オイディプス

ページ名:オイディプス

登録日:2011/05/15(日) 07:06:04
更新日:2023/11/21 Tue 11:03:11NEW!
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ギリシャ神話 悲劇 コンプレックス 近親相姦 神話の英雄 国王 捨て子 王様 名君 禁忌を犯した者 なんてこったい! アーオォォ テバイヤバイ ま、いっか オイディプス 足が腫れている者



オイディプスとは、ギリシャ神話の登場人物。
彼を題材にした作品は多くあるが、わけても紀元前五世紀ごろに悲劇詩人ソフォクレスによって書かれた戯曲”オイディプス王”が悲劇の最高傑作として最も挙げられる事が多い。
厳密に言えば母恋しさの余り父殺しを行った訳ではないが、フロイトが提唱した「男児は母親の愛情を独占する為に父親を憎悪する」という心理学用語エディプスコンプレックスの語源になったとされている。




むかーしむかし、ギリシャのある所にテバイという国がありました。
この国は開祖カドモス王*1アレスの飼い竜を殺して立てた国のためアレスに呪われ、
カドモスがアレスとアプロディテの娘ハルモニアを娶ってもなお消えぬ呪詛ゆえか、、王族たちが次々と神の逆鱗に触れ滅んでいきました。
例を挙げるとディオニュソスを孕んだせいでヘラに嵌められ死んだセメレや、アルテミスの裸を見た所為で鹿化して飼い犬に喰われたアクタイオン等です。
その呪いはカドモス夫婦が不幸に疲れ、つがいの蛇と化してこの世を去っても続きました。


事の発端は、そこの王子*2ライオスがピサの国へ亡命していた時に遡ります。
どうして亡命していたのかはわかりませんが、一説によれば親戚同士による骨肉の争いから逃れるためだと言われています。


ピサの国を治めるペロプス王はライオスを手厚くもてなし歓迎したのですが、事もあろうにライオスは恩を仇で返しました。
ペロプス王には3人の子供がおり、中でも三男坊のクリュシッポスはそれはそれは美しい10代の男の子。
勘の良い人ならおわかりですね。そう、ライオスは嫌がるクリュシッポスを無理矢理アッーな目に遭わしたのです。
ギリシャ神話ではよくある事ですが、ショックを受けたクリュシッポスは翌日自殺してしまいました。ああ、可哀想なクリュシッポス!


ただ、この死に関しては義母ヒッポダメイアの暗殺という説やライオスが殺害したという説など、色々と諸説入り乱れておりますが割合しましょう。
いずれにしろライオスがクュリシッポスを辱めた事実に変わりなく、こりゃマズいと真っ青になったライオスはスタコラサッサとピサを脱出してテバイへ逃げ帰りました。
親として当然ですが息子を辱められたペロプス王の怒りは収まりません。


「おのれおのれ、憎きライオス! 許さん…絶対に許さん! 我魂魄百万回生まれ変わっても、怨み晴らすからなぁぁぁぁ!!」


ペロプス王の養父であるポセイドン*3も養子に同情し、ライオスに神罰を下すようゼウスに要請しました。


テミス「善悪分析神器<正義の天秤>が悪側に傾いていますね」
ディケー「神罰執行神器<正義の剣>照準!!目標、ライオス!!」



さて、テバイに戻ったライオスですが、何食わぬ顔で王位を継承し美少女イオカステをお妃様に迎えました。
ほどなくして予言者テイレシアスから子供を作れば災いが起こると注意されたにも関わらず、そんなの関係ねぇとイオカステ相手に毎晩ハッスルしまくりです。
やがてイオカステは妊娠しましたが、不安がる彼女にせがまれて渋々アポロンの神託を受けました。


