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★転生者の心理:彼にとって幸福とは [7e3c94]

 非転生者の我々にとって転生者の心理を正確に分析することは不可能である。人間にとって一度しかないはずの「死」を既に経験しており、間違いなく死生観に変化が起きているからだ。ここでパラメータは二通りの振れ方が考え得る。①死んでも転生するなら、命の一回性など何の価値も無い②死にはデメリットが多く、倫理的にも合理的にもやはり命は大切にすべきだ。

 もちろん、極振りではない。が、少なからぬ影響は予測される。本編では②を選択した。

 ではデメリットとは何だろうか。一つは孤独である。見知らぬ土地、見知らぬ言葉、見知らぬ家族…精神的ストレスは相当なものだろう。シチュエーションとしては海外の一人旅に似ているが、強制的な定住と、何より故郷に帰れるという心理的なセーフティーネットが無いのは大きな違いであろう。

 次に母の存在である。[7e3c93]で少し述べたが、一般には生みの母は一人である。転生者はそれが二人いるのだ。しかも相手は自分を唯一の存在だと認識し、(大半は)愛してくれる。理性の占める割合が強い前世の人格と、本能を司る生物的な今世の脳との間に不一致が生じれば、肉体的にも支障が生じる虞がある。

 ところで、これらは逆に相手から受け入れられた場合、かなりの精神的充足=幸福を得られるのではないだろうか。

 家族というのは当たり前な存在で、失ったり関係が変質した時に初めてその重要性に気づく、というのが‟一般的に”謂われる観念である。そして転生者はそれらを失っている状態である。身近な人間に対する愛や執着心は人一倍強くなってもおかしくはない。加えて、孤独を感じている中で自分を曝け出せる相手がいること、その相手がありのままの自分を受け入れてくれることは精神的な支えをもたらすとともに、成長も促すことだろう(これは転生者に限らない)。もし渇望が魂からのものであるなら、その充足は何物にも代え難い幸福となるのではと考えられる。

 将来についての不安も言及しておくべきだろう。転生とは社会的地位の喪失である。

 一説によると、語学力は収入や社会的地位に関わる重要なファクターである*2。転生してしまうと語学力は他の非転生者とスタートラインに大きな差が生まれない。つまり、せっかく積み上げてきた努力が泡となり、また同じだけの努力をしなければ同レベルの社会的地位すら危ぶまれるということだ。これは心理の介在しない明確なデメリットである。尤も、前世で努力していない場合は逆にメリットともいえるが。

関連 *1.語学力が年収に与える影響について §011 §021 §028 §031
作成 2019/03/09 更新 2019/03/12

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