証言記録2

ページ名:証言記録2

 

 

ガーディアン

 

出現日時: 20██年8月██日   ジャパリパークホートクエリアにて出現。

 

インタビュー対象: 野中みちる  探偵

インタビュー場所: オーストラリア シドニー

インタビュー日時207█年4月██日

 

 

春真っ盛りの日本とは対照的に、少し肌寒い秋であるシドニーは、今日も人で賑わっている。大都市であるシドニーのとあるカフェで待ち合わせているが、何時も人の話声や談笑が彼方此方から聞こえてくる。時折「ジャパリ」というフレーズが聞こえて来るたびに、心がとても懐かしい思いにさせられた。

 

 

あ、いたいた…ホントすいませんっ!お待たせしちゃいましたねっ

 

 

物思いに耽っていると、待ち合わせ相手の女性がこちらに近寄ってきた。相当急いで来たのか、言葉の節々に息が混じって居るのが良く分かる。黒く艶のある三つ編みに纏めた髪に、日除けの帽子を被り、暖かそうなコートの下にリブ生地の服を着た出で立ち。

丁度こちらと向かい合わせになるように座った女性は茶色いショルダーバッグを自身の隣の席に起き、ようやく一息着いたと言った様子だ。

見るからに一般の女性にしか思えないが、今回の話し相手…野中氏は、現役の探偵で、両親の仕事について来たというのだ。

 

 

えへへ、ごめんなさい!最近になって漸く親と一緒に仕事が出来るようになって嬉しかったんです。私、小さい頃から親みたいな仕事がしたいなーって、一緒に仕事するのが夢だったんです。それで探偵の漫画とか読んだり、親から仕事中にあったお話とか聞いたりして憧れがどんどん膨れていくばっかりだったので…今こうして夢を叶えられて、とっても嬉しいんです!

 

 

そう言って、野中氏は弾けるような溌剌とした笑顔を浮かべた。これから話をしてくれる"目撃談"を鑑みるに相応の恐ろしい体験をした事に違いは無いはずだ。それでも、その恐怖に囚われずにこうして今の幸せを噛み締めて生きている様だ。その前向きな姿に強い精神を見出し、尊敬の念を抱かずには居られなかった。事前に注文してあったコーヒーとフラペチーノが運ばれて来た所で、話の本題に移った。

 

 

あの時は、来園者の人がセルリアンっていう存在の所為で亡くなられてしまった事故で、パークが休園に陥ったじゃないですか。その時はもうメディアや色んな団体が批難浴びせてるのが見て分かる程の一大スキャンダルで…私の兄さんも、「腹に抱えたモンが一気に露呈しやがったな。」って、"刑事の仕事"としてパークに足を運ぶ回数が多くなりました。あの時の兄さんの悪い笑顔は今でも忘れられないなって。今でも定期的にイジったりしてます、ふふ。それで、どうして私がそんな、入場は出来ない。出来ても行動が制限されている様な所に居たのか、分かりますか?単純な話です、兄さんにしつこくワガママ言ったんです。「兄さんの仕事見てみたい」って…そんなことで兄さんが連れてってくれるのかって?…勿論、二つ返事じゃ無かったです。人を手にかけるような、危険なモノがパークに現れたんです。そりゃあ兄さんとしても絶対に連れて行く訳には行かなかったと思う、兄さんはとっても優しいから。でも私だって軽はずみな気持ちで、あのパークに行きたかったんじゃない。向こうで仲良くなったフレンズが一体どうなってるのか、そして、「セルリアン」って何なのか。それが知りたかったの。

 

では貴女は、自らの意思でセルリアンに接近したのですか?

 

うん。帰ってから凄い大目玉食らっちゃって…それでも、生きて帰れて本当にラッキーだったなって思ってます。下手したら、私も帰れなくなって、更に色んな人やパークに迷惑を掛けてしまってたかもしれないから…。

 

そこまでして、直にセルリアンの存在を確かめたかったのですね。

 

はい…結果的にセルリアンがホントに居るってのも分かったし、フレンズの皆の無事も一応……フレンズの皆が、あの、あの後どうなったかは、……。

…ごめんなさい。長々と前置きが続いちゃって。

 

あの時、兄さんが向かった先はタズミ海洋動物公園だったの、私もあの場所の様子は見ていたので、はっきりと覚えてます、…誰も居なかった。一応、職員の人やフレンズは居たけど、一般の来園者は影も形もなかった。あんなに盛り上がってたタズミが…あの時期なら丁度、STS(注1)もそらしおの浜で始まってた筈なのに、ただただ砂浜が、寂しく広がってるだけだった。

