狂歌百物語(枕返) - いにしえwiki
枕返001.死し如く よく寐るゆゑか 目覚むれば 南枕も 北とこそなれ(南向堂)002.挿して寐し 東枕も 返されて 西へ廻れる 月形つきなりの櫛(弥生庵)003.小夜衣 きぬた枕を うつゝにて 打ち返さるゝ 夜半ぞうたてき(駿府 小柏園)004.返されし 枕ふつと 目の覚めて
枕返001.死し如く よく寐るゆゑか 目覚むれば 南枕も 北とこそなれ(南向堂)002.挿して寐し 東枕も 返されて 西へ廻れる 月形つきなりの櫛(弥生庵)003.小夜衣 きぬた枕を うつゝにて 打ち返さるゝ 夜半ぞうたてき(駿府 小柏園)004.返されし 枕ふつと 目の覚めて
逆柱001.飛彈山を 伐りきて立てし 逆さかばしら 何の匠たくみの 仕業なるらん(金剛舎玉芳)002.家や鳴りする さかさ柱に 逃げ出いだす 己れが足も 空ざまにして(松の門鶴子)003.思ひきや 逆柱の はしら□ 書きにし哥も 病ありとは(和風亭国吉)004.逆ばしら 立てしは
蝦蟆001.歌よめる 蛙やなりし 天地あめつちを 動かす蝦蟆も 術はありけん(仙台松山 千澗亭)002.おのれまた 坐頭ざとうになりて 世の人を 目暗にするか 蝦蟆の妖術(江戸崎 緑樹園)003.雲を呼び 雨を降らせて 大蝦蟆の 隠れ家もなき 天竺浪人(静洲園)004.天あまが下
雪女001.硝子ビードロを さかさに登る 雪女 軒のつらゝに 冷やす生肝いきゞも(和風亭国吉)002.本来は 空くうなる物か 雪女 よくよく見れば 一物もなし(藤紫園友成)003.丑三ツの 頃に出でけり 雪女 初夜は五つの 障りありとて(松の門鶴子)004.雪女 粧ふ櫛も 厚氷
神隠001.熱鉄の 給仕させんと 神はしも あまりたぎらぬ 人を連れゆく(藤園高見)002.神隠し 行衛は何処と 白雲を つかむやうにて 空くうにこそあれ(一草庵多が丸)003.天が下 みたまものをや 隠せるは 不正直なる 神とこそ知れ(江戸崎 有文)004.鼻高の 仕業なるらん
陰火001.つきまとふ 女小袖の 形見物 燃ゆる鬼火や 紅絹の胴裏(何の舎)002.音もせず 声も夏野に 燃えあがる 鬼火は蛍 あつまりし如(喜樽)003.小夜ふけて 雨降る寺の 荒庭を 草かげ青く 鬼火燃えけり(銭廼舎銭丸ぜにのや ぜにまる)004.露とのみ 消えにしあとに 燃
平家蟹001.紅き毛の 生えてぞ見ゆる 平家蟹 おらんだ文字の 横にあゆみて(宝珠亭船唄)002.汐煙 立てゝ飯たく 平家蟹 兵粮方の 武士のはて(語安臺有恒)003.中々に 岸に三つ四つ 平家蟹 弁慶蟹を とりこにぞする(萬々斎筬丸)004.平家蟹 兜蟹とや 挑みあふ 錣引せし
姑獲鳥001.襟元へ 水そゝぐ如 冷汗の 流れ灌頂に 立つ産女見て(語安臺有恒ごあんたい ありつね)002.腰紐に 化けし産女は 人の子を 己が子に取る 蜂によく似て(青梅 扇松垣)003.みそか子を 儲けし妻の 果しかも 闇の夜半にぞ 出づる産女は(頓々)004.世を去りて ま
船幽霊001.生魚を 積み来る船も 腐つたる 匂ひたまらぬ 夜半の幽霊(花前亭)002.乗りし人 覆さんと 取りつくは 船幽霊の 罪の面楫(和風亭国吉)003.襟元へ 水かけらるゝ 心地せり 柄杓貸せてふ 船のこわねに(江戸崎 有文)004.底ぬけの 柄杓を借りて 酒船へ 水を割