「ヘイ、ライオス。犯した罪の報いとして、ユーは自分の息子に殺られちゃうでSHOW。オーマイガッ」


神様に言われて急に怖じ気づいたライオスは、産まれたのが男の子だと知ると殺せと命じます。
更に、必死に赤ん坊の命乞いをするイオカステを暴力で抑え込みます。
しかし、みんなライオスと違ってまともな神経をしていて誰もやりたがらず、ライオスは直々に赤ん坊のくるぶしを釘で貫き、家来に置き去りにして捨ててくるよう言いつけました。
山へやってきた家来でしたが、やっぱり赤ん坊を気の毒に思い、山の中で出会った羊飼いへ赤ん坊を託します。
羊飼いはその赤ん坊をコリントス王へ献上し、子供のできなかったコリントス王夫妻は赤ん坊をオイディプスと名付け、自分たちの跡取り息子として大切に可愛がりました。日本昔話のようで心温まりますね。
因みに、オイディプスとは『足が腫れている者』という意味だそうです。



一方、元凶であるライオスは性欲を持て余していました。
かといって下手にニャンニャンしてしまうと、また子供ができてしまうかもしれません。それは困ります。
悩みに悩んだ末、ライオスにあるグッドアイデアが浮かびました。


「そうだ! 男相手なら子供はできない!!」


反省という物を知らないライオスは国中の少年に手を出すようになりました。つくづく見下げ果てた男です。
これに誰よりも怒ったのが結婚を司る女神ヘラでした。


ヘラ「赤ちゃんの命乞いをする幼妻にDVするわ、少年を力づくで己の欲望の餌食にするわ・・・我が子孫ながら恥ずかしい!!」*4


予言者テイレシアスはヘラの怒りを静める為にお供え物をするようライオスに頼みますが、ライオスは知らんぷりを決め込みます。
怒っていたとは言え、テイレシアスを通じて警告していたので、ヘラはこの段階では子孫であるライオスを完全には見捨てていなかったと解釈出来ます。
此処でヘラの前で己の罪とピサ王家、妻、息子への仕打ちを悔いて誠心誠意贖罪の御祈りをすればロックオンされた<正義の剣>から助かる可能性も僅かに有ったかもしれませんが、ライオスは己の前に差し出された最後の救いの手を踏みにじってしまったのです。*5

「俺を殺すはずの息子はもうこの世に居ないから殺される事なんて無いんだよ!」

堪忍袋の緒が切れたヘラは、かの有名な謎かけをする怪物スフィンクスをテバイに解き放ちます。



「朝は4本足、昼は2本足、夜になると3本足になるものとは何か」




スフィンクスはテバイ近郊のピキオン山に居を構え、周辺の住民が通りかかるとこの問いを浴びせ、答えられなかったり、間違ったりしたものを容赦なく食した。
如何に神々の女王とは言え、正規の手順で決定した神罰を覆す事は出来ず、直接ライオスを殺す真似は出来ません。
王の不始末の巻き添えを喰う国民は堪ったもんじゃありません。
ここまでくるとさすがにライオスも焦り、どうすればいいか再びアポロンの神託を受けようと旅立ちます。いつの世も最後は神頼みなのでしょう。



その頃、コリントスではすくすくと元気に育ったオイディプスが次期王位継承者に相応しい青年として皆から慕われていましたが、ふとしたキッカケでアポロンの神託を受けに行きます。


「ヘイ、オイディプス。ユーは実の父を殺っちゃうでSHOW。ついでに実の母をヤッちゃうでSHOW。オーマイガッ」


国民にも養子という事が伏せられていたので、真相を知らないオイディプスは両親を不幸にしない為にそのまま二度と戻らぬ旅に出ます。
テバイに向かう山道に差し掛かった際、大急ぎで神殿へ向かうライオスと出くわしてしまいました。
運命の再会ですが、オイディプスにとっては横柄なオッサンでしかありませんし、ライオスにとっては生意気な若造でしかありません。
道を譲る譲らないで揉めに揉めた末、ライオスがオイディプスの愛馬を殺したせいで乱闘に発展しオイディプスは誤ってライオスを谷底へ突き落としてしまいます。遂に好色王ライオスの最期です。
ライオスは自分を殺すのは死んだ筈の息子だけなので、自分は誰にも殺されず死なないと信じながら転落死しました。
オイディプスも自分が殺すのは父親だけなので、今の人はきっと生きてるだろうと脳天気に旅を続けました。
結局、二人とも実は互いに親子だったという事に気づきもしませんでしたが、妙な所で血のつながりをアピールしています。
普通なら総力を挙げて王殺しの犯人捜しが行われる所ですが、スフィンクス騒動のおかげでそれどころではありませんでした。この時代にCSIがなかった事が悔やまれます。


