ページ名:5.1_The_Privileged_Present:_Defending_an_“A-theory”_of_Time_(Dean_Zimmerman)
1. Introduction - 3. Competing Versions of the A-Theory[]
ファイル:Zimmerman1.PDF
4. Yes, but Is It True?[]
しかし、A論はそもそも正しいのか?この章の残りでは、A論に対する反論を検討する。[]
- (特殊または一般)相対性理論以前にも提示できる種類の反論
- 時間に関する科学的研究とは独立の形而上学的原理に依存した議論: これらの議論は問題含みであることが多い。これらの原理に依存した議論は、一般に妥当だと認められている哲学的主張に対する多くの他の反論と同様(かそれ以上に)棄却するのが容易である。
- 最も人気のあるこのタイプの反論は「真理制作(Truthmaking)」に基づくもの。
- 相対性理論以後に可能となった種類の反論
5. An Objection to Presentism Based on the Need for “Truthmakers”[]
Truthmaker Principle(の一例)[]
すべての命題について、それが真であることを要求するような何か(i.e. 当該の命題が真でなければ存在しえないようなもの)が存在する。
Truthmaker Principleに基づく哲学理論の反論の一例[]
- 哲学理論「自然法則は素粒子と場の力と傾向性に関する事実を足し合わせる仕方にすぎない。そして、これらの力と傾向性は生のもの(brute)である i.e. 因果的説明に関して基礎的である。」
- 反論者「この素粒子が、実際には反発を行っていないにもかかわらず、あの素粒子と反発しあう力をもっているという命題を真にするような何かを指し示してみよ。(そのようなTruthmakerに基づく説明ができない限り問題の命題は真ではない。)」
しかし、Truthmaker Principleに基づく反論は鋭さに欠けるものである。[]
- 理論の擁護者は、問題の概念にかかわるような「生の真実(brute facts)」を持ち出し、これらの事実が問題の命題を真にしているのだと言い張ることができる。
- 例「傾向性や力はそれを持つものの本物の特徴や性質である。そして、あるものの非傾向性的性質に関する何らかの事実によって、それらのものが当該の非傾向性的性質を持っているという命題が真になるのと同様に、あるものの傾向性的性質に関する何らかの事実によって、それらのものが当該の傾向性的性質を持っているという命題が真になることもあるのだ。」Truthmaker = ものの傾向性的性質に関する何らかの事実
- 反論者は、なぜ傾向性を基礎的概念、あるいはものの生の(brute)特徴とするのが誤りなのか、を示さなければならない。
- そして、もし基礎的概念としての傾向性という考えへの根本的な異議が呈されたのなら、結局は傾向性に関する語りは傾向性と関わりのない用語で分析あるいは言い換えられるべきだ、という議論に行き着く。Truthmakerを持ち出す必要はそもそもない。
現在主義に対するTruthmakerに基づく反論も同様に説得力に欠ける。[]
- 現在主義の反論者「この場所を恐竜が1億5000万年前に通り過ぎたという命題を真にする何かを指し示せ。この命題は真である。しかし、世界の*今*の在り方のなかには、この命題を真とする、あるいはこの命題が真であることを要求するようなものは存在しない。ところで、現在主義者によれば、世界の今の在り方以外には物事は存在しない。したがって、現在主義者は先のような過去に関する当然の真理に関してもTruthmakerを持ち出すことができない。」
- 現在主義者の応答「物事は『1億5000万年前に恐竜で占められていた』というような『後ろ向きの』性質を現に持っている。そして、どの物事がこれらの性質を持っているかに関する事実が存在し、これらの事実が過去に関する命題を真とする。」
6. Objections to the A-Theory Based on Relativity[]
三種類のA論と相対性理論が衝突するとする主張と、それへの応答[]
1. 相対性理論と現在主義の衝突[]- 反A論者の主張
