SCP-1025

ページ名:SCP-1025

登録日:2017/01/31(火) 14:56:12
更新日:2024/02/02 Fri 11:14:30NEW!
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SCP-1025は、シェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクト(SCP)のひとつである。
オブジェクトクラスKeter
項目名は「Encyclopedia of Diseases (病気百科事典)」。



特別収容プロトコル

このオブジェクトが何なのかという部分については、項目名の時点でほぼお分かりだろう。
なので、先にプロトコルについて述べる。


Keterクラスが割り振られるオブジェクトは往々にして危険(一部例外あり)だが、クラス自体の定義は大ざっぱに「放っておくと世界がヤバい」「放っておくと宇宙がヤバい」「収容がめっちゃ難しい、あるいはそもそも収容不可能」と言ったもの。
このオブジェクトは「放っておくと社会がヤバい」タイプであり、とあるサイト地下の保管庫で厳重に保管されている。
というのは、後述するがこのオブジェクト、悪用すると地球上の全生物を滅ぼすバイオ兵器になりかねないのである。


よって、週2回のローテーション制と感染性病原体への曝露検査が課された10人以上の武装警備員が常に配置されている。さらには、収容違反の徴候が見られた時点で、保管庫は備え付けられたサーマイト地雷によって爆破されることになっているのだ。
サーマイト地雷とは本当に簡単に言えば、炎や爆発ではなく、純粋な超高熱によって一帯を燃焼滅却する戦略地雷のことである(当然こんな兵器は現実にはないが、サーマイト自体は焼夷弾に使われている)。



概要

そんな厳しいプロトコルが設けられているこのオブジェクト、果たしてどんなものなのか?
一目瞭然だろうが、説明する。


SCP-1025は、約1500ページから成るハードカバーの書籍である。この表紙には「一般病気百科事典」というタイトルが書かれている。
奥付からは、1900年代にとある出版社から刊行されたことを示しているが、この本の複写や第二版以降の本は見つかっておらず、出版社にも記録はなかった。


そして、一番の問題はこのオブジェクトの持つ異常な性質である。
なんと、この本を読んだ人物に対して、読んだページに掲載されている任意の病気の症状を発生させるのである
さらに恐るべきことに、財団がオブジェクトとしてSCPを適用している病気についても記載されているらしい。
ゾンビ病とか機械化病とか……。


症状は遅くとも1日以内に現れることが、度重なる実験で判明している。



実験記録

財団がSCPオブジェクトを確保した場合、収容手順を決定し取り扱い方を定めるため、オブジェクトの性質を調べるための実験が行われるのはご承知のとおりである。当然、この百科事典についても実験が行われた。
ここからはその記録を見ていこう。ちなみに、被験者はDクラス職員である。



  • 実験その1

内容:被験者は"風邪"と題された項目を閲読。その後、被験者の様子を数時間観察した。
結果:2時間以内に被験者は咳の症状を示した。「少し身体がズキズキする」と訴え、その不快感のために寝辛そうな様子を見せた。


まあ、これは予想されたとおりである。


  • 実験その2

内容:被験者は"水痘"と題された項目を閲読。その後、被験者の様子を数時間観察した。
結果:1時間に渡り、被験者が自身の体の5箇所以上の部位を繰り返し掻いている様子が観察された。被験者の病歴には8歳の時に水痘を発症したことが記録されている。SCP-1025が自然免疫を無視できることを示す有力な証拠が認められた。


水痘というのは要するに水疱瘡である。一度罹患すれば免疫により二度かかることはないのだが、この百科事典が引き起こす症状はそれをも無視してしまうらしい。


  • 実験その3

内容:被験者は"肺癌"と題された項目を閲読。その後、被験者の様子を数時間観察した。この実験の意図はSCP-1025が病気の進行を促進させる能力を有するかどうかの測定である。
結果:被験者が比較的短い時間内で4回咳を行ったことが観察された。被験者は不快感を感じていなかったが、呼吸の乱れが確認された。被験者は終了され、検死に回された。腫瘍は確認できず。
メモ:明らかに十分な時間経過は待たなかったものの、スタッフ全員が被験者の咳と喘鳴を確認。


