『10万年の世界経済史』2章レジュメ(kurubushi_rm)

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目次

第2章 マルサス的経済の論理[]

  • 著者の主張
    • 人間社会の経済法則が、他のあらゆる動物社会と異なるようになったのは、たった200年前(19世紀以降)。
    • 過去に人間が、より貧しい生活をおくっていたと考えるのは、一般的に正しいとは言えない。
      • 1800年の農耕経済社会における平均的な人々の物質的生活水準は、祖先のものよりむしろ下がっていた。

マルサス的均衡[]

紀元前13万年前の世界人口=10万人

1800年の世界人口=7億7千万人

=>人口増加から計算した女性一人あたりの存命の子供の数=2.005人


表2.1=1300年、1800年における西洋諸国の人口
地域1300年頃の人口1800年頃の人口人口の変化から計算した女性一人あたりの存命の子供の数
ノルウェー0.400.882.095
南イタリア4.757.92.061
フランス17.027.22.056
イギリス5.88.72.049
北イタリア7.7510.22.033
アイスランド0.0840.0471.930


上の表の女性一人あたりの存命の子供の数=すべて2人前後=人口維持にぎりぎりの数。↑比較せよ↓人間の女性は出産可能な時期を合わせると12人以上の子供を産むことが可能

=>1800年までの西洋諸国が、マルサス的均衡に陥っていた傍証の一つ。

マルサス的均衡って?[]

ぶっちゃけ、生活物資(食料)の生産が、人口増加に間に合わず、人口の増加が抑制されている状態。

グラフにすると、こんな感じ。

マルサスの罠

マルサス的経済モデルの3つの仮定[]

  1. 各社会の出生率は、それを制限する慣習によって決定されるが、物質的生活水準が上昇すれば増大する。
  2. 各社会の死亡率は、物質的生活水準の上昇に伴って減少する。
  3. 人口の増加にともない、物質的生活水準は下落する。


図2.1マルサス的経済における長期的均衡[]

  • 出産率と死亡率は、一人当たりの所得の関数である。
    • 出産率は、一人当たりの所得の増加関数である。→所得が増えると、出産率は増加する→右上がりの出産率曲線
    • 死亡率は、一人当たりの所得の減少関数である。→所得が増えると、死亡率は減少する→右下がりの出産率曲線
  • もうひとつのグラフは、一人当たりの所得と人口の関係を表したグラフである。→一人当たりの所得は人口の減少関数である(上のグラフとは逆に、Y軸が定義域、X軸が値域になっていることに注意)
    • このグラフは、その社会の技術水準を示している(技術水準曲線technology schedule)。
    • 技術水準が上がると、グラフは上にシフトする=同じ人口でも生産性が増すため一人当たりの所得は増える。(図2.5独立的な技術進歩の影響、がそれ)

(似ているが違う解釈も可能)同じ所得で養える人口は増える。

(メモ)

*経済学では多くの種類の数量を扱うが、平面にグラフとしてかけるのは2つの数量の関係だけである。数式の導入を回避したい経済学の初等教科書では、3番目の数量を導入するために、3番目の数量が増加(減少)すると、グラフが右や左や上や下にシフトする(ずれる)という技をよく使う。数学が分かる人が、そういう初等教科書を見ると「なんでこんなことやってんの?」と混乱してしまう一因になっている。

図2.2任意の土地供給量での労働投入量と産出量の関係[]

Clark2-2

労働力を増加させていくと限界生産物(労働力を一人増やした際の、生産物の増分)は逓減する。

=>ぶっちゃけ、労働力を増やしていっても、生産量はあまり増えなくなっていく。

出生率曲線と死亡率曲線の変動(シフト)[]

図2.3出生率曲線の変動[]

  1. 出生率が、一人当たりの所得が上昇する以外の原因で高くなった場合、出生率曲線は上にシフトする
  2. すると、出生率が死亡率よりも高くなって人口は増加する。
  3. そして、あたらしい均衡にいたるまで人口は増加し、あたらしい均衡では、一人当たりの所得が減少している。

図2.4死亡率曲線の変動[]

Clark2-4.png

  1. 死亡率が、一人当たりの所得が下降する以外の原因で高くなった場合、死亡率曲線は上にシフトする。
  2. すると、出生率が死亡率よりも低くなって人口は減少する。
  3. そして、あたらしい均衡にいたるまで人口は減少し、あたらしい均衡では、一人当たりの所得が増加している。

技術水準の変動[]

図2.5独立的な技術進歩の影響[]

  1. 技術進歩は技術水準曲線を上にシフトさせる。
  2. 短期には人口は変わらず生産性が増すため一人当たりの所得は増える。
  3. 一人当たりの所得は増えた結果、出生率は上がり、死亡率は下がることで、人口は増加する。
  4. 人口が増加するに従って、一人当たりの所得は減少し続け、結局元の水準まで戻る。
Bryan Caplanの疑問[]

Malthus on Stilts: Clark Misinterpets the Malthusian Model

Clark2-3.jpg

  1. 不作などの死亡率を高める出来事は、その社会の生産性にも打撃を与えずにはいないのでは?
  2. つまり、死亡率曲線がシフトするだけでなく、技術水準曲線も下にシフトするのでは?
  3. すると、クラークの想定とは別の事態、人口が変わらぬまま一人当たりの所得が低下する事態が生ずるのでは?