一ツ家001.壁落ちて 骨露はなる あばら家に 乱す白髪や 霜の穂すゝき(梅屋)002.息つきて 怒れる姥が まなここそ 石の枕に そゝぐ血のいろ(面堂)003.ふしぶしも 床簀ゆかすの竹は 青ざめて 崩るゝ壁の 骨のあばら家(琴通舎)004.胴巻の 腹をあばきて 旅人の 路用の
見越入道001.影すこし 夜風に雲も やれ紙帳 見越してのそく 松かえの月(鶴序)002.箱根から こなたになしと いはるれは 関のひかしを 見越入道(雛好)003.入道が 見越す一寸 先はやみ 六分もちゝむ 五分のたましひ(俵舎)004.坊主とも なりし身のまた 化て出る 佛の
狐火001.嫁入は よき玉姫と 行列の 夜をまつ崎に すゝむ狐火(雛好)002.賑はしく 数見ゆるほと 淋しさの まさるは野辺に ともす狐火(草加篠田 稲丸)003.はふかれて むれをはなれし 狐火は 何国の馬の 骨やもやせる(和木亭仲好わぼくてい なかよし)004.くたかけの
貍001.破れ戸樋 笛ふく秋の 夜嵐に はた天蓋も 踊る猫寺(何の舎)002.貍を 出す見世物師 看板の 口上書に 尾に尾つけけり(俵舎)003.目はさらに 口は耳まで 酒よりも 油昧しと 舐むる猫又(鶴子)004.手拭に 天窓かくしつ 尻尾をや 人に見せじと 踊る猫また(千住
実方雀001.飛び上がり 物の名をのみ 残しけり 喧嘩好きてふ 実方雀(江戸崎 緑樹園)002.亡き魂は 都へ飛びて 出来秋の 先代米は 食まぬ小すゞめ(桃本)003.実方は 位ある身ぞ 怨念の すゞめも雲井 指して飛び行く(角有)004.一念の 化せしすゞめは 呉竹の 大内をこ
片輪車001.中々に 戸の透きよりも 覗き見て 身はとゞろきぬ 片輪車に(桃実園)002.軋きしらする 片輪車に 取られしは 躄ゐざり這ひせし 子にやありけん(弓の屋)003.奈良の町 都大路も 廻りけん 片輪車に とゞろきの橋(和風亭国吉)004.おどろきて 己おのれが捨てた
狒々001.笑ふのは 汝なれが常にて ひゝといふ 其の名になける 声はありけり(栃木 真月庵魔訶円)002.狩人かりうどに 劣りし智恵の 行きどまり 迯のがるかたなき 洞穴の狒々(桃江園)003.三千歳みちとせの 桃の実喰ひし 猿丸は 長生をして 狒々となりけん(駿府 望月楼)0
皿屋舗001.皿やしき 夜も九ツの 時廻り 震へて数も 合はぬ拍子木(花前亭)002.九つと 聞くのも凄し 皿の数 お菊がこわす 丑三ツの鐘(宝珠亭船唄)003.そこねたる 皿一枚の あやまりに 菊が命ぞ 終りやきなる(善事楼喜久也)004.生ぐさき 風に女の 亡き魂の 影は人魚
舌長娘001.立ち消えて 探る灯あかしに 引出しの 附木つけぎの舌も 長き小娘(何の舎)002.嶋田髷 みだせば紅紛べにの 半がけも ぺろりと下がる 舌長娘(弓の屋)003.ぺろり出す 娘の舌の 長襦袢 これも化物 仕立なるらむ(銭丸)004.大やまと 国内くゐち食はむとも なか
轆轤首001.己おのが子を 轆轤首じやと 噂する 親も首をば 延ばしてぞ聞く(語吉窓喜樽)002.顔色は 青き日傘の ろくろ首 さしかゝりては 迯にげやうもなし(萬々斎筬丸)003.破れ傘 骨は砕けた 轆轤首 雨に頭の 髪もみだれて(金剛舎玉芳)004.無き事を 有りと言はれて