- 相対性理論は時空点の四次元多様体によって定式化される。相対論によれば、この多様体には多くの時空的構造があり、そのなかで最も重要な構造のひとつは、時間的方向に沿った直線を構成する点の集合によって表される。この直線は、物体がなんの力も受けていないときにとる経路である。
- A論においては、四次元空間の中の三次元的な同時的スライスが、現在の時間に相当すると考えられる。さらに、現在主義的A論においては、このスライスのみが存在する、と考えられる。
- しかし、(相対論において物体の経路をあらわす)これらの直線は異なる同時的スライスによる点から構成されなければならない。ところで、現在主義に従えば、スライスのうちのどれかが存在すれば、他のものはいずれも存在しえない。したがって、現在主義に従えば、時間的方向に沿った直線の重要な時空間的構造をあらわすことができなくなる。
- Zimmermanの応答
- 私(Zimmerman)がその存在を信じられないものは過去や未来の物体(e.g., Bucephalus, 私の最初の孫)や出来事(e.g., ペロポネソス戦争, 最初の女性米大統領の就任)である。
- 一方で、時空点の四次元多様体は、科学理論によってたてられた理論的対象であり、それが理論のなかで持つ役割がなければ、その存在を信じていなかったようなものである。(理論的な存在としてであれば受け入れられる?)
- 多様体のうちの単一のスライスのみが物体と出来事で満たされている。未来はこれらの物体や出来事の特徴と近接した多様体の構造によって決定される。
- 現在に対応するスライス以外の点は、加速や減速をうけていないときに、素粒子が現在の地点に移動する*起点*となる点と、現在の地点から移動する*着点*となる点である。多様体に因果的に興味深い構造を与えるような根本的な関係は「到達可能性(accessibility)」の関係であると考えられる。
2. 時間軸の非単一性[]- 反A論者の主張
- 相対論が、時空に備わっていると考える構造は、ブロック(=多様体)のなかの地点の集合一個を、ある出来事の「単一の時間」として取り出すことができない。ブロックを、世界を同時的な三次元的状況と見なすような地点の集合(ie. 時間)のスライスに切り分ける「角度」は様々である。これらのうちのどれも他のものより良いということはない。
- ところが、A論者は時空のどの部分が現に在るのか、に関する事実が今/過去/未来にそれぞれ存在するということを想定しなければならない。そして、これらの事実は、四次元的ブロックを正しい「共現在(co-present)的」スライスの連続に分ける仕方を特権化することになる。これは相対論と矛盾する。
- Zimmermanの応答
- 単に物理学においてある区別が想定されないからといって、その区別が存在しない、という理由にはならない。E.g.1 物理学にとっては、大きな複合物を形成するような素粒子のグループと、複合物を形成しないような素粒子のグループは区別されない。しかし、だからといって複合物の存在は否定されるべきではない。E.g.2 様相実在論が正しいとすると物理学は現実世界とそれ以外の世界を区別しない。しかし、だからといって、「この世界」が特別であるという主張は正当である。
- 問題の反論の論法に従えば、ニュートン力学もA論と矛盾することになる。ニュートン的世界が永久法則(timeless law)に加えて素粒子の位置と力に関する時制を持たない記述(tenseless description)から成るとすれば、ニュートン力学はどの時点が現在なのかに関して何も教えてはくれないことになる。従って、現在とそれ以外の区別は存在する、とするA論と矛盾する。
- 当然ながら、粒子に関する記述のなかに*今*それらがどこにあるかに関する情報が含まれていれば、ニュートン的世界は特権的な現在を含意することになる。しかし、同様のこと相対論的四次元ブロックに関して言える。物質の*現在の*分布に関する記述が(どの分布が過去また将来に「現在」となるかに関する情報とともに)相対論に加えられれば、多様体の特権的なスライスの仕方が再び可能となる。
- 以上のように、A論に対する反論が、アインシュタイン以前も可能なものであるならばA論者は「完全に良い物理学理論(=相対論)を形而上学的理由から排除している」という罪に問われるべきではない。