マルサス的経済のモデルと経済成長[]

図2.61200-1800年のイングランドにおける技術進歩の実態[]

  • 縦軸を実質賃金(人口一人あたりの所得)、横軸を人口としたグラフ
    • 1600年あたりまでは反比例的な右肩下がりの曲線。ここから少しずつ離れ始める。
  • 古典派経済学がいう「賃金鉄則」=賃金の総量=賃金×雇用量は一定
    • 反比例的な右肩下がりの曲線となる
    • 雇用が増えれば賃金は減るし、賃金が減れば雇用増える、という「法則」は、マルサス的経済には合致していた。
3つの時期に分けたグラフ[]

MalthusianTrapEng1265-1595.GIF



MalthusianTrapEng1800.GIF

人間の経済活動と、自然の秩序にもとづく動物の営み[]

産業化以前の人間の経済活動についての(人口)法則

=ほかのあらゆる動物にあてまる=発展的な生態系全体を支配する法則=動物もまた、出生率と死亡率が一致するところで均衡する(例)野性のヌーの死亡原因、3/が栄養不足。

マルサス的経済の時代の政治経済学[]

  • マルサスの仮想敵
    • =ゴドウィン、コンドルセ
      • 初期の社会主義者。その主張「社会の貧困、不幸、悪徳は政府のせい」
      • マルサスの父も信奉者
  • それに対するマルサスの主張
    • 貧困は自然法則
      • 制度が生んだものではない
      • 制度を変えても変わらない=政策一般についての「中立命題」
  • マルサス的経済では
    • (−)所得の再分配は、人口増加から、社会全体の貧困化をもたらす
    • (+)富の集中とその浪費(例、宮殿や大聖堂をつくる)は、人口に影響を与えない。
      • 長期的には生活水準に影響を与えない。
      • 短期的にも
        • 多くの民衆の生活は旧石器時代並みのまま変わらない
        • が、技術革新による所得増加分を特権階級が吸収することで、ごく一部の人たちの生活水準(文化水準も)高まる。
    • 現代的な意味での良い制度も物質的生活水準に何の影響も及ぼさないか、むしろそれを低下させ得る。
      • 例えば、安定した社会制度、明確に定義された財産権、低いインフレ率、低い限界税率、自由市場、自由貿易、武力衝突の回避などは、無益か害となる
      • アダム・スミスの主張=課税の制限や非生産的な財政支出の抑制(小さな政府)も、それが唱えられた時期(1776年『国富論』出版)からすれば、その大半が的外れ
      • 人口増加によって社会が均衡点に戻るまでの短期間を別とすれば、適切な国家政策によって国を豊かにすることはできない
        • フリードマンの「自然失業率」を思わせるロジックで、リバタリアンの元祖を斬っている!

=>現在の目からすれば、逆説的。

しかしこうした「現在の観点」こそ、収穫逓増(を可能とした産業化/脱マルサス的経済)を前提としている。

所得格差と生活水準[]

表2.2マルサス的経済における「善」と「悪」[]

「善」「悪」
出生率の抑制多産
不衛生清潔
暴力平和
凶作公的備蓄
幼児殺し(間引き)親への福祉(子育て支援)
不平等な所得(所得格差)平等な所得(所得移転)
自己中心慈善
怠惰勤勉


  • =>マルサス的経済では、一人当たりの物質的所得を
    • 増やす=「善」
      • 人口抑制につながるもの
    • 減らす=「悪」
      • 人口増加につながるもの

新石器革命と生活水準[]

  • 農業の開始で生活水準は下がった
    • ジャレド・ダイアモンド「人口抑制と、食物増産の二者択一で後者を選んだ結果、飢えや戦争や暴政がもたらされた」。
  • Q.なのに何故、人類は狩猟生活から、農業へ移行したか?
    • A.農業の方が(少なくとも短期的には)所得を増大させたから。
      • しかしマルサス的経済では、所得増は、繰り返し、人口増加に飲みこまれ、
      • 一人当たりの平均所得は、かつてより低下することになった(→生活水準の低下)。

物質的生活水準−旧石器時代からジェーン・オースティンの時代にいたるまで[]

  • かわらなかった。
    • 紀元前8000年当時の人々の方が、1800年のイギリスの労働者よりも、肉を含めた食料をもっと多く入手できた。
  • 以降の3〜5章では、このマルサス的経済が1800年以前のあらゆる社会にあてまることを論じる。


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