三ツ目001.かきそさへ 化けた小僧が 三ツ目誰 肩もむ樽も さか田屋の銘(弥生庵)002.草木まで 眠れと茶にや 浮かれさし 丑三ツの目は 冴えて見えけり(東風こちの屋)003.真の闇 しよぼしよぼ雨の 夜目遠目 三ツ目小僧ぞ 笠のうちなる(静洲園)004.蹻くつ切つて 転こけ
鬼001.琴に似し 威おどしの糸の 合はせもの 錣しころも引いた 鬼の三ツ指(鶴の門)002.鬼の棲む 地獄の沙汰も しろがねに 替へたる虎の 皮のたふさぎ(南向堂)003.似せ姥と 悟りし綱が 抜き打ちに 其の手は喰わぬ 茨木の鬼(弓の屋)004.大津絵に 描いた儘なる 鬼を見
髪切001.風凄き 秋の木の葉の 銀杏髷いてふまげ おちておどろく 野路の髪切(銭丸)002.柳散る 秋風よりも 目に見えず 切られし髪に 驚かれぬる(海樹園)003.大事がる 娘の髷も 髪切に 切られて何と 言ひやうのなき(尚丸)004.髪切に 切られし人の 影見れば 変る姿は
光物001.白玉か何ぞと問へば答へなく露には影のさすひかり物(藤紫園友成)002.山鳥の 尾上を出づる 光り物 汝なれが鏡の 照れる影かも(槙の屋)003.おそろしな 炬松たいまつ忍ぶ 丑の時 倶利伽羅くりから越えを 飛ぶ光物(檜園)004.門跡の 御前かゞやく 光り物 西と東へ
陶子001.酒入るゝ 其の陶子を 産む母は 左り孕みで ありしなるらん(於三坊菱持)002.産み出して 親の嘆きは 升酒に 身を果たしたる 中の陶子(語吉窓喜樽)003.恥づかしと 袖に隠せる 陶子は 誰たれと寐酒の うまき種かも(語龍軒足兼)004.酒汲みて 山師も祝ふや 見る
後髪001.後髪 引かれし事を まこととも 取り上げにくき 妹いもが縮れ毛(語吉窓喜樽)002.早蕨さわらびの 手を差しのべて 後髪 ひく幽霊や 強き悪念(正女)003.さしてても 行き悩めるを 後ろ髪 引かれて凄き 闇の真砂地まさごぢ(仙台松山 千澗亭)004.影清き月の下風
木魂001.分け登る 庚申山の 岨そば道に 立てる木魂は 猿すべりかも(松の門鶴子)002.石となる 楠くすの木精こだまに うつ斧の 当てゝ怪しき 火も出でにけり(銭のや)003.切り兼ぬる 檜の魂たまに 空をうつ 斧の焼刃も 鈍なまる乱れ火(弓のや)004.狐とも 狸とも名の
山姥001.金時の 誕生日には 山姥も 赤のまんまの 草や食はむらん(東海園)002.己が子は 出世の綱に 引渡し 雲を霞と 帰る足柄(花林堂糸道)003.親知らず 子知らず育つ 山姥は 浮世を薩埵さつた 峠にや住む(花前亭)004.鉄漿かねつけて 笑ゑみぬる様も 尖々とがとがし
猪熊001.はにかむも 似気にげなかりけり 猪熊は 鎧の袖を 口にくはへて(藤園高見)002.太刀とりの 鎧の袖に 喰ひつくは 人を脅しの 猪熊頼玄(有恒)003.太刀とりの 鎧につきて 怖ろしや いかる刃金はがねも 鳴らす猪熊(弓のや)004.緋縅ひをどしの 鎧喰ひ切る 猪熊は
尾崎狐001.狐をば ふところにして 尾崎村 腹をふくらす 商人あきうどもあり(月豊堂水穂)002.子を産みて 増える狐の 尾崎村 持参金にも まさる婚礼(東風のや)003.尻馬に のせて送らん 花嫁の 持参に添へし 尾崎狐を(和風亭国吉)004.上つけの 尾崎狐の 玉つむぎ 化
