夢との出会いは突然に

ページ名:ファーストコンタクトはケツで籠を潰す女

 

 

は常々楽をしたいと願っているし、そのためになら努力は怠らない。だのにだ、それは往々にして空回りし続けている。そう動きかけたときに決まって毎回骨を折る。運命かあるいは呪いか?ともかくそれが俺について回っているのだ。

そう……あれは高校だったか大学だったか。まあとにかく20年くらい昔、山の高所にクワガタの穴場を見つけたときのことだ。ペットショップも大型デパートもちと遠かったから、そりゃあもう実物のそれはガキどもの夢そのものだった。

俺はそこに需要を見出して、何匹かとっつかまえたそれをあいつらの小遣いくらいの金額で売り出した。商売は順調に軌道に乗ったが……その頃を狙い澄ましたように、ペットショップが開店しやがった。ノウハウだのなんだのに優れるあちらさんには質も値段も勝てやしねえ、ガキどももドンドコそっちに流れやがる。どうあがいてもプロに質じゃ勝てない。

あとは安さで戦うしかないわけで、こうなっては根こそぎ狩ってくるしかない。なんとか新たな狩場を見つけては、喜び勇んで進むとあらまびっくり。足場の木板が腐ってやがった。あれよあれよ、と言う間に崖下に真っ逆さまであのときゃ死ぬかと思った。こうして生きてはいるわけだが、あばらや足を何本か折る大怪我の憂き目を見るハメになったのだ。

例えにしては能書きが長すぎたか?しかしあれは今でも本当にトラウマでなぁ……。

まあ、昔話に浸るのもここまでにしておこう。とにかく、今からする話もこういう類の話というわけだ。


 

さて、俺の実家は空手道場だ。そこまで繁盛しているわけではないが、交流のない道場という訳でもなくてな。空手の試合だの指南だのなんだの一つ二つ向こうの町へよく遠征に向かうことがあった。遠征?散歩と変わんねえか。まあいい。

その道すがら、郊外に寂れた神社が一つあった。なんでも、江戸よりももっと昔からの由緒ある社さんらしいが、俺が物心ついたときからずっと閑古鳥が鳴いててな、ジジババがお参りに来るつーより、もっぱら子供の遊び場所だ。夕暮れ時、駆け回ってるガキどもがお兄さんも混ざろ混ざろと服の裾を引っ張って来るのが、俺にとっての真夏の風物詩だったんだよ。

けど、曲がりなりにも管理していた神主の爺さんは餅を喉に詰まらせてくたばっちまって。一人息子は東京で金融マンしてっから、ぶっちゃけそいつにとっては単なる廃屋も同然だった。だもんで、適当に売っぱらって取り壊して駐車場にでもすっぺってなことになってよぉ。……なんだかそれは少し寂しいというか、俺の思い出がまた一つ消えていくような気がしてな。そのころにはダイバーはやめちゃあいたが、訳アリ物件を買うくらいの懐の余裕は十分にあった。それに、特心対で進むうえの過程で奇書院で神道を学んでたから一応神主をやれないこともない。あの当時はクソの訳にも立たない講釈だとばかり思ってたが、人間万事塞翁が馬だなと思ったよ。

一人息子から神社を丸っと買い取って、織田神主の爆誕だ。あんまり面倒だったから、何も決めず適当に過ごしてたんだが……それでも、そういう事情があるのをみんな知ってたから、特に子供の親とかは場所代ってわけじゃあねぇけど、それなりに足を運んで金も落としてくれた。まあ維持費には全然足らねえし、近辺に娯楽施設はドンドコ増えるわ、みんな都会に出てって客足どころか遊びに来るガキまで殆ど居なくなっちまった。

参拝の賽銭生活だなんて夢は儚く砕け散ったわけだ。

……まあ、ガキどももみんな大人になってったてのもあるしな。そんなに長い時間、延命できたわけじゃあないが、その限られた時間の中でこの神社も役割を十分に終えたろう、ここが潮時だなと思った。

とりあえず、売っ払えそうなものはみんな売っちまえ。息子にゃあ価値がわからなくても、俺にはこういうのを金に変えれるだけのアテがある。奇書院の知り合いの知り合いの鑑定士にコネで査定してもらおうと、祠だの倉庫だのを片っ端から開けていくことにした。まず目についた書文の束を手に取って、後ろにおいた木籠に突っ込む。

 

したらまあ……。みしり、ぐしゃという音が聞こえる。なんだ、どうした?って振り返ってみると、そこにゃあ籠を押し潰したケツを痛そうに撫でてる乳臭いガキが居たんだよ。

 

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