記録では「数時間の間に」「10回咳をした」とされているが、レポートでは短くまとめられている。
項目が項目だけに、解剖はまだ頷けるが、腫瘍が確認できなかったというのはどういうことだろうか。


  • 実験その4

内容:前回と同内容、しかし被験者の観察期間は7日間に延長。
結果:通常より遥かに多い咳と喘鳴が観察された。被験者は終了され、検死に回された。腫瘍は確認できず。
メモ:もし病気の痕跡が死後に消え失せるのなら、あらゆる感染症がより判明しにくいものになってしまうのでは?


実験その3に費やした時間が短すぎたという反省から、今度は7日をかけてじっくりと経過を見てみることに。
やはり、通常以上の咳き込みと喘鳴が観察されたが、終了後の解剖ではやはり腫瘍は確認されなかった。
財団はこの時点で、SCP-1025は被験者が死亡したと同時に、発生させた病気の痕跡を消し去るのではないか、と仮説を立てた。


  • 実験その5

内容:前回と同内容。
結果:前回と同様の症状を発症、今回は被験者が[削除済]時間で死亡するまで生体解剖を実施した。腫瘍は確認できず。
メモ:実験を続行する必要がある。もしこれが感染性の病原体であった時のことを想像してみろ。このような本が世間にもっと存在しているなんて状況もだ。


というわけで、今度は発症後に生きたまま解剖を行い、死亡するまで観察することに。
しかし、やはり腫瘍は確認されなかった。
さすがに財団も首をかしげたが、もしかすると未知の感染体によって、類似の症状を引き起こしているのではないか、との推論が立てられる。
そしてこの後、20回以上にわたって同様の実験が続けられたが、同じような結果が見られるばかりで進展はなかった。



どころか、彼らの恐れていた最悪の事態が起きてしまう結果となった。


  • インシデント1025-1

内容:被験者はSCP-1025を読んでいないにも関わらず持続性の咳を発症、1週間観察下に置いた。
結果:6日間変化なし。7日目の9時30分、被験者は前日よりわずかに背が高いように見えた。本を直接読まずとも、実験に用いられなかった病気の発症を引き起こしうるという異常性の証拠として認められた。生体解剖の実施が審議されたものの、却下された。


直接SCP-1025を読んでいない研究者の一人が、持続性の咳を発症してしまったのである。
彼らは直ちにこの職員をDクラスに降格、観察を行った。6日間の間変化らしい変化はなかったが、7日目に入ると、前日よりもわずかに身長が伸びていることがわかった。
このことから、SCP-1025は直接読まれることがなくとも、実験に用いられなかった病気の症状を引き起こす、というとんでもない異常性を持っていることが判明した。


さらに、事態はこれだけでは留まらなかった。
何と、この元研究員、観察に使われていた収容室を脱走したのである。当然、施設内は大パニックに陥った。
職員のメモがある。


我々は愚かだった!体躯の巨大化はSCP-016が密室下ストレスへ適応した場合の典型的な症状じゃないか。最初に奴が何に罹患したかなんて知る由もないし、そんなことを誰が気にしたりするものか。天井には空調用の格子が付いていたな。奴の身長より僅かに高い位置にあるごく薄いものだ。奴なら簡単に抜けられるだろう。まさに今、奴はダクトの中で鉤爪を伸ばし、そこら中に汚染血液を撒き散らしながら、得体の知れない他の未発症疾患に罹ってすらいるかもしれない。SCP-008? SCP-742? ああ、どうかSCP-217はやめてくれよ?


