むかしむかしあるところに一人の若者がいました。
どこにでも居るような平凡な若者でしたが日々真面目に働きささやかながらも何不自由ない生活を送っていました。
若者の仕事は巨大な何かを作ることでした。
それが何なのか何のためにそれを作っているのか若者にはわかりませんでした。
しかし、それは有るレベル以上の話で日々渡される仕事は明確でそれをクリアすることは非常に簡単でした。
日々真面目に取り組み一つ一つの仕事を丁寧に終わらせてゆきました。
しばらくすると仕事を終わらせる度に巨大な何かが少しずつ大きくなってゆくことに気が付きました。
そこには明らかな傾向があるようで若者はそれを少しずつ時間をかけて調べてゆきました。
複雑な内容をシンプルに整理しパターン化することや、発生しやすいミスを想定しその対応をパターンに組み込むことでそれは更に大きくなってゆくことに気が付きました。
いつしか若者は目の前の仕事を終わらせる以上に巨大な何かを大きくすることにやりがいを感じていました。
若者は仕事を楽しみその巨大な何かの中で懸命に働き続けました。
しかし相変わらず若者はそれが何なのかわかりませんでした。
その仕事がいつ終わるのかもわからずに仕事に取り組みつづけました。
長い月日が流れある時からその巨大な何かは男の代わりに働くようになりました。
その日は前触れも無くやってきました。
その日から男はその巨大な何かの外に追いやられその巨大な何かを外からひたすら見つめることが仕事になりました。
来る日も来る日もその巨大な何かはかつて男が懸命に取り組んでいた仕事を男以上に効率よくこなし自らの拡大を続けてゆきました。
巨大な何かが大きくなる度に男は自分自身の存在がなくなってゆくような不思議な感覚でそれを眺めていました。
男はいつからかこの巨大な何かが壊れてしまうことを願い始めました。
しかしその巨大な何かは問題が発生しても速やかにそれを解決し破綻することなく仕事をこなし巨大化を続けました。
男はいつからか巨大な何かが壊れてしまうことを願うことを辞めました。
やがて男は巨大な何かとの境界がわからなくなり自分自身も何なのかよくわからなくなってゆきました。
罪の報いをそこで受け続けているように感じ続けていました。
オレは何のために存在しているのだろうか。
どれだけ考えても答えは見当たらず自分と巨大な何かの境界を探しながらそこに立ち尽くし続けました。
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