人がいないだけで、こうも虚しく見えるのかって。とても悲しい気持ちになったのを覚えてる。

兄さんは兄さんで聴き込む気満々だし、私以外に来園した人は誰もいない事に、気が遠くなるのを感じました。

でも立ち止まっていちゃいけない、この島に何が存在するのかを見つけないと。再び気持ちを固め、兄さんが職員さんに聞き込みを開始したタイミングで私はタズミの郊外へと向かいました。

当然警備員さんの監視も凄くて切り抜けるのに苦労しちゃって、探偵よりスパイに向いてるんじゃないかとか変な事も考えてるうちに、タズミの郊外…つまり、立入禁止区域にまで足を踏み入れたんです。

 

「ほんとに居るのかなあ…」

 

ふふ、何を隠そう、その時点では何処に行けば目的の物が見つかるのか検討もついて居なかったのです。でも、戻る気はありませんでした。

あのまま戻ったら戻ったで意味も無く怒られるのは確実ですし、何の為に監視を切り抜けたんだって。何の為に兄さんを利用してパークに渡ってきたんだ。なんて言い聞かせて居る暇があったら早く進めって話なんですけどね。とにかく、当てもなく森の中を進むと林の向こうから何かがカサカサと葉音を立てたではないですか。早速来たか?と思って恐る恐る覗いた先には…目的の物とは違う、それでも、私にとっては吉報とも言える者がいたの。

 

 

「あれっ…オマエ!なんでここに居るんだー!?」

 

飛び出して来たのは後ろ髪の毛先が海色に輝く灰色の髪の毛の子、頭のてっぺんには背ビレ、側頭部から腹ビレの生えた、一目でサメだって分かる風貌の子。ホホジロザメのアニマルガール。その子が驚いた様に目を見開いて、私の方へと近寄って来た。

パークが元気な時、何回か一緒にごはん食べ歩いてたからすぐ分かったな。とにかく、元気そうなホホちゃんの顔を見て凄く安心して、思わずぎゅーっ!ってしちゃったなぁ、ふふっ。

 

「久しぶりっ、会えなくて寂しかったよー!」

 

「えへへ、オレサマもだぞー!」

 

本当に嬉しくって当初の目的も忘れるくらいにしっかりと抱き合い、互いの存在を確かめようと抱きしめていました。暫くもみくちゃになった後にホホちゃんにセルリアンの事とかを聞きました。

なんでも、セルリアンって言うのはパークでも正体が分からない存在で、機械とか動物の形をしていたり、モノや生物から"輝き"を奪い、"形"をコピーするんだって。それこそトースター、芝刈り機にジャンピングスーモっていう身近なものから、宇宙船、歯車、重機関銃とか、なんでパークにあるの?って聞きたくなる様なものまで、本当に色々な形があったみたい。(注2

一体どうしてそんな物が居るのか、そもそも何処から湧いて出てくるのかといった事は分からないって言われた。

…使命感半分、半ば好奇心。そんな答えを聞いても、あの時の私にはセルリアンの情報だけでで満足するっていう頭は無かったんだ。

 

「オレサマも気をつけないとなー、オマエも早く安全なとこに居た方が良いぞー!」

 

そういって、ホホちゃんがタズミの方へ歩いていく後姿を私は見送っていました。

ごめんね、折角注意してくれたのに。でも私は、その目で確かめたい。そのセルリアンが本当にいるのなら、直に確認しないとって。だってそうでしょ?探偵が危険を避けて手に入る真実は少ないし、そもそもそんなのは探偵として情けない。時には荊の道を裸足で歩いてこそ見える真実もある筈。

…そう、私は、陳列された針で出来た道を歩いて、死に掛けたけど、今こうして生きてるのです。

 

(野中氏が袖をめくって見せた右腕には、何かが掠めた様な痕がくっきりと残っていた。)

 

これ、まだ取れてないんですよ。…あの時、あいつが私の腕を「斬り落とし」かけた何よりの証拠。それでも、私はずっこけて出来た痕って嘘付いてますけどねっ。喋ってもパーク非難のダシにされちゃうし。それでも、貴女はこの事をヒトに公表しないって言ってくれたから、それを信じて全てを明かすんです。嘘ついたらしょっぴいちゃうからね。

 

大丈夫、男に二言はありません。

 

へへ…ありがとうございますっ。

それで、この痕は、森を進んだ先の廃墟でついちゃったものなんです。あの廃墟には確かにそれがいたんです。

森の奥に、何かのアトラクションが放置されている、それも沢山。ちっちゃい遊園地みたいな感じで並べられてて、人がいてもおかしくなさそうな所。

 

「…誰か、居ますかー?」

 