ちなみにSCP-008「ゾンビ病」は文字通り感染者がゾンビと化すウイルス、SCP-742「レトロウイルス」は感染者を人食いの怪物にするウイルス、SCP-217「時計仕掛けのウイルス」は感染者を機械化するウイルスである。
で、SCP-016「意識的微生物」は感染者を周囲の環境に適応させて変形させる細菌。


こんなもんに感染した恐れのある存在が、収容されず歩き回っているのだから施設内の混乱は尋常では収まらなかった。
端的に言って、病気系SCP(しかも大半がKeter)の一斉収容違反であるから当然の成り行きだが。


連絡が途絶えたことで危機的状況を感知した財団は、72時間後に復旧チームを派遣した。
そして、チームが発見したのは次のようなものだった。


  1. 生物災害用防護服を着用し、観察ブースに閉じこもっている研究員二人
  2. 拳銃を持って施設のエアダクト内を這っているエージェント一名
  3. エアゾール・クリーナーとマッチ箱で即席の火炎放射器を作り、宿舎に立てこもっていた研究員一名
  4. 空の水ボトルとレーションの包みを抱え、クローゼット内で死亡しているエージェント一名

要するに、数人の職員が未知の感染症の脅威に怯えながら立てこもり、あるいは死んでいるのが見つかった、という話である。
しかも、元研究員はダクトを使ったわけではなく、他の研究員が注意を逸らしたスキをついて、彼自身の持つパスコードで扉を開けて普通に出ていったことが、後からの事情聴取で判明した。










そう、事情聴取によって元研究員の脱走法が判明したのだ。
これはつまり、逃げ出した当の本人が財団に戻り、このインシデントに関するインタビューに協力した、ということである。
未知の感染症や病気系SCPの罹患者に対して、財団はあまりにも無防備過ぎないだろうか?






それは、後の調査で判明したこのオブジェクトの正体が関わっている。





本当の異常性

SCP-1025の本当の異常な特性とは、それを読んだ人物ではなく、その周りの人物に発生する認識災害の一種である。
この百科事典は、周辺の人間に対して代理心気症を発症させてしまうのだ。


代理心気症は現実にも存在する精神疾患の一つで、介護者などによく報告されている。つまり、発症者は近しい他者を見て、「この人は病気に違いない」と思い込んで恐怖心に囚われた行動に走ってしまうのである。
これが他人ではなく自分自身を対象としているのが通常の心気症である。


上記した実験記録では、検死および生体解剖のいずれにおいても腫瘍など病気の存在は確認されなかったが、それも当然の話。
そもそもそんなものはなかった、というか彼らは病気ですらなかったのである。
ただ、このオブジェクトに曝露してしまった研究員たちが、被験者たちの些細な異常、病気ですらない生理的反応を「項目に記されている病気の症状によるものだ」と思い込んだ結果の暴走が、あの実験、そして元研究員に関わるインシデントだったのだ。
彼らは元々病気系SCPの知識を持っていたため、この百科事典にそれらの項目があると思い込み、余計にパニックを加速させる結果となってしまったらしい。



このインシデントに関して、O5からのお言葉がある。


SCP-1025の全資料を慎重にチェックした後、この金食い虫に27名ものDクラス被験者や隔離施設・専用地下壕の使用を承認した者への即時査定を命じた。SCP-1025の実験において、普通ではない感染性病原体など一切見つかっていない
また、前年の基本心理検査では関連スタッフ全員がパスしている。私には、この"代理心気症"効果が指揮系統のどこまで及び、どのように作用するのか検討もつかない。
率直に言って、それを研究することに何の価値も見い出せない。箱にでも仕舞いこんで、二度とこの現象について考えないように。



「病は気から」と言うが、このオブジェクトはそれを体現させる力を持っていたのだ。
つまり簡単にまとめると、


  • 職員らの推測→この百科事典を読むと、読んだ項目に書かれている病気に罹患する
  • 実際の効果→この百科事典を見ると(「読む」にあらず)、周囲の人の些細な異常を病気によるものだと無根拠に確信する

という、文字通りに傍迷惑な本だったのである。


綿密な再調査によってこれらの情報が明らかになったことで、オブジェクトクラスは一気にSafeへ変更。
プロトコルも改定され、要するに誰も視認しなければいいのだ、ということでパスワードつきのロッカーに放り込まれている。開けるにはO5の許可が必要だが、多分許可は下りないだろう。


結果として27人のDクラス職員と、インシデントでクローゼットに立てこもったエージェント1名が無駄に死亡することとなり、財団の資産を無駄に食いつぶした、恐ろしくもバカバカしいオブジェクトの、これが全てである。


