言語学

ページ名:言語学

登録日:2020/02/16 Mon 01:19:00
更新日:2024/05/16 Thu 13:00:42NEW!
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言語学とは、主に人間が使う自然言語を研究する学問。


●もくじ


概要

単に実用のために外国語を学ぶのとは違い、英語日本語といった多数に使われる言語に現れる誤用や、少数言語の研究なども行う。


アニヲタ的には、アバターやロードオブザリング、ゲームオブスローンズ、星界の紋章といった創作物に登場する人工言語を作るためにもっぱら使われている。


文系科目ではあるものの、語形の変化や例外の規則を数式的に表すことが多いため、理系の趣味としての人気も高いらしい。


国語の教科書などでも言語を扱った例題が目にかかることはあるものの、どちらかといえば社会学や倫理学的な側面で捉えられることが多く、言語学の範疇で扱われることは少ないようだ。


下位区分・ジャンル

創作クラスタ的に特に人気があるのは社会言語学、歴史言語学、生成音韻論、音韻論、形態論、統語論、言語類型論と思われる。


社会言語学

国と地域、文化、身分や社会的性別による言語の違いなどを研究する。


認知言語学

脈絡や発達による修得といった言語と脳との関わりを研究する。


歴史言語学

言語の歴史による変化を研究し、その言語の過去の姿を推定する。

比較言語学

ある言語と親戚関係にありそうな言語を比較することで、系統(語族、語派)を決める。


音声学

言語の音声が実際にどのように発音され、響いているかを研究する。


音韻論

音声がどのように聞き分けられ、時代や条件とともに変化するかを研究する。

生成音韻論

特に幼児期の子供の音韻の変化を見ることで、通言語的な音の変化をみる。


形態論

言語の意味や役割の最小単位(=形態素)の時代や条件での変化をみる。


統語論

文がどのようにして作られるかをみる。


意味論

単語にどのような意味があるかをみる。

形式意味論

数学の記号等を用いて、自然言語をアセンブリ言語のように捉えることで言語の本質に迫る。

認知意味論

「人間は世界をどのように捉え、それをどのように言葉にするのか」という課題に着目したもの。


言語類型論

異なる言語同士を比較することで、通言語的(≒普遍的)な言語変化を見る。


用語

下位区分ごとに様々な用語が使われるため、ここでは頻出の単語を紹介する。


社会言語学・文化言語学関係

国語学、国文法

その言語の伝統的な解釈としての学問と文法。
特に日本語の場合、橋本文法や時枝文法といった、国語学者が作った文法のこと。
言語学とは異なる解釈を行なっている。


学校文法

言語学的な見方と違い、学校で教わる文法のこと。
こちらも言語学の研究対象である。
日本語の学校文法は橋本文法をベースにしている*1


語源学

単語の語源を調べる分野。
言語学というとこのイメージが大きいが、実際はあまり大きな分野を占めている訳ではない。
語源を調べるには当時の文献を参照したり、同じ祖先を持つ方言の同じ意味の単語から音韻等の変化の規則を探るなどの方法が取られる。
例えば「器(うつわ)」の語源を考えてみよう。
まずこれは歴史的仮名遣いでは「うつは」であるため「空(うつ)」+「輪(わ)」ではないことは明らかである。
他に考えられる語源に「空」+「土(はに)」があるが、この場合は「に」が抜けた理由がないため相応しくない。
もしそうならこの他の単語でも「に」が抜ける例があるはずだからである。
実際はこの単語の語源は正確に分かっている訳ではない。


言語生活

言語の面からとらえた人間の生活。
「話すこと」「聞くこと」「書くこと」「読むこと」に関係する側面。


口語、文語

口語は現代の言語のこと。
文語はその言語が過去にとっていた文法等のことで、これは文章を書く時には昔の文体や発音での表記がされやすいことに由来し、実際は日本語も最近までは書き言葉と話し言葉で表記に乖離があった。


