吼える密林(小説)

ページ名:吼える密林_小説_

登録日:2022/07/28 Thu 23:39:00
更新日:2024/06/24 Mon 13:39:24NEW!
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吼える密林』とは、南洋一郎による児童向け冒険小説作品である。
「少年倶楽部」(講談社)誌にて昭和7年(1932年)1月号から同年12月号にかけて連載された。
収録書籍の版によっては「猛獣征服」のサブタイトルが付いている事も。
雑誌掲載時の挿絵は鈴木御水と椛島勝一が担当。



概要

ポプラ社版『怪盗ルパン全集』などの作者としても知られる南洋一郎による、著者がデビュー間もない頃に得意としていた秘境冒険モノのオリジナル小説。
戦前期には7年間で130回の重版が行われたベストセラー作品であったという。


簡潔にあらすじを言うと「アメリカ人の冒険家2人がアフリカ・アジア奥地の秘境に赴き、現地の土人の協力を得ながら凶暴な猛獣を狩猟する」という、
早いが話「猛獣狩り」をテーマにした冒険小説であり、内容も全編通してインターミッションの類はほぼ無しで、語り部の主人公による猟が終始延々と続く……というもの。
主人公達がピンチに陥った状況から逆転したり、ユーモアに富みながらもリアリティ溢れる狩猟手段など、読者を惹き込む著者の手腕がうかがえる内容ではあるのだが、
何分執筆されたのがワシントン条約のワの字すら無い1930年代という事もあり、ハンティングの獲物となるのはライオンに虎にオランウータンといった今や希少な動物達、
主人公達が動物をハンティング目的も日々を生きる糧とするためなどではなく、狩猟のスリルを楽しんだ末に、獲物は剥製、毛皮、果ては生け捕りにして動物園に……と、
21世紀の現代日本に生きる読者の視点からだと、作中の登場人物の価値観に首を傾げてしまう場面も結構多いのが困りもの*1
何にせよ、本作に触れる際には「1930年代のコンプラ」に基づいた冒険物語である事を念頭に置いた方が良いかもしれない。


書籍には、1992年刊行『少年小説大系 第20巻 南洋一郎集』(三一書房)への収録を最後に30年以上物理媒体としての復刊はなされておらず、
電子書籍や青空文庫にもなっていないが、過去の収録書籍はいずれも2022年現在で中古価格の極端な高騰はしておらず、
また大きな図書館なら書籍が所蔵されている場合もあるため、読むことはそこまで大変ではない。



あらすじ

アメリカの探検家ジョセフ・ウィルトンが友人フランクと共に、アフリカの密林にわけ入り、大獅子、巨象、大鰐などと必死の血闘をつづけ、
さらにボルネオからマレー半島に渡り、大猩々、黒豹、大虎、猛毒蛇などと死闘をかさねる。
秘境に生死をかけての人と野獣の闘争、大冒険談。


少年倶楽部文庫『吼える密林』(1975年、講談社)作品解説より引用



登場人物

  • ジョセフ・ウィルトン

本作の主人公にして語り部。アメリカ人の探検家。シカゴ出身。
大の狩猟好きであり、秘境に潜む凶暴な猛獣と勇敢に戦い、獲物として狩る事を最上の楽しみとする根っからの探検家。
狩猟の腕前は確かであり、ライフル銃や拳銃、連発銃などといった銃器のみならず、ナイフなどといった近接武器も使いこなして猛獣を的確に討ち取っている。
現地では土人達の協力を仰いで猛獣狩りに挑む事が多く、その過程で猛獣に殺された土人達や乗馬などには一定の敬意を示す場面も。
猛獣を掃討した事で土人達から敬意を示されると得意気になる程度には調子に乗るも、決してそれで慢心せず最善には最善を尽くす自信家でもある。


しかし物語の最終盤、発見した象の墓場から象牙を採掘する計画を進めるためのフランク不在時に、スマトラ北部のゴム園地方に出現した人食い虎の掃討を受けて赴くも、
その際のハプニングで用意した鋼鉄製の虎バサミに自身の脚が挟まってしまい、片脚を失ってしまう。
とはいえ、それでも猛獣狩りも探検も止めるつもりはなく、物語の締めではフランク共々死ぬまで探検家でいる意志を見せている。


  • フランク

同じくアメリカ人の探検家で、ジョセフの友人。冒険好きだが心優しい男。
銃の上前はジョセフに劣らずであり、お互いに窮地に陥った際には助け助けられる信頼のおける間柄である。
熱にうなされても「一度銃をぶっぱなせば熱なんてふっとんでしまう」と豪語するくらいには彼も狩猟好き。動物の毛皮を剥ぐスキルは高い模様。
大蛇に絞殺されかけたり、巨象と犀の激突に巻き込まれて気絶したり、野生の巨象の群に拉致された挙句に敵対的な土人の捕囚となったりと、ジョセフに負けず劣らず災難に遭う事が多い。