小袖手001.形身わけ 配る小袖に 爪長き 族うからも欲の 手を出いだしけり(香以山人)002.数持ちし 内の小袖を 出づる手の 指の爪にも 見る物着星ものきぼし(語吉窓喜樽)003.噂をば 包みておける 化小袖 出だすその手は 喰はぬ七つや(語安台有恒)004.さ干ほしおく 花
龍燈001.さしのぼる 梢の上の 龍燈に 鱗きらめく 橋立はしだての松(江戸崎 緑樹園)002.かんてらも 幾尋いくひろあるか 消えずして 鯨の油 添はる龍燈(和風亭国吉)003.のろしほど 軋きしめき出づる 龍燈に 龍たつの宮姫 笑みや含まん(鈍々舎香勝)004.龍燈の 夜な夜
犬神001.毛を吹きて 底を求むる 修験者しゆげんじやの 尻尾や出づる 犬神の術(銭の屋)002.巻きし尾の 左前なる 貧しさも 富みてぞ金の 唸る犬神(草加 四角園)003.正法に 不思議は内外 清浄しやうじやうと よめば尾を巻く 犬神の術(於三坊菱持)004.烏羽玉うばたまの
魔風001.金銀を 並べ立てたる 家までも 将棊倒しの 魔風激しも(於三坊菱持)002.節分の 鬼さへ嫌ふ 柊ひひらぎまで 根から吹き折る 魔風怪しも(銭の屋)003.土煙つちけぶり 立てる魔風は 今戸にて 焼きし瓦の 鬼も脅しつ(桃江園)004.霊国の 空ゆく船を くつがへす
一寸法師001.背の低き 一寸法師は 汝なが親の 忌日に魚うをを 食ひし報いか(南寿園長年)002.親の身も ともに縮まん 愛し子を 一寸法師と 言はれぬるたび(語吉庵跡頼)003.身の丈の 延びぬをさぞな 託かこつらん 人と肩をも 並べられねば(松梅亭槙住)004.背せい低き
玉藻前001.浮草の 玉藻の前は たゞよひて 水穂の国に 流れきにけむ(草加 四角園)002.眉作る 星も雲井を 追はるれば 那須野に落ちて 石となりなむ(東海園)003.那須野へと 飛ばぬ内から 祈られて 玉藻の顔ぞ 青石あをいしの如ごと(草加 四豊園稲丸)004.化けすがた
古椿001.燈火ともしびの 影あやしげに 見えぬるは 油絞りし 古椿かも(駿府 望月楼)002.見て凄く 油のやうな 汗を身に 絞りて咲ける 化椿かな(語吉窓喜樽)003.花首の 落ちては燃ゆる 火と見せつ 脅しやすらん 世を経る椿(吾妻井香好)004.草も木も 眠れる比ころの
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大座頭001.塗り込みし 京間の壁に あまりしは 大仏ほどに 見る大坐頭(桃太楼団子)002.我邪魔ぞ 梅戸いらずの 膏薬を 礑はつたと睨む 大坐頭の坊(和松亭羽衣)003.物言ひも 祥さがなき性さがの 大坐頭 しばし塗る間の 壁になれなれ(江戸崎 緑樹園)004.夜もすがら 人
飛龍001.蓮はちす生おふ 池の鯉もや 富士の嶺ねの 砂いさごを飛ばす 龍となりけん(草加 四豊園稲丸)002.潜まりて 翼得る日を 松浦川まつらがは 龍立ちのぼる 領巾振山ひれふるのやま(宝遊子升友)003.湖に 住みたる鯉や 一夜さに 富士を飛び越す 龍となりけん(花前亭)0
逆幽霊001.死水を とらぬゆゑにや 月影に うつる糸瓜へちまの 逆さ幽霊(於三坊菱持)002.天窓あたまをも 病みし遊びの 幽霊か 逆さに出づる 髪洗ひばし(甘口庵菊好)003.争はぬ 風の柳の 蔭になど 人おどろかす 逆さ幽霊(綾のや)004.美しい 娘の果てゝ 軒口に 吊る