基層言語、上層言語

例えば日本語に対する英語のように、他の国による支配や影響を受けたりすることで上層にある言語のことを上層言語と呼ぶ。
上層言語に対して下を基層言語と呼ぶ。


母語

ある人の元々使っていた言語。
インドなどのように一つの国で複数の言語が使用される関係から、母国語という呼び方は相応しくないためこのように呼ばれる。
母語話者とはネイティブのことである。


忌避語

」などのように、直接言うのが忌避される単語。
「お隠れになる」のように、婉曲的な言い方になったりする。
日本や中国では、「4」という数字のような似た発音のものも忌避される傾向にある。
文化人類学的には、同じ言語を使っていても、祖先の霊の象徴だったりして、共同体ごとに「豚」「牛」などタブーとみなされる単語が異なる場合がある。


卑語

英語の四文字語のように、言うのが憚られる単語。
「お前」「貴様」のような敬称は時代が降るにつれ侮蔑語になることがある。
あと何か「ちくしょう」みたいに嫌なことがあったときに口から出る言葉をなんと言ったのか忘れたので誰が加筆お願いします。


サピア・ウォーフの仮説

イヌイットのある言語が雪に対する52の単語を持つことを受けて、言語は気候風土などの環境に影響するという仮説。


歴史言語学・比較言語学関係

語族、語派、諸語

イタリア語、フランス語、スペイン語は、それぞれ同じラテン語を先祖に持つイタリック語派だが、このような関係をもつ言語のまとまりを語派と呼ぶ。
英語やドイツ語、アイスランド語もまた同じゲルマン語派に属するが、ゲルマン語派とイタリック語派は共に印欧祖語を起源とする印欧語族である。
すなわち同じ系統の語派のまとまりが語族である。
語派より下のまとまりは語群、語、方言である。
ある言語を他の言語と分ける基準は定まっておらず、例えば同じ言語に属する日本語共通語話者と津軽弁話者との会話での意思疎通はほぼ不可能だが、異なる言語と呼ばれるセルビア語とクロアチア語の意思疎通は用意である。
同系統と証明されていない言語を一まとめにして呼ぶ場合は諸語と呼ばれる。


言語連合

同系統と証明されていない言語でも、地理的に近ければ単語、文法、音声、アクセントが似てくることがある。
このような言語のまとまりを言語連合と呼ぶ。


孤立した言語

アイヌ語のように、同系統である言語が他にないものを孤立した言語と呼ぶ。


再構

ある単語の元の形を推定すること。
言語間の比較によって行われる場合は外的再構、ひとつの言語の単語から行われる場合は内的再構と呼ぶ。


共通語

①複数の言語話者の間で使用される言語のこと。リングアフランカ*2
例えば英語は現代のインターネットでの、古典中国語は当時のアジア諸国の共通語である。
②日本語の標準語のこと。標準語という呼び方が相応しくないとされるため、このように呼ばれる。


ピジン、クレオール

ピジン*3は、複数の言語話者の間で使用される、双方の言語の混ざった簡単な文法をもつ言語であり、クレオールはそれが母語話者をもつようになったもの。
前者は漢文訓読、後者は小笠原方言やトク・ピシン*4が該当する。


借用

ある言語の単語が他の言語でも使われるようになること。
返すわけではないが習慣的にこのように呼ばれる。
日本語の和語に対する漢語や外来語も借用された語である。
異なる言語を訳すことで借用したものを訳語と呼ぶ*5


波紋説

言語は単一で進化するものではなく、他の言語や方言から影響を受けるという考え。
例えば柳田國男の「蝸牛考」によれば、カタツムリを表す単語である「ツブリ」は東北と九州に、「カタツムリ」は関東と中国・四国に、「デンデンムシ」は関西に分布していた。つまり古都である京都からこの順で広まったのである。
実際には関東同士・九州同士でも方言のやり取りはある他、現代ではメディアやインターネットの台頭もあり一概に言うことはできないが、言語はこのように他の言語からの影響を耐えず受けているのである。
なお、急速に広まった単語ほど形は変わりにくいため、その単語と同じ語源を持つ単語が複数ある場所がその単語の故地と言える。


