狂歌百物語（舌長娘）

舌長娘

001．立ち消えて 探る灯あかしに 引出しの 附木つけぎの舌も 長き小娘（何の舎）
002．嶋田髷 みだせば紅紛べにの 半がけも ぺろりと下がる 舌長娘（弓の屋）
003．ぺろり出す 娘の舌の 長襦袢 これも化物 仕立なるらむ（銭丸）
004．大やまと 国内くゐち食はむとも なかるらん 唐紅からくれなゐの 舌長の姫（水遊園）
005．風鈴の 舌長娘 見て凄き 年も二八にはちの 蕎麦売そばうりのかげ（栃木 通児楼諭）
006．袖ひけば 二度びつくりの 優やさ娘 べつかつこうと 舌を出しけり（有恒）
007．魚油うをあぶら なめてぞ凄き 舌長の 娘の息や なまぐさき風（萬町庵柏木）
008．びつくりと した長娘 見て歯の根 合はぬ油を なめげなる顔（上総大堀 花月楼）
009．妻持たば 悋気りんきの角や 生やすらん 牛にも似たる 舌長娘（駿府 望月楼）
010．口先に ほどよく人を あやなして 巧く巻き込む 舌長娘（泰平居楽成）
011．うつくしく 粧けはひ化粧の 立ち姿 なめげに見ゆる 舌長娘（駿府 松径舎千代彦）
012．とろとろと 寐入りしころに 行燈の 油を舐むる 舌長娘（青梅 六柿園）
013．あでやかな 舌長娘 書きぬるは 耳まで裂ける 口紅紛くちべにの文ふみ（友成）
014．三寸の その余も舌を 出いだしつゝ 妹いもはいかなる 禍わざはひか為す（讃岐黒渕 玉露園秋光）
015．草分けの 家か油を 舐め過ぎて 物言ひざまも 舌長娘（正澄）
016．舌長の 娘の着たる 小袖さへ 亀山縞の 化けもの仕立（豊のや）
017．人を人 とも思はずて 天窓あたまから 嘗なめてかゝれる 舌長娘（友成）
018．ともし火の 消えがてになる 水油 なめる娘の 長きした皿（喜樽）
019．たしかなる 事も見ずして 噂する 人も二枚の 舌長娘（岩和田 押照）
020．夜毎に 舐めし油に 口すべり ぺらぺら喋る 舌長娘（楽成）
021．医師くすしこそ 目を廻すらめ 煩わずらへる 舌長娘 舌を見せなば（日光 不一門）
022．生ぐさき 風は魚油の 燈火ともしびの 皿を舐めげの 舌長娘（壁成）

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