なんて、そんな事を言いながら廃墟を探索して居ました。

実際のところ、居たのは人じゃなかった。もっと、もっと不気味で良く分からない物が、そこには居たんだ。

何が居たと思います?カマキリですよ。…足からお腹から何から何までぜーんぶ鎧に置き換わって居た様な、大きな大きなカマキリ。両腕のカマが「剣」に置き換わったそれが、鎧同士が擦れ合う音、がっしゃがっしゃとぶつかり合う様な足音を響かせて、搔き鳴らしながら、私の目の前にぬうっと現れたのです。

もう釘付けになりました。これも例のセルリアンなのかと、まるで中世の騎士みたいだって、兜の中から見える一つ目と暫く目を合わせて居ました。

その沈黙を破ったのはカマキリの方。出くわした私に対してカマキリは両腕を振り上げてその剣を力強く振り下ろしてきたのがゆっくりと、ほんの一瞬を、私の目はスローで捉えた。

 

「っ!」

 

それはもう凄く怖かった。ヤバい、こいつ私を殺す気だってすぐに分かったし、反応が遅れたせいでカマキリの一撃が腕を掠めて、服の袖が綺麗さっぱりに切り裂かれたのを見て背筋が凍ったんです。刺されても大丈夫なくらいそこそこ丈夫な上着が、紙みたいにあっさり切り裂かれるのは見たことがなかった。

もっと恐ろしかったのがそのまま剣の切っ先を見下ろした時なの。右側にあったアトラクションの柵が、文字通り真っ二つに両断されて居た。目を疑うとかそういう次元じゃない。もっと恐ろしい何かを、私はほぼ近距離で目の当たりにしました。

老朽化で耐久度が落ちている事を考えても、あの剣の切れ味は相当なものだと思います。

私はセルリアンの存在、そして脅威をはっきりと確かめた。それだけでもう目的は達成されてたから、死んだら元も子もないってさっさと逃げたんです。それで、今もこうして五体満足で居る事が出来てますね。

 

 

それは、また大変な無茶をされましたね。

 

自覚はしてますよー、あんな危険なことしたの私くらいしか居ないって断言できますもん。お陰で兄さんから無茶苦茶ブチ切れられたのなんのって。でも、一通り叱った後に泣きついてきた兄さんはちょっぴり可愛かったなって。「無事でよかった、本当に無事でよかった…みちる…!」って年下の妹に泣きながら縋り付いたんですよ?人前で。あの時はもうめっちゃ恥ずかしくて、それでも…それでも、凄く安心したのを覚えてます。

 

 

それからは、もうパークには赴いて居ないと。

 

はい。あの時に私が出来ることは、きっとアレが限界だったんだって思ったから、もう来てません。…ただ、私が見たあの鎧以外にも、もっとたくさんのヤバい存在が居たと思うんです。そういう奴らが居たから、軍隊があんな事をしても、結局勝てなかった。だから、私なんかじゃどうにも出来ないのは、イヤってほどに分かるんです。

 

でも、最後くらい…フレンズのみんなに、何かしたかった。せめて、フレンズのみんなと何もかもを忘れて…いっぱいいっぱい遊びたかった。あんな事がなかったら、あんな…。

 

 


追記1: 野中氏が目撃したセルリアンはカマキリ型のセルリアン、CEL-2-019/GM "ガーディアン"とみられる。ガーディアンという通称が示している通り、このセルリアンは廃墟をテリトリーとし、侵入者を排除する性質を持っている。この個体が完全に駆除されたという記録はない。未だにパークの中に存在している個体が、今や廃墟と化したパークの都市部を守護する様に徘徊していても何ら不思議ではない。

無機物を基にした第2世代型のセルリアンが生物であるカマキリの姿を取っている理由については不明。

 

 

注1: スプラッシュ・ザ・シューティング(Splash The Shooting, 頭文字をとってSTSと略して呼ばれる事もある)  ジャパリパーク・ホートクエリアのタズミ海洋動物公園のイベントエリアにて毎年8月1日~9月2日まで開催されていた世界最大のウォーターガンシューティングイベント。これまでに██回以上開催され、参加者数及び参加チーム数は██組、███████人以上にまで増えた大人気イベントとして知られている。  タズミ海洋動物公園で生まれたザトウクジラのアニマルガール「リサ」をリーダーとしたチーム「ユナイテッド・ハンプバック」は4年連続で優勝し続けた戦績を持った最強のチームとして多くの参加者の記憶にも刻まれている事だろう。

 

注2: 順にイジェクトリーパーシーファーアポロギアーズフルバレットと見られる。

 


Tale 負の遺産 クライシス・オブ・ジャパリパーク

シェアボタン: このページをSNSに投稿するのに便利です。

コメント

返信元返信をやめる

※ 悪質なユーザーの書き込みは制限します。

最新を表示する

NG表示方式

NGID一覧