音対応の原則

ある言語から他の言語が派生する際に、その言語の単語のひとつの音素が元の言語の音素に対応していること。
例えば「でかい」という単語がある言語から「でけえ」という単語がある言語に派生した場合、元の言語で「やばい」と言われている単語は本来、その言語では「やべえ」と言われていなければならない。


シノニム、アントニム

それぞれ、同義語、対義語のこと。


提喩

ある単語でそれの属する全体を表したり、逆にそれの属する単語である単語を表すこと。シネクドキとも。
例えば、「花見」の「花」は基本的に「桜」を表し、「筆を置く」は「文筆活動をやめる」ことの提喩である。


レトロニム

別のものがその単語で呼ばれるようになったために元からあった単語が形を変えること。
例:
「白黒テレビ」「回らない寿司」「初代ゴジラ」など。いずれもかつては「テレビ」「寿司」「ゴジラ」と呼ばれていた。


音韻/形態/統語関係

母音と子音

母音は、声帯がある程度振動しているもの。子音はそうでないもの。
母音は基本的には「口が丸い(円唇)かそうでない(非円唇)か」、「舌がどの位置にあるか(前舌、前舌め、中舌、後舌め、後舌)」、「口が広いか否か(狭、広めの狭、半狭、中央、半広、狭めの広、広)」で決まる。
例えば日本語の「あ」は非円唇中舌広母音[ä]である。
子音は基本的には調音点(唇、歯、前部歯茎、など)と調音方法(破裂、摩擦、鼻、など)があり、それに加えて声帯の振動を伴う有声音(ダ行子音など)とそうでない無声音(タ行子音など)の区別、子音の発音する時間の長い有気音(中国語のchなど)と無気音(中国語のzhなど)、舌の側面を使用した側面音(lなど)とそうでない中線音(ɹなど)の区別などがある。


二重調音

二つの子音をほぼ同時に発音すること。特に破裂音と摩擦音の二重調音を破擦音と呼ぶ。例えばチャ行子音である後部歯茎破擦音[t͡ʃ]は歯茎破裂音[t]と後部歯茎摩擦音[ʃ]の二重調音である。


音価と音素

音価は、言語を記述する正確な音。音素は、実際に聴き分けられている音。
例えば「さ」と「し」の子音はそれぞれ異なる音声だが、「しゃ」行を抜きにすれば、日本人は同じ音素として捉えている。


形態素、グロス

意味や役割の最小単位のこと。
例えばa strawberryはaとstrawberryに分解でき、aは不定かつ単数の最小単位である。
文や単語などを下のような形態素に分けることを形態素解析と呼ぶ。


a swrawberry
不定.単数 イチゴ


形態素解析したものをグロスと呼ぶ。
strawberryはさらにstrawとberryにも分けることが可能であり、これも形態素と呼ぶ。
cranberryのcranのように意味や出所が分からない形態素をクランベリー形態素と呼ぶ。


音節

主に母音とまとまりに任意の数の子音がついたもののことである。
ain'tはaiという母音のまとまりにn'tという子音がついているため一音節であり、resolveはeとoにそれぞれrとs,lveという子音の纏まりがついているため2音節となる*6


拍はモーラともいい、音節とは別に存在する音の長さの単位である。
例えば俳句を詠めば分かる通り日本語は「か」「しゃ」「ん」「っ」を一拍と捉えるが、「ん」と「っ」は子音しか含まれていないため音節がない。
「でゃあねえ」(〜ではない)の「ゃ」のように、0.5拍を持つ言語もある。


接辞

接辞は単語につけることで新しい意味を付加するもの。
「茶」に「お」をつけて「お茶」とすれば、それは丁寧な言い回しになる。
接辞は接続する部分に対して「お-」のように表し、グロス表記をすれば


お-茶
美化-茶


となる。前につけるものを接頭辞、後ろにつけるもの(「私-が」の格助詞「が」など)を接尾辞、単語の内部につけるもの(ラテン語のli-n-quo「残す」の-n-など)を接中辞、前と後ろにつけるもの(文語の「な-来-そ」の「な-そ」など)を接周辞と呼ぶ。


語根

単語の意味を作る単位。
英単語"ex-pel"「追放する」ならex-(外に)とpel(足)。
接辞と違い、覚えるのには使えるものの単語の意味を正確に決めることはできない。


