狂歌百物語（犬神）

犬神

001．毛を吹きて 底を求むる 修験者しゆげんじやの 尻尾や出づる 犬神の術（銭の屋）
002．巻きし尾の 左前なる 貧しさも 富みてぞ金の 唸る犬神（草加 四角園）
003．正法に 不思議は内外 清浄しやうじやうと よめば尾を巻く 犬神の術（於三坊菱持）
004．烏羽玉うばたまの 黒犬をしも 崇むれば よくの闇路の たすけとやなる（東風のや）
005．行ひて 首ともならん 修験者の 切りし昔の 尨犬むくいぬの術（花前亭）
006．盗みする 人を尻尾の 左巻 一物いちもつありて 凄き犬神（南向堂）
007．祭らるゝ 首を出いだして 喰くらはんと 犬骨折りて 高盛の飯（語龍軒足兼）
008．修験者の かみつくやうに 祈るなり 病の憑きし 犬神の術（紫の染芳）
009．執念も 首に凝りたる 犬神は 聞くほど怖く 思ほゆるかな（芝口屋）
010．願かけの 奇特きどく不思議も 怖ろしき 身の毛もよだつ 犬神の法（無事也）
011．犬神を 祈る供物は 猫足の 台にも高く 盛る鼠米（木黄山人）
012．四つ足の 笈おひも背負うて 三峯みつみねへ 入る山伏の 遣ふ犬神（画安）
013．喰物に 青き炎は 燃えねども 思ひは胸を こがす犬神（惟孝）
014．犬神を 祭る祠に 塗り剝げて 古びも斑ぶちの 四つ足の膳（東海園）
015．犬神の 術をも挫く 正法の 徳にはとても 敵かなはん敵はん（花林堂糸道）
016．生き埋めし 犬も這ひ出ん 備へたる 供物も斑ぶちに なしと山伏（木黄山人）
017．中々に 門まもらずて 盗人ぬすびとの 忍びに遣ふ 犬神の術（装師坐浜松）
018．犬神の 印見せんと 声かぎり かみつくやうに 祈る修験者（有恒）
019．犬神を 祈りて物の 相談の 白き黒きの 分け目あれかし（楳星）
020．犬神を 遣ふ人こそ 怪しけれ つひに尻尾しりをや 出いだすなるらん（駿府 松径舎）
021．目には見て 物は言はねど 善し悪しと 胸に一物 あらん犬神（仝 東遊亭芝人）
022．犬神の 術を行なふ 痴者しれものや おのれも首に なるも知らずて（朝霞亭）
023．出這入りの 人を占ひ 当てぬるは 門を守れる 犬神の術（駿府 望月楼）

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