L-1011 トライスター

ページ名:L-1011 トライスター

登録日:2017/02/02 Thu 22:43:41
更新日:2024/02/09 Fri 10:45:38NEW!
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航空機 旅客機 トライスター ロッキード 3発機 l-1011



L-1011 トライスターとは、アメリカの航空機メーカー・ロッキード社(現ロッキード・マーティン社)が開発・製造していた中型ジェット旅客機である。
1011は『テンイレブン』と読む。通称エルテンとも。
『トライスター』は、『三つ星』を意味する公式の愛称。



概要

ロッキード社が開発した3発ワイドボディジェット旅客機。
座席数は約250席と、中型機の範疇に入る。
競合機種はマクドネル・ダグラス社が開発したDC-10など。



開発の経緯

ボーイング社・ダグラス社がジェット旅客機の開発に成功する中、ジェット化の波に乗り遅れてしまったロッキード社。
1960年代には2社に大きく差をつけられてしまい、起死回生を狙って開発が開始された。
航空会社との討議で、座席数は250席程度、航続距離1400マイルの3発機とすることが決まる。
双発機では、洋上飛行に対する要求が満たされないと考えてのことである。
航空会社への引き渡しは1972年、ライバルのDC-10からはやや遅れての登場となった。



特徴

  • 3発機

ロマン。
飛行機のエンジンと言えば、両翼に1対又は2対取り付けられているのを思い浮かべる方が殆どだろう。
現在見かける航空機の多くは前者であり、ボーイング747等一部が後者に該当する。
しかしトライスターは、両翼1対に加えて胴体後端にエンジンを備える。
そのため、吸気ダクトが垂直尾翼を貫く、独特の外観を有しているのである。
ちなみに同じく3発機のDC-10の尾部エンジンは、それそのものが垂直尾翼に突き刺さったやあはり独特の外観となっている。
なお、エンジンを3発搭載しなければならなかった理由としては、当時ジェットエンジンの信頼性が十分でなかったことがある。
具体的に言うと双発機で1発停止したときには、60分以内に最寄りの空港に降りれる事となっていた。
3発機であればこの制限を回避して洋上飛行が可能になる。
同じ用に洋上飛行が可能な4発機に比べると、エンジン1発分少ないので経済的といういいとこ取りになっている。



  • 操縦システム

ロッキード社が起死回生を狙い開発した機体であるトライスター。
その機体には、当時最先端の機能をふんだんに盛り込んだ。
例を挙げると

  • 本来は着陸後の減速に用いられるスポイラーを、着陸時にも細かく動作させる事で正確な着陸進入を可能とするダイレクトリフトコントロール(2017年現在、導入された旅客機はトライスターのみ!)
  • 昇降舵と連動し尾翼全体の角度が変わる全遊動式尾翼
  • ナビゲーションシステムとの連動により実現した完全な自動操縦

この様なハイテク技術が搭載されていた。
しかし……



販売不振

機体そのものの完成度は非常に高かったと言われている。
しかし、ジェット旅客機のメーカーとして評判が高まっていたボーイング社やダグラス社の販売網には太刀打ちできなかった。
DC-10が当初ローンチカスタマーのアメリカン航空との取り決めによってアメリカン航空へ優先的に納入されることもあり
L-1011に一時需要が集まったこともあったがそれでも不十分であった。
そのため売り込みのため、世界的な賄賂工作も行われたという。
名前は聞いたことがある方が多いだろうロッキード事件は、その一例である。
それでも状況は改善されず、引き渡し開始から10年後の1981年、250機が製造されたところで製造は終了。
ロッキード社は民間機市場から撤退することとなった。


トライスターは単体での完成度は高かったものの、欠点として拡張性に乏しい面があった。
ライバルのDC-10が航続距離を延長した長距離型を開発したり、空中給油機化して米軍に売り込んだりして着実に売上を伸ばしており、
ボーイング747は元から貨物機前提で設計していたので、就航から30年以上経つ今でも貨物機としては一線級だったりするなど、旅客機として以外の販路を開拓出来ていた。
しかし、トライスターは胴体延長も不向きで貨物機改装も難しいということで、中々ダグラスとボーイングの中に割り込むことができなかった。
さらに、欧州連合事業体のエアバスの勃興もトライスターにとっては向かい風となってしまい、中距離型のトライスターは経済的で同じくらいの路線向きのエアバスA300とモロにかち合ってしまったのも不幸であった。
更には上述したエンジン故障時の60分ルールがどんどん延長されてしまった故に、双発機でも大西洋横断、更には太平洋横断路線への就航が可能になってしまい、三発機であることの利点すらもぎ取られてしまった。
そのため旅客運用終了後はDC-10などのように貨物機に改造されることなくスクラップになった機体が殆どである。



