてはSCP-2144-JPSCP-2616-JPが挙げられる。
ではこの報告書のどこに「嘘」要素があるのか。


財団は適切な資格を持たない職員に偽の報告書を見せる(=これが事実だと嘘をつく)こともあるし、細見氏の関係者にそうしたように、カバーストーリーという嘘を拡散して事実を隠蔽することもある。
また、この記事の著者は唐品町というこの次元の船橋市に存在しない地名を意図的に登場させている。一方、それより先に言及された鳥取県米子市はこの次元にも存在している。
非常に強引で乱暴な言い方だが、これは著者(および著者により執筆された財団)が読者に「『この報告書は我々の住むこの次元で書かれたものである』と勘違いさせた(≒嘘をついた)」とも言えなくもない。


だがこの作品にはもう一人、嘘をついている可能性がある人物がいる。自殺した堂薗氏である。
既に説明したように、堂薗氏はあらゆる平行次元に目を逸らし、どの次元でも自分がcoolになれず「クソみてぇな生活」を送っていると知り自殺した。
しかし、この報告書が作成された次元の堂薗氏にあたる細見氏は、結婚して二人の息子を授かった公務員である。
堂薗氏の価値観や細見氏の生活などについては報告書に書かれていないため知る術はないが、これは本当に堂薗氏にとって「クソみてぇな生活」だったのだろうか。


細見氏という一例だけ見て決めつけるのは危ういが、そう考えると、堂薗氏がついたかもしれない嘘の内容が見えてくる。
それは、自殺の動機が「coolでない自分という存在への絶望」ではなく「平行次元の恵まれた自分への嫉妬」という可能性である。
堂薗氏は自分が置かれた現実から目を逸らし続けた。しかし目を逸らした先の自分が見ていた光景は、幸せを感じさせるものだった。それでも自尊心を保とうと、自分より惨めな自分がいるはずだと「希望」を持って更に目を逸らした。
しかし、求める光景は見えなかった。30代の孤独な贋作絵師である自分よりも惨めな自分はいなかった。
その事実に耐えられなくなった堂薗氏はこれ以上幸せな自分を見ないように目を閉じ、この現実から永遠に逃れるため、そして自分にはない幸福を享受している平行次元の自分を皆殺しにするために銃弾を生み出した…と考えることもできる。


あるいは、財団が発見した時点で堂薗氏が死亡していた(=財団に堂薗氏の異常性を検証する術がなかった)ことに着目してもいい。
堂薗氏が平行次元を観測できていたのは間違いないが、そこには「観測できるのは同位体が自分よりも惨めな生活を送っている次元のみ」といった何らかの条件が存在していた可能性もある。
現実から目を逸らせばこうなってしまうという教訓か、はたまた下を見て悦に入るためか。
理不尽・不条理が基本の異常性、それも先天的なものに明確な意図を求めるのもおかしな話だが、堂薗氏は最期までその正確な性質を把握できていなかったのかもしれない。


無論、これは絶対的な答えではなく、解釈の一つに過ぎない。この項目を読んだ方々も、よければこの作品の嘘について考えてみてほしい。




追記・修正は目を逸らすことなくお願いします。



CC BY-SA 3.0に基づく表示


SCP-2113-JP - そして目を閉じた
by sendoh-oroka
http://ja.scp-wiki.net/scp-2113-jp


嘘のコンテスト2020
by 嘘のコンテスト運営委員会
http://scp-jp.wikidot.com/usocontest2020-hub


この項目の内容は『クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス』に従います。

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  • 一つだけ言えることは、オリジナル堂薗氏許すまじということだ(--# -- 名無しさん (2021-07-20 18:18:47)
  • 許しても許さなくても本人は死んでしまったのだから関係ないだろう。ただやるせなさが残るのみ。 -- 名無しさん (2021-07-20 19:13:20)
  • タスクact4みたいな能力してるな。同じ銃弾を逆回転でぶつけたら相殺できたりしない? -- 名無しさん (2021-07-20 22:51:27)
  • まぁ自己完結してくれるだけマシな部類 -- 名無しさん (2021-07-21 06:36:29)
  • 「売った絵はそれなりの値が付いた。だが目を逸らした先で見たホンモノとは比べものにならないくらい低い評価だった」ってことは、本物を書いた堂薗氏は画家としてそれなりに評価されてたことになる。他次元の自分に嫉妬したって線はあると思う -- 名無しさん (2021-07-21 07:11:44)
  • 公務員やってたりロクに絵を見ないとか書かれているあたり、平行世界で画家やってる堂園氏は居ないんじゃないか。あと平行世界の堂園氏で自分の能力に気付いている人はいたのかな? -- 名無しさん (2021-07-21 12:18:22)
  • クリスマスイブに父親が「交通事故」で死んだ家族が辛いだろうな。きっと普段と違うモノやケーキを食べ、翌朝までにサンタの仕込みをして、子供達の笑顔と歓声で朝を迎えるかもしれなかったんだ。でもそうはならなかった。あるのは数日後の葬式だけ。 -- 名無しさん (2021-07-22 01:53:19)
  • さて、俺らがこいつの平行存在でないことをどのように証明するのかな? -- 名無しさん (2021-07-22 10:00:54)
  • 並行存在はすでに名前が違うのがいるし年齢も性別すらもあてにならないのかね -- 名無しさん (2021-07-22 19:32:00)

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*1 人間の脳のうち、視覚や色彩の認識をつかさどる箇所。

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