独逸創始記

ページ名:独逸創始記

登録日:2011/10/06(木) 22:25:23
更新日:2023/08/07 Mon 15:14:10NEW!
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都市シリーズ 機甲都市伯林 騎師 先生 救世者 千年記 停滞を終わらせる物語



川上稔の長編ライトノベル都市シリーズに登場する説話。
登場するのは機甲都市伯林のみであり、同作の核心となる話である。



□概要


作中当時(1937~)から約一千年前の出来事を謡った話であり、その内容は北欧神話をモチーフとした末世思想を下地とした旧体制の打破と、新体制の出現の物語である。
その構成は、


○第一部「前史」(~五項)

  • 救世者以前の歴史。
  • 世の乱れていく様。

○第二部「救世者」(~二十六項)

  • 救世者の出現から眠りまで。

○第三部「皇帝」(~五十八項)

  • 皇帝の治世と衰退
  • 空位時代の始まり

○第四部「後史」(六十八項)

  • 皇帝以降の歴史
  • 千年記

の全四部六十八項となっている。(これには諸説あり、三部三十数項だったり五部目があったりするが、もっとも民衆に伝わっているのが上記のものである)
最も多く項が割かれているのは第三部「皇帝」であり、本来はそこがメインであるはずだが、吟遊詩人達が“唱歌六節”(後述)を好んで歌った事、救世者と竜、騎師など子供受けする話が盛り込まれている事などから、現在では第二部「救世者」が最も有名。


また、作中においても主に語られるのは第二部「救世者」の一項のみであるため、本項においても、第二部「救世者」を中心に説明する。



□本文


以下に本編で語られる、第二部「救世者」の一項を示す。


それは このくにがみだれ ふあんにみちていたときのことでした


黒き森の暗き闇
深淵にて生まれ
深淵より転輪す
 疾風を巻きて竜と語り
 風を読みては涙を流し
 手には力を抱いて逡巡


あるひ ひとりのせいねんが りゅうとしたしいおんなのひとのもとを おとずれました
せいねんは おんなのひとのことを きゅうせいしゃと よび
あなたのちからが いま ひつようなのだといいました


隻腕の者は救世者を抱き
月下に二人は大地に戻る
今宵にて竜は集いて踊り
全ては全ての帰途につく


きゅうせいしゃは このくにのきしたちのちからを たばね
ひとのみだれを なおし りゅうのみだれを なおしていきます
ふあんに しはいされた だいちを うみを そらを


風が吹き 夜に吹き 竜が起き 人が動き 竜が鳴く
北の方から風が生まれ 北の方から道が生まれ
騎師は騎師として下り 竜は竜として空駆ける
全ては北の星へ至る道 壁を超えられない物語


ながいたたかいが つづきました
しかし きたにすむ おおきなこくりゅうを
たおしたとき そらがはれました


懐かしい人の至る道を
 寄り添いて歩く
手は届き声は届くとも
 月はそれを見ず
集う者達の宴は始まり
 二人は壁を挟み
 同じ詞で同じ道


まんげつのみえるそらのした きゅうせいしゃは はじめてわらいました
きしたちは よろこび ひとびとは おどり りゅうは ほえます


宴は始まり村は踊る 竜は吠え騎師は集う
花嫁は無冠にて泣き 詞を噤みて彼は来ず
かくして彼女は独り この地にて泣き眠る


もうたたかうな と てがみをのこし せきわんのせいねんは たちさりました
みなが へいわをよろこび うたげをひらいたよくあさでした


なきました


きしたちがなぐさめても おうさまがなぐさめても だめでした
くにいちばんのどうけしがなぐさめても だめでした
もりにすむおおかみや りゅうや やまとかわとかぜがなぐさめても だめでした


しかし あるあさ きゅうせいしゃはなくのをやめ みなをあつめました
そして きゅうせいしゃは やくそくをしました
これからのへいわが せんねんはつづき しゅうかくが あることを


わすれないで
あなたが あなたで あることを
それをわすれなければ このおかは まいとし きんいろにそまるでしょう
そして どんなみぶんの どんなひとであろうとも かべにへだてられることなく――


追い立て待つがいい 新しきを欲すならば
   迷いのことごとくはその先に果てがある
輪を結ぶか断つのか 新しきを望むならば
   迷いのことごとくを打ち捨てて振り返れ
疾風は共に彼も共に 新しきを求められよ
   迷いのことごとくは壁を穿つためにある


アルヘイムへ そこで せんねんをねむり またよがみだれたら めざめましょう
きゅうせいしゃが ほこらで ねむると せきわんのせいねんが もどってきました
せいねんは ほこらを まもりつづけ ――そしてあるばんに いきをひきとりました
以上が本編内で語られる第二部「救世者」の内の一項の全文である。



□唱歌六節


吟遊詩人に最もよく歌われた六節の事であり、機甲都市伯林内でも、核心となる詩。
上記の本文に示した物語での内、青色で示したものがそれであり、それらは上から順に、


○「起臥の第三節」
○「司王の第九節」
○「疾竜の第十二節」
○「月下の第一節」
○「終神の第六節」
○「転輪の最終節」


と呼び親しまれている。


作中では、「速読歴」レーヴェンツァーン・ネイロルが予言として、全く同じものを一巻に一節づつを詠んでおり、それが作品の大まかな流れとなっている。


因みに予言として使われる順番は以下の通り。
一巻:「司王の第九節」
二巻:「起臥の第三節」
三巻:「終神の第六節」
四巻:「疾竜の第十二節」
五巻:「月下の第一節」


また、最後「転輪の最終節」だけは少し毛色が違い、これまでは単なる記録だったものが、誰かへの呼びかけとなっており、明確なストーリーが存在していない。
以下ネタバレ
















これは救世者となったヘイゼル・ミリルドルフ自身の話である。


機甲都市伯林シリーズの主人公であるヘイゼル・ミリルドルフには言詞加圧炉「トリスタン」から抽出された不安遺伝詞を砕く役目を与えられており、それは同時に「この世界の時間軸」である時虚遺伝詞を破壊することにも繋がる。
時間軸を破壊された歴史は“無かった事”になり、全ての時虚遺伝詞を破壊すること=世界の破滅と同義であるが、ヘイゼルは強臓式義眼「救世者」の力を使い、時虚遺伝詞の破壊を一千年分で済ます事が出来る。
これにより一千年分の時間を巻き戻された歴史は、その中心にいるヘイゼル、ベルガー、疾風を一千年前の独逸へとタイムスリップさせる。
つまり独逸創始記内で語られている登場人物?は、
救世者=ヘイゼル
隻腕の男=ベルガー
竜=疾風
ということ。
この繰り返しは何度も行われており、細部の違う独逸創始記がいくつも出来ていたが、「転輪の最終節」だけは作中のヘイゼルの前のループのヘイゼル(“先生”レーラァ)が独自に加えたものであり、これまでのヘイゼルはそもそも一千年の眠りにつくことは無かった。
全ての真実を知ったヘイゼルは、破滅の転輪を幸福の転輪とするために救世者としての使命を果たし、その結果、「新解・独逸創始記」が生まれる事になる。






己の痛みを恐れるなかれ 戦う力を欲すならば
    叫びのことごとくは痛みの先に全てある
己の震えを恐れるなかれ 護る力を欲すならば
    抱きのことごとくは嘆きの先に全てある
己の疲れを恐れるなかれ 進む力を欲すならば
    不断のことごとくは再発の先に全てある
疾風は共に彼の心も共に 己の詞を求められよ
    迷いのことごとくは壁を穿つためにある





追記、修正は唱歌六節をそらんじられる人がお願いします


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