『10万年の世界経済史』1章レジュメ(kurubushi_rm)

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目次

第1章 概論 世界経済史のあらまし[]

図1.1世界経済史を1つの図で示したもの[]

FTA-Fig1

  • 1800年まで、一人当たりの平均所得は、変動はあるが、長期的な増加はみられない。

マルサスの罠(Malthusian Trap)[]

  • 技術進歩をつうじて実現した短期的な所得の増大は、人口の増大によって必ず相殺される
1800年当時の平均的生活水準≒紀元前10万年前の平均的生活水準1800年当時の平均余命≒紀元前10万年前の平均余命=30〜35歳1800年当時の生活の質<紀元前10万年前の生活の質1800年当時の平均身長、必要労働時間、食事や労働の多様性<紀元前10万年前のそれら

産業革命(Industrial Revolution)[]

  • 現在の経済先進国の所得水準=1800年当時の平均的所得水準の10〜20倍

大いなる分岐(the Great Divergence)[]

  • 1800年以降、多くの国で所得は急増したが、それ以外の国では減少した。

世界経済史が取りかける3つの問い[]

  1. 「マルサスの罠」の時代は、何故かくも長く続いたのか?
  2. 「マルサスの罠」からの初めての脱出が、小さな島国イギリスで1800年頃はじまったのは何故か?
  3. 「大いなる分岐」が生じたのは何故か?


全体の構成[]

マルサスの罠(第一部)[]

  • 人口増加率から推定した技術進歩率(1800年以前)>>0.05%/年……現代の水準の1/30
  • 1800年以前の人間社会の経済=あらゆる動物が営む自然な経済活動と同じ=マルサス的経済
    • 人以外のほとんどすべての動物は狩猟採集「民」
  • マルサス的経済の下では、現在と「善」「悪」は逆転していた
    • 人口増加を抑制するもの(=一人当たりの生活資材を増加させるもの)が「善」
      • 戦争、暴力、社会混乱、凶作、公的インフラの崩壊、不衛生、疫病……
    • 人口増加に拍車をかけるもの((=一人当たりの生活資材を減少させるもの)が「悪」
      • 平和、安定、社会秩序、公衆衛生、貧困層への所得移転
  • 本当に産業化以前の社会の生活水準は、旧石器時代のそれに等しいのか?
    • 一握りのエリートのぜいたく+旧石器時代レベルの庶民の生活レベル、は歴史的には常態
    • 旧石器時代レベルの生活水準は、最低レベルではない
      • 産業化後、アフリカ諸国では生活水準は大きく低下したが、それだけ下がる余地があった
中産階級の起源[]
  • 産業化以前の社会では、常に「人口の下方移動」があった。なぜならば
    • 多くの富裕層の子弟は、社会階級を下げなければ、職にありつけなかった
      • 富裕層の子の方が多く生き残り成長する/下層の人口は減って行く
        • 経済的成功は、生殖の成功、新生児死亡率の抑制に強く結びついていた
      • しかし変化の乏しい社会では、恵まれた仕事は限られている
  • この「下方移動」の過程で、富裕層が担ってきた価値観(忍耐、勤勉、創意工夫、教養など、ゆとりが無ければ生まれることが無かった価値観)が、人口全体にゆっくりと広がっていった=>中産階級の起源
  • 中産階級が拡大した結果
    • 殺人の件数は減り、
    • 暴力志向は弱まり、
    • 労働時間は伸び、
    • 読み書き計算の習得が下層階級にも広がった。
    • 利子率は下がった

産業革命(第二部)[]

  • 「マルサスの罠」からの初めての脱出が、小さな島国イギリスで1800年頃はじまったのは何故か?
    • ひとつは生産性革命(いわゆる産業革命)
    • もうひとつは(生産性向上を人口増加が相殺することを防いだ)大きな中産階級の存在
      • (原因その1)他の社会より出産率の高かった富裕層からの大きな「人口の下方移動」
      • (原因その2)1200年以降、長期に渡り安定した社会が、中産階級の成長を守った
    • 結果、貧困層・単純労働者にも、これまで利益が行き渡った
  • 対して日本や中国では、同じ時期、上流階級の出生率は貧困層をわずかに上回るに過ぎなかった
    • 日本の武士階級の平均出生率は1人前後→「下方移動」せずとも、役職を継承できた。
    • 中国の皇族の出生率も、庶民をわずかに上回る程度だった。

大いなる分岐(第三部)[]

  • 富める国と貧しい国の格差
    • 労働者の時給の格差
    • 格差は拡大している
  • 制度の差では説明つかない
    • 綿織物産業は、豊かな国でも貧しい国でも、早くから発達していた。
        • 賃金格差は、実際は、ずっと小さい
          • インドの労働者は、工場に居る間、一時間につき15分しか仕事をしていない
  • ジャレド・ダイヤモンドの説
    • 地理的、植物学的、動物学的な諸条件による宿命的な結果
      • ユーラシア大陸は、栽培品種化した植物や家畜化した動物が他の社会に広がりやすい地理的条件を持っていた
        • では、なぜアフリカ大陸やニューギニアや南アメリカでは広がらなかったのか?
        • 産業化以後、オーストラリアは植民地となったことで発展が促されたのに(それまでは定住農耕生活すら根付いてなかった)、他の地域の植民地化では何故ダメ?
  • ポイントは技術移転の問題。
    • 近代的な生産技術には、規律正しく、良心的で、仕事熱心な労働者が必要。
    • ミスをミクロレベルで抑制しないと、うまくいかない。
      • インドでは、機械を遊休させるよりは、ミスの発生があがるほど働かせるよりは、さぼりがちな労働者を雇う方がまだ安上り。

富の増大と経済学の衰退[]

  • 学問としての経済学は、マルサス的経済の時代の黄昏にはじまった。
    • 古典派経済学は、まもなく消えようとしていたマルサス的経済に合致して、見事に説明している。
    • 産業化以後、経済の方が、「陰気な科学」(カーライル)であった古典派経済学から乖離したのだ。
  • 経済格差ほど、幸福度の格差は大きくない
    • 富の増大は、以前考えられたほどには、幸福につながっていない
    • 産業化以前の文化的遺産=激しい淘汰圧の下で、他の人に勝ちぬかなければ生き残れなかった時代の遺産か?
      • 産業化以降、そうした事態は縮小したが、我々の精神生活は、マルサス的経済の下の祖先と変わらぬまま→淘汰圧の下で満足を知らぬ嫉妬深い人たちが生き残った結果か?


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