下手なSCPオブジェクトよりも、人間の方がよっぽど怖い。そんなこともあるのだ。


余談

SCPの存在を世の中に知らしめたフリーゲームにおいては、このSCP-1025は読むと実際にステータス異常を引き起こすアイテムとして出てくる。
ここでは、キャラクターではなくそれを操作しているプレイヤー、つまり我々に対して代理心気症を引き起こさせて「キャラクターがステータス異常になった」と思い込ませている、というなかなか面白い使い方をされている(システム的には実際になっているのだが)。



追記・修正は健康に自信のある人にお願いします。



CC BY-SA 3.0に基づく表示


SCP-1025 - Encyclopedia of Diseases
by Lasergoose
http://www.scp-wiki.net/scp-1025
http://ja.scp-wiki.net/scp-1025


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  • 人間の方が怖い?そりゃあscpなんて想像するのは人間だけでっせ -- 名無しさん (2017-01-31 15:20:55)
  • ゲームの方で知ってたからずっと勘違いしてたけどそういう効果が裏にあったのね -- 名無しさん (2017-01-31 17:37:30)
  • 処方箋は医学事典を読まない事、って小噺か -- 名無しさん (2017-01-31 18:06:37)
  • このSCPって書かれた言語が読めないの人達を実験に使った場合どうなったんだろ? -- 名無しさん (2017-01-31 19:07:02)
  • ネットで自分の症状を調べて、「俺は重病だ!!」と思って病院に駆け込んで大恥かく人がいるけど、それに対する皮肉も入ってるのかな? -- 名無しさん (2017-01-31 19:20:48)
  • ↑2おそらく本を見ることで効果が出るだろうから言語は関係ないんじゃないかな -- 名無しさん (2017-02-01 06:33:06)
  • 自分もグーグル病を思い出したわw -- 名無しさん (2017-02-01 21:09:49)
  • 勝手に大騒ぎして被害が大きくなったというと、SCP-587-JPもこの系統に当てはまるのかねえ -- 名無しさん (2017-02-02 22:06:33)
  • 普通なら終了とか解剖の前にX線なり超音波なり撮るでしょ。そこも含めての異常性かな -- 名無しさん (2017-02-04 23:14:04)
  • SCPの性質で「観測結果を改変する」ってのはよくあるから、そういう病気系SCPって思いこんだんだろう -- 名無しさん (2017-02-07 23:38:09)
  • しかしこの効果が無ければありとあらゆる病気の情報が手に入る可能性も…? -- 名無しさん (2017-02-08 09:57:47)
  • O5がSCP-1025の影響を受けてスタッフが代理心気症だと思い込まされているとしたら……? -- 名無しさん (2017-03-02 02:39:48)
  • ↑4 その場合でも「検査で見つからないなんて恐ろしい病気だ! 解剖して調べなければ!」ってなるだけ。解剖して腫瘍が見つからなかった場合の反応さえこれなんだから。 -- 名無しさん (2017-06-09 15:18:47)
  • Dクラスに降格って事実上の死刑宣告だからなー -- 名無しさん (2018-01-22 00:43:35)
  • オブジェクトの使い方もさることながら、ゲームでの使い方も素晴らしい。 -- 名無しさん (2018-04-01 14:12:00)
  • 何か体調不良があると原因を勝手に考えてしまうような行動は現実にもあるよね -- 名無しさん (2018-10-14 21:52:50)
  • Dクラスに降格された元研究員は復帰できたのだろうか -- 名無しさん (2019-03-02 07:20:39)
  • ゲームで知ったから思ったより複雑なSCPでびっくり、にしてもオブジェクト自体がそこまで凄くなくて、人間の疑心暗鬼で大事になる系のSCPって面白い -- 名無しさん (2020-03-13 10:23:24)
  • ↑『死体に非ず』とかな -- 名無しさん (2021-10-05 16:54:45)
  • なんでこれsafeじゃないの -- 名無しさん (2023-02-08 14:30:32)
  • Safeだぞよく読め -- 名無しさん (2023-11-04 00:22:56)

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