三発機開発企業の明暗

L-1011で見切りを付けて民間機市場からは撤退したロッキードであったが、その後軍需に力を注ぎ他社や事業を買収した結果、
現在でもロッキード・マーティンとして存続しており世界でも有数の軍需企業となっている。
世界最強と名高いF-22や多国籍開発され日本でも配備が進んでいるF-35も同社によって開発された戦闘機である。


一方、3発機競争で勝利したマクドネル・ダグラス社もロッキードとの競争で大きな痛手を被ることとなった。
それでもF-15やMD-80シリーズの成功でまだまだ航空機メーカーとしては健在だったが、DC-10の改良型である3発旅客機MD-11をリリースしたものの実績は芳しくなく、また軍用機受注の失敗などもあり経営は大きく傾き、1997年にボーイングに吸収される末路となった。
また、勝利とはいってもDC-10の総生産数もL-1011と比べての話であり旅客機としては成功したとは言い難いものであった。
しかも後述の事故でスキャンダルが発覚し企業としての信頼に大きく傷がつき、改良型のMD-11も予定された性能に満たず、
同時期にそれよりも高性能な双発機が登場し顧客を奪われ企業信頼を回復することが出来ずに消えることとなった*1



日本においては

全日空が1974年から導入し、最大21機を保有していた。
モヒカンブルーからトリトンブルーへの塗装変更が最初に施されるなど、脚光を浴びた機体でもあった。
ボーイング747・767777にその役目を譲り、1995年に引退。地味にANAにおいて営業飛行における全損・死亡事故を一度も起こさずに運航を終了した初の機体だった。
当初全日空は日本航空同様DC-10の導入を予定していたが、ロッキード社の後押し・全日空技術者がDC-10の安全性や騒音問題を理由にそちらをキャンセルしてL-1011に切り替えた。
なおこの時のロッキード社の行動が後にロッキード事件として問題になる。
一方でANAに納入される予定であったDC-10はトルコ航空に売却されたが、単独機事故で現在でも2番目、航空事故全体でも4番目に多い死者を出したトルコ航空DC-10パリ墜落事故を起こしている。



余談

総勢250機が製造されたが、機体の問題による重大事故は発生していない。
全日空所有機も、機体の大破事故・死傷事故は一度も起こしておらず、優秀な機体であった事が見てとれる。


ちなみに操作ミスや悪天候に起因する事故は4件起こっており


  • ランプに気を取られてエバーグレーズにドボンしちゃったイースタン航空*2401便墜落事故(1972年)
  • 緊急着陸出来たのに乗客乗員全滅、サウジアラビア航空163便火災事故
  • 大自然の恐怖マイクロバースト、IBMの命運を変えたデルタ航空191便墜落事故
  • 計器異常と不注意パイロットの合わせ技、幸いにして死者なしトランスワールド航空843便大破事故

の4件が発生している。他にも機体全損や死者を出すにいたらなかったものの、1974年にエンジンの設計ミスによるトラブルが発生。
緊急着陸沙汰が9件発生。全日空は9/1と9/4に連続して発生していたりもする。
しかし直接のライバルであった三発機DC-10は事故だらけでダグラスのスキャンダル沙汰を起こし今でも欠陥機の代表格のような語られ方をすることもあり、ボーイング747も欠陥沙汰で事故を起こす*3など、同期がやらかしまくっている中トライスターはわりと堅実な方ではあった。


追記・修正は三つ星に思いを馳せながらお願いします。



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*1 また、マクドネル・ダグラス社における主流派が軍用機部門だったことも災いした。DC-10が引き起こした重大事故によって民間機部門は発言力を失い、結局マクドネル・ダグラスにおける完全新設計機はDC-10が最後となり、以降マクドネル・ダグラスの旅客機はその全てがDC-10や旧ダグラス社時代に開発されたDC-9の改良型となっている。
*2 イースタン航空はローンチカスタマーであり、最初にトライスターを引き渡された事業者であった。
*3 例としては油圧系統の配置がある。747の油圧系統はフェイルセーフに基づき多重化されていたのだが、機体尾部に配管が集中する設計となっており、日本航空123便墜落事故では金属疲労による圧力隔壁の崩壊時に機体尾部まで吹き飛ばされてしまった結果、全油圧系統喪失・操縦不能状態に陥って墜落したとされた。この点は事故後に設計ミスとして改修が行われている

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