標識

マーカーのこと。
例えば英単語"the"は名詞が定まっている(≒話し相手がそのことについて知っている)ことの標識である。
標識があることを有標、ないことを無標と呼ぶ。


ゼロ

標識がついていないことが標識として機能すること。
グロスでは∅という記号で表す。例えば「play(遊ぶ)」は「plays」や「played」のように標識がついていないため、非過去かつ複数または1人称か2人称であることが分かる。
これを記号で表すと「play-∅」となる。


修飾語

ある単語に意味を付与する単語のこと。
特に名詞を修飾するものは形容詞、動詞や形容詞や文または他の副詞を修飾するものを副詞と呼ぶ。
日本語の連体修飾語は形容詞、連用修飾語は副詞である。


名詞の文法役割の標識。
例えば「私-を」の接尾辞「-を」はそれが目的語であることを表す標識で、対格と呼ばれ、英語の目的格に相当する。
国文法では格の標識を格助詞と呼ぶ。


接置詞、前置詞、後置詞

名詞の前後に置いて格を表示する単語。
名詞の前にあるなら前置詞、後にあるなら後置詞と呼ぶ。
接尾辞「-を」は後置詞としてみることもできる。


二つ以上の語からなる入れ子構造のこと。
例えば「a beautiful pen」または「ある美しいペン」は以下のような構造で修飾関係がある。


      /​\

/ /\
a beautiful pen
ある 美しい ペン


beautiful penでひとつの句となり、さらにa beautiful penもまたひとまとまりの句である。
しかし、a beautifulは共にpenを修飾しているのであって、この二単語が句になるわけではない。


主語と動詞で構成される入れ子構造である。
通常の文は主節と呼ばれ、文を修飾する仮定法などは従属節、文を副詞や形容詞、名詞であるかのようにしたものをそれぞれ副詞節、形容詞節、名詞節と呼ぶ。
例えば「私が住む家」の連体修飾語「私が住む」は形容詞節である。


この言葉に対して、はっきりとした定義はない。
in the roomという句はroomに接頭辞inとtheがついたものとみなすこともできれば、それらを別々の単語とみなすこともある。
しかしながら、接尾辞がアクセントの変更のような、単語に音韻的な変化をもたらすのに対し、「接尾語」はそれをもたらさないものとされているらしい。


アクセント

ある単語の母音の高低や強弱のこと。
例えば日本語は高低アクセント、英語は強弱アクセントである。


対立

ある音素や形態素がほかのものと異なるものとして認識されていること。
例えば「牡蠣 [káꜜkʲi]」という単語は「柿[kakʲí]」「垣[kakʲíꜜ]」と対立している。
ここではアクセントの違いが三つの単語を分けているが、このように対立を生み出す要素を弁別的素性と呼び、弁別的素性が一つしかない単語や形態素の組を最小対またはミニマルペアと呼ぶ。


中和

対立しているある形態素同士が語形変化によって弁別的素性を失うこと。


意味論関係

深層格、表層格

深層格は、各言語に共通して存在する格。
それが形態に現れたものが表層格である。
例えば日本語の格助詞「-が」は表層格ではガ格と呼ばれるが、深層格では動作主格である場合(「俺がやる」など)と対象格である場合(「パスタが食べたい」など)がある。


シニフィエ、シニフィアン

シニフィエは、意味を表す音声や文字であり、シニフィアンは、意味内容のこと。フェルディナン・ド・ソシュールが提唱した。


ラング、パロール

ラングは、その社会に共有される文法や単語、音声などのこと。
パロールは、個人によってそれが発話されたものである。
ソシュールが提唱した。


言語類型論関係

孤立語、膠着語、抱合語、屈折語

言語の古典的な類型。
単語同士が別々の意味を表し、語順によって意味合いを決定している英語のような孤立語*7に対し、単語に接辞が次々とつく(=総合される)ことで意味を追加していく日本語のような言語を膠着語と呼ぶ。
さらに動詞にたいして前置詞までもが接辞としてついたものは抱合語と呼ばれる。
これらに対し、接辞がさらに総合されることで縮約されて元の形態素が推測しにくくなり(=屈折)他の標識と被っている部分があるものを屈折語と呼ぶ。
屈折語などの難解な言語は話される地域が広くなるにつれやがて孤立語に戻ることが多い。
動詞の屈折を活用、名詞とそれに関係する形容詞などの屈折を曲用と呼ぶ。


