狂歌百物語（木霊）

木魂

001．分け登る 庚申山の 岨そば道に 立てる木魂は 猿すべりかも（松の門鶴子）
002．石となる 楠くすの木精こだまに うつ斧の 当てゝ怪しき 火も出でにけり（銭のや）
003．切り兼ぬる 檜の魂たまに 空をうつ 斧の焼刃も 鈍なまる乱れ火（弓のや）
004．狐とも 狸とも名の 判らぬは なんじやもんじやの 木魂なるらん（藤園高見）
005．楠に 木魂あるとは 聞きしかど 見んこと難き 石とこそなれ（雛の舎市丸）
006．作らざる 眉さへ長く 緑なす 髪や柳の 木霊こだまなるらん（五葉園松蔭）
007．切らるゝを 知りてか杣そまが 昼寐せし 夢に恨みを 黄楊つげの木魂は（桃本）
008．行き暮れて 宿を仮寐の 一人にも 物を磐手の 森の木魂は（文語楼青梅）
009．斧の音ねは 余所よその風とや 神木の 魂は□□□□ 内にこそあれ（綾のや）
010．木の魂たまは 何ぞと人の 問ひし時 松とこたへる 嶺の夜あらし（宝鏡園元照）
011．作らざる 眉さへ長く 緑なす 神や柳の 木魂なるらん（五葉園松蔭）
012．岩枕 寄りふす妹は 夏の日に 生みし根太ねぶとの 木魂なるかも（槙のや）
013．朽ちかゝる 榎の虚うろの 光るのは 木の魂の 出づる穴かも（馬遊亭喜楽）
014．丈高き 杉の股から 産まれけん 心直すぐなる 木魂なりけり（参台）
015．いざなみの 滝に影さす 光り物 神代の杉の 木魂なるらん（茂住）
016．朧かげ 分け行く森の 下道に 木の魂や 九つのかね（蟻賀亭皺汗）
017．碁盤にも 伐らんと寄れば 杣人そまびとを 榧かやの木魂や 撥ね退のけてけり（楽月庵）
018．人間の 情や受けん 千年ちとせ経る 老木に目鼻 木くらげの耳（南雲舎雨守）
019．山の気の 凝りてや魂に なりぬらん 擦れあふ樹々に 燃ゆる炎は（惟孝）
020．行き逢うた 人にもきやつと 言はするは 猿滑さるすべりてふ 木魂なるかも（日年庵）
021．切られたる 恨みは胸を 通し矢の 的をつらぬく 魂は柳か（空満そらみつや）

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