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★魔力の塊の正体とその性質　[7e3ch1]
(中略)気泡のない氷のように透明な、刺々しい8本の腕が地表から生えて俺に迫っていた。(中略)「それにしても、この物質は何ですか？氷ではないみたいですが」 　コンコン、と小突いたが、温度は感じられなかった。常温だ。地面に生えているということから石英、二酸化ケイ素の類と推測してみるも、体積からしてそこまで抉られた形跡は見当たらない。 　「それは魔力の素が君の意思で結合したものだ。物理的特性を持つが、厳密には物質ではない」 　ファンタジー作品では『バリア』や『〇〇アロー』といった名称で、現実世界ではとうてい物質とは思えない物体が登場する。この正体は何だろうか。 　もし物理現象が現実世界と同様な世界であった場合を考察してみる。本稿では『魔力の塊』を🅼という呼称で統一する。 　まずは🅼が持つ特性のうち比較的メジャーと思われるものを列挙する。 現実世界の周期表及びそれを構成する素粒子に由来しない 硬質（破壊されると消滅することが多い） 透明（発光・吸光を伴う場合もある） 常温（または温度の描写がない） --- 術者の意思によって操られる 　5.6.については別で記述するため、今回は同上四項目についてのみ取り上げる。 　結論から述べると🅼は『真空*1』である。固体であり、中身が詰まっているように見えるため違和感はあるが、その空間に物質が存在しないのであれば定義上、真空という単語が最も適しているだろう*2。 　また、1.の条件により剛体でもあると考えられる。物質ではないので化学結合*3やその素となる基本相互作用*4は働かない。そのため弾性や硬度といった性質は理論上存在しない。もし🅼に傷が付いたり歪みが生じる場合、それは🅼の素に与えられた固有の性質・現象である。破壊による消滅は「剛体という概念が破壊されたから存在できなくなった」などの理由を与えることができる。尚、『コンコン』と鳴ったのは本編主人公の右手中指中手骨である。 　3.は真空ゆえに光は透過できると考えるか、剛体ゆえに電磁波を伝搬せず光子も透過できないほど緻密な構造であると考えるかで、光学特性は変わる。本編では透明を選択した。透明なのに視認できるのは空気と真空の屈折率の違いで説明できる。主人公は『氷のように』と形容したが、屈折率から言えば水中の気泡に近い（水と空気が逆）。 　剛体であるので熱振動はしない。これを聞いて「では絶対零度*5か」と誤解するかもしれないが、そうではない。温度という概念がそもそも存在しないので熱の伝達は行われない。本編主人公が感じた『常温』は、感覚器官が混乱している状態ともいえる。
関連	*1.真空　*2.但し🅼の素を量子に含めない場合に限る　*3.化学結合　*4.基本相互作用　*5.絶対零度　§037
作成	2019/03/17	更新	2019/03/25