主題、焦点

主題は、「…は〜する」の…にあたる単語であり、焦点は、「〜するのは…だ」の…にあたる単語である。
日本語ではそれぞれを「-は」「-が」の対立によって表し、このような対立を持つ言語を主題優勢言語と呼ぶ。


能格、絶対格

絶対格は、動作の対象のこと。
自動詞の主語や他動詞の目的語のことで、他動詞の主語のことを能格と呼ぶ。
能格-絶対格の区別を元に標識がある言語を能格言語と呼び、主格-目的格の区別をする言語を対格言語と呼ぶ。
また、状況によりそれらを使い分ける言語を活格言語と呼ぶ。
自動詞の主語、他動詞の主語、他動詞の目的語がこの他の方法で表示されていることはごく稀である。
形態的に能格や対格がどのように表示されるか、ということは形態アライメントと呼ばれる。


主要部、依存部

主要部は、主語や目的語、間接目的語に対する動詞や、被修飾語に対する修飾語のことである。
ラテン語や英語、日本語は主語の人称や敬意に応じて動詞が活用したり、所有する名詞は曲用して所有格を表したりする主要部表示型の言語だが、ハンガリー語などは逆に、目的語が動詞の完了を表したり(分格)、所有されているものが所有しているものを表示することで所有関係を明らかにしたりする。
このような言語は依存部表示型と呼ばれる。
主要部と依存部の両方に表示がある言語は少ない。


コト言語、モノ言語

コト言語は、ある動作が行われたとして、その動作そのものを見ている言語である。
例えば、「わ、ミルクが溢れた」を英訳した場合、「Oh, she spilled milk!」のように、自動詞が他動詞に置き換わることが多い。
この点で日本語はミルクが溢れたという「コト」に関心が行きがちであり、英語は誰がこぼしたのかという「モノ」に関心が行きがちであることが分かる。
コト言語は外部との接触がなければ、基本的に代名詞にバリエーションがあり、英語の「I have a family.」に対する「私には家族がいる」のような文を可能とする「BE言語」であると言われている。


総主文

「ゾウが鼻が長い」の「ゾウが」のように、ある単語が「〜についていえば」という意味を持つ文。
主題優勢言語の多くは総主文を持つと言われている。


うなぎ文、人魚文

うなぎ文は、「ご注文は何になさいますか?」「僕はうなぎだ」のような文のこと。
下線の文面だけを見ると「私はうなぎです」と自己紹介しているように見えるが、実際は「僕(の注文)はうなぎだ」というように省略されているだけである。
皆さんも出身地を聞かれて「私は東京」というような答え方をしたことはないだろうか?


人魚文は、「太郎は明日大阪に行く予定だ」のような文のこと。
主語と述語の組み合わせに注目すると「太郎は-予定だ」となるが、もちろん太郎は人間である。
このように、前半は「太郎は-行く」という動詞述語構文、後半は「予定だ」という名詞述語文と、種類が違うものがくっついて1つの文になっているものを人魚文という。
他には「本を読んでいるところです」「雨が降っている模様です」などがある。


いずれも主題優勢言語に多いとされているが、英語でもごく僅かに「I'm (having) coffee.」のような文が存在している。


造語能力

ある形態素同士を組み合わせて他の単語を作ることができること。
例えば「女」+「好き」で「女好きのする」という単語が作れるが*8、「ツバメ」「スズメ」などで「群れ」の意味になっていると思われる「メ」から新たに単語を作ることはできない。


