登録日:2016/08/22 Mon 21:26:28
更新日:2024/01/26 Fri 10:42:03NEW!
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飛行機 航空機 爆撃機 英国面 フォークランド紛争 bae 変態兵器 戦略爆撃機 ハンドレページ ヴィクター 空中給油機
ハンドレページ ヴィクターとは、英国ハンドレページ社(現BAe)が開発した戦略爆撃機である。
現在は全機退役済み。
概要
戦後に開発製造されたイギリスのジェット戦略爆撃機3兄弟、「3Vボマー」のトリを務める大型爆撃機。
おい誰だ3バカボマーとか呼んだ奴は、そんな奴にはグランドスラムを直撃させるぞ
元々核爆撃機として開発された機体だが、核攻撃任務が不要となった後は空中給油機に改造された。
開発
ヴィクターの開発のきっかけは東西冷戦。
RAFの「ランカスターなんぞいつまでも使ってるわけには行かないんだよ、そろそろ新型爆撃機とか欲しいんだが おう、あうしろよ」という要求、「作戦要求230号/OR.230」に応えるべく開発された、
「ハンドレページ HP80」という機体が原型となっている。
ちなみにこの要求にはハンドレページの他にはショートブラザーズ、ブリストルも参戦していた。
作戦要求230号の要件は、「高度50000フィート(約15000m)を巡航可能、航続距離は2000マイル(約3700km)で、爆弾を10000ポンド(約4.5t)搭載可能な機体」というものである。
この内最後の「爆弾1万ポンド」と言うのは…要するに「核爆弾搭載前提でお願いね」ということを暗に意味していた。
また防御に関しては「機銃なんぞ要らねえ!高速で敵機なんざ振り切れ!」となっていた。
この無茶苦茶な要求に応えるべく、試作機であるHP80は「三日月翼」という特殊な平面形の主翼を採用した。
名前の通り、外側に行くに従って後退角が緩くなっており、三日月形の平面形状をしている翼平面形である。
HP80の飛行性能そのものは良好だったが、後に事故で失われている。
まあ、ともかHP80の性能にRAFも大満足というわけで「ハンドレページ ヴィクター」として制式採用に至った。
機体
高翼式、T字尾翼の爆撃機。
主翼はHP80に引き続き三日月翼を採用している。
エンジンは初期型はブリストルシドレー サファイア ターボジェットエンジンを、
後期型はロールス・ロイス オリンパス ターボジェットエンジン、
或いはロールス・ロイス コンウェイ ターボファンエンジンを搭載。
オリンパスってのは早い話がコンコルドに採用されたエンジン。
コンウェイってのはターボファンの中でも黎明期のエンジン。ヴィクターの他にはVC-10旅客機なんかにも使われている。
エンジンは片側2発ずつの計4発。主翼の根本に配置されているのがいかにもイギリスチックである。
このエンジン配置と、生物的な形状のエアインテークも相まってその姿は機動戦士ガンダムのガウや、或いはR-TYPEのバイドみたいに見える。
賛否両論分かれるであろう形状だが、編集者は「カッコイイ」と思う。
機首にはレーダー及び前輪を格納。
コクピット上部には空中給油用のプローブが搭載されている。
乗員数は5名。ちなみにパイロット以外は後ろ向きに着座する。
脱出装置に関しては、パイロットは通常の射出座席であるが残りの(後ろ向きに座っている)4名は、
二酸化炭素のカプセルを爆発させてその勢いでオメガ11イジェークト!…となる計画であった。
あった?どういうこと?