古寺001.苔の髭 胸にひまなく 生おひ出いでて 瓦の鬼も 凄き古寺(升目山人)002.荒寺は 施主の油を 絞りたる 護摩ごま堂さへも 絶えし燈明(日年庵)003.雨漏りの 防ぎもならず 方丈も 傘一本で 開きたる寺(青葉茂住)004.つめ米の 散りし仏餉ぶつしやう 梟の 餌ゑ拾
小幡小平治001.光さへ 青き鬼火は こはだ鮨 透すく影凄き 蠅帳の㡡かや(香以山人)002.魂棚たまだなに 馬はあれども 幽霊の 徒かちにて戻る こはだ小平治(花垣真咲)003.煮て喰ふ 焼いて喰ふと 目論見の 果てはこはだに 味噌をつけたり(語安台有恒)004.殺す智恵 浅香
越中立山001.雇はれて なる立山の 幽霊に 足を添ふれば いくたびも出る(草加 四角園)002.立山に 見る幽霊の 白袴しろばかま 紺屋こうや地獄に 落ちし人かも(弥生庵)003.立山の 地獄に出づる 幽霊は 宜むべこそ越こしの 中つ国なれ(駿府 松径舎)004.散り松葉 幽霊
小坂部姫001.檜扇に 隠るゝ月の 作り眉 姫が天守に 名ある蝙蝠かはほり(升目山人)002.物いはぬ 色美しき 小坂部をさかべの 種や伏見の 姫桃の花(宝市亭)003.年ふりし 小坂部姫の 緋の袴 狐色にも 化けて妖しき(銭の屋)004.名物の 姫路の皮も 狐かと 言へば空嘯そ
疱瘡神001.貝嫌ふ 疱瘡神は 水海みづうみの 干潟となるは 猶も忌みけり(宝遊子升友)002.疱瘡に 被る頭巾は 茜さす 陽の目も見せず □おろす神(宝市亭)003.序病じよやみする 幼をさなに着する 衣さへ 八丈嶋は 忌む疱瘡神もがさがみ(銭の屋)004.酒湯さかゆせし 疱瘡
楠霊001.湊川 その流れ矢も 物かはと 石となりたる 楠の霊(上総大堀 花月楼)002.怨念の 枝葉しげりて 楠の 覆ひかゝれる 闇の大森(桃太楼団子)003.湊川 底の小砂利は 楠の 枝葉の化して 石となりけん(桃江園)004.木魚にも 彫りて迷ひを 弔はん 魂の蛻もぬけし
夜鳴石001.けゝらなく 石に躓つまづき 旅人の 横ほり臥せる 小夜の中山(駿府 松径舎)002.あたりなる 銀杏の乳も 出かねけん 夜鳴のやまぬ 中山の石(星屋)003.わけ聞きて 我さへいたく 泣き出しぬ 躓く石の 小夜の中山(神風や青則)004.夜鳴きする 声をこそ聞け 中
山男001.ありときく 姿まだ見ぬ 山男 これや木霊こだまの たぐひなるらん(槙の屋)002.脇差しの 狭山に籠もる 山男 人とは反りの 合はぬのも宜むべ(松の門鶴子)003.鷂はしたかの とかへる山の 山男 みてぞぬすだつ 鳥肌となる(草加 四角園)004.萬木に 汝もなれてか
雷獣001.紅くれなゐの御橋のもとに狩り出すは火神鳴ひかみなりにもつきし獣か(和風亭国吉)002.鳴神なるかみの 臍を好めば 毛物さへ 麝香猫じやかうねこかと 思はれぞする(閑雅子)003.木をも裂き 石をも砕き 雷の 獣はたよる 雲や何なる(銚子 大酒館釜樽だいしゆかん かまた
豆腐小僧001.塗り盆の 闇に豆腐の 白壁も 崩れ社へ 運ぶ小わらべ(弥生庵)002.卯の花の 雪の夕べの 豆腐買 耳まで口の 裂けた小わらべ(桃本)003.精進の 豆腐小僧を 見世物師 山をかけてぞ またも化かすか(語免亭艶芳)004.門に貼る 祇園の札に ゆかりぞと 豆腐小僧