類推

誤用などによって現れたある単語の派生形への変形過程が他の単語にも適用されること。
「旨み」などからの類推で「良さみ」などの言葉が生まれている。


普遍文法

全ての人間が生まれながらにして同じような言語の構造を持っているとする考えのこと。例えば下の歯で上の唇を噛んで発音する言語は存在しない。


普遍性、部分的普遍性

普遍性とは、全ての言語に共通する特性のこと。
部分的普遍性は、ある特徴を持つ言語に共通する特性のこと。
部分という単語は本来普遍と相容れないが、習慣的に用いられている。
例えば基本語順がOVS語順(目的語-動詞-主語)の言語では形容詞は必ず名詞に前置されるが、これは部分的普遍性である。
また、この他にも「例外がないもの」と「傾向にすぎないもの」の区別もある。


音挿入、脱落

音が意味を変えずに挿入されたり脱落したりすること。
例えば英単語「station」はスペイン語に借用されたが、スペイン語では語頭にsとtが連続して立たないため、母音が添加されて「estation」となった。
語頭ならそれぞれprothesis、apheresisと呼び、
語中ならそれぞれepenthesis、syncope、
語末ならparagoge、apocopeと呼ぶ。


音交替

ある音素が他の音素と入れ替わること。
例えばイギリス英語ではbetter /bét̩ər/「良い」の発音は[bɛ́tə]だが、アメリカ英語では[bɛ́ɾə]である。
子音がrに似た音になることはロータシズム(rhotacism)と呼び、古代ラテン語の前部歯茎摩擦音[s]は歯茎ふるえ音[r]に、中国語の有声反り舌摩擦音[ʐ]は反り舌接近音[ɹ]に、それぞれ交代している。
また、日本語のように子音がhに近づくことをデバッカリゼーション(debuccalisation)と呼ぶ。
母音交替のことをアブラウト(ablaut)と呼ぶ。
なお、単に音の順序が入れ替わる場合(例:【日本語】あらたし/aratasi/→あたらし/atarasi/)はメタセシス(metathesis)と呼ぶ。


音対応がある条件下で行われる場合(仮に、母音Vが、子音Cの前でV'に変わる場合)、以下のように表記される。


V→V'/_C または
V>V'/_C


→はその時に起こる変化について用いられ、>は時代を経ての変化について用いられる。
例えばサ行の子音について言えば、イ段では「スィ」ではなく「シ」と言うのが普通なので、


s→ʃ/_i


である。ところで、日本語のハ行は昔はパ行だったので、


p>h


である。なお、このような表記で使われる記号は以下の通り。


/ 右側はその変化の起こる環境である。
_ 変化の起こる位置
$ 音節の終わり
#単語の境界


  • 同化

ある音と隣接していたり、近かったりする音が、同じような音になること。
ある音の次の音による同化である場合、それを逆行同化と呼ぶ。
前の音による場合は順行同化と呼ぶ。
日本語の場合、活用で変化する母音は順行同化してできたものが多い。
また、促音便は子音が逆行同化している。
母音は後述のi-ウムラウトのように、子音を跨ぐケースがある。


  • 一次分裂と二次分裂

一次分裂は、音素が交替した際に、その言語に既にある音素になること。
二次分裂は、その言語にない音素になること。
例えばwの音はルワンダ語や古代アルメニア語で同じ有声軟口蓋音であるgに交替するが、その言語に元からgの音があるなら一次分裂である。


  • l-w交替

有声歯茎側面接近音lの音が、有声両唇軟口蓋接近音wに交代すること。
ヨーロッパ圏の言語に見られた。


  • 唇音劣化

印欧語の唇音がb>p>fとなったり、日本語の「は」の音がp>ɸ(ファ行子音)>h>β̞(ワ行子音)>∅(なし)になったりして、弱まること。


  • 喉音理論
印欧祖語にhに近い音が3種類あったという理論のこと。これにより印欧語のhはh₁やh₂のように番号が振られている。

  • i-ウムラウト

前舌母音iや同様の調音方法を持つ子音jによって直前の母音が前舌化すること。北欧の諸言語で起こった。


  • 軟子音、硬子音

基本的には、口蓋化した子音とそうでない子音のこと。
ただし、言いやすいよう子音が交代していることがある。
口蓋化とは、例えば「カ」を「キャ」と言うように、間にヤを挟むように発音すること。
もともと硬子音だったものが軟子音になったものは、軟化子音と呼ばれる。
主にチェコ語やポーランド語で用いられる。