3. Lorentz的物理学への回帰?[]- A論者は相対論を完全に棄却し、Lorentz的な物理感に回帰しなければならない。
- Lorentz的時空多様体はニュートン的構造をもち、相対論にはあり得ないような絶対的同時性(absolute simultaneity)と絶対的位置同一性(absolute sameness of position)を含む。また、Lorentzの理論は相対論的多様体の基礎となる時空的距離の概念を用いない。
- Zimmermanの応答(Zimmerman (forthcoming) で詳しく述べてるよ)
- A論は必ずしもLorentzへの回帰を導かない。たしかに、A論は多様体をスライスする単一の仕方を特権化するが、これは相対論による時空の働きに関する説明と矛盾するものではない。
7. Why Think the A-Theory Is True?[]
A論は常識だ。[]
- 現在起きている出来事と、現在起きているのではない出来事の違いは、私の近くで起こっている出来事と、遠く離れた場所(例えばオーストラリア)で起きている出来事の違いよりもdeepだ。
常識であるとはどのようなことか、また、なぜ常識であることは好ましいことなのか[]
- 常識は人間の知識の源泉として特別で生得的なものではない。ある言明が常識であるとは、その言明がほとんどのまともな人間にとって明らかに真であると思われるということである。A論は常識か?Zimmermanはそう思う。
- しかし、なぜ常識であるということがA論のサポートとなるのか。歴史上には誤りであることが判明した常識が数多くあった(e.g., 天動説)。
→ Zimmermanが主張しているのは、*他の条件が等しい限り*常識は常識であるということにより好まれるべきだ、ということである。常識のこの穏当な働きさえ否定する者はA論に限らず多くのものに関して懐疑論をとなえなければならない。- 認識論者達は、確実な基盤(absolute certainties)から他の信じるのが理性的であると思われるものに至るような不可謬な推論の連鎖(infallible chains of reasoning)を見つけようとするデカルト以降の近代の試みの失敗から以下のことを学んだ: 極端な懐疑論者になろうとしないかぎり、疑う特別な理由がない場合は、明らかに真と思われる物事を信じることは理性的である。そしてこの原則は、当該の信念が確実ではなく、また証明されえないものであるとしても許すべきものである。
→ 常識はこの結論によって特権化される。「疑わしきは罰せず」- 懐疑論者による常識の反駁に出会ったとき、常識の棄却するのではなく、懐疑論者の議論のうちで最も弱い前提を棄却する方が、たとえその前提が妥当なものに思われたとしても、理性的である。常識の一部であることは、信念に対して無視出来ない肯定的な性質(non-negligible positive status)を与えるのだ。
以上のことからA論に対する肯定的な議論が帰結する。[]
- Truthmakerに基づく反論をはじめとするA論(とくに現在主義)に対する形而上学的反論はZimmermanにとって説得的ではない。どのように応答すれば時にわからないことがあるとしても。
- 相対性理論にもとづくA論に対する反論はより厄介である。自然の法則とはどのようなものかに関して、全ての人々が真実を知ることのできる位置にはいないという強力な証拠がある。従って、これらの問題に関しては常識の裁定ではなく、専門家の知識に頼らなければならない。さて、ほとんどの専門家達は相対論を正しいとみなしている。しかし、相対論からA論が誤りであるとの結論を導く議論自体は説得的ではない。
「疑わしきは罰せず」[]
- A論が正しいかどうかは分からない。しかし、A論が常識である限り、「疑わしきは罰せず」の原則に従えば、A論を信じることは理性的である。
読書会で議論になった点[]
A論のなかでも「現在主義」では現在しか存在しないため、「過去」と「未来」のを区別する時間の「方向性/向き」が定義できないのでは[]
- 実際のA論ではこの「方向性/向き」はprimitiveとして導入される。
- 「速度」に関しても同様のようです。
- つまり、時間軸の2地点間の関係によって定義される概念一般はA論ではprimitiveになるのかと思います。
