◇第八話:インターバル
私たちは作戦決行に備え、墜落した巡洋艦から少し離れた場所でセプテントリオンを調べていた。
マニュアルなんてものは無いので全部手探りだった。
「ベル! こいつを跪かせてみてくれ」
「おっけー!」
私がセプテントリオンを立膝にすると、ティフとメイズさんがあれこれ調べ始めた。
「足の裏のこれはどう見ても三次元ノズルね」
「ああ、機体の各所にスラスターもあるな。宇宙戦用か……?」
「背中の突起は、ウエポンラックかしら?」
「そうだな。それかスタビライザーとか、補助動力のようにも見えるな」
二人はセプテントリオンの機能について、観察しながら色々と推察していた。
いろいろな用語が飛び出しているけど、私にはさっぱりわからなかった。
「おーい、背中のハッチは開けられないかー?」
「ミリーちゃん、できる?」
「ん」
ミリーちゃんが念じると、セプテントリオンの背中が開いた。
それと同時に、ティフの驚く声が聞こえてきた。
「なんだこれは……!?」
「ベルちゃーん、こっちに来られるー?」
「どうしたの?」
コックピットを降りて後ろに回ると、メイズさんが上を指さしている。
見上げると、ティフがタラップの上で手招きしていた。
私はセプテントリオンの脚によじのぼり、手を取った。
「見てみろ」
「えっ!?」
ティフが指さした先は円形にぽっかりと穴が空いていた。
素人の私でも、ここにあるべき部品が無くなっていることは推測できた。
「ここは本来であればP.I炉が取り付けられている場所だ」
「P.I炉って?」
「ハルディナス専用のエンジンだ。規格外の出力を持っていて、世界に七つしか存在していない動力炉と言われている」
「確か、使われてる装甲材と親和性が高いのよね」
「そうだな。P.I炉のおかげで、ハルディナスは1個師団以上の力を発揮できる。だが……」
「それがないとなると、どうやって動いてるかさっぱりわからないわね」
「エンジンのない車が走っているようなもんだ。オカルトだな……」
ティフは頭の後ろを掻き、両手を上げた。
メイズさんも首をかしげている。
「ミリーちゃん、セプテントリオンがどうやって動いてるかわかる?」
「……私たちと同じ感じかな」
「どういうこと?」
「食べないとお腹がすくみたいな……うーん、うまく言えない」
ミリーちゃんが分からないなら、もうお手上げだ。
「おーい、言われた通り持ってきたよ~」
ブラシカが大量のコンテナを引き連れて飛んできた。
私たちが飛ばされてきた場所にあったものだ。
「……これ以上考えても仕方ないな。ベル、一旦ここまでにしてお前はちびと遊んで来い」
「えー、もっと手伝うよ?」
「息抜きは大事だぞ。ベルができる事はもう無いしな。私らももう少し作業してから向かうからさ。ほら」
「わ、なにこれ?」
ティフはコンテナを開けると、中のものをいくつかダッフルバッグに入れて渡してきた。
中を見ると、水着が入っていた。
————————
「準備はいい? 三、二、一……ひゃっほー!」
高く突き出した崖から、私とミリーちゃんは海に飛び出した。
ばっしゃーんと大きな音とともに水柱が上がった。
そのまま海中に沈み込むと、魚たちが慌てて散り散りになるのが見える。
私たちは目を合わせ、笑いあった。
「ぷはぁ、気持ちいいねー!」
「うん。今日はちょっとあついから、いいね」
私たちは海水浴を楽しんでいた。
ミリーちゃんはフリルのついたビキニスタイル。私はトップスがビキニ、ボトムスがウォーターパンツといった格好だ。
とっても動きやすくて良い。デザインも気に入った。
赤い海はほどよく冷たく、温かい気候と合わせてとても過ごしやすかった。
この星はとっても過ごしやすい。また来られたらいいな。
「私もきたよー。ティフがお前も休めってさ」
ブラシカだ。大きなフリルが特徴的な真っ白い水着を着ている。
黒い肌の色と対比していて奇麗だ。
ブラシカは背が高くてスタイルが良い。モデルをしていても違和感がないと思う。
「ブラシカちゃんって、十四歳なんだよね……?」
「そうだよー? ベルはいくつ?」
「……十六」
「え、年上だったんだ」
私は自分の体を見下ろした。
……少しだけ、うらやましかった。