  • 母音調和、子音調和

母音や子音がその単語の他の母音に引かれること。
例えば、「キ」はkの子音が口蓋化している。


  • リエゾン

リエゾンは、語末の子音が添加されたり、交替したりすること。
例えばイギリス英語では語末のrは発音されないが、次に母音で始まる単語が続くと発音される。リンキング。


  • アンシェヌマン

アンシェヌマンは、単語が切れ目なく発音されること。
例えば「dog is」は「ドグイズ」と言わず「ドギズ」のように繋げて発音される。


異分析

ある単語の語源が間違われ、それに応じて他の単語と意味が結びつけられ、形が変わること。民間語源には異分析によるものが多い。
例:軽気球→気球 元々は「軽気」+「球」であるが、「軽」+「気球」と異分析され、現在は気球としか呼ばれなくなった。


治療

脱落の進みすぎた形態素のうち、やがて他の形態と被り、しかもそれらが似たような状況で使用される(共起する)ことがある。
このような場合に耐えられない何かが発生して二つを対立させようとする。
これを治療と呼ぶ。
例えば「食べられる」の「-(r)areru」や「飛べる」の「-eru」は可能、尊敬、受け身を表す接尾辞だが、可能を表すものだけは語幹が子音で終わる場合に限り「-eru」となる他、会話では母音で終わる場合にも「-(r)eru」と変化する。


相補形

ある単語の屈折に全く異なる語源をもつ形が現れること。
例えば英単語goの過去形はwentであるが、この二つは語源が異なる。
使用頻度の高い単語ほど形が異なるものになりやすい。


成句

複数の語が結びついて、一定の意味を表すもの。イディオム。
例えば、「腹が立つ」など。
「*腹がすぐに立つ」のように、間に副詞を挟めない場合も多い。


経済性と弁別性

経済性は、発音がしやすい、覚えやすいなどの、話者にとっての負担が少なくする原則。
弁別性は、聞き手が聞き取りやすくする原則。
例えば「ない/nai/」は、母音/a/と/i/の舌の位置が異なるため、位置が変更されて「ねー」/nee/になる。
しかし、/n/は伸ばすことのできる子音(流音)であり、多くの言語で意味の違いが大きく出てくる否定や疑問に用いられている。これが交替してしまうと否定であることが聞き取れなくなるため、/n/は交替しない。


音象徴

ある音が意味と結びついていること。
例えば尖った図形と円みのある図形を見せて、どちらか一方の名がブーバで、他方の名がキキであるといい、どちらがどの名だと思うかを聞いた際、98%ほどの大多数の人は母語に関わらず「曲線図形がブーバで、ギザギザ図形がキキだ」と答える(ブーバ・キキ効果、Wikipediaより一部引用)。
この他、通言語的に、大きいものを表す単語は広母音の割合が多く、鼻に関する単語は鼻音の割合が多い。
また、架空のポケモンに名前をつけさせる実験では、ポケモンを知らない人もそのポケモンが進化形になり強そうに見えてくるほど広母音や有声音の割合を多くして名付ける傾向も出ている。


定性

それが既に述べられたものであるかを表す。
「その」と訳される。例えば英語で定性を表す標識はtheである。
所有の形態素がついている、固有名詞であるなどして既に定であることが明らかな場合、省略されてしまうことが多い。


敬意

親しい(親称)かそうでない(敬称)かの標識。
他の標識を流用されていることが多い。
例えばドイツ語やハンガリー語では敬称は三人称の標識で表され、日本語では受動や可能と同形である。(ex.「食べられる」=「召し上がる」or「可食物である」)


有生性、人間性

それぞれ、生きているものや動いているもの、人間に近いものへの近さを表す。
言語によっては定性と混同されている。
一般名詞に形態的に表示されることは少なく、日本語の無生物主語に対する抵抗のように、意味的・統語的に現れる。
活格言語では、有生性の低い単語とそうでない単語によって能格型か対格型かを使い分ける動詞がある。