さて、生まれ故郷とも知らずテバイに辿り着いたオイディプスは人々を苦しめるスフィンクスに立ち向かいます。


スフィンクスの問いかけに対し、オイディプスは「それは人間だ。最初は朝赤ん坊ではいはいをするから4本足、成長すると2本の足で歩き、老年になると杖をついて歩くので3本足である。」と答えた。
それを聞いたスフィンクスは、いつも鎮座していた台座から飛び降りて海に飛び込み、死んでしまった*6
「なぜ海に身を投げてしまったのか」ということに関しては諸説ありますが、「難しい設問をおこない、解ける人間はあらわれないだろうと思っていたところに正解を答えられてしまい、ショックのあまり自殺してしまった」という説が有力な説として伝えられています。
こうしてスフィンクスを退治したオイディプスには、もれなく景品として国王の座とイオカステがついてきました。
近親相姦一丁上がりです。ギリシャ神話ではよくある事。エロゲーでもよくある事。
やがてオイディプスは男女2人づつの計4人の子供に恵まれ、王としても公明正大で民からも信頼され、順風満帆の人生を送ります。親父とはえらい違いですね。



ところがぎっちょん!そこでめでたしめでたしとならないのがギリシャ神話でした。
突然、疫病や飢饉が流行しテバイはかつてない凄くヤバイ大ピンチに見舞われてしまいます。
困ったオイディプスは「コールドケースになっていた前王ライオスの殺害犯を処罰すれば国が救えるでSHOW」とアポロンからの神託を受け、国民に宣言しました。


「犯人に告ぐ! 直ちに名乗り出よ! 自首すれば国外追放で済ませるが、後からわかれば目潰しだ!!
……誰もいない! 怒るぞ!? 本気と書いてマジで怒るぞ!? いいのか!?」


誰も名乗り出る者がおらず、全てを見通す予言者テイレシアスも「言いたくない」と黙秘権を行使するので頭を抱えていた時、コリントス王が亡くなったという知らせを伝えに来た従者(元羊飼い)によってオイディプスがコリントス王夫妻の養子だった事が明かされます。
そして、ほぼ同時にライオス殺人事件の当時の目撃者が宮殿に連れて来られ驚くべき証言をしました。
おお、何という事でしょう! 前王ライオスを殺したのは現在の王オイディプスだったのです!!


なんでそんな大事な事を今まで黙ってたのかというと、殺人犯だと思った人間がいきなり新しい王に即位したので口封じが怖かったんだそうです。まあ無理もありません。
次から次へと新事実が発覚し、とうとうオイディプスがかつて捨てられたライオスの息子で、イオカステとは母子だったという出生の秘密が暴かれます。
実の息子と関係を持ったショックのあまりイオカステは自殺し、絶望したオイディプスは自分の宣言を有言実行して自ら両目を潰してしまいました。



息子2人は母を汚したオイディプスを「変態!! 変態!! 変態!! 変態!!」と軽蔑しましたが、逆に娘二人は父を心配する優しい子でした。
罪人として王位を剥奪され国を追放されるオイディプスにも2人は付いていき、親子3人でテバイを後にします。
オイディプスのその後は色々な伝承が伝えられていますが、二度とテバイに戻らなかったのは確実だそうです。