- ただ、そのprimitiveとして導入された「時間の向き」自体が多分に本来A論とは相容れないB論的なものである気もします。
5節:Truthmaker Principleを用いたA論に対する反論について[]
- 以下の返答が一般にできるので、Truthmaker Principleに基づくはA論の反論は一般は恐るるに足らず、という話があった。
- 反A論者「この地点を恐竜が一億五千万年前に通っていたという命題を真にするtruthmakerを指し示せ」
- A論者「この地点は『恐竜が一億五千万年前に通っていた』という『後ろ向き』の性質を持っている。あなたが求めているtruthmakerはまさにこのbruteな事実に他ならない。」
- しかし、上のA論者の反論は、時空間という時間に依存しない参照点に対して『後ろ向き』の性質を帰属させることで当該のtruthmakerを作り出している。しかし、時空点を参照点とすることができないような過去に関する命題もあるのでは。
「後ろ向きの性質」に関して[]
- B論では、「赤」という性質の外延を定義する際、あらゆる時点をみて、その時点において赤いものをとってくることができる。
- しかし、A論では、現在のものしかないので、「赤」という性質の外延は「現在赤いもの」に限られる。したがって、過去は赤かったが今は赤くないものは、このように定義された「赤」の外延には含まれない。
- A論では、過去は赤かったが今は赤くないものは「昔赤かった」という「後ろ向きの性質」をもつことになる。
- したがって、あらゆる時点をみて、その時点において赤いものを外延にもつような性質は、A論においては「赤、または、昔赤かった」というdisjunctiveな性質としてしか定義しえないことになる。
- 「赤」という性質の外延として、A論的に「現在における赤いもの」だけをとってくるのがいいか、B論的に「あらゆる時点をみてその時点において赤いもの」をとってくるのがいいかは意見がわかれるところ。(という感じで議論が終わっていたのを記憶しています)
6節:「到達可能性(accessibility)」について[]
- 相対性理論において明らかになった時空の多様体的構造は、時点間の「到達可能性」として分析でき、したがってA論と矛盾しないという話があった。
- しかし、上で述べた「方向性」や「速度」と同様、A論では「到達可能性」も二点間の関係として定義することはできず、現在に属するprimitiveとして考えなければならないのではないか。
- そうするとやはり現在に過重な負荷がかかってくる。
7節:相対論が単一の「現在」のスライスを仮定しないことについて[]
- 以下の内容があった。
- 相対論においては、時空多様体を「共-現在」的スライスに分ける単一の仕方が特権化されていない。(i.e. 「現在」を切り分けるスライスの角度は様々あり、そのどれも他のものより特別ではない)
- しかし、物理学がある区別を予測できないからといって、その区別が存在しないとは限らない。(犬 vs. 犬状の粒子)したがって、相対論における多様はスライスの仕方はA論と矛盾しない。
- また、「現在」を特権化しない、という意味では(timeless lawとtimeless descriptionに基づく)ニュートン力学も同様である。
- しかし、以下の点でやはりニュートン力学と相対論がA論と矛盾する仕方は異なるのではないか。
- ニュートン力学においては時間軸は単一なので、「我々」が属する地点を与えられれば「現在」が決定できる。
- それに対して、相対論においては時間軸は単一ではないので、「我々」が属する地点を与えられたとしても「現在」が決定できない。
- また、A論は単一のスライスの仕方を特権化しなければならず、もしこの特権化が「うすい(thin)」ものだとしたらそれを我々はどう知覚するのか、という(動くスポットライト理論/積み上がるブロック理論で問題となった)問題が再び生じるのではないか
8節:「A論常識だろjk」について[]
- そんなに常識でもないのではないか、という意見が多数でました。
- 実際PhilPapersのsurveyではB-theoryの方が人気だし
- もっともPhilPapersのsurveyは一般人の「常識」を反映したものではないですが。
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