名詞性(ジェンダー)と類別

名詞性は、名詞に割り振られた性別のこと。
例えばラテン語のincola「柱」は男性名詞であり、形容詞は名詞の性別に合わせて屈折する。これらの性別は実際の性別に則っている場合もあれば、完全にランダムである言語もある。
また、中性や、紐状に長いものを表す野菜性など、男女の違いに関係しないものもある。そのような場合はクラスと呼ばれる。
性別は形容詞の屈折などの形態・統語的な役割を多く持つが、これに対してそうした役割を殆ど持たないのが類別である。
類別は、日本語では「本」「枚」「台」といった助数詞(類別詞)に表示される。


直示情報・視点

動作がどこへ向かって行われているかということ。
例えば日本語の「やってくる」の「くる」は動作が視点へ向かって行われていることを表す助動詞である。


明証性

動作が自分で見たのか、人に聞いたのか、など、何を根拠にそう言えるのかということ。


文字関係

表音文字

音を表す文字のこと。
子音と母音を別々に表記するアルファベット、子音に記号をつけて母音を表すアブギダ、子音のみを書くアブジャド、そして音節一つに対応する音節文字がある。
アルファベットにはラテンアルファベットやギリシャ文字、キリル文字、ルーン文字などが該当し、アブギダにはハングルやタイ文字が、アブジャドにはアラビア文字やヘブライ文字が、音節文字には日本語がある。
アラビア文字のように他の言語に使われる際にアブギダになったり、インドの一部の言語のように同じ言語でも土地ごとにアラビア文字とデーヴァナーガリー文字を使い分けていたりすることもある。
母音数の少ない言語ほどアブジャドになりやすい。


表意文字

ある文字でひとつの意味を表すもの。
漢字やヒエログリフなどが該当する。
全ての単語に文字が対応していなかったりする場合もある。


会意

ある文字と別の文字を合わせて一つにすること。
例えば水を表す氵に「目」で「泪」(なみだ)という字になる。


その他

  • ウラル・アルタイ語族

中国語や日本語は系統が異なるにもかかわらず同系統として扱われてきたためこのような単語で呼ばれることがあるが、こうした単語が使われている本はあまりあてにならないものと考えた方がいいだろう。


  • ニューエク

ニューエクスプレスの略。
マイナーな言語を解説している参考書のシリーズの定番として挙げられている。
他には四週間シリーズなどが有名。
逆にトンデモ本認定されているのは戸部実之の『~語入門』シリーズ。




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  • 間違ってるところあったら修正お願いします。 -- 名無しさん (2020-03-16 01:24:38)
  • ハングルはアブギダではない。 -- 名無しさん (2020-03-16 02:12:06)
  • ウラル・アルタイ語族の枠内で中国語と日本語を同系統として扱うものがあるなら少しトンデモすぎて例にあげるには特殊すぎるのでは -- 名無しさん (2020-03-16 02:47:09)
  • イスカンダルと言う語は異分析であっても異なる語源は発生してないのでこの記事作成時点で民間語源から削除されてます -- 名無しさん (2020-03-16 08:52:43)
  • 卑語の項、卑罵語かな? -- 名無しさん (2020-03-16 17:02:45)
  • 表音文字に対立させるなら表語文字のほうがふさわしい気がするし,ヒエログリフが表意文字というのは乱暴ではないか? -- 名無しさん (2020-03-17 19:00:28)

#comment

*1 実際には接尾辞「-まで」を副助詞と見做すか格助詞と見做すかなどに違いが見られる。
*2 イタリア語で、フランク王国の言語の意。
*3 中国人が英語のbusinessを発音したことによる
*4 talk+pisinを語源とする、ニュージーランドの言語。英語の語彙と現地の語彙が混ざっている。
*5 例えば「哲学」は英単語「philosophy」の訳語である。
*6 ただし、reactのようにre-とactで形態素が分かれている部分では音節の区切りがあったり、イギリス英語のbuttonのようにnが母音の代わりになることもある。
*7 孤立した言語とは異なる。
*8 造語は、この場合は他動詞の主語+他動詞のような構造だが、基本的には他動詞の目的語+他動詞で作られることが多い。

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