ふと海岸線に目を向けると、遠くで走り回っている大きな鳥を見つけた。
パッと見はダチョウのようだが、口がかなり上の方についていて妙な顔をしていた。
「あれは天板ダチョウだよ。結構力持ちなんだ。……そうだ!」
私が興味深そうに見ていると、ブラシカは突然私とミリーちゃんを浮かせてダチョウめがけて飛び始めた。
途中で植物のつるを引っこ抜く。
私たちに気付いたダチョウは逃げ出そうとしたが、ブラシカが手綱のようにつるを口にひっかけると、途端に大人しくなった。
「こうすると言う事を聞いてくれるんだ。乗ってみてよ」
「ええー……」
私が躊躇していると、ミリーちゃんがダチョウに飛び乗った。
ミリーちゃんはこちらを見ながら待っている。はやくはやくと言わんばかりに目を輝かせていた。
「よ、よーし、これでも学校じゃ騎乗部のエースなんだからね」
私もミリーちゃんの後ろに恐る恐るまたがると、すぐさまブラシカがダチョウを蹴り上げた。
「いってこーい!」
「うわあああ!」
「あははははは!」
ダチョウがものすごいスピードで駆け回る。
乗り心地は最悪だった。
————————
「さすがにつかれたー」
私は砂浜にごろりと転がった。
「えー、まだ遊ぼうよ!」
「もっとあそぼ?」
私がグッタリしていると、二人はもっとあそぼうとせがんできた。
私も動ける方だと思っていたけど、二人の体力は底なしみたい。
「だめでーす。ちょっと休憩にします」
「えー」
ミリーちゃんは少しがっかりした様子だったが、すぐに気を取り直して海へ向かっていった。
「あんまり遠くに行っちゃだめだよー!」
「はーい!」
お返事が元気でよろしい。
私はブラシカに向き直り、聞いた。
「あのさ、出会った時にブラシカちゃんは星の巫女って言ってたけど、それってなんなの?」
「簡単に言うと、星とお話出来るのが星の巫女だよ」
「惑星と話す?」
「そうそう。なんか怒ったり泣いてたり、笑ってたりするのがなんとなくわかるんだ。……最近は、どんどん星の元気がなくなってきてるんだよね」
「今の状況と関係あるのかな?」
「そうだね……。絶対あいつらのせいだよ、困っちゃうよね」
ブラシカは忌々しそうに塔の方を見た。
頭の羽根をばたばたと動かしている。
「村の人は向こうに取り残されてるんだよね」
「うん。私が囮になって、なんとかみんなを逃がせたと思うんだけど……」
「無事だと良いね……」
少しだけ、重い空気が流れた。
「村って、どんな感じなの?」
「私たちの村? ……うーん、大きな岩棚に家を作って暮らしてるんだ。毎日そこから飛び立って、狩りに行ったり魚を捕ったりしてるよ」
「へぇー。普段は肉とか魚を食べて暮らしてるってこと?」
「野菜とか果物も食べるよ。飛ぶのが苦手な人たちもいるから、そういう人たちが採取とか畑の担当をしてるんだ」
「それとね、もう少ししたらお祭りがあるよ。星の恵みに感謝するため、巫女が力を使って舞を披露するんだ」
「いいなあ、楽しそう。今度見せてよ!」
「もちろん!」
ブラシカが嬉しそうに村のことを語る様子を見て、私も行ってみたいなと思った。
今度、お祭りに参加させてもらおう。
「ねえ、ベルちゃんの故郷について教えてよ」
「え? ……そうだね、こことは全然違うよ。街の真ん中はセプテントリオンよりも大きな建物が沢山並んでて、いろんな星から人が行ったり来たりするんだ」
「え、そんな簡単に他の星に行ったり来たり出来るんだ?」
「そうだよ、宇宙船を使ってね。あの落ちてるやつもその一種だよ」
「あんなに大きいのが飛ぶんだ。想像もつかないや」
「それで、私の家はそこから少し離れたところにあるんだ。そこで居候のティフと、お父さんと暮らしてるんだよ」
「お父さん?」
「そう。お父さんはロボットなんだけど、料理が上手くてすごく優しいの」
「そうなんだ。私もベルの故郷の料理を食べてみたいな」
「今度食べにおいでよ。お父さんもきっと喜ぶよ!」
「やった! 約束だよ!」
「約束だからね……へへ、楽しみだなぁ」
たっぷり語り合っていると、いつの間にか日が暮れていた。

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