  • アリ

マレー半島出身の土人*2で、舞台がアフリカからマレー・ボルネオに移ってからジョセフ達の従者として登場。ジョセフ達よりは年配である模様。
主にジョセフ達と現地の土人達との通訳、酋長相手のネゴシエイトなどを担当する他、自らも土人特有の技法で狩猟をサポートする。
ジョセフ達の猛獣狩りについては、人間の罠で身動きできなくなりを流す小猿を捕らえ、猛獣への囮として使うくらいには価値観を共有している。


  • アボウ

マレー半島・ジョホール王国の部落出身の土人。
妻と娘を「森の魔神」と呼ばれる人食い虎に食い殺された事で、復讐そして家族の無念を晴らすためにジョセフ達の虎狩りに参加。
最終的には止めこそジョセフに譲ったが、仇の人食い虎に致命傷を与える事に成功。それからは土人仲間の中で英雄として崇められるようになったとのこと。


  • トマ

アリの親類の土人の少年。
フランクに懐いており、彼が巨象の群に攫われて亡きものになったと思ってしまった際には誰よりも嘆き悲しんでいた。
その後の野牛セラダングとの遭遇で、ジョセフから預かっていた連発銃を彼に渡そうとするも、セラダングの突進を受けて殺害されてしまう。



登場する猛獣

主にジョセフ達が敵として戦った動物を主に紹介。


ジョセフ達がベルギー領コンゴ地方で遭遇した、本作最初の獲物。
アフリカの土人達の言葉で獅子ザンパと呼ばれる百獣の王で、密林のジャングルに棲息している。
作中では雄獅子と雌獅子のつがいの二頭が登場。土人達からは「森の魔神が乗り移ってる」とも評される程の極めて凶暴な老獅子で、
物語開始時点で既に人間や家畜の味を覚え、土人の部落を何度も襲撃し、恐れられている。


ジョセフ一行との遭遇ではまず雌獅子が現れ、フランクの放った銃撃で肩を負傷し、怒り狂って連れの土人一人を殺害するも、他の土人達の総攻撃で仕留められる。
残った雄獅子は、被害に遭った部落の酋長の協力によって大所帯の戦士を引き連れたジョセフ一行との戦いで、銃撃を掻い潜りながら土人3人を噛み倒すも、
銃の弾が尽きながらも、水牛の革製の盾と短剣で果敢に立ち向かったジョセフとの一騎打ちで、心臓を一突きされて絶命。
その皮はフランクによって丁寧に剥がれ、ジョセフの帰国後に名高い標本家によって剥製にされ、博物館に寄贈された模様。


  • 大蛇

大獅子を討ち取ったジョセフ達の前に出現した巨大な蛇。
フランクに襲い掛かり絞め殺そうとしたが、駆け付けたジョセフとの死闘の末に短剣で喉の急所を突かれて絶命。


コンゴ河の上流地方、エドワード湖に近い沼沢地にてジョセフ達が遭遇した雌雄の豹。
縞馬を仕留め、獲物の肉を食べていたところをジョセフ達に狙い撃ちされて、雌雄仲良く餌食に。


豹を仕留めたジョセフ達の前に出現。ジョセフ曰く「アフリカの猛獣でもっともおそるべきもの」。
ジョセフ達の銃撃すらものともせず興奮したまま襲い掛かり、銃を手放してしまった彼らを窮地に陥れるも、土人達の救援によって逃走。
翌日の犀狩りでは、土人の酋長の操る巨象に乗ったジョセフとの戦いで、目を銃撃されて弱った所を、巨象に踏み殺される最期を迎えた。


独木舟カヌーに乗っていたジョセフ達を群で襲撃。
身長5メートル半はあろう巨大な鰐がボス格で、短剣すらも通さない鉄のような鱗を有する。
数量と水中という地の利で散々ジョセフ達をてこずらせるも、土人特有の野鴨を囮にした狩猟方法を学んだジョセフに仕留められる。
遺骸はジョセフの生地であるシカゴの博物館に寄贈された。