いずれオイディプスの子供達にも血みどろの悲劇が訪れますが、それはまた別のお話……………




おしまい





父親を殺し、母親とした人、追記修正お願いします


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  • 文章の合間にツッコミを入れる感じならともかく、こういう茶化す感じの文章はイタイなぁ。 -- 名無しさん (2013-09-30 10:02:34)
  • テーバイの一族がこんな悲惨な運命を辿ったのって、ご先祖様のカドモスがアレスに蛇殺したことで逆恨みされたのが原因なんだよな -- 名無しさん (2013-11-04 20:10:36)
  • というか息子二人、母子姦した親父を軽蔑してたがその母子姦で生まれたのはどこのどいつらだよ…… -- 名無しさん (2014-07-13 18:00:35)
  • 矢吹駆シリーズのオイディプス症候群はもう文庫版でたっけ?(無関係) -- 名無しさん (2014-07-13 18:10:52)
  • 予言は外そうとすると却って当たるっていうアレだw神話系の入門は阿刀田高さんの本からだったというのが大きいかもしれないが、こういう、古典をライトに読ませてくれるノリって俺は大好き。 -- 名無しさん (2014-11-01 18:09:10)
  • 一説にはスフィンクスの問い掛けの答えは人間、であると同時にオイディプスのことを指している。青年の頃は立派な人間だったが、獣のように四つん這いで近親相姦し、最後は盲目で杖を突くようになる様を予言したとも -- 名無しさん (2017-02-15 22:32:07)
  • 確か、夜明け前より瑠璃色な、の本編で語られた、地球と月の間の全面戦争も、オイディプス戦争って名前だったよね。それの語源もこれかな? -- 名無しさん (2018-11-14 10:14:26)
  • エディプス・コンプレックスの語源でもある(男の子が父親に反発して母親を慕う心理のこと) -- 名無しさん (2018-11-14 10:57:35)
  • この人もそのうちfateでサーヴァント化するかな? -- 名無しさん (2019-03-26 05:57:42)
  • その気もないのにいつのまにか父親殺して母親とヤッてしまっていただけなのにマザコンの代名詞になってしまったオイディプスさんぶっちゃけ気の毒 -- 名無しさん (2019-07-22 11:00:11)
  • オイディプス王って紀元前に書かれた戯曲なんだな 貴族たちは中世になっても血族婚姻を続けてたところもあったのに、この頃に近親相姦=罪 てのが定着していたのは何か意外だ -- 名無しさん (2019-10-14 06:22:01)
  • あけるりの前史で語られた、地球と月との戦争もオイディプス戦争って言ってたんだよね。ただかっこいいからつけただけなのかな? -- 名無しさん (2020-11-22 09:33:59)
  • アサクリ -- 名無しさん (2022-01-11 15:51:41)
  • ↑失礼。アサクリオデッセイでこれが元ネタのクエストがあったなぁ。主人公男にしたせいで最後のどんでん返しは大爆笑してしまった。 -- 名無しさん (2022-01-11 15:53:35)
  • ライオスくそやろうやんけからの救いのないお話。アポロン様ぜったい面白がっとるやろ。 -- 名無しさん (2022-01-11 18:44:04)
  • 先祖の悪行への報いが子孫代々にまで及ぶ因果は手塚治虫の火の鳥なんかにもあったけど、やっぱり納得いかないなぁ・・・ -- 名無しさん (2022-02-28 09:54:33)
  • そういえばスフィンクスの誕生経緯も… -- 名無しさん (2022-09-21 18:46:58)
  • 魁!!男塾に登場するファラオが「オイディプスの煩悶」という拷問技を使うのだが、なぜエジプト人の戦士がギリシャ神話の人名を技名に組み込んだのだろう… -- 名無しさん (2022-12-27 22:32:26)
  • ↑ 作者も読者も神話に疎い時代だからの一言で済ますか、スフィンクス関連で組み込んだか・・・ -- 名無しさん (2022-12-29 09:09:28)

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*1 ゼウスに連れ去られミノス王らを産んだエウロパの兄
*2 カドモスの曾孫
*3 ペロプスが実父であるタンタロスにシチューに調理されてハデスとレアに蘇生して貰った際に後見役を買って出た
*4 テバイ王族はアレスの子孫なので、必然的にアレスの母であるヘラの子孫にあたる
*5 普通は神々でも決定した運命を変える事は出来ないが、「母の傲慢さの報いを受けて怪獣に食い殺される」運命のアンドロメダがペルセウスに怪獣が退治された事で寿命を全うした、そのペルセウスも「外祖父を殺す」運命だったが、正義の女神ディケーに愛される程に善良な人間だった為、「突然の突風による不可抗力の事故」に緩和され、祖父殺しの罪に問われずに済んだ、等の救済例も存在している。
*6 負けを認めずオイディプスに襲い掛かり退治されてしまった、という説もあり

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