…実戦での成功例が0なんだよ、言わせんな恥ずかしい。
爆弾に関しては、暗に要求のあった核爆弾はもちろんのこと、
第二次世界大戦で使われた英国面丸出しの特大爆弾「グランドスラム」(10t爆弾)、「トールボーイ」(5t爆弾)も搭載可能。
ちなみにグランドスラムは1発、トールボーイは2発積める。
この他にも米軍の巡航ミサイルなんかも積める。
機銃は「高速で敵機を振り切る」という思想に基いており、非搭載。
3Vボマーの中では最後発の機体だけあり性能も高く、
緩降下中に音速突破まで果たしている。
実戦配備
暗に要求にあったとおりヴィクター(というか3Vボマー)は元々核攻撃用に開発された機体である。
だがここで気づいた人もいるかも知れない。
ブルーピーコックの項目にも書いてあるが、
現状実戦で核兵器が使われた記録は広島・長崎への核投下のみである。
そう、本機は「核爆撃機」としては実戦未経験なのだ。
名ばかりの核爆撃機というのは名誉なことなのか、それとも不名誉なことなのかは読者の皆様の判断に任せる。
その後
上述の通り核爆撃機、というよりそもそも「爆撃機」としては実戦を経験しなかったヴィクター。
だがその高速性と搭載量は色々魅力的であり、「それを すてるなんて とんでもない!」というわけで、
空中給油機に改造されることとなった。
そりゃまあ亜音速で巡航できて、爆弾=ペイロード約10t積めるなんて高性能過ぎますしね。
で、時代は流れてフォークランド紛争。
イギリス軍は「アルゼンチン軍の基地にちょっくら爆弾落としてくるか」というわけで、「ブラックバック作戦」なる作戦を立案。
うん、これだけじゃよくある爆撃作戦に見えるよね。これだけじゃ。
じゃ、もう少し詳しく書こうか。
当時フォークランド諸島にあるアルゼンチン軍が使用可能な軍用飛行場の中で、ジェット機が発着できるのは「ポート・スタンレー」の基地のみである。
要するにここを叩けば輸送機は発着できないしジェット戦闘機も出せないので大幅に戦力をそぐことができる。
ここまでならまだわかる。
じゃ、そのポート・スタンレー基地ってどこよ。
…さっきも書いたとおりフォークランド諸島だよ、言わせんな(ry。
で、このポート・スタンレー基地、というかフォークランド諸島なんだが、イギリスから見りゃあ本国から遠くはなれているなんてレベルじゃねえ。
赤道の反対側である。
流石にここまで離れていると本国の基地から発進して爆撃…なんてアホなことは出来ないので、
比較的近場のアセンション島の基地から出撃することとなった。
でもこのアセンション島からも、フォークランド諸島からはかるーく6000km離れている。
ボーイング737なら最新モデルでも片道で燃料尽きる距離だし、
777でもモデルによっちゃあ1往復が精一杯、そんな距離だ。
そして実際の爆撃任務に投入される「アブロ・バルカン」は、
「低空で相手の陣地に侵入し、機動性で敵の攻撃をかわして目標に核落としてほなさいなら」という前提の機体である。
低空から(比較的)近場を攻めるのが目的という、ヴィクターとは対照的なコンセプトの機体である。
つまりヴィクターとは逆に「最大搭載重量は9.5tで低空での運動性はいいけど航続距離は約4100kmと残念」という性質である。
ただでさえ距離があるのに爆撃に行くのは短距離用の機体のバルカン。
さて、どうする?
ま、そういうことで「航続距離足りないなら空中給油して延長すればいいじゃないか」というわけで、
「途中で空中給油を繰り返して航続距離を延伸する」というプランで行くことになった。
もちろん空中給油機には我らがヴィクターが抜擢された。
でもそのヴィクターにも航続距離がある、つか6000kmなんて軍用機じゃなくて旅客機でやれというレベル。
じゃあどうすんだ?
???「…空中給油機に空中給油をしちゃいけないなんてルールは無いよな?」
ま、そういうことである。
空中給油機に改造したヴィクター同士で空中給油を繰り返してバルカンに給油するという無茶と英国面がギッチリ詰まった作戦なのだ。
どんだけ無茶やってんのかは各自ググるなりして調べてくれ。
編集者のような素人すら「こんな非効率極まりない作戦なんてフツー採用しないよな…」となる、
そんなぶっ飛んだ作戦とだけは言っておく。
一応フォローしておけば、アルゼンチン軍からすれば「まさか本当に大西洋わたって爆弾落としに来るとは思わなかった」、
「今度はフォークランドどころか本国にまで爆弾落としに来るかも」と思わせて、貴重なミラージュを本国防衛に割かせて、
戦力を削ぐには役立っているのだが。
ちなみにヴィクターやバルカンと同じ年に初飛行し、100年選手が内定しているアメリカが誇るB-52の航続距離は空荷状態で約16,000km・最大搭載重量は30t以上である。
空中給油機同士で空中給油をしてまで敵国に爆弾を落としに行った暇j…もとい勇者はぜひとも追記修正をお願いします。
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▷ コメント欄
- 信じられない話だが、3Vボマーの中で地味なのがヴィッカースヴァリアント。こいつはフォークランド紛争前に退役してしまった。何故だろう・・・・。 -- 名無しさん (2016-09-03 23:38:38)
- 当時から現役のB52Hは最大搭載での戦闘行動半径(往復可能距離)が7000km程度というオチを書いておこう -- 名無しさん (2018-10-25 00:07:48)
- ⬆今更だがね。イギリスはB52持ってなかったし、仮に出せても迎撃されて落ちてただろうね。低空高速侵入ができるバルカンだから出来たことで、それ故にあの非効率とも思える給油をしたのだよ。 -- 名無しさん (2020-05-31 00:00:45)
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