  • 猩々しょうじょう

マレー・ボルネオに棲息する、現地人からはオラン・ウータン(森の人)と呼ばれる巨大な猛獣で、
ジョセフら人間を手玉に取る賢さと、銃すら圧し折る怪力、そして黒豹を難なく引き裂いて殺害する凶暴性が武器。
その森の勇士ぶりに感嘆したフランクは猩々を殺さず生け捕る事を提案し、アリに教わった土人による猩々の生け捕り法……
瓶の水で少しずつ慣らして油断させ、強烈な酒を飲ませて酔わせたところを捕まえる」という手段で見事捕獲される事に。
その後は輸送中に鉄檻の中で暴れまわってジョセフ達の手を焼かせるも、フランクに投げ縄の要領で首を絞められて大人しくなり、
最終的には無事シンガポール経由でニューヨークの動物園に贈られる事となった。


  • 大だこ

海岸の入り江でジョセフを襲った巨大なタコ。
ジョセフの脚を触手で絡め取って海中に引きずり込もうとしたが、フランクが連れてきた土人の放った猛毒の吹き矢によって絶命。


マレー半島・ジョホール王国でジョセフ達が遭遇した年をとった雌虎。
土人の言葉で「レモウ、サタン」と呼ばれる人食い虎で、身長3メートル、体重290ポンドの体躯を有する。
元は雄雌で人間の部落を襲っていた「森の魔神」と称される凶暴な個体で、ジョホールの王による虎狩りで雄だけは仕留められたが、雌のみが生き残り活動していた。
ジョセフ一行に追跡を受ける中、アボウの妻と娘を食い殺すも、仇討ちに燃えるアボウの短剣による一刀と、ジョセフの銃撃によって仕留められる。
その毛皮はフランクによって剥がれ、戦利品となった。


土人達が掘った落とし穴に偶々はまっていた小象を引き上げたジョセフ一行から、子供を取り返しに襲撃してきた幾十頭の巨象の群。
ピストルすら全く歯が立たず、結果として襲撃の際にフランクが巨象の牙に引っかかる形で攫われて一時行方知れずになってしまった。


ジョセフ達は作中でアフリカで土人の飼育する象を乗り物として利用したりと直接的な狩猟の対象とはしていないが、
マレー半島ではフランクの捜索中に一頭の年老いた象が沼に身を沈める光景に遭遇。
象が生涯を終えた沼こそが、伝説に聞く象牙の宝庫、所謂象の墓場であるとジョセフ達は確信するに至っている。
沼には無数の人を襲う魚が潜んでいたためおいそれと探索は出来なかったが、ジョセフは象牙の採掘を諦めておらず、フランク共々準備を進めた上でいずれ再び探索する意志を見せている。


  • セラダング

マレー半島に棲息する凶暴な野牛で、ジョセフ曰く虎よりも恐ろしい象さえ震え上がるほどの猛獣。
巨象に攫われたフランクを捜索するジョセフ達と偶然遭遇、銃器を彼に渡そうとしたトマ少年を殺害し、ジョセフのピストルすら物ともしなかったが、
ジョセフ達が急ごしらえで仕掛けた罠で猛毒を食らって弱ってしまい、最期はトマの敵討ちに燃えるアリの短刀で心臓を貫かれた。


  • キング・コブラ

フランク捜索中にジョセフの遭遇した猛毒を持つコブラで、その威力は犀をも殺すほど。
ジョセフが遭遇した個体は全長5メートルほどの大蛇で、猛獣射撃用のライフルで討たれた。


フランクと再会、土人達から解放されたジョセフ達がその矢先に遭遇したマレー熊。
アリの見せた土人の熊狩りの技法で翻弄され、そのまま逃がされる形で遁走。




追記・修正は、1930年代のコンプラに想いを馳せながらお願いします。


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  • これに限らず現代のモラルに照らせば冷ややかに見られるのが避けえない作品は多いけど、封殺され忘れられるばかりでない事を祈るね -- 名無しさん (2022-07-29 00:03:06)
  • 「蠢く密林」じゃなかった -- 名無しさん (2022-07-29 01:00:04)
  • 藤子A先生の少年時代で進一がタケシに貸した本のうちの一冊だっけ。残りは「ジャガーの目」と「亜細亜の曙」だったはず -- 名無しさん (2022-07-29 22:35:37)
  • コンプライアンスっていうのは法令(+社会倫理、規範)順守のことなので、当時の価値観ではおかしいことではなかったという前提で言うと、コンプライアンスという単語の選択はちょっと違うんじゃないか。 -- 名無しさん (2022-08-01 13:25:17)

#comment(striction)

*1 詳しくは後述する通り、現地の住民に甚大な被害をもたらしている凶暴な猛獣を討伐するという至極真っ当な目的の狩猟も行ってはいるが。
*2 早いが話「現地人」の意。現在はほぼ